258話
「ああ!」
ああ、本当に良かった。ナ・ジョヨンが安堵のため息をついた。危うく太白山脈が危険になるところだった……
「安全な場所にいるのは間違いないですよね?」
用心深い問いかけが、まるで台風が来る直前のジョーとチョン・ミョンジェ会長の位置を確認する韓国人のようだった。
「あのね。あの子はトリプルA級なんだよ?あんたよりずっと格上なのに何を心配してるの?」
「ううっ、ひどい!私が心配性の韓国人だからそうなんです……」
トビーの言い訳を後目に、ジオはちらりと空を見上げた。
ポツ、ポツ!
膜の層が一枚ずつ剥がれ、突き抜けてくる雨粒。
刃を立てない剣を持ったボヒョンが、周囲の騒ぎとは関係なく、着々と結界の継ぎ目を切り離していた。
そうして目隠し用の幻影が徐々に消えていくと、早くも戦闘の残骸が見え始める。今の位置と〈ヘタ〉の本山はかなり距離があるにもかかわらず。
「ランキング変動はない」
まだ誰も死んでいない。
それだけでいい。
生きてさえいればいくらでも救えるのだから。
「もうどいて」
冷たい低音に、結界を解体していたボヒョンが振り返った。まだ表面の遮断術式しか解けていないのに?
しかし彼はすぐに文句も言わずにどく。
大気が真空になり膨張した。降っていた雨粒が逆さまに浮遊した。魔法使いの全身から揺らめく気が、ある形象を形作っていった。
そして高山の針葉樹の上へそびえ立つ金色の魔力の猛獣。
雨林を覆った凶悪な影の下で、魔術師王が命令した。
「引き裂け」
主人の乱暴な意思を受け、大魔力がぱっくりと口を開ける。
ずたずたに引き裂かれていく結界。
ジョーは乾燥した目つきで凝視し、いつものようにネックレスを握った。
[聖なる者との三戒]
[— Third User* キョン・グミ]
[位置:サルート連合アカデミーI 状態:ストレス]
「いない……いない!」
ヨ・ウィジュはがっくりと座り込んだ。
周囲をくまなく探したが、どこにも姉のヨ・ガンヒが見当たらない。
電話をかけてみても、呼び出し音が鳴り続けるばかり。そうこうしているうちに、今度は電源が切れたと表示される。
「そんな、まさか」
最近、姉のストレスが極度に高まっていることには気づいていた。自分が入院し、ギルドから追い出されたことが、一種の起爆剤として作用したという事実も。
しかし、うまく言い聞かせれば大丈夫だと信じていた。
「姉さんはそんな人じゃないから。そうじゃないって私が知ってるのに……!」
もしかして、私が長すぎる間夢の中をさまよい、時間がかかりすぎて姉さんも変わってしまったのだろうか?
涙が出そうになったが、しんみり座り込んでいる場合ではない。ヨ・ウィジュは震える足に無理やり力を入れた。
「……総長室に行かなきゃ」
全部話すんだ。
グミのことも、姉さんのことも。全部。
正直にその人に話して、助けてもらえるよう頼んでみよう。一度やってみるんだ。
[星位、『ベールの裏の読書家』が、そうして犬死にしても構わないかと尋ねています。]
「いいんです!私が死んでも!」
ヨ・ウィジュは廊下を力いっぱい走り始めた。
タッタッ!
人の暗い面を扱うのに長けた〈解放団〉の団長「13月」は、韓国に数多くの種を蒔いてきた。彼自身さえ、何が根を張り、花開いたのかわからないほど。
ヨ・ウィジュが夢の中で読んだ本の中で、ヨ・ガンヒはそのうちの一つだった。
主演たちの舞台の上で、使い捨てにされて退場するエキストラ悪役。
原因は他でもないヨ・ウィジュ……彼女だった。
ハンターアカデミーで起きた訓練生の暴走事件で、実の妹であるヨ・ウィジュが死亡する。
世間の無関心の中で一人葬儀を行ったヨ・ガンヒは、自身の魂を代価に悪魔の火を召喚し出した。
その結果、アカデミーは全焼。
所属訓練生だったキョン・グミがそこで重傷を負い、後遺症で早期にハンター界から引退することになる。
回帰者ペク・ドヒョンとダブル主人公だった世界観最強者キョン・ジオがアーチエネミー、つまり主人公の最後の宿敵として覚醒することになるきっかけの一つだった。
「でも、本とはすでに多くのことが違うのに……!」
「ジョー」が自ら自分の名前を明かしたことから始まり、国家主導のハンターアカデミーの代わりに王の総連合ができ……何よりも。
「今日、グミはヘタに行った」
主人公を刺激するような人物も現在ここにはいない。ヨ・ガンヒが無理に道を誤る理由があるだろうか?
