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260話

チェ・ダビデは先天的な特殊個体だ。


「窮奇」とは別個の存在ではなく、彼女自身が新たに生まれた四凶の生まれ変わりも同然だ。


「その点を忘れてはならない」


悪霊退治のように分離したり、友情パワーで自制するだろうという妄想は捨てよう。



グルルルル!


窮奇が身をかがめた。


獲物を狙うように低くする姿勢。そして目をパチクリ。


瞬間、すぐ正面まで到達した奴が鉤爪のように曲がった爪を振り回した。


クワガガガ!


さっきまでジオが立っていた地面が削り取られる。


時間差なしに即座に展開された保護膜に高く跳ね上がった石の破片がぶつかり消滅した。


「ジオ様!」


「そこで大人しく応援でもしてろ」


連続瞬間移動。空間と空間を畳んでナ・ジョヨンを軒の上に移動させたジオが上空にそびえ立った。


【殺せ。】


【残らず食い尽くせ。】



「マジか。あれまさか窮奇の声?」


マジかよ。自然の音でもないのに、生きてて色んな音を聞くもんだな。


ジオの眉間にしわが寄った。クソ、食うって何を食うんだ?


「イノシシも塩コショウで美味しく焼くやつにガスライティングかよ」


窮奇の扇動で風が激しく吹き始める。紅色の虎が足を踏み出した足元に渦巻く嵐。


大英殿、床に転がっていた人々が渦巻きに吸い込まれるようにそちらへ飛んでいく。待っていたかのように窮奇が口を開けた。


餌が人間だと言ったか?


「ダメだ。勝手にはさせない」


短い深呼吸に全身の血が速度を上げて心臓に集まる。稼働した魔力回路の光が目の中で伸びをした。


黒色の短髪がなびく。陶器のように白い顔はいつも嵐の前の静けさのようだ。


クワアアック!


キョン・ジオは力を込めて虚空を掴んだ。続く魔術師王の真言。


「[敵を私に連れて来い]」


[敵業スキル、8階級元素系超絶呪文(属性強化)–「龍巻]


そうして始まったS級たちの力比べ。


「…クッ!」


ナ・ジョヨンは力いっぱい屋根の棟木につかまった。裾が激しくひるがえる。吹き荒れる突風の力に耐えきれず瓦がバラバラと落ちていくのが見えた。


「ハ、空だ…!」


裂けている。真っ二つに。


二人のS級が起こした風がぶつかり絡み合った結果だった。


尻尾に尻尾を食らいつき、衝突した渦が昇天する龍のように地面から上空へ吹き上がった。


クルルルル!


思うようにいかない状況に窮奇が牙をむき出す。黒色の翼が殺気を込めてはためいた。


【よくも人間ごときが!】


キョン・ジオが嘲笑した。


「よくも怪物ごときが」


風を縛るのは成功。


殺せる方法はいくらでもあるが、殺してはいけない。さっき星様の言った通り、こちらには殺せない相手が一番難しいのに。


ザコを諦めた窮奇が咆哮して襲い掛かってきた。


引っ掻き、避け。


噛みつき、防ぎ。


クワアアン!


絶え間なく攻防が繰り返されるたびに衝撃波に大英殿が揺さぶられる。


尋常ではないことに気づいた門の閂を開けた〈ヘタ〉の生存者たちがいつの間にか外に出てその戦闘を見守った。


「テ、ウッ…!」


「静かにしろ!こちらを見たらどうする!」


「見たらなぜダメなんですか?あの方はうちの大長老様じゃないですか!私たちを害するはずもないのに!」


幼い弟子の反抗。何も知らないから言うのだろうが……長老が沈吟した。子供たちは正直だ。純粋なその信頼にこちらが恥ずかしくなるのはなぜだろう?


隣の別の元老がつぶやいた。


「槍と盾……これは魔術師王が徹底的に負けている戦いだ。このままでは終わらないだろうに。一体どうするつもりだ……」


「違う」


戦闘のおかげで敏感になった五感が遠くにいる彼らの話し声まで捉えた。窮奇を凝視するジオの目が落ち着いている。


「ますます安定している」


暴走していた列車が燃料を使い果たし、徐々に速度が落ちていくのと似ていた。


そしてその時。


「隙!」


獣の黒ずんだ赤い瞳に瞬間親近感のある茶色が見え。


魔法使いは決して機会を逃すことはなかった。ジオが囁いた。



「[領域宣布。]」


ライブラリー、具現化。


「ニーチェの哲学 一 世界を転覆するハンマー。」

「強化キーワード:「神は死んだ、絶対的なものはない。」」


ヒューイック!


襲い掛かってくる凶獣の鼻を足場に空高く飛び上がる小さな体躯。



チャララララク。


整列する世界の書棚、記録から抽出される形而上学的文字列。


その全知の領域の中。虚空で一回転する司書の二つの手でウォーハンマーが具現される。


ニーチェのハンマー。


上の方の彼女の方へ再び突進する四凶。彼に向かって魔法使いの体よりも巨大なハンマーが落下する力に加速され力いっぱい振り回され。


クワガガガガン!


