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236話

冷たい。


ため息と嘆息だけが降り積もる静寂。


韓日戦に敗れて帰国した運動選手たちの気持ちはこんな感じだろうか……?


ランキング1位、途中離脱聴聞会。椅子に着席したキョン・ジオがおとなしく両手を膝の上に重ねた。


「はあ、マジか。ありえないだろ? あきれてものが言えねえ」


「お前は黙ってろ」


「そうだな」


無駄に口を挟もうとしたファン・ホンが再びしぼんだ。


ジオは腕組みをしたジョン・ギルガオンの方へおとなしく目を向けた。


「ジオはとても悔しいジオ」


「……何が悔しいんです? 町のサッカー大会でメッシが脱落したようなこの状況に? まあ、うちの1位様、釈明でも聞いてみようか」


「もともとこういうチーム戦は3人で行けば1人が負けてこそストーリーが進むもので、不幸にも私が当選しただけのこと。主人公だから」


「もういいから」


私はジャンル物のクリシェの哀れな犠牲者だと言い張り、強硬な態度を固守する鉄面皮の主人公。


急激に疲れたジョン・ギルガオンが頬をなでた。


「ふう、こっちの状況がどうなるか分からないから、なるべく3人で一緒に行動しろって言っただろ」


「もういいって、過ぎたことだ。こうなったからには、もう正体ばらしてぶつかろうぜ。どうせ2人は入るんだから、あいつが言えばいいんだろ。おい、マダム。俺たちこういう者たちだけど、頼みがあるんだ!」


「静かにしてください」


「オッケー!」


パン! 手のひらでテーブルを叩いたファン・ホンがぶつぶつ言った。心配だな、マジで。


「ジョン・ギルガオン、お前の今の顔、マジでヤバいぞ。鏡見たか? マジで今にも死にそうだって」


「ダメだってば」


「なんで?」


「こちらの対外的な位置を利用して取引をすれば、聞き入れてくれる相手もこちらを利用することになるんだ」


取引の基本法則だ。


ジョン・ギルガオンは顎を突いたジオの方を一度見た。そして食べていたアイスクリームのスプーンをこれ見よがしに持ち上げる。


「例えば、俺たちがマダムから得ようとしているのが、たったこのスプーン一杯程度だとしたら、すべてをさらけ出して行った時、マダムが俺たちから得ていく量は」


スッ、と前に出すアイスクリームの容器。


「これくらいになるかもしれないってことだ。いや、それ以上か?」


「誰が何と言おうと、ここにいるこの方は世界一の権力者であり……この惑星のどこであろうと、最も強力な影響力を行使する大物であらせられるからな」


ジョン・ギルガオンが長い足を組みながら、皮肉っぽく笑った。


「俺が死ぬことがあっても、そんな損をする取引はできない。プライドがあるからな」


「マジか……そういうことか」


とにかくビジネスは頭が痛いと言いながら、ファン・ホンが首を横に振る。


ジョン・ギルガオンが付け加えた。


「もちろん、マダムに頼むには、おそらく必然的に身元を明かさなければならないだろうけど……それは俺まで。S級の2人は秘密にしておこう」


同意を求める目つき。


じっと見ていたジオがスプーンを下ろした。ふむ、取引か……。


「こいつ、何かあるな?」


嫌な臭いまではしないが、明らかに隠していることがある。何か、もっと大きな絵を描いているようだ。


「バカな豆腐は騙せても、この勘MAXのキング・ジオは騙せないぞ、このおっさん」


こういう単純なバカどもは楽だな。


頭の良い奴らは面倒くさい。瀕死の状態でも計算機を叩いているあの毒気に満ちた韓国人を見ろ。


急にチェ・ダビデとハ・ヤンセが見たくなったキング・ジオが、ぽつりと吐き出した。


「こんな砂漠の国に何があるってんだ。何をしようと構わないけど、面倒くさくならないようにだけしてくれ」


「……ハハ。もちろんです」


「だから、勘のいい奴は……」


暴君とアルファ。


知力MAXの2人のランカーが意味深な眼差しを交わそうが、どうでもいい。


単純であればすべてが楽だという真理の下、顔にもシワ一つない2人の豆腐屋のヤクザが、のんきに顎を掻いていた。


「何言ってんだ。分かったから、早くこの謎を解こうぜ。にゃくざ様がこれを当ててこそ、ジョン理事の言う通り、3人でスムーズに入れるんだってよ」



トントン。滑らかな指で触れる長方形のカード。


現在時刻9時52分。ラストゲーム、マダム・ランベールの謎が終了する時間は10時。


その時間内に、中央ホールのボックスの中に正解が書かれたカードを入れなければならない。


ボックスに入れると、カードの答案をスキャンしたホログラムが正答の有無を判定してくれる仕組みだったが、幸い、正解者はまだ出ていない状態だった。


寄り集まって頭を突き合わせ、熱心にカードを見つめるモロッコ遠征トリオ。




[Q. 涙を意味する単語。あなたの近くにあります。]


