235話
すぐ近くに触れ合う体。
ドキドキ。
相手の脈拍が大きく響いた。
むっとする砂の匂いに紛れているが、認知と同時にペク・ドヒョン特有のさっぱりした香りがはっきりと伝わってくる。
「すぐに分かりますね」
聞き慣れた柔らかい中低音。
霧の中で異邦人がスッと口元の布を少し下げた。
あまりにも筋が通っていて距離感さえ感じられるが、キョン・ジオに触れると大人しくなる顔。
本当に回帰者、ペク・ドヒョンだった。
ほぼ半月ぶりに会う。
「お前……」
「……ジオさん」
かすれた声で静かにジオを呼ぶと、じっと見つめる。
そして自分の方に伸びた彼女の手の甲をゆっくりと包んだ。頬を寄せながらペク・ドヒョンが囁いた。
「会いたかったです……」
「本当に」
キョン・ジオも言おうとした言葉を飲み込み、しばらく彼を見つめた。
潤んだ瞳。濡れた声。
ざらついた頬。
元々タコが多かった検事の手には、できて間もない傷がいっぱいだ。
ジオの表情が渋くなった。
「これ何……本意ではなく家出してゴロゴロ転がった犬みたいな姿をして……」
誰が見ても苦労した姿を見ると、むかつくこともできない。
ジオは神経質そうに唸るペク・ドヒョンの頬を軽く押しのけた。
「何をするつもりなの?会いたければ普通に会えばいいじゃない。誰が勝手に消えろって言った?どこで生意気に事情のある元カレの真似事をしてるの?」
もちろん考えと行動がいつも同じだとは言っていない。
「ジ、ジオさん!痛いですう……。そして元カレだなんて、ジオさん、モテないくせに……」
「黙れ。さりげなく抱きつくな」
「嫌ならまた殴ればいいじゃないですか」
「あんた、そんな趣味だったの?これゴミね」
容赦なく降り注ぐ、言葉を聞いていると、ようやく現実感が湧いてくる。
ジオをぎゅっと抱きしめたペク・ドヒョンの肩が笑いをこらえて震えた。
「一体なぜここにモロッコまでいらっしゃるんですか……」
「まあ、そうなったの」
「そんなことばかりしていると、勘違いしますよ」
「どんな勘違い?」
「僕たちが運命だと」
地球の反対側でも結局出会ってしまう、どうにかして絡まってしまう運命だと、そんな途方もなくロマンチックな勘違いをしてしまう。
濃い霧の中で、ジオの顔がよく見えなかった。
だからできる言葉と、またそうだから触れることができる手だった。
柔らかい頬をそっと触れてみた指先が、未練を残して離れた。
ペク・ドヒョンが目を伏せた。
「……連絡できなくて申し訳ありません。毎回申し訳ないということばかり言いますが、今回が最後になると思います」
そうなることを自分も誰よりも願っているし。
「小さな問題ができました。一人で解決しなければならない、急ぎの問題です。正直、僕もまだ何が何だかよく分からなくて自信がないですが……」
「やり遂げて帰ります。その時まで、あなたから僕の場所をなくさないでください」
……この生意気な回帰者め。
黙って聞いていたジオが軽く鼻で笑った。場所はクソ。
「そんなもの元々なかったけど?」
しかし、嘲笑う方も、される方も、それが事実ではないことを知っている。
ペク・ドヒョンが明るく笑った。
「どうしてですか。犬でも、執事でも、僕はなんでもいいんですが」
「私は嫌だ。このお兄さん、本当に変」
「……行きたくなくなるじゃないですか。あなた、今わざとそうしてるんでしょう」
「私が何を」
「それでも言葉だけでも、分かったとは言ってください。僕が安心できるように」
「うーるー」
「え?発音をちゃんとしてください……。そんなに適当に施しをするようにしないでくださいよ。施しも施しなりに、それはあまりにも誠意がないじゃないですか」
「うーるっふー」
「ジオ、お願い」
「分かったって!しつこいな」
[あなたの聖約星、『運命を読む者』様が二人がとてもふざけたことをしていると氷をガリガリ噛み砕いています。]
あ……チャチャ。
「か、急に氷をなぜ噛むの」
[さあ、世の中のすべてが嫌で、生きる意欲もなく、食欲もなく、ただこのまま死ぬしかないのかと聖約星が床に寝転がっています。]
ペク執事と久しぶりに漫談をするから、運命を読むキス・マスターが見守っているという事実をうっかり忘れていた。
悪いことはしていないが、なんとなく気が引けた株式長者がそっと離れた。
遅れて気づいた内気にペク・ドヒョンが綿菓子を失ったアライグマのように見つめる。
「コホン、その、行くなら早く消え失せろ。無駄に再会フラグを立てて点数を稼ごうとするな」
「ジ、ジオさん……!」
たった1分で冷湯と温湯を行き来するあなたという片思い相手。
しかし、こうしてみても未練が募るだけだということをペク・ドヒョンもよく知っていた。
