256話
「大、大長老!」
「大長老様!血が!」
ザーーーーーー!
ポツポツと降り始めた雨は、いつの間にか土砂降りになっていた。
しかし、今日の血は激しい雨でも洗い流せないほど濃かった。
どうやってそこを抜け出したのか覚えていない。四方から降り注ぐ攻撃を全身で受け止め、必死に走ったということしか。
白鳥の人々を守らなければならないから。そう……約束したから。
チェ・ダビデは血で濡れた顔を雑に拭った。うまく開かない片目に無理やり力を入れて、門徒たちの前に立った。
〈ヘタ〉本山の中心社堂、大営殿の前。
急襲した敵と戦闘中だったため、彼らも無事ではなかった。
「誰が誰を心配しているんだ?時間がない!1長老の一味が裏切った!すぐに残りの人々を連れて避難しろ!」
「遅いです!すでに本山の周辺に敵が陣を張っており、無理に突破しようとすれば幼い門徒たちが大怪我をします!」
「くそっ!!今まで何をしていたんだ?すぐに外部に支援要請しろ!チャン・イルヒョンと同盟たちがいるじゃないか!」
チェ・ダビデの怒鳴りに、元老の一人が冷や汗を流しながら急いで答えた。
「それが、先ほどから外部と一切連絡が取れません!結界で封鎖されたようで、センターの方には信号さえ届かず、協会側のホットラインも応答がないのです!」
「ランカーチャンネルは何のためにあるんだ!」
「そこは一時遮断と表示されます!大長老!」
「何?」
ありえない。チェ・ダビデの顔が夜叉のように歪んだ。外のことにあまり関心のない彼女でも、聞きかじって知っている事実だ。
大韓民国にはディレクターがいる。
ホン・ヘヤがコントロールタワーにどっしりと座っているのに、そんなことがありえるはずがない。チェ・ダビデがすぐにチャンネルウィンドウを開いた。
「何?1番チャンネルは塞がれていない……!」
スッー!
しかし、メッセージを残す暇はなかった。正確に頬をかすめていく矢。
反応する間もなく、雨を突き抜けて内功が込められた矢の雨が降り注いだ。門徒たちの上へ。
あああ!
防げ!弟子たちを守れ!
長老たちと当主および一代弟子たちが急いで打ち払ったが、数の差が歴然だった。到底無理だった。
あちこちから悲鳴が聞こえた。
裏切り者たちの奇襲を防ぐのにすでに負傷者がいっぱいの状況だった。戦闘可能な者は少なく、幼い弟子たちは多すぎた。
その中にはまだ洗礼も受けていない子供たちがたくさんいる。
風を操って矢を払い除けたチェ・ダビデが歯を食いしばった。
「……子供たちを連れて大営殿の中に入れ!」
「大長老!だめです!」
「くそ!二度言わせるな!お前たちは鳥頭か?早く!」
ドーン!
そうして大営殿の内側の閂がかけられ、少し離れた正面の入り口、ヘテ門が崩れ落ちたのは同時だった。
血の海を踏みながら3長老と裏切り者たちが歩いてきた。残りの勢力と合流したのか、さっきよりもずっと増えた数だ。
そして彼らを迎える大営殿の庭の真ん中に、一人立つチェ・ダビデ。
雨と血に濡れた守門将を3長老が鋭く嘲笑った。
「ずいぶんと見栄を張るな。誰から誰を守るというのだ?化け物のくせによくも偽善を垂れ流す。」
チェ・ダビデは黙っていた。
そして……チャプチャプ。
「……」
完全に手放した自尊心。両膝をついたチェ・ダビデが言った。
「ごめん。」
「私が全部悪かった。」
「何がそんなに気に入らないのか分からないけど、全部私のせいだ。本当にごめん。これからは本当に大人しく縮こまって生きるから、だからここでやめよう。」
「3長老、お前そんなに悪いやつじゃないだろ……。嫌でも、憎くても私たちはヘタだ。たかが私のようなもののために、なぜ千年の名前を汚そうとするんだ、うん?」
お願い……。彼らの前で無力に頭を垂れる怪物。
3長老の顔が固まる。
トボトボ。近づいてきた3長老がチェ・ダビデを冷たく見下ろした。そのまま髪を掴み上げる。
「汚らわしい外敵の獣め。」
「一度たりともお前をヘタとして考えたことはない。その名前がどんな名前だと思っているんだ、よくもお前ごときが。」
3長老が口元を歪めた。
「お前自身がよく分かっているはずだ?お前は他の者たちのように運が悪く悪の星位に出会ったのではない。それを抱えて生まれた、災いそのものだ。」
先天的な特殊系。
バベル時代が到来し、覚醒者の一部として分類されたが、はるか昔から存在してきた場合だった。
「神」を抱いて生まれる者たち。
その自ら生まれることもあったが、人間の母胎を借りて出てくることもあった。
善いものから始まったのなら、何の問題もなく日陰の超越者として生きていくこともできるが、その根本が悪しきものなら注視していた者たちが容赦なく処理し、退魔した。
さらに成長して人世を乱す前に。
そしてこの地、韓半島でその役割を果たしてきたのは、断然千年の守護者たち。〈ヘタ〉の役目だった。
3長老が軽蔑を込めてチェ・ダビデを睨みつけた。
四凶、「窮奇」の化身。
中国神話の中でも邪悪さで指折りの災い。人間を餌として捕らえて食べ、悪い方向に導く怪物。
長老はチェ・ダビデを初めて見た瞬間を覚えている。
