22話
* * *
「おもちゃにしてるんだ。」
腹の膨れた猫がネズミを軽く叩きながら隅に追い込むようなものだ。
背後には行き止まりの壁がどんどん近づいてきた。
ペク・ドヒョンは血まみれの口元を拭った。鉄の味が苦かった。
石山の墓守。
元々は塔の20階後半シナリオ〈廃太子〉でのみ出没する精神系幻想種怪獣だ。
人間の最も凄惨だった、恐ろしかった瞬間に引きずり込む彼岸霧を操り......
もしそこに閉じ込められて目覚められない場合、霊体が境界線の丘に引きずり込まれ、彼岸霧の根源となる彼岸花の肥料に転落する。
目覚めても簡単ではなかった。
墓守が連れているペットのキメラ怪獣2匹は、自由自在に身体構造まで変える極悪さを誇った。
回帰者の経験値で耐えてはいるものの、彼は現在、聖約が封印された状態。
とっくに勝敗が決まったゲームがまだ続いているのは、純粋に相手の意地悪な性格のせいだった。
「- - -! - -。 - - -。」
[エラーコード。不正なアクセス]
《該当シナリオ区域ではありません。相手の言語を解釈できません。》
あえて解釈までは必要ない。
墓守が彼らを指差しながらニヤニヤした。
「あ、あいつ、あの不気味の谷みたいに醜悪で、ビュッフェみたいに多様にブサイクなやつが今、私たちを嘲笑ってるんでしょう!」
「そうだとしてもどうしようもありません。」
頭を振って汗を払ったペク・ドヒョンが限界まで息を切らした。
「……ジョヨンさん、反応は?」
「ありません。どうしましょう?」
「言いましたが、絶対に触ってはいけません。精神攻撃を受けた人をむやみに触ったら、永遠に目覚めなくなることもあります。葉っぱでずっと名前を呼んでみてください。」
「そうしてます。でも、このままもしかして、目、目覚めなくなったりしたら……
泣きそうな声で言葉を濁すナ・ジョヨン。
ペク・ドヒョンは難なく答えた。簡単だったから。
「そしたら俺たちはここで死ぬんです。」
不幸にも彼らには他の選択肢がない。
バベルの塔の中で死んでも実際に死なないのは、チュートリアルシナリオの中だけ。
しかし、墓守は厳然と20階台の怪獣。チュートリアルモンスターではない。
ずっと表示されるエラーコードが、このどうしようもない現実を確認射殺してくれていた。
ここで死んだら本当に終わりだと。
「一体どこまで引きずり込んだんだ?」
ペク・ドヒョンは焦って後ろをちらっと見た。
墓守が使う彼岸霧の濃度は、相手の武力に比例する。
比較的浅かった二人のものとは異なり、ジオを覆っている彼岸霧はぞっとするほど濃かった。
ドーン- パガガク!
「ドヒョンさん!」
ベテランのキメラは集中力が途切れた敵をよく見抜いていた。
ゴホッ。
壁に叩きつけられたペク・ドヒョンが大量に血を吐き出した。
驚愕して駆け寄ったナ・ジョヨンが慌ててスキルを使おうとしたが、表示されるのはまだ遠いクールタイムを知らせるメッセージだけ。
ペク・ドヒョンの