274話
「滅亡寸前だった惑星を蘇生させて基盤を完成させたとか……。聖女は与えられた役割を果たして眠りについたけど、残された者たちは蘇った世界樹の恩返しで、永遠の祝福を受けているんだって。」
「世界樹?それがここにあるって?」
ずいぶんと聞き覚えのある名前だ。
「汚染された世界樹の影の枝」。そのアイテムを記憶しているジオが眉をひそめる。
「ハーブに世界樹があるのがなぜ?サーバーとチャンネルが束ねられる場所に根があるのは当然じゃない!」
自分の体よりも大きな箱をよいしょ、よいしょと持ち出してきたラクーントの老人だった。続いてきゃあと叫ぶ。
「見てないで少し手伝って!」
「これは何だ……お酒じゃないか?」
「そうだ、縮れ毛の鹿の坊主。これがビールというものだ。お前たちがいた場所にはなかったみたいだな?」
マンタの老人がえへんと気取った。箱を中央に置くキョン・ジロクを見て、サ・セジョンが失笑した。
「まさか。この友達はまだ幼いのでお酒とは縁遠いです。ところで、おじい様、急にどうしたんですか?」
「もうすぐ共和国のハイライトが始まるじゃないか。こんな時にお酒がなければ寂しいだろう。」
「え?」
意味不明な言葉に皆が訝しげに思ったが、マンタの老人はもっともらしく笑うだけだ。
「ちょっと待ってください。」
ミンチがそっと操縦桿を握った、ティモシーの手を引いた。
船首がゆっくりと方向を変える。
彼らだけではなかった。今、空に位置する船がすべてそうだった。
一斉に一箇所に向かう飛行船。日が沈む夕焼けの方向だ。そして。
「わあ……!」
正面に現れる壮観。
涼しい風が吹く空。その上を自由に遊泳する飛行船。
太陽が身を引くサンゴ色と黄金色の雲と星の群れの間から、二つの小さな月が姿を現していた。
「双月出。星系どこに行っても、このキングスタウンでしか見られない景色だ。」
手すりをつかんだナ・ジョヨンが感動を隠せない。
「まるで童話の中に入ってきたみたい……!」
「本当に。ピーターパンの船に乗ってネバーランドにでも来た気分だ。」
ティモシーもときめいた表情だった。
そして、感動もつかの間、慣れたように続く騒ぎ。
「一杯だけ飲むだけだから!おじい様もいなければ寂しいって言ってるじゃん。離して!離して!狂った虎め!」
「だめだ。」
「キョン・ジロク、お前も置け。」
「……あの頑固じじい、誰が連れてきたんだ?」
箱からビール瓶をこっそり取ろうとして、虎にうなじを掴まれたジオと、その隣で不満そうな顔で置くキョン・ジロク。
その姿は、子供は子供だ。
笑いがわっと沸き起こり、話し声が誰ともなくわいわいと混ざり合った。
「アハハ、代表!お二人とも成人なのにまだ管理してるんですか?」
「分かります。血気盛んなS級が酔っ払ったら誰がどうにかできると。それにしてもキョン・ジロクあいつ、言うことを聞くんだ?兄は寂しいぞ、ロクや。」
「そうだ。この姉さんも寂しい。」
「ああ、何んだよ、俺が聞くわけないだろ。キョン・ジオ、お前も味方するな。」
むかつくバンビを見て、ジオは声を出して笑った。
美しく暮れていく夕焼け。
気持ちよく吹く風。親しい人々の穏やかな笑い声。
今の瞬間をいつまでも忘れないだろう。ふとそんな気がした。
「はい。」
トントン。置く音にジオは後ろを振り返った。
ずっしりとした瓶を置いた虎が、隣にグラスを並べていた。
「何?」
「度数のほとんどない果実酒。拗ねてないで降りてこい。」
「……ふん。」
ジオは横になっていた船首像の上からひょいと飛び降りた。腰掛けた虎がタバコをくわえたまま片手でお酒を注ぐ。
「え、グラスはなぜ一つ?私一人で飲むの?」
「俺が狂ってない限り、お前と二人きりでお酒を飲むことはないから諦めろ。」
「はいはい。あなただけ大人ですって。」
日が暮れると夜はすぐにやってきた。
しかし、美しいキングスタウンの夜空のせいか、外郭の空をうろつく船は停泊せずにうろうろしているところだった。
メインマストの方に寄り集まって座った一行の声が遠い。
ぎこちなくグラスを握るジオを見て、虎が低く笑った。
「そうじゃなくて。」
こうやって。
優しくジオの手の甲を包んだ手が離れると同時に、鼻先まで軽く触れた。
「飲んだこともないくせに、ちっちゃいのが。」
「ちぇっ、だから今、あんたが教えてくれるんじゃない。」
「……酔うなよ。そこまで面倒見る自信はない。ここは家じゃないことも忘れるな。」
「酒の味が落ちる。」
「酒の味を知って言ってるのか?もうすでに酒豪気取りか。」
舌先だけをそっとつけてみるジオを見て、虎は呆れた。
頬がへこむほどタバコを吸うと、ゆっくりと煙を吐き出す。垂れている彼の前髪が夜風に揺れた。
「頭の中が複雑そうだからやるんだ。夜にゆっくり休めるように。」
「相変わらず鬼ですね。」
こっちの中を見透かすことにかけては、キョン・ジロクを脅かすほどだ。
そうして会話もなく半分ほどグラスが空になった頃。ジオが突然尋ねた。
