272話
独裁者出身のキョン・ジオが、見当違いにも革命の夢を見ている間、状況は悪化の一途をたどっていた。
「うっ!」
いつの間にか、親方の襟首を掴んだ工房長の腕。
遅れずにティモシーが引き剥がす。忍耐を強いられる顔。
「おっ?」
「やめてください。修理の見積もりを出していただければ、それに合わせて準備すると申し上げました。それに、こちらに非があるのに、なぜしきりに親方に……!」
「よそ者は引っ込んでろ。」
「……何?」
「お前らの魂胆は見え透いている。ビザはあと何日残っている?せいぜい一週間しか持たないよそ者どものために、誰が得をすると思って急かせるんだ?逃げればそれまでなのに。」
「事故を起こしておいて、後で返すだの、待ってろだの言って逃げる奴ら。お前らを一度や二度見たと思っているのか?言うことなど分かりきっている。今回はなんだ、レースで優勝して、その賞金で返すつもりか?」
……こりゃ、とんだことになったな。
まさにそう言おうとしていたティモシーが、下唇を噛み締めた。
よそ者に対する信用が地に落ちている工房長は、ただでは済ませるつもりはないようだ。
どうしたものか、悩んでいると。
「本当に見ていられないな。おい、おっさん。こんなことまで言わなきゃならないのか知らないが、私が誰だか知ってるか?」
うんざりしたように吐き捨てたジオの言葉。
ティモシーがハッと顔を上げた。まさか!
「ラクーンのために優勝候補だとここで明かす……!」
「違うのか。」
歴史ある元最強者が、やっぱりな……。
「でも、なぜいきなりそんな話を?」
訝しげに思ったティモシーが、ジオの視線をそのまま追った。
そして見つけた。工房長の前のポケットに大切に挟まっているカジノのチラシを。
M I»
う、銀河版ノースコリアのくせにカジノがあるのか?!
素早く状況を把握した彼が、驚愕してジオを振り返った。
卑怯な笑みを浮かべているこの地区の生まれながらの特権階級(特記事項:政府指名カジノ・カンウォンランド永久出入り禁止者)。
「どうやらカジノに入り浸っているようだが、プロ同士、簡単に済ませよう。そこのスロットマシンにあるだろ?現在の当選金はいくらだ、1億ゴールドくらいか?」
「ジ、ジオ、ちょっと待って、それはあまりにも目立ちすぎる……!」
「シーッ。黙ってろ、コーンモシ。だから今、原住民の盾を求めているんじゃないか。」
「魂胆はそれだったのか!」
借金返済はフェイク。
原住民シールドを掲げて一儲けしようとする韓国人がそこにいた。
「藁のベッドはごめんだ。」
軋む床とネズミが走り回る天井は、一晩の経験で十分だ。ジオは決然とした顔で指を鳴らした。
「この私が当ててやる。行こうぜ。」
「……聞くに堪えないな。よそ者、お前を何を信じろと?それも、運の悪いことで有名な黒髪の女を。」
しかし、言葉とは裏腹に、工房長の表情は微妙だった。
プロはプロを知ると言うか?
ジオが肩をすくめる。
ただの戯言として片付けるには惜しい、あの態度が気になる。工房長は悩んだ末に頷いた。
「……まあ、いいだろう。それなら。」
[B区域ドック-1番、飛行船入港完了。依頼番号MHAP02J番。該当する整備士は今すぐB区域1番ドックに集合してください。]
「チッ、ボロボロだな。作業は一週間はかかるだろう。一体どこを回ってきたらこんな有様になるんだ?」
「上の方だ。ムハ・ダドラだろ。十分にあり得る。」
「……マジか。寄生王にやられて無法地帯になったというあの60階台のハブ?正気なら、あんなところになぜ……!」
トボトボ。
陰口を背に、男は歩を進めた。
抜け殻のような彼の肉体は疲れないが、精神的に疲弊していた。
久しぶりに到着した飛行場は、相変わらず人でごった返して騒がしい。
「あそこはまたなんだ、何が騒ぎだ?仕事もしないで。」
「お前、ちょうどいいところに来たな。C区域の工房長がよそ者と面白い賭けをするらしいんだが、一緒に行こうぜ。」
「よそ者と?暇を持て余しているようだな。」
そして、騒ぐ整備士たちの声につられて顔を向けたのは、全くの偶然。あるいは……運命だったのか。
「……ついに幻覚まで見るようになったか?」
今更、異常なことなど珍しくもないが……仕方がない。未練はいつも彼の体を勝手に動かすのだから。
釘付けになったように突っ立っていたのも束の間。彼は迷うことなく方向転換した。
君が見える。
それならば、それが幻であろうと、私は追わなければならなかった。
