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239話

いとも簡単に警備の視界から消え、月明かりの塀をひょいと飛び越える二つの人影。そのまま塀と屋根の上を、素早く駆け抜けていく。


【特性、『キャットパルクール』が発動します。】


ヒュッ、ヒュイッ!


屋根から屋根へ。軽い足取りが虚空を飛び越えた。夜風を切る音が愉快だ。


ジオは軽く笑った。


「魔力遮断したらどうするんだって」


悪いけど、最強主人公なら夜の王宮くらい、目を瞑ってても走れるんだよ。塀なんて元々、突破するためにあるようなもんだし。でも……。




数分後。


「チーム選んだ奴、今すぐ出てこい……」


「こ、ここか?変だな。また噴水が出てきたりして。金が有り余ってんのか?コピペみたいに同じものを何個も置いて、一体何なんだ」


「こいつに地図を書き取らせた私がバカだった……」


いや、そもそもこの豆腐野郎をラインナップに入れた、ジョン・ギルガオンの原罪じゃないか?


ジオは遠い目をしていた。


マダム・ランベールが王宮の構造を説明するとき、面倒くさくて豆腐野郎に丸投げしただけだったのに。


結果的に、とんでもない失策だった。


「おい。同じところを回ってるから、同じものが出てくるんだろ。死にてえか?方向音痴なら先に言っておくべきだっただろ……」


「う、うっ!痛い!痛いって!」


タップダンスでも踊るかのように、ファン・ホンの足の甲をワシャワシャと容赦なく踏みつけるジオ。ファン・ホンは声を殺して悲鳴を上げた。


「同じところを回ってるのに道に迷うのは、お互い様だろ!お前も俺もどんぐりの背比べだ!」


「こ、この豆腐シェイクみたいな奴が、ムカつくけど正論を……」


そうだった。方向音痴はこちらも同じだった。




【聖位、『運命を読む者』様が、いや、そこでまた角を曲がるなと、血圧が上がってやってられないと、寝転びます。】


よっぽどのことなのか、熱狂的なファンですらお手上げ状態。魔力なしでは何もできないキングジオ、お前ってやつは……。


これまで呼吸をするように、ナビゲーション魔法とコンパス魔法、そして魔力スキャンを連発していたことを、すっかり忘れていたせいだった。


ずらりと並んだ柱に沿って広がる長い廊下。見ていると気が遠くなるような光景だ。


「他人の家を迷路みたいにぶっ壊すわけにもいかないし……」


「ふむ。ダメだ。別れるぞ」


「付き合ってもないのに、何を別れるんだよ?あ、痛い!悪かった!」


ジオは手の中のピンク色の髪の毛(出所:ポンコツファン・ホン)をフーッと吹きながら顎でしゃくった。足りない者同士が集まると、さらに足りなくなるものだ。いっそ別れて探す方が効率的だ。


「私はこっち。お前はそっち。オッケー?」


「オッケー……。あ、見つけたらどうするんだ。目立たないように連絡する方法はあるか?魔力も使わずに」


「……ランチャット?」


「気が狂ったか!俺の鹿茸息子に、どんな危害を加えられるかわかったもんじゃない。姉貴と海外にいるのを知ったら、あの狂った奴が黙ってないぞ」


「知るかよ、そんなこと。お前は何か方法があるのか?」


「うーん……ちょっと待て」


じっと考え込んでいたファン・ホンが、小さく何かを呟いた。そして簡単な手印を結ぶ指。


ファン・ホンの足元の影が揺れた。そして分離して出てきた一部が、ジオの方へと染み込んでいった。


「俺の影の破片だけど、ちょっとお前に預けておく。意思伝達くらいはできるから、何かあったら知らせてくれ。いいか?」


ほう、ジオは一度動いてみた。影はすぐに後を追って動く。


止まると嬉しそうに手を振ってくるのだが、まるで影が自ら意志を持って行動しているかのようだった。


「これ面白いな」


さすがファン・ホン野郎の影ってことか。ジオはわかったと頷いた。


【[……うっ!]】


よろめく。うめき声と共に体勢を崩す警備兵。キョン・ジオは念動力を利用して、倒れる彼らを音もなく床に寝かせた。


「このくらいの量なら大丈夫か」


魔力警報が鳴らない程度に使わなければならない今、ギリギリでセキュリティレーザーの間を通り抜ける泥棒にでもなった気分だった。


カチャ。ジオの体がしなやかにドアの隙間から入っていく。そして。


「チッ、またハズレか」


今回も当選。


個人書斎?誰かが執務をする空間のようだった。


ジオは露骨にがっかりした様子で、内部を見回した。


紙の匂い、外国語で書かれた本で埋め尽くされた本棚、そして書類の山が山積みにされた机……ふむ。


「王宮の地図みたいなものはないかな?」


何か収穫はないかと、近づいていった。


ふかふかに見える革の椅子にどっかりと座り、ジオは適当に書類の山をひっくり返した。


どれどれ。これも違う、あれも違う……。


【聖位、『運命を読む者』様が、あっちの下にある黄色い紙が、建築平面図みたいだと教えてくれます。】


「グッジョブ」


やっぱり何かあると思ったんだ。


ルンルン気分で手に取ると、平面図文書のすぐ隣に。




【TOP SECRET】


……あらまあ、何かしら?この、めちゃくちゃ面白そうな匂いがプンプンする文書は?


いくら外国語が読めないからって、トップシークレットくらいは読める。


ジオの手がそっとファイルの方へと伸びた。ちょっとだけ見てみようかな?