酒場でジオの消息を聞いて理性を失い、すぐに駆けつけたが、やるべきことがあるのではないか。
去らなければならない。今この瞬間にもバベルがくれたクエストの秒針は忙しく回っているから。
霧の中に再び退く前に、ペク・ドヒョンが立ち止まった。ためらいながら口を開く。
「ご存知でしょう。僕、待っていてくれというようなことは言いませんでした」
「生意気にそんなこと望みもしないし……なくさないでくれと、ささやかなお願いだけしました。そして分かったと言ったし」
「もう確認するな。誰の言葉を疑うんだ?覆すことはしない」
安心だ。
ペク・ドヒョンがかすかに笑った。
去ろうとする人のその笑顔。
ジオはそっけなく見てから、ぽつりと吐き出した。回帰者さん。
「それでも賞味期限は必要でしょ。10月までだ。分かった?」
こちらが日付を決めて約束するスタイルではないということは、ペク・ドヒョンもよく知っているだろう。
ペク・ドヒョンの顔が真剣になった。
「何か突き止められたんですか?」
「あんたが経験した戦争はいつからだったっけ?そのアウターゲートだか何だか、エイリアンたちが押し寄せてきたの」
「あまり残っていません。世界律のせいで正確な日付は言えませんが、およそ2年後くらいに……
「そう?」
ジオはそっけなく言った。
「私が『見た』日付は今年だったけど」
「……え?」
ペク・ドヒョンがぎゅっと眉をひそめた。
当惑と衝撃。聞き間違えたのかという顔で彼がジオを見つめる。
今、何と……?
「……ありえません。早すぎます。いくら僕が回帰して時間線が変わったとしても、これは!どこでご覧になったんですか?」
「番人から」
「すごく気分が悪かった。当然現実は違うけど、あんたが私の代わりに攻撃を受けて死んでたよ?」
ペク・ドヒョンの言葉が途切れた。
代わりに目の前のキョン・ジオを見る。
いつも淡々とした顔。しかし。
同じように番人を経験した立場だ。
彼らが教えてくれる真実の方式がどれほど不快で暴力的なのか、彼は経験で知っていた。
だからジオが背負うことになった荷物の重さも、ぼんやりとペク・ドヒョンは分かった気がした。
「何があっても……」
だからできる言葉もまたこれだけだ。ペク・ドヒョンは誓った。
「賞味期限を過ぎることはありません。最善を尽くして帰ってきます」
「あなたの後ろ盾を守りに」
絶対にあなた一人にその荷物を背負わせない。
再び蘇った眼差し。
やっぱりペク・ドヒョンはあんなのが似合う。気が萎えて、背中を押されてさまようのではなく、確かな自分の意志を持って動く目。
清らかで高潔なその眼差し一つで天下の魔術師王を宣陵駅の前で釣り上げたのではないか?
「見えないところでうろうろするなよ、バカ」
ジオは傲慢に顎をしゃくった。それなら早く行け、もう。
「日付に遅れるなよ」
「はい」
「死にそうになったらチャットで座標を送って」
「はい!」
「またホームレスみたいな格好なら会わないから」
「あ、心外です。ジオさんに会いたくて髭剃りもシャワーもしてきたのに」
「してこなければよかったのに」
久しぶりに会った姿がひどければ、こちらも別れるのがそれほど惜しくなかっただろうに。ジオがふっと笑った。
ただの何でもない冗談にペク・ドヒョンが見つめ返して笑う。別れの挨拶でもするように唇を動かして……やめる。線を引かずに唇を
霧の中に消えていく回帰者。
キョン・ジオも未練なく振り返った。
「どこを見ようか。ふむ、10分くらい使ったかな……」
「この行儀の悪いネズミどもめ。その間に割り込みをして?愛犬の生死を確認する時間もくれないこんな殺伐とした社会だなんて」
仕方ない。この慈悲深いマンチキン様が自ら応懲してくれよう。
ドーン!ドカーン!
再び崩れ始めた迷路の壁。そして……。
「[ついにトロフィーが持ち主を見つけました!迷路ゲームの最終優勝者は!おめでとうございます、イタリアから来たマルコ!]」
「あ、私……クソ」
ゴーン、騒々しい機械音を立てて床に収納される迷路の壁。
消えていく迷路の向こうに、遠く壇上に上がって両手を振る優勝者と司会者が見えた。
こちらの挫折した一人を除いて、皆が楽しそうに見える和気あいあいとした風景。
「だ、騙された。トロフィーをホログラムにしておくとは……!」
やばい。誰が見ても私は敗者になった。この状況をその他大勢に何と説明すればいい?
モロッコの私設オークションであっけなく惨敗してしまったワールドランキング1位が、じっとりと冷や汗をかいた。
「ペク執事、ただじゃおかない……」
2階「パーティーパック」、東C区域。
種目:迷路脱出。
現在時刻午後9時36分。
参加番号111番キョン・ジオ、脱落!