真っ赤な血の海に立っていた痩せた少女。踏んでいる血は全部少女の家族のものだと言った。
「ヘタはお前を処断するために連れてきた。それが千年もの間この地を守ってきた私たちの義務であり使命だから。」
「宗主が……お前が白鳥を誘い出さなければ、とっくにそうしていただろう!」
チェ・ダビデの目が激しく揺れた。どんどん涙ぐむ両目。
哀れで人間的だったが、3長老は握った手にさらに力を入れた。私は白鳥のように惑わされない。
「堕落した宗主をこれ以上座視することはできない。先代宗主がやり残し、当代宗主さえ目を背けた使命を誰かが引き継がなければならないのだから。」
「現れたお前の実体を見て、世間の人々も気づくだろう。これまで自分たちがどれほど愚かだったのか。」
3長老がからからと笑った。お前のような化け物を崇拝する世の中だなんてありえない。
念入りな計画には隙がない。
怪物に変わったチェ・ダビデが彼らを八つ裂きにすれば、空の雨が現れる。人々は恐ろしい悪を処断した空の雨を喜んで称賛するだろう。新しい〈ヘタ〉の主人として。
「分かったら本来の姿を見せろ。真実と共に共倒れしよう。偽善者とお前の死体を肥やしにして、ヘタは新たに生まれ変わるのだから!」
「……お前、気が狂ったのか。」
それでも力なく呟くだけで、立ち上がらないチェ・ダビデ。
ふむ。3長老は手を離した。一歩退きながら意味深に笑う。
「ああ。これを言い忘れていたな。」
不吉な笑みだ。チェ・ダビデが不安そうに見上げた。その予感が当たったかのように叩き込まれる言葉。
「白鳥はもう死んだんだよ。」
「……何だって?」
「最低限の礼を尽くして神獣と共に埋葬してやった。だから耐えればいいという希望は諦めろ。」
「誰が死んだって……?」
ピーーー。
耳鳴りがした。
3長老が何か言っているが、もう聞こえない。
チェ・ダビデは憑りつかれたように立ち上がった。よろめきながら体を起こした。
チャリン!
立ち込める殺気。敵が一斉に武器を構えた。固く閉じられたチェ・ダビデの口元から一筋の血が流れ落ちた。
「でたらめ言うな……。誰がそんな嘘を。」
「分からないな。私がダビデ、お前のために何を諦めたのか?」
「嘘、嘘……」
「そんなことはない。むしろお前は私に多くのものをくれた人だ。最初から、今までいつもそうだった。」
「否定したからといって、行った人が帰ってくるわけではないのに、どうしようもないな。」
「黙れええええ!!」
チェ・ダビデが絶叫した。
全身が震えていた。涙がとめどなく溢れた。
だめだ、だめだ。
そう簡単に行ってはいけない人だ。決して折れてはいけない、私の白い詩。
【食え。】
【バラバラに引き裂いて飲み込んでしまえ。】
悪神が囁いた。
チェ・ダビデが必死に目を背けてきたその声が、これまで以上に鮮明に聞こえた。
悪魔の口から獣のようなすすり泣きが漏れる。血走った目が裏切り者たちを向いた。
パアアア!
[固有スキル、四凶「窮奇」再臨—1次覚醒 半神化]
伸びをする凶獣の巨大な影。黒赤く、朱色混じりの翼一対が背の上から咲いた。
チェ・ダビデの瞳孔が細くなる。
カアアア!
死の殺気に反応したカラスの群れが飛んできて軒に止まった。
黒色の羽が舞う雨の中。
「そうだ。来い……怪物よ!」
見守っていた3長老が喜びに満ちて笑った。チェ・ダビデも怒りに囚われて牙をむき出そうとしたその時。
「「ダビデ」か。素敵な英雄の名前を持っているな。ヘタに来たことを歓迎する。私は白鳥だ。」
初めて手を差し伸べてくれた温もり。
「お前を知らない者たちが騒ぐ言葉に惑わされることはない。お前自身が信じ難いなら、お前を信じる私を信じろ。お前は良い人だ。」
初めて受けた信頼。
「私もあなたに感謝している。あなたのおかげで寂しくないから、私の大切な友よ。」
初めて分かち合った愛情。
「それでもダビデ。ここは、この名前は、私とお前のヘタだ。ヘタを頼む。」
「くそったれ。」
「……くそったれ鳥頭。」
顔が歪んだ。チェ・ダビデは笑い出した。呆れて泣きながら笑った。
飼い慣らされた怪物は人間を傷つけられない。今になってようやくそれを悟る。
「おい。キョン・ジオ。お前の言う通りだ。」
私の中の怪物と正面から向き合えるなら、操れるなら私はもう怪物ではない。
そして馬鹿げたことに、チェ・ダビデの怪物は少しも恐れる必要がなかった。
すでにはるか昔に飼い慣らされ、首輪がかけられていたから。
翼が畳まれる。
舞い散る羽の間からチェ・ダビデはインベントリから剣を取り出した。一度も使ったことのない武器を不器用に持ち直した。
「……何をするつもりだ?何をするつもりだ!」
スッ、
チェ・ダビデは息を吸い込んだ。腰を立てて大きく叫んだ。
「宗主直命により私、〈ヘタ〉の守門将、大長老チェ・ダビデ!」
千年ヘタ史上、最強最凶の守門将。
「夜叉」チェ・ダビデが笑った。
「今日!一匹たりともこの門を越させない!」
私は「ハンター」だ。
友達が信じてくれており、今や誰よりも彼女自身がはっきりと分かっていた。