パラパラ、パラパラ。


そして降り注ぐ英語の饗宴。


勘弁してくれ、外国の奴ら。強烈なめまいを感じながら、ジオはポケットを探った。カ、カカオ翻訳機はどこだ……?


しかし。


写真には特に翻訳は必要ない。何気なく次のページをめくったジオが、眉をピクッと上げた。


「……何だ?」


【あなたの聖約星、『運命を読む者』様が、ちなみに文書のタイトルは『解放団団員「トリックスター」関連情報及び分析報告』だと教えてくれます。】


「トリックスター」


どこか見覚えのある顔のプロフィールだった。


殺した奴らをいちいち覚えている趣味はないが、つい最近のことじゃないか?アラブ系だということも、見てわかっていたが。


「モロッコ出身だったのか。ふうん」


国籍欄に記載された国名は、確かにモロッコ。


「ゴミにも国籍があったとは、驚きだな」


冷たい皮肉を込めた目で、情報をざっと読み進めていくと。


• Date of death: 02/11/2004


「……?」


ジオは改めて文字を確認した。


しかし、そうしたからといって変わるわけではない。表示された死亡年度は2004年。


「……もう20年近く前じゃないか」


こいつ……私が今年の4月に殺した、あの男に間違いないのに。


単純な死亡日の操作かと思ったが、次のページで覆される。


葬儀の写真から死亡確認書まで。情報を調べた側もかなり戸惑ったのか、様々な証拠がびっしりと並んでいた。


「リッチだったと?いや。違うな」


アンデッド化していたら、この魔法使い王が見抜けないはずがない。トリックスターは魔法使いではない。2004年に死んだ人間であることも確かだった。


一体何なんだ?キョン・ジオの眼差しが、深く沈んだその時。


【聖位、『運命を読む者』様が、うちの可愛い子のことを考えている最中に申し訳ないけど、それでも周りはちょっと見ておいた方がいいんじゃないかと、それとなく勧めてきます。】


「ん?」


これはまたどういうことだ。考えながら顔を向けると見えるのは……ガソリンスタンドの風船人形のように、大きくバタバタと暴れている影。


「え、え?」


どうか私を見てくれと、その身もだえが痛ましい。


ついにあの方が私を見てくださった!影は万歳!ポーズを取ると、両腕を上げて矢印を作った。ああ。


「ファン・ホンが見つけたってことか?」


そうです。コクリコクリ。


「いや、だったら早く言えよ」


悔しいです。胸をバンバン。


キングの図々しい叱責に傷ついたふりをする影。そうしながら、早く行こうと急かす。


ったく。


ジオはぶつぶつ言いながら書類を閉じた。


「こんなにすぐに見つけるなら、一緒にいる時に見つければいいのに。相変わらず気に入らない豆腐……」




ピーイイイイ!大変だ、大変だー!


襲撃だ、暗殺者だ!


緊急事態だ!殿下をお守りしろ!!


ドアの外から聞こえてきた音だった。


急いで集団で駆け寄ってくる複数の足音と悲鳴、そして鐘の音。


立ち上がったジオは、ぼうぜんと見つめていた。


「ゆ、ファン・ホン、お前ってやつは……」


お前のヘイト力に、私はもう意識を失ってしまいました……。


ファン・ホンは悔しかった。本当に。


なぜなら警備兵たちが叫んだ暗殺者は、彼ではなかったからだ!





ついに発見した国王の寝室。


金箔で華やかなドアのビジュアルが、紛れもなくそれだ。敵が多いというだけあって、真夜中なのに警備が厳重だった。


うむ、一人では無理だろう。力を使えばまた別だが、力を隠しているモードでは、静かに事は運べそうにない。


ファン・ホンは影を使ってキングジオを呼び出し、おとなしく待っていた。


ハハッ、褒められるだろうな?今回こそは、点数を稼いでみせるぞ。


その時、突然忍者が現れた……。


え……。


ん?いや、ええ?ええええ?!


「こ、これは一体どういう状況なんだ!!」


ぎゃあああ。ファン・ホンは声にならない驚愕を飲み込んだ。


「警備兵!」


ムスタイン国王の切羽詰まった叫びと共に、大きく開かれたドア。


チャリーン!ドアの前を守っていた警備兵たちが、剣を抜いて駆け出した。


【[殿下!]】


【[襲撃だ!殿下をお守りしろ!]】





ピーイイイイ!


鋭いホイッスルの音に、王宮が目を覚ます。


瞬く間に緊迫した状況へと変わっていく。そして戦闘。


黒い服で顔を隠した暗殺者たちもまた、覚醒者だった。数は30人ほど。決して少なくはない。


ザアッ!ファン・ホンは自分の近くに飛んできて突き刺さった手裏剣を見つめた。


冗談ではなく本当に忍者、またはアサシン。全員、要人暗殺に特化した戦闘系の覚醒者たちだった。


そして戦闘系の中でも、彼らのように隠密浸透型の覚醒者たちは、『夜』のフィールドバフを受ける。


月が出ると、敏捷を含む攻撃力ステータスが大幅に上昇する。


「不利だな」


反乱軍側なのか、王位簒奪なのか、敵側が本気で乗り込んできたのは明らかだった。その上……。




「ミスター豆腐、処理して」


「イエッサー、キング」


「け、警備兵たちはほとんど、俺たちがさっき気絶させたんじゃないか?」


ワールドクラスの二人のランカーの(本意ではない)幻想的なサポートまで。


マジで終わった……。どうすればいいんだ?


とんだことで、モロッコクーデターの有力容疑者1になりそうな韓国人ランカーは、冷や汗をダラダラと流した。


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