237話
相手の隅々まで確認可能な距離。ジオも彼女を観察し、そして発見した。
首にかけられたアンティーク風のハサミ型のネックレス。指の関節ほどの小さなサイズだが、あれは 明らかに、 実使用が可能なハサミだ。
「ウェンディの裁断バサミ」
感じられるオーラが、一目見ただけで伝説級以上。
ムズナの話は本当だった。
ジオは気だるそうに呟いた。
「マジか。」
「何のことですか?」
マダムが聞き返したが、そちらに言ったのではない。
信号を受け取ったジョン・ギルガオンが頷いた。王の確認も終わった。攻略を進める番だ。
「マダム、実は……」
「いいえ、まずは私から。大体の助け が必要なのはわかるけど、ジゼルと私は違うの。ボランティアする趣味はないから。答えから聞きましょう。」
少し不快そうに彼の言葉を遮り、マダムが尋ねた。
「謎の答えが『真珠』だという事実、どうして知ったの?誰から聞いたの。」
どこか焦っている顔だった。少し切羽詰まっているようにも。
しかし、どうだろう?マダム・ランベールが探すその「誰か」がこちらと関係があるはずがなかった。
ヒントをくれたのはお星様。そして、運悪く能力のある聖位は完全にキョン・ジオのものだったから。
ジオは気だるそうに答えた。
「ヨーロッパの人には人魚の涙が真珠だという話が馴染みがないかもしれないけど、東洋ではありふれた素材だよ。有名な人魚伝説の一つだ。」
「あなた、人魚の混血でしょ?」
マダムの緑眼が動揺を隠せずに揺れた。
ヒントのうち「近くにいる」という言葉が決定的だった。ホールで目だけ上げれば見える位置、メインホールの巨大な天井は真珠貝の形に彫刻されていたから。
「東洋圏の伝説だから、ここの人たちはよく知らないはずだ。」
しかし、こちらは東洋人。
しかも全知の書庫。各種伝説と神話を引き出して武器にする方なので、こういうことにはかなり詳しい。
「……そうでしたか、有名な伝説だったのね……。[私はその人に初めて聞いて、私たちだけの物語だと思っていたのに。] 」
「あなたが泣くとまるで真珠をこぼすようだ。だから私がとんでもない罪人になった気分になる。」
今は色あせた思い出。
苦々しく呟いたマダム・ランベールが顔を上げた。真珠のような涙が浮かんだ瞳で。
「それは誰かに送る、二人だけの暗号だったの。答えを当てた皆さんを見て、もしかしてその人が送ったのかと、期待したんだけど……。全部私の勘違いだったのね。」
最後の期待まで打ち砕かれた。
マダム・ランベールが乱れた感情を落ち着かせ、立ち上がった。きっぱりと言う。
「もう帰ってくれませんか?これ以上会話は無理そうね。私が人魚の混血だという秘密は守ってほしいわ。どうせ言ってみても人々は信じないでしょうけど。」
「失礼ですが、マダム。もしかして待っている『その人』はムスタイン国王ですか?」
ジョン・ギルガオンの先制攻撃。
ほほう、ジオは興味津々に二人を見つめた。
いきなりぶっ込んだ直球に、マダム・ランベールが唇をきゅっと噛み締める。
「……口を慎みなさい。」
「慎んでいたら、私が今死んでしまうので。利用できるものは全部利用しないと……取引をしましょう。」
呼吸を整えたジョン・ギルガオンが、顔を覆っていた布を下ろした。
照明を受けて現れる、暗褐色の髪。有名なランカーの顔。
マダム・ランベールがびっくりして息を呑んだ。
「 [アルファ……?!] 」
どうか余裕に見えないと。流れ落ちる顎の冷や汗を拭いながら、ジョン・ギルガオンがにやりと笑った。
「二日後にある、ムスタイン国王の国婚を阻止したいんじゃないですか?阻止して差し上げます。」
ジョン・ギルガオンは考えた。
昔の恋人が結婚するというのに、喜んでいられる人はいない。ましてやマダム・ランベールを見ろ。まだ未練を断ち切れていないように見えないか?
これは、かなり有効な手になる。
確信したジョン・ギルガオンが自信満々な笑みを浮かべた。
しかし。
「いいえ、ムッシュ・ジョン。違うわ。」
「え?、、、、、」
「私は待っていたのよ。未練とか、希望とかね。でも、ここまでなら……。」
マダム・ランベールがぼんやりと笑った。
「受け入れなければならないわ。それが正しいの。別れを受け入れることもまた、恋人として私が相手に見せるべき愛の一部だから。」
「賢くて素敵なあなただけど、恋人の愛についてはよく知らないのね。」
無邪気な眼差しを持った彼女だったが、その瞬間だけはここの誰よりも成熟して見えた。
あんな女、嫌いじゃない。
斜めに顎を突き出しながら、ジオは習慣的に同意を求めた。
「そうだよね、お星さま?」
[…….]
