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229話

「ハッ!息をしろ!しっかりしろ!ほら、ここに氷!」


慌ててジオを抱きかかえ、テーブルに駆け寄ったファン・ホンが氷を掴んで、むやみに頬に擦り付けた。


つ、冷たっ! ぱっと我に返ったジオが腕をばたつかせる。


「死にたいか?わざとやっただろ?」


「暑そうだったから冷やしてやろうとしたんだよ。人の好意をそんなに無視するなよ」


「じゃあ、好意で私を氷像にして壊してもいいってこと?」


「お嬢さん、物騒だな、本当に。そういえば、氷を作れるなら魔法で暑さも調節すればいいじゃないか?」


「してるわよ。でも気分が暑いの」


「うわ、裏切りがすごいな。暑さじゃなくて、それ何?私は本当に暑いんだけど?」


ちっ。あいつら、そのうち恋仲になるんじゃないか。


いくらこっちがドラマ好きだといっても、忙しい現実では遠慮したい。


舌打ちしたジョン・ギルガオンが見ていた


タブレットを置いた。テーブルを手の甲でトントンと叩き、注目を集める。


「はい、やめ。喧嘩する体力があるなら、そろそろ集中しないか?いつまで暑い暑いって文句ばかり言ってるんだ、若い青春たちが」





モロッコ、マラケシュに到着して早13時間。


暑い、食べ物が口に合わない、宿がボロい、などなど……


片方は世界と祖国がおだてて育てたマンチキン、片方はヨットに乗ってミシュランの店ばかり探していた慶尚道の御曹司。



両側から二人揃って文句を言われるせいで、ジョン・ギルガオンはその短い間にどっと老け込んだ気分だった。


「そろそろ行き先の説明も聞いて、動く準備もしようか。うん?日程が結構タイトなんだから」


「ファン教授が行ったあの遺跡ダンジョンに行くんでしょ?」


ジョン・ギルガオンが即答した。


「まさか」


そう言いながら、見せつけるようにタブレットを


こちらに向ける手。


ジオとファン・ホンの視線がずっと追っていった。何の予約サイトの画面……?


[ダンジョン遺跡地『王家の墓』入場料案内]