「前世についてどう思う?」
「死んだことがないから分からないな。」
「何…必ず経験してみないと分からないのかよ!」
「興味がないって言ったんだよ。たまに輪廻から目覚めた者たちに会って、経験談を聞いたりもしたけど、特に興味は湧かなかったから。」
「なぜ?」
「俺は現在だけを生きているから。」
どういう意味かと尋ねる眼差し。
虎は手を伸ばしてジオの口元の赤い跡を拭った。
「忘却は祝福だという言葉を聞いたことがあるだろう?前世を記憶している者たちは、そこから簡単には抜け出せない。関係ないふりをしながらも、きっかけさえあれば一気に飲み込まれてしまう。」
時間の流れから外れて、自分の中にだけ存在する過去は永遠になるので、それだけ強力だ。
「そうなると、彼らにとって現在はまた別の過去に過ぎない。今日ではなく、過去に生きるんだ。絶えず繰り返し、塗り重ねながら。」
虎は彼らの姿を記憶している。
皆一様に疲れ果て、空虚だった顔。美しく永遠な地獄に閉じ込められた者たちとはそうだった。
狂人でない限り、そんな茨の道を自ら歩む奴はいないはずだ。
ジオがゆっくりと頷いた。
「まあ、とにかく前世というものが確かに存在するというわけだね?」
「誰にでも許されたわけではないが。」
「これはまたどういうこと?」
「バベルが現れてこれからどうなるか分からないけど、それまで輪廻は資格のある者たちの専有だったんだ。機会も決まっていて。人間は三回だったか。」
「じゃあ、私にも前世があるかな?」
「さあな。」
キョン・ジオの根源を覗き見ることは、長い年月を生きてきた虎にとっても容易なことではない。彼はジオほど秩序から外れた存在を見たことがない。
虎の目が熱心にジオを見つめた。
「それにしてもお前らしくないな。過ぎ去ったことをくよくよ考えるのは嫌いなくせに。似合わない前世の話なんか……」
「私が何よ。」
「執政官と初対面ではなかったか?」
一気に核心に切り込む。
これは本当に、怖くて何も言えないな?ジオはむっつりと口を尖らせた。
「初対面だよ。ただどこかで見た気がして。聖女かなんかに似ているとも言うし、なんとなく気になるじゃん。」
「それが全てではないようだが。」
話したくないなら仕方ない。
彼にはキョン・ジロクのように堂々と、お前の全てを差し出せと要求する権利はなかった。
虎は空になったグラスの上に残った口紅の跡をこすった。キョン・ジオが息を吐くたびに香る果物の香りが甘く濃厚だった。
「人間は、 ‘格’を得る時は普通、それに見合うだけの業が魂に 積もっているものだ。だからお前も最初の生ではない可能性が高い。しかし。」
それが重要なのか?
夜風の中、低く響く低音が淡々としていた。
「前世のお前もすごかっただろうが、それがどうした?今日の自分より、明日の自分が一番眩しいのに。」
「少なくとも俺にとってはそうだ。」
虎がジオを見つめた。
ほのかな酔いで赤らんだ頬、星のように輝く瞳。
無神経だが呆れるほど正直で、嬉しい言葉には笑みを隠せない。
あのように。
「へ……」
ジオが負け惜しみのように笑った。誰かにとっては、この夜空全部よりも価値のある笑顔で。
「意外とそういうこと言うんだな。」
「誰かが好きだから。」
「とにかく!うちの虎様が過去に生きたくないとおっしゃるなら仕方ないか。このキングジオが、ものすごく長く生きてやらないと。」
「安心しろ。契約する時に肉体をくれたおかげで、こっちももう死ねるから。必要なら一緒に死んでやる。」
「縁起でもないことを言うな。」
言い争いながら冗談を言い合っている時だった。
「ジオ様、ジオ様!こちらにいらしてください!」
急いで探すナ・ジョヨンの呼び声。
うっ。ジオは足を転がして移動した。手すりの上の虚空に現れると、ナ・ジョヨンがびっくりしてきゃっと叫ぶ。
「何だ?」
「あそこを見て。」
代わりに答えたのはキョン・ジロクだ。ちらっと振り返ると、ジオの肩に腕を回して自分の側に引き寄せた。
「あっちの路地。見えるか?」
「おやおや……」
わざわざ魔力を加える必要もなかった。夜目の利くジオが唇を丸くした。
「バンビバンビ、チャンスじゃない?」
キョン・ジロクもにやりと笑う。獲物を捕捉し、興味が湧き上がったハンターの顔で。
「ああ。あの『失踪』事件だな。」
わああああ!
五色の旗の間を白い花びらと花粉が舞い散る。
競技場を쩌렁쩌렁と鳴り響かせる観客の興奮と歓声は、静まる気配がなかった。
彼らが指折り数えて待っていたフェスティバルのメインイベントの一つが進行していたからだ。
フェスティバル、バトルトーナメントの組別本選。
進行は、勝った人が引き続き相手を変えて戦っていく、いわゆる「消し去り」方式。
そうして最後の1人が誕生すると、各組の残った者同士で最終戦を行うというものだった。
順番が後ろであればあるほど非常に有利だが、星系では運もまた実力。
[本当に素晴らしいです!]
魔法で拡声された司会者の音声が大きく響いた。