もちろん〈ヘタ〉の洗髓式とアカデミー放火はタイムラインが異なり、ヨ・ウィジュもそれでグミが洗髓式に行かないようにすることだけに集中していたのだが……。
いずれにせよ、今日自分は失敗し、キョン・グミは去った。
「空き家だから悪役が動く蓋然性もないのに、一体なぜ!」
バッ!角を曲がった途端の衝突だった。ぶつかったヨ・ウィジュが転げ回る。相手が驚いて腕を伸ばした。
「大丈夫?ごめん!」
「……うっ、ジウ兄さん?」
嘘ではないのか、ジ・ウノの額に少し汗が滲んでいる。走ってきた人特有の熱気が伝わってきた。
「だ、大丈夫です。こちらも不注意でしたから」
「怪我した?本当にごめん。誰か消えちゃって探してて……」
「……誰がですか?」
後ろめたい気持ちから鋭く尋ねたが、幸いジ・ウノは知らない様子。制服の襟元のボタンを荒々しく外しながら答えた。
「いるんだ、俺の弟。ダンテっていうんだ。子供なんだけど、ちょっと目を離した隙に一体どこに行ったのか」
「ま、まさかキム・ダンテ?」
「え?俺がダンテの話をお前にしたことあったか?」
「寵児」キム・ダンテが今ここにいるなんて!
「チュートリアルで見えなかったのに、結局現れるんだな」
まあ、ただ消えるような比重ではなかった。ペク・ドヒョンの精神的成長に一役買う重要な人物だから。
しかし、驚きとは別に今重要なことではなかった。現在、急務は血の洗髓式に足を踏み入れた友達と、突然消えた姉さんだ。
「し、したと思います。でも、兄さん。私、急いでるので先に行きますね!」
「ちょっと、ウィジュ、お前今日ちょっと……!」
まさにその時だった。
ドゴーン!
「••••••今」
刹那の静寂が過ぎ、ジ・ウノが先に口を開いた。ヨ・ウィジュも彼と似たように唖然とした表情だ。
「今……兄さんも感じましたよね?」
「ああ」
揺れた。アカデミーの建物が。
まさか姉さんの仕業か?ヨ・ウィジュの目が揺れた。慌てて飛び出そうとする彼女をジ・ウノが掴む。ちょっと待て。
「ウィジュ、お前さっきからちょっとおかしいぞ……!何か知ってるんだな?」
「離してください、すぐに総長室に行かなきゃならないんです!」
「総長室に何しに」
K | 99
ヨ・ウィジュが凍り付いた。
聞こえてはならない声。
少なくとも今この瞬間だけは絶対に嬉しくない登場だった。
「まさか」
幽霊でも見た人のように、ヨ・ウィジュがゆっくりと振り返る。全身が震えてきた。
「顔色がなんだそのざまは?スマーフかよ?」
「……ど、どうしてあなたが……いや、どうしてここに?」
「は、行くなと人を散々焦らしておいて、今度はなぜ来たのかって。おい、ヨ・ウィジュさん。一日に一つだけにしてくれない?」
壁に寄りかかったキョン・グミが斜めに首を傾げた。
「二つ目の願いだろ。私が見た目とは違って意外と友情、みたいなのに弱いタイプだから」
「うむ、理解しやすいように東洋式に言ってやろうか?」
「声東撃西。連環計だ。」
東で騒ぎ立て、西で撃破する。輪の輪を繋ぎ、自分より強大な敵を打破する計略だった。
「だからハヌルビ、お前は最大限騒がしく吠えていればいい。その間に我々の別の駒が王の本陣をひっくり返すから」
しかし、優しい口調とは裏腹に、画面の中の美青年の顔は少しも楽しそうに見えなくて。
ハヌルビはふと彼に尋ねた。
「理由は何ですか?」
「何がだ?」
「これは勝つ目的で立てた策略ではないでしょう。相手から憎悪を得る方法でしょう」
「本当にこの世のために魔王を倒したいと思っているのかどうか疑問に思って」
顎に手を当てたキッドが狐の目を細めて笑った。なるほど。
「似たような境遇だからかな?」
「憎めない敵を憎んで、一緒に死ぬ場所を探して足掻いているのはお互い様でしょう」
「知りながら聞くな、お前。憎たらしくて殺してしまいたくなる」
違う。私は死にたいのではない。
私を捨てたくせに腐り果てた家門。そして私を踏みにじった不倶戴天の仇。彼ら全員に復讐し、〈ヘタ〉といううんざりする歴史を私の手で終わらせたいだけだ。
ハヌルビはそう主張したかったが、不可能だった。