「……何よ、この急な観光地ムードは?呪いとかありそうな雰囲気じゃないんだけど?」


ファン・ホンが呆れたように言った。


入場予約ボタンから、明るく笑って見物している観光客たちの写真が載った広告まで。完璧な観光地案内だった。


説明しろというジオの視線に、ジョン・ギルガオンが肩をすくめた。


「そんなに見るなよ。モンスターのリスポーンはしないだろうし、一般人も入場できる。観光で食ってる国が選ぶ選択肢は決まってるだろ?」


モロッコ政府の要請で行ってきたファン教授をはじめとする学者たちが帰国した時、すでに可能性はあった結果だった。政府の確認が終わったという意味だからな。


「それでも確認のため、お前ら二人がぐったりしてる間、私一人でちょっと行ってきたんだけど……」


「行ってきた?」


「木の枝とは一切関係なさそうだったぞ。やっぱり外部から流れ込んでいったものだ」


おかげで観光客に紛れてダンジョン見物でもたっぷりしてきたところだ。ジョン・ギルガオンが観光客のように見えるヤシの木柄の半袖シャツをパタパタさせた。


ジオが片方の眉をひそめた。


「やっぱり、って?」


「じゃあ、呪いの当事者は私なのに、今まで何の調査もしてないと思ったか?」


ジョン・ギルガオンが椅子にゆっくりと背を預けた。


「アイテムの情報は読めなくても、一緒に発掘された遺物リストくらいなら、私でも簡単に手に入る」


ざっと目を通した遺物リスト。


疑念はその時からあった。



いくら調べても、同じダンジョンから出た遺物とは脈絡が全く違ったから。そしてその疑念を確信に変えたのが、ジオの情報。



「汚染された『世界樹』の木の枝なんでしょ。少なくとも砂漠の遺跡から自然に出てくるようなものじゃない」


ふうん。ジオはつまらなそうに空のグラスを置いた。


結論は、全部予想範囲内だということ。


本当に頭の良い奴らは、必ずこうやってじらすんだから。全然可愛げがない。


「分かったから、自慢するのはやめて

目的地を早く言え。予想した結果なら、プランBも全部立ててあるんだろ」


「これはこれは……我が陛下、そんなに当然のように期待してくれると、こっちが面白くないんだけど」


それでもその期待が全く嫌ではない。全く困っていない顔でジョン・ギルガオンが応じた。


「不幸中の幸いか、遠くまで行く必要もなく、ここには全世界からあらゆる怪しいものが集まる巨大市場があるんだ」


「……ああ!」


ファン・ホンの方は、そこでやっとピンときた顔だ。


あの高い王座に一生座って、わざわざ地の下まで見下ろす必要のなかった我がキングはご存じないようだが。


ジョン・ギルガオンがにやりと笑った。


「マラケシュ・アンダー・スーク。別の言葉で言うと……地下の迷路市場。」


「世界最大の闇市場。追跡は、ここから始めてみよう」


無法者の都市、マラケシュ。


元々からこうではなかった。


ただ、バベル時代が開幕し、いくつかの国は新しいシステムを打ち出す代わりに、剣と盾の昔に戻ることを選んだ……ここモロッコもそのうちの一つだっただけ。


血は血を呼ぶと言うように、それに従って、自然と剣で食う者たちが世界各地から集まってきて。


おかげで、こうして腰に剣を差した者たちが珍しくなく目に付く物騒な都市風景が完成した。


「マジでアラビアンナイトみたいだな」


歩き回る武装傭兵たち、埃っぽい砂と血の匂い、星と灯火。


日暮れ時の華やかな都市を見物するのも束の間、ジオはむっつりと呟いた。


「お尻が痛い」


カタコト、カタコト。


土色の城壁を背景に並んで歩く馬二頭。


背中にぴったりと触れる声に、ファン・ホンの肩が大きくビクッとした。


「な、な、何だって?」


「めっちゃ不快だって。ちゃんと操縦してるの?私、もうギルと乗り換える」


「な、何を言うんだ!お、俺は今、完全にちゃんと操縦してるんだぞ?完全にベテランなんだぞ。俺は釜山市乗馬代表だ!」



「何言ってんだ、こいつ……」


横で余裕そうに馬を操っていたジョン・ギルガオンが振り返る。ニヤリ(嘲笑)とする顔。



「あらら、ファン社長。ご婦人を不快にさせてはいけない。体に力が入りすぎているんじゃないですか?いくら好きでも、公と私くらいは区別しないと」


「はあ、豆腐野郎、今、私欲を満たそうとしてたのか?この汚くて下品な奴!」


「あ、違う!そうじゃなくて!お嬢さんのせいじゃないか!腰をなんでこんなに、強く抱きしめるんだ?適度に緩めろよ、少しは!」



ファン・ホンが途方に暮れた顔で見下ろした。後ろから彼の腰をぎゅっと抱きしめたジオの両腕。


モテない御曹司にはひどく過酷な試練だった。そんなことはお構いなしに、ジオは腕にさらに力を込める。


「怖いんだもん。落ちたら責任取れるの?キング・ジオの玉体に傷でもついたら引退することになったら、あんたがこの世の責任を取るのかよ」


「ど、毒薬みたいな女……!」


とにかく、現代文明より遅れているバベルの塔の中でも、最低でも馬車だったのに、この様は何だ。ポニーとは……!


「本当に末世だ、末世。祖国の宝、キング・ジオをこんな風にしかお守りできないなんて……

これが最側近1軍とその他大勢2軍の差なのか……?ギル、お前は脱落」


キング・ジオの評価ダダ下がりの眼差しを感じたのか、ジョン・ギルガオンが言い訳した。


「そう見られても仕方ないって。

徒歩で移動するには遠いし、車は目立つ」


注目もある程度は集めないといけない。


彼とファン・ホンの二人だけでも存在感が溢れかえっているのに、その「ジオ」まで来ていることが露見したら、国際的なイシューに発展するのはあっという間だ。


「サイズがちょっと大きすぎますよ」


「それに、この物が何の目的で流れ込んできたのかまだ分からない以上、ますます静かに動くのが正解だ」


ジョン・ギルガオンが自分の懐をトントンと叩いた。


インベントリに保管が不可能なため、常に持ち歩かなければならないアイテム。預かってやると言うジオの言葉にも、彼は笑って断った。


無駄に良くない可能性を増やす必要はないと言って。


「ふむ……」


ジオはじっとジョン・ギルガオンを見つめた。


昼とは違い、ターバンとローブでぐるぐる巻きにしているのでよく見えないが……呪いは相変わらず急速に進行中の状態。


もう手袋だけでは隠しきれないほどだった。動きにまで支障があるように見えたから。


「……しまった」


午前中には、飲んでいたコップを落とす姿も見た。ジオが念力で受け止めると、振り返ったその顔。


「ありがとう」


人は死が近づくと本性が出ると言う。


そう考えると、ジョン・ギルガオンの本性はそれほど悪くなかった。


ジオはふと尋ねた。


「不安じゃない?」


静かな眼差し。何の意図もない超越者の質問は、だから人間を正直にさせる。


ジョン・ギルガオンは軽く笑った。


「もちろん不安だよ」


でも……。


夕日が沈む赤い土色の千年都市。カタコト、迷路のような道に馬を走らせながら、彼が答えた。


「私は結構計算が早い方だから……今回の勝負の絵がそれほど悪くないから」


「アルファ」は常に最高の勝負手ばかりを打ってきたやり手だった。


私生児のレッテルを剥がして会長の目に留まろうと、全校1位の内申の代わりに修能を選び、その年唯一の満点者になった時にも。


競争者たちを安心させようと、経営学部ではなく法学部を選んだ時にも。


チュートリアルの首席になるよりも、最も強烈な死で聖位たちに一番最初に印象を刻んだ時にも。


グループ本社に入る代わりに、みんなが嘲笑したギルドを設立した時にも。


「滅多に間違ったことはない」


今も、当面の状況は少し暗澹としているように見えても、すぐ隣に不敗の勝負師がいるじゃないか?


「勝率100%のチートが同行してくれるのに、賭け金をかけなければ商売人の資格がない」


ぞっとするほど優れていて、時には恨めしくも思った彼の勘もまた、そう言っていた。


ジョン・ギルガオン、お前は今日絶対に死なないと。


昨日もそうだったし、きっと明日もそうだろうと。


「だから人間の本能として不安でも、商売人としては恐れないわけにはいかない」


城壁に沿ってずっと歩いてきた迷路の下り坂。馬と馬車が一箇所に集まっている。目的地到着だった。


先に下馬したジョン・ギルガオンが、続いて止まったジオとファン・ホンの方に近づいていく。


彼が優しく笑って両手を差し出した。さあ。


「私を助けに行きましょうか、キング」


ターバンに隠れて見えるのは、暗褐色の両目だけ。そしてその中に満ち溢れた確信。


……そういえば、こいつとも付き合って10年以上になるんだな、そういえば。


ジオは失笑とともに、その腕に抱かれて降りてきた。


「長生きするだろうな。口が達者だから」


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