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241話

その余裕たっぷりの笑顔が、どうにもこうにも悔しくて。ファン・ホンがむしゃくしゃして言い返した。


「お前が何のアラジンだ……!」


「この豆腐ヤクザは、いいもん見せてやっても騒ぎやがって。嫌なら降りればいいだろ。」


「い、嫌だとは言ってないけど?」


こんな光景を嫌いな人がいるのか?そんなことが果たして……あり得るのか?


魔法の絨毯の端をぎゅっと握ったファン・ホンが顔を上げた。もう片方の腕をそっと伸ばしてみる。


満月、白い建物、ヤシの木、そして手に届きそうな数万の星たち。


夜風と雲が彼の肩をかすめて過ぎていった。


スッと、横でキョン・ジオが顔に巻いていた布を脱ぐ。長くて薄い布切れがファン・ホンの頬に触れた。


一生この感触を忘れることはないだろう。


頭上の星の群れとそっくりの目を見ながら、ファン・ホンはふとそう思った。


「……絨毯はどこから出てきたんだ。魔法のランプでもないのに。」


「アラジンのロマンを持ってる奴がいたんだろうな。誰かが一生懸命呪文を刻んで、うまくいかないから隅に放り出してたんだ。」


影の案内に従ってファン・ホンの元へ向かう途中。尖塔の階段の片隅に寂しげに置かれていたのを見つけた。ペルシャ絨毯。


「一箇所だけ直せばよかったから、ささっと直した。」


ジオはのんびりと後ろに手を突いた。夜風が爽やかだ。


「偉大なる魔術師王には、それくらい朝飯前だから。」


首都ラバトは、海辺と密接な都市だった。


北は地中海、北西は大西洋。北アフリカの宝石と呼ばれる風景が眼下に広がった。


都市から離れると、絨毯が徐々に高度を下げる。端の房が穏やかな海面をなぞった。


チャプチャプ、一緒に手を浸してみたファン・ホンが尋ねた。


「お前はいつもこんな風景を見て暮らしてるのか。」


「魔法使いだから。」


「……はあ、世の中がお前のものみたいで当然だな。」


星は近く、地上は遠い。


超越者が見る世界。


羨ましいというより……ただただ驚異的だった。そうだ。キョン・ジオにはどんな言葉よりも驚異的という言葉が似合う。初めて空の上にいた彼女を見た時からそうだった。


満月を見上げながらファン・ホンがニッと笑った。


「なあ、俺が子供の頃な。」


「お前の過去の話をしろって、背景をきれいに用意してやったんじゃないんだけど。」


「ああ、ちょっと聞いてくれ。お前の分け前もあるんだから。」


「私に?」


より正確には魔術師王だけど。まあ、同じ人だから。


ジオを見るファン・ホンの二つの目が優しく細められた。


「見ての通り、俺はちょっと小さいだろ。背もあんまり高くないし、かといって体が大きいわけでもないし。今でもそうだけど、子供の頃はもっとひどくて、めちゃくちゃバカにされた。」