青い目のこの異邦人は、初めて会った時からこちらの全てを読み取っているようだったから。
まるで彼が愛憎してやまないこのイボヌイのように。
「表情を見る限り、今回は直接会うことはなさそうだね。これが最後の連絡になるかな」
「『今回は』……?」
「知る必要はない。そしてこれは最後のお別れ兼経験者としてのアドバイスだ」
キッドが笑った。乾いた笑顔で。
「死ぬために戦うな。少なくともそうじゃないふりでもしろ。そうすれば……少しは哀れに見えないから」
「あれは、まさか!」
「ありえません!千年歴史が込められた結界です。それをどうして!」
「それでは、今この気運は一体何だというのだ!」
「そ、それは……」
騒ぎが大きくなる。あっという間にひっくり返った雰囲気。急速に恐怖に飲み込まれた者たちが喚き散らした。ついさっきまで家族のような門徒たちを殺戮していた者たちとは信じられない有様だ。
回想を終え、ハヌルビは遠い空を見上げた。
見慣れないほどまともな視界の先に、黒雲に覆われた空が真っ二つに割れているのが見えた。
その真ん中にそびえ立つ竜巻。
「……怪物の風がついに嵐を呼んだか」
ハヌルビは冷たく冷えた手で剣柄を撫でた。
近づいたクライマックス。
さっきまではヘテの涙のようだった雨音が、今はまるで神獣の嘲笑のように聞こえた。
「もうすぐだ」
3長老は音もなく笑った。
今しがた、チェ・ダビデの髪の毛が完全な朱色に変わった。
グルルル……
床を必死に引っ掻く爪が凄惨だ。獣の黒い模様がその手の甲の上で消えたり現れたりを繰り返した。
唸っていた童子僧は気絶してもう動かない。3長老は子供を渡し、手招きした。
「抹殺陣を準備しろ。窮奇がまもなく目覚めるだろう。忘れるな。変わった瞬間すぐに首を刎ねる」
その時。一番最初に異変に気づいたのは、チェ・ダビデと最も近い位置にいた殺手だった。
「……太陽?」
濃く溜まった血溜まり。そこに反射した空の金色。
こんなに雨がたくさん降っているのに、どうして太陽が……?思わず顔を上げた彼が、その姿勢のまま凍り付く。
「••••••はっ!」
拡張された瞳孔に映るのは、土砂降りの雨が降る黒雲……その上に垂れ込めた黄金色の陣!
ゴォォン!
黒雲に隠されていたそれが、ついにその姿を現す。
数百の線で織られた災厄。
遅れてハッと顔を上げた者たちの顔が、驚愕に染まった。
いつの間にか空を覆った規模。人間として圧倒されないことなど不可能だった。
「ま、魔術……!」
魔術師王だ。
誰が言わなくても皆が悟った。
続く判断は本能。
チャリン!何人かが慌てて剣を抜いた。自決しようと自分の首に向かって力いっぱい振り下ろした。しかし、
「そうはいかない」
チャプン。
「勝手に死ぬな」
チャプン。
雨水の上を踏む足取りに合わせて、空の金色の円が無慈悲に増殖する。何層にも積み重なっていく大魔力。
「雨が……止まった」
3長老がうんざりして後ずさった。
いや。そうしようとしたが、体が動かなかった。目さえ勝手に瞬きすることができなかった。
今ここ、生きている全てのものの権限が、一人の人間に強奪されたから。
「誰の許可を得て綺麗に死ぬんだ」
「……夢、なのか?」
パチパチ。
微かな精神でチェ・ダビデは考えた。雨音で私が幻聴を聞いているのか?さっきから感覚がなかったのでそれも無理はないのだが……。
パアッ!
しかし、一面赤かった視界に入ってきた黄色。その生き生きとした色が与える鮮明さだけは、とても幻聴だとは思えなくて。
チェ・ダビデは血に濡れたまぶたを持ち上げた。
「黄色••••••「」
「……か、傘?」
「趣味じゃなくても我慢しろ。雨が降るとは思わなくて、持ってるのがこれしかないんだ」
斜めに傾いて雨を防ぐ黄色い傘。膝を曲げて髪の毛をかき上げてくれる手が優しかった。
「長くはかからないから」
【怒ってる?】
星が尋ねた。
「うん」
今日は少しは気が済んだみたい。
振り返ったキョン・ジオが乱暴に笑いを爆発させた。とりあえずは。
「ひざまずけ、ピラミッドども。生意気に立っていないで」