しかし、返事のないお星様。
何だ?ジオがそっと眉をひそめるが、そうしている場合ではなかった。
マダム・ランベールが部屋を出ようとしていた。
ちくしょう、マジか。
ジョン・ギルガオンが慌てて立ち上がり、彼女を掴んだ。
「……認めます。私が焦っていました。マダムの言う通りかもしれません。恋人……に関しては、私がとてもめちゃくちゃなので。」
ジョン・ギルガオンの顔が崩れた。
「ダメだ。考えないで。」
こんな瞬間に死んでしまった昔の婚約者を思い出してはいけない。
気を確かに持て。
彼が再び歯を食いしばった。
「しかし、それだけ今マダムの助けが切実に必要なんです。」
「……ちょっと。そうは言っても、私も人間だから時間が必要なのよ。一人で自分の感情を整理する時間が![一体私にどうしろっていうの!] 」
荒々しく髪をかき上げるマダム・ランベール。話しているうちにむっとしてきたのか、神経質に鬱憤をぶちまける。
「誰かを助ける余裕なんてないわ!こっちもめちゃくちゃなのに。愛した男は結婚すると言うし、証として受け取った物は盗まれて消えてなくなるし!もう思い出すらない![私が何のために友達も、祖国も捨ててここで金を稼いでいると思ってるの!] 」
「何だ、外国語が上手いからって調子に乗って。」
「何をそんなに混ぜて話すんだ?半分しかわからないじゃないか。」
外国語音痴の二人のS級が気まずそうに見つめる中。
途中でヒントをキャッチした顔で、ジョン・ギルガオンががっつりと餌に食いついた。
「盗まれたんですか?もしかしてその証という物を見つけて差し上げたら、それで取引する気はありませんか?」
「……ムッシュ・ジョン。あなたは本当にビジネスマンなのね。」
「急いでいると何度も言いました、マダム。私の目に今、死神が見え始めたんですよ。」
ランベールの興奮が収まった。
言葉はきつく吐き捨てたものの、彼女もまた「聖女」ジゼルを助け、長年救命活動をしてきた覚醒者。
自分を掴んだ手袋の上、黒く変色した彼の腕を見下ろす眼差しが、次第に和らいだ。
マダムが唇を噛み締めた。
「……わかったわ。手伝うわ。本当に命が危ないように見えるから。」
「一方的に助けだけを受けるつもりはありません。どんな物なのか説明していただければ、私の仲間たちが探してくるでしょう。」
「え、私がですか?」
「俺たちが?」
もう死んでしまおうか、こいつら?
ジョン・ギルガオンが歯を食いしばった笑顔で振り返ると、いつそうだったのかというように、すぐに頷くS級たち。
「おお、もちろんだとも!探してくるさ。この分野ではまたこのキング……キ、キンガお手の物だからな!」
「ま、釜山じゃ俺のあだ名が根こそぎだったからな。全部さらって、失くした物を全部見つけ出すって。」
その努力はなかなか立派だが。
マダムはため息とともに言った。
「いいのよ。かなり高価な物だから、すでにマラケシュをとうに離れていてもおかしくないわ。ダイヤモンドで囲んだ真珠のイヤリングなんだけど……」
「う、うう……?」
どこかで見たような描写だな?
ファン・ホンの背中にじわじわと冷や汗が流れ始めた。
そして未練はないという言葉とは裏腹に、かなり詳細に描写に入るマダム・ランベール。
「このくらいの水滴型のダイヤモンド五つが花びらのように真珠を包んでいるイヤリング一対なの。でも本当にいいのよ。見つけるのは難しいだろうから、ふう……」
カタカタ、ガタガタ。
ティーカップを持って震えるファン・ホンを、ジオがうんざりして振り返った。何だ、こいつは。
「一人でマッサージチェアに座ってるのか?どうしたんだ。」
「あ、違うんだ。そうじゃなくて……」
「それをどこで見つけるっていうの?考えると本当に死んでしまいたい気分だけど、……」
負けた。アジュンマ、負けました。
ファン・ホンが涙を浮かべて勢いよく立ち上がった。目をぎゅっと瞑って叫ぶ。
「そ、その物!俺が持ってるみたいだ!」
「、、、、、、え?」
ちくしょう、渾身のプレゼントだったのに。このガキにマジでぴったりなのに……。
ファン・ホンが未練を捨てきれずに、しくしくとジオを振り返ったが。
「何だよ、このヤクザ野郎、今度は他人の国に来て泥棒まで。こいつはマジでダメだな?夜食王はクソ、刑務所飯王に変えろ、もう。」
「悪いガキ……青酸カリみたいなガキ……」
男、ファン・ホン。今日も片思いの相手に点数を稼ぐことに惨めに失敗。