家柄が家柄だっただけに、なおさらそうだった。


朝鮮時代から大地主の肩書きをしていた家だった。金持ちの下から独立したのは、たったの3代目。


超人たちの出現で時代もめちゃくちゃになり、それを口実に攻撃的に勢力を拡大していた時だったので、ヤクザの家はいつも殺伐としていた。


大人たちは集まると、ひ弱な少年を立たせて非難した。


「あいつ、まともに人の役に立つのか?」


「何の先天能力も幽霊を見ると?気が狂ってる。どこからあんなのが出てきたんだ!」


「下の者たちから尊敬どころか、バカにされなければいい方でしょう。せっかく築き上げた家を、あいつの代で全部潰しそうだから。」


「坊や、今からでも跡取りをもう一人持つ考えはないのか?まだ遅くない。」


母親のファン夫人がなかなかやり手だったのが、ファン・ホンにはとても幸いだった。そうでなければ、とっくに祖父に殴り殺されていたはずだから。


いつも萎縮しているせいで、同年代のいじめもひどかった。


親たちはヤクザの息子だから絶対に付き合わせないようにしたし、腕っぷしが強いという奴らは、負けじと毎日喧嘩を売ってこようと躍起になっていた。


「なんでこんな風に生まれたんだろう?鏡を見るたびに、自分がひどく嫌になって気が狂いそうになるんだ。でも。」


釜山が暗黒に覆われた日。


1級災害、「ブードゥー教の呪術師」がもたらした夜に、大都市のすべての明かりが消えたあの夜。


小さな少年は、小さな王を目撃する。


「俺も小さいけど、お前はもっと小さいだろ?でも世間の人々はどうして一言も言わないんだ。ただひたすら崇拝してるだけなんだ。強いから。」


「小さいけど、世界で一番強いから。」


風を受けながらファン・ホンが笑った。すっきりした少年の顔で。


「俺はお前のおかげで人になったんだ、キョン・ジオ。」


「お前が俺を助けたんだ。あの時から。」


「あのな、俺は子供の頃からずっと、精神的な支柱でありロールモデルがうちのジョー兄貴だったんだ。」


ふと、その時の記憶がよみがえった。


実際にファン・ホンに初めて会った日、鍾路ダンジョンでファン・ホンが言った言葉だった。


その時はただそうだった。こいつ、おべっか上手いな。何の感慨もなく過ぎていった気がする。ところが。


「そこに人がいた。」


適当に助けようが、一生懸命助けようが、その世界には人がいた。


助けられてこの世界を再び満たし、英雄への好意と意志を抱いて生きていく人々が。


笑うファン・ホンを見て、暴君は改めてそれを噛み締めてみる。単に数字の単位ではない人々を。


「本当に……手のかかる世の中だな。」


ますます面倒になって、ますます気になるようだ。


キョン・ジオがそっけなく首を傾げた。


真夏の夜の満月の隣、星が近く無数だった。


「ヤクザ豆腐様、雰囲気を妙にしないで。マジで落っことすわよ。」


「ムードがないな、お嬢さん……。そこがまた魅力だけど。不良様、マジで俺の彼女になる気はない?」


ウインク、ファン・ホンがウインクする。


うわあ、ジオはポンと足で蹴った。


「う、うわあ!俺がここで落ちたら最低でも死亡だ、死亡!お前今、殺人未遂だから!」


「未遂よりは、思い切って殺人が良くない?」


「ごめんなさい……」








国婚は延期された。夜が明けるとすぐに飛び込んできた最初のニュースだった。


昨夜あった襲撃は、驚くべきことにモロッコのニュースにはどこにも掲載されなかった。


何か政治的な理由があるのだろうが、他国の事情。ジオはそこまで気にしたくなかった。


マダム・ランベールは見事に約束を守った。


無事に二本足で立ち上がったジョン・ギルガオンは、朝食にバターと蜂蜜を塗ったパンを5切れも食べた。急に食欲がわいてきたと言いながら。


日差しを浴びてマラケシュのオレンジの木々が輝いていた。そしてその庭でトリオと食事をしていたところ、マダムは一通の手紙を受け取る。


名前もなく密かに届けられた手紙の表面には、真珠の絵のシーリングワックスが押されていた。


手紙を読むランベールの目元に、じわじわと涙がにじみ出てきた。


何が書いてあるのかは分からなかった。


しかし、読み終えた彼女の顔が満ち足りて幸せそうに見えたので、3人も満足した。取引だったが、なぜかやりがいのあることをしたような気分。


ジオがぶつぶつ言った。


「そんなにいいなら取りやめればいいのに、何が延期だ、延期?相変わらずポンコツだな。」


ノーメイクのすっぴんでランベールが笑った。


「一国のトップなのに、どうして思い通りに生きられるでしょう?」


「同じ王でも、自由な魔術師王のあなたとは違ってね。」


ブフッ!横でファン・ホンが飲んでいた牛乳を吹き出した。むせたのか、ゴホゴホと咳き込みながら胸を叩いている。


食事中も(周りの奴らのせいで)しぶしぶ薄いベールを被っていたジオが、気まずそうにジョン・ギルガオンを見つめた。


驚いているのは同じジョン・ギルガオンも同じで、咳払いをする。


マダム・ランベールが優しく微笑んだ。


「そんな風に見なくてもいいんですよ。私一人で考えていて気づいたことですから。天下の「アルファ」にぞんざいな口をきく人は多くないのに、むしろ私が気づくのが遅すぎた感がありますね。」


「マダム。」


「心配しないで、ムッシュ・チョン。恩を忘れないと言ったじゃないですか。口外しませんよ。そして……「取引」相手がジョン・ギルガオンあなただということも忘れませんよ。」


意味深なマダムのニュアンス。


個人的な感情問題で乱れただけで、やはりビジネス的にも政治的にも感覚が並外れた女性だった。


ジョン・ギルガオンが満足そうな笑顔でコーヒーカップを持ち上げた。


ジオはベールを下ろしながら背もたれに寄りかかった。


「二人がどんなビジネスをしようが、ノー関心です。」


こちらの正体を知られたのなら、むしろ都合が良くなったこと。


ヨイジュとグミのチーム員たちを治療するためには、マダムが必要だから。


ジョン・ギルガオンが業報をはじめとする呪いの大部分を引き受けたとはいえ、呪い自体が消えたわけではなかった。彼らもやはりまだ良くない状態で、ジオが来るのを今か今かと待ちわびているところだった。


「とにかく半分こにしたお前も出発の準……」




トントン。


「はい?」


「……いや。」


ジオの言葉が途切れた。


テーブルの下、つま先をそっと触れてきた隣の席の動き。


コーヒーを飲むふりをしてジオがチラッと見ると、ジョン・ギルガオンが片目をウインクする。彼は平然とサングラスを手に取り、話題を変えた。


「お腹もいっぱいになったことだし、そろそろ立ちましょうか?フライト時間もありますから。マダム、私たちの締めくくりは書面で続けていくことにしましょう。」


「ええ、ええ。ありがとうございました、皆さん。」


「何か企みがあるのか?」


腑に落ちない中、マダムが優雅に挨拶を交わす。握手とともに用意してきたカードを差し出した。



「お会いできて光栄でした、「ジョー」。世界のどこへ行かれようと、必要でしたらいつでもこのカードとともにピンタダを訪ねてください。喜んでお手伝いさせていただきます。」


「ああ、そう。」


ジオはマダムの挨拶を受けるか受けないかのうちに立ち上がった。視界の片隅、今しがた表示された1番チャンネルのチャット通知が点滅していた。




I 4 | アルファ:ミッション完了。


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