「ルールは非常に簡単だ。大したことではないし、お前の馬鹿げた言葉と同じくらい、お前に運があるか試してみるだけだ。」
「おっさん、口が長いな。なぜ素人みたいなんだ?」
「なんだ、その口の利き方は……コホン!いい。カードは全部で100枚。ここから一番良いカードを引き当てればいい。もし失敗したら、分かるな?さっき合意した通り、気に入らない罪まで加えて、返す金は10倍だ。」
共和国ではありふれたカードゲーム。しかし、初心者のよそ者には事情が違う。
あちらのチャンネルにはない種類のカードだということは、既にお互いに確認済みだからだ。
したがって、どんなカードが一番良いカードなのか、何の情報もない白紙の状態で選んで引き当てなければならなかった。
「ジョー様……」
ミンチが焦燥感に駆られ、両手を合わせて見つめている。マンタの親方も顔には出さないが、心配そうな様子。
当事者よりも緊張しているティモシーは、言うまでもない。
「レースの準備に来たのに、とんだ災難だな。呆れる。」
とにかく、ペーパードライバーは運転手の敵だ。少しばかりうんざりしたが、ジオは無関心そうに腕を組んだ。
目の前に裏返された100枚のカード。本当に多い数だ。
しかし、これが問題ではなかった。
本当の問題は……。
「なぜ返事がないんだ、何が不満なんだ、このクソ星様。」
消えたわけでは決してない。
見守っていて、相変わらずそばにいることくらいは、特有の存在感のおかげでジオも感じている。
しかし、こちらがいくら探して呼んでも、もどかしいほどに無言。
「本当に一人でやるのか?マジ?本当に助けてくれないのか?お星様、寂しいよ。」
今回は実力ではなく、ひたすら運の勝負だった。
幸運の方は、確かに星のサポートに頼っている部分なので、一人で何とかできるか疑問だ。
押し寄せた観衆の視線の中で、ジオはさりげなく爪をいじった。
我慢のない工房長が皮肉る。
「おい、悩む時間が必要か?がっかりだな。さっきの態度とはまるで違うじゃないか。」
「何言ってんだ、今から選ぶんだよ。突っ込む指が見えないのか?おっさんこそビビってんのか?」
「えーい、クソ。知らない。」
なるようになれ。本当にダメなら、共和国をひっくり返してでもラクーンたちを連れて逃げるまでだ。
ジオは歯を食いしばって腕を伸ばした。
そして、紺色のカード一枚に指が触れたその瞬間。
「—それは逆方向だ。」
「..!」
優しくジオの手に重ねて覆う、もう一つの指。
背中を軽く押して触れ合う硬い体。けだるそうに囁いた男が、ジオの代わりにカードをめくった。
めくられたカード。
名前は「栄光の星」。
「ここで一番良いカードであることは確かだが、正方向の同じカードには及ばない。正方向の意味は永遠の勝利、逆方向の意味はもう少し個人的なものだから。」
飛行場の風が静かだ。
周囲から切り離されたかのように、空気だけがここだけ違うように流れた。振り返ったジオは、思わず尋ねた。
「……どういう意味?」
見つめ合いながら男が答えた。
「運命。」
ドクン、ドクン。誰のものか分からない心臓が泣いていた。
深く被ったフードの下に見えるその顔。体が近くに触れ合っているからジオにだけ見えるその眼差し。
空っぽの深淵のような瞳が強烈だった。しばらくジオを見つめていた彼が、顔を背けて工房長に言った。
「借金がかかっているようだが、邪魔をしたのでこちらが代わりに払おう。どこかの銀行に行って言え。」
「..!」
「「ジンギョウル」が送ってよこしたと。」
パタパタ!
飛行場の天井にかけられた宣伝旗がはためく。目の前にあるものと同じ共和国の顔。
言葉が終わるや否や、全員がひざまずいていた。
「か、閣下!」
「執政官閣下……!」
狼狽、敬畏、恐怖……。
慣れ親しんだ全てを後にして、彼が再びじっとこちらを見つめる。ひたすらジオだけを見ていた。
キョン・ジオは黙って手を伸ばした。
「まさか……そんなはずはない。」
近づいてきて、自分のフードを脱がすその手を、彼は拒まなかった。そのままにする。
そしてパタ、微風に浅く揺れる銀灰色の髪。
キョウルがかすかに笑った。
「なぜ?」
疲れ果てた顔で。
「また私をどんな泥沼に突き落とそうと思ってそんな風に見るんだ、愛しい人。」
まさにその瞬間、ジオは悟る。
「ありえない。」
髪型が違うから、年齢が違うから、無神経だから、また見たものと違うから気づかなかったが、この男は……。
私の星と全く同じ顔だ。