飛んでいく窮奇の巨体について大英殿前庭、石材の床が破壊され吹き上がった。


タアク。


静寂の中で勝者が着地する。


「……終わった」


ナ・ジョヨンが呻いた。息を殺して観戦していたみんなの考えは似ていた。


正門の前。よろめきながら起き上がる窮奇はもはや脅威ではない。


完全に決まった勝敗。


それでも戦意が折れただけで、現身状態が解けていないのに。キョン・ジオは迷うことなく直進してその前に立った。


「気が済んだか?」


[あなたの星約星、「運命を読む者」様がまだあなたの友達ではないと言って退くことを勧めています。]


「チェ・ダビデ」


グルルルル



「星痕、強制開門。」


【退けと言っている。】


「いつまで獣の姿で生きるんだ?バカ。お前がいくらこの姿を否定してみても何が変わる……!」


クワドゥドゥク!


「ジオ様!!!」


引き裂かれるナ・ジョヨンの悲鳴。怒った窮奇の歯が噛み砕いた右腕。錐のような激痛が全身を包み込む。同時に……。


「……?」


何だ?必死に呻きを飲み込んだジオがキョロキョロした。


世界が止まっていた。


吹き荒れていた風も、驚愕していた人々も、目の前の四凶も、ぞっとするほどの苦痛まですべて。


そして響く音。


【愛しい私の化身。】


【私の忍耐心をどこまで試すつもりだ?】


ぐっとこらえる声だった。ジオも初めて聞く種類の。


「……今何をした?いや、こんなことしてもいいのか?バベルに警告まで受けたのに。早く解け!」


【そんなによく知っているなら私の前で自殺ショーはするべきではなかった。そうではないか?】


【早く退け。そうするように止めたのだから。】


「わあ、こいつマジで狂ってるのか?あのさあ、わざと譲ったんだろ。クリシェ知らない?主人公の犠牲で感動して更生するライバル!」


【あれで見かけ倒しだ。四凶に受けた傷はお前の魂にまで影響を及ぼす。本当に狂ったやつが何なのか見たいようだ。】


【お前がしないなら私がする。】



[許可された権限範囲外の介入を感知しました!]


「星位、「運命を読む者」2次警告。」


「継続的に警告が累積される場合、星系星約により「天文」接続が制限されることがあります。』


パチパチ、弾けるノイズ。


強制介入によってますます開いていく窮奇の口とバベルのメッセージが何かがひどく間違っていることを知らせた。


こいつどこかイカれてるやつだとは前から思ってたけど。


「••••••やめて」


ジオの眼差しが沈んだ。


「やめてくれ」


[....]


「線を越えるな。腕が不自由になろうと、魂が引き裂かれようと。これは私の選択であり、私の決定だ」


【……お前は。】


【いつも我慢しろと言う。私を最後まで、我慢できなくさせるのはお前なのに。】


遠ざかる星の声。


再び流れる時間。


止まっていた痛みが襲ってくる。赤い血が流れ落ちてきた。


フー。ジオは深呼吸して痛みに耐えた。近くに向き合った友達の目を真っ直ぐ見つめた。


「さっき何があったか分かるか?」


「お前のせいで私が誰を見捨てたかも知らないだろ。チェ・ダビデ、バカ」


歯に噛まれた腕を見つめる。涙が出るほど痛かった。


「これほど痛くさせるやつはなかなかいないぞ。キングの腕をぶっ壊しやがって……え?こんなに強いのに何がダメだと言っていつも無駄なことばかりしてんだ?何が怖いんだ」


他人と違うから?


体が変化する怪物だから?


「それが何だ。個性があっていいじゃないか。他人の目を気にするな」


お前は耳が薄すぎるんだよ。


「白鳥は無事だ。たとえあいつが道に迷ってさまよったとしても、連れてくる人がいれば何が問題なんだ?」


一人でうまくやるやつだから、分かるだろ。本当に必要なら。お前が望むなら。


「私が首根っこ掴んで引っ張ってきてあげる。いくらでも。お前の友達じゃないか」


「••••••あ、あ、」



ポツリ、ポツリ。落ちる涙の跡。


ニヤッと笑ってみせたジオがふざけたように聞いた。


「友達の友達は何て言うんだ?」


「また別の、友達……!」


力なく床に落ちていく黒色の羽。その上に座り込んだ涙まみれのチェ・ダビデ。


自分が噛み付いた肩を掴んでしくしく泣く。子供のように口を開けたチェ・ダビデが声を上げてわんわん泣いた。


「ごめん、ジオ、ごめんねえ……!」


「いいよ。これで幼い頃の借りは全部返したことになるから」


こちらが見ないふりをしている間、私の分まで悪口を言われ、必死に生きてきて苦労したな。


目の前、涙と鼻水まみれで泣く友達のおかげだろうか。二十歳の暴君にもある悟りがよぎる瞬間だった。



そうか。


翼のあるものは折るのではなく抱きしめてあげるべきなのか。


そして。


ジオは顔を上げた。山の頭の方の空を見上げた。どうしようもない笑みがこぼれる。


「言っただろ。あいつは 大丈夫だと。」


空が晴れ渡っていた。


暗雲が消え、清らかな気が雪岳山を濡らす。


それはすべての不正なものを角で受ける東洋の神獣、ヘタの気。


全身で感じられた。


〈ヘタ〉宗主、白鳥の生還が。


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