「ふうむ……?」


ジオが首をかしげた。何言ってんだ……。


深刻そうに見つめていたのもつかの間、すぐにジオは真剣に頷いた。分かった。


「マダム、この女、文系だな。感性が一目で文系っぽい。どうせスマホもアイフォン使ってるはず。100%」


「文系をバカにするなよ? 文系だからって皆がそうだとは限らないんだぞ。それ差別発言ですよ」


「お前は何のスマホ使ってるんですか?」


……ア イフォン。


生涯ひたすら文系の道だけを歩んできたミスター・ジョンが沈没した。


チッ、情けない文系野郎。横で舌打ちをしたファン・ホンが堂々と言う。


「俺は体育大卒だ。体、育」


「マジか。大学も行ったの?」


傷だらけの会話を残して。


時間はもう9時57分。


後には引けない。3人はとりあえずホールのボックスの前に立った。


「あと3分か。近くに、近くにある……」


ジョン・ギルガオンが焦って口元をいじった。


「ロウソクのロウ! ロウソクのロウじゃないか? あそこからダラダラ垂れてるじゃん! ロウソクの涙! マジか、これだ!」


ファン・ホンが大騒ぎした。




ジオはのんびりと答えを書きなぐった。


……ちょっと、何してるんだ?


ハッと我に返ったジョン・ギルガオンが慌てて手を伸ばした。


「ちょ、ちょっと待って! チャンスは一度……!」




トク!


「だけなのに……」


ボックスの中にすっぽり落下したカード。


そしてそれと共に、むなしく消え去ったチャンス。


2人の男が茫然とした顔でジオを振り返った。




「何見てんだ?」


「……いや、少なくとも相談はしろよ!」


「ロウソクのロウとか言ってるのに、何の相談だ」


骨に響く打撃感に、うっ、と脇腹を押さえるファン・ホンと、すぐに納得したジョン・ギルガオン。


それでも釈然としない表情の2人に、ジオが舌打ちをした。


チッ、あいつらまだまだだな。




正答スキャンを終え、ボックスの上で光り始めた魔力ホログラム。


[正答を判定中です。3秒、2秒……]


「キング・ジオ曰く、キングがすることに、よくも疑うな」





[正解(You Won)!]


そしてバーン!


鳴り響くファンファーレ。


[おめでとうございます! マダム・ランベールの謎、優勝者が誕生しました!]


[あなたの聖約星、『運命を読む者』様が、この程度は朝飯前だとばかりに、これ見よがしに得意げになっています。]


全能なる星様の全知なるその化身。


ジオはいたずらっぽい顔で、ぼうぜんと立ち尽くす2人の男を振り返った。そして特有の余裕を込めて、にやりと笑ってみせる。



「覚えとけ。キョン・ジオ法1条1項」



トック、トック。


高いヒールの音が大理石に響く。歩くたびにドレスの裾が優雅に波打った。


ピンタダオークションハウスの5階。


マダム・ランベールは中に入るなり、尋ねた。


「 [どうやって当てたんです? 知らない人に当てさせようと思って出した問題ではないのに。] 」


常緑色の瞳が、30代半ばの円熟した貴婦人だとは思えないほど、無邪気に輝いた。


「何言ってんだ……」


「[正解者が内定していた謎だったとは、それでは、うちの連中が不正を防いだということですね、マダム。] 」


「こいつまた何言ってんだ……」


[星位、『運命を読む者』様が、うちのベイビーの早期教育は大失敗だったと、竹林に叫んでいます。]


「コラコラ、泣くな」


グレート・キング・ジオが治める大韓最強帝国時代に、外国語をなぜ学ぶ必要がある? 困るのはあいつらだから、あいつらが学べばいいんだ。


途方もない厚かましさだったが、驚くべきことに事実。その証拠に、マダム・ランベールが再び口を開いた。


「韓国人でしたか? フランス語の実力が驚くほどですが、楽にしてください。特に不正ではありませんでした。『彼』はどうせ来なかったでしょうから」


ジョン・ギルガオンのフランス語に劣らず流暢な韓国語で。


ふむ、基本ができている人だな。


ジオは慣れたようにどさりとソファにもたれかかり、姿勢を崩したが、ファン・ホンの方はそうではなかった。パタパタと慌てふためき、いきなり指をさす。


「な、何だ! 隠しカメラじゃないのか?」


マダム・ランベールがわずかに眉をひそめた。目の前の書類を取り、身上を確認する。


「失礼ですね。ムッシュ……ファン? ファン・ホンとは、珍しい名前ですね。別に驚くことはありません。韓国は、私が以前仕えていた上級者であり、親友でもある方が憧憬する国でしたから」


ジゼル・ジュヌイの話だな。ジョン・ギルガオンが笑いながら受け止めた。


「聖女様が我が国を良く思ってくださるとは。嬉しいお話ですね」


「まあ、韓国ならこんなことにはならなかっただろう、という言葉を口癖のように言う方でしたから……」


遠い思い出をたどっていたマダム・ランベールが姿勢を正した。


それよりも。


「体調があまり良くないので、今月の採用面接は見送ろうと思っていたのですが。そちらの3人全員が、商品の受け取りを拒否したそうですね?」


迷路ゲームの優勝者1人を除いた全員の拒否。


マダム・ランベールが考えを変えて、席に出向いた理由だった。純粋に気になって。


「英雄級アイテムなら、本人の適性タイトルと合わなくても、それなりの金儲けにはなったはずですが。それなのに」


彼女が一行をじろりと見回す。


サンゴ色のルージュを塗った唇がつり上がった。マダムの緑色の瞳は、今やジョン・ギルガオンの方を向いていた。正確には、腕の方を。


「来てみて分かりました。欲しいものが別にある訪問者たちだったのですね」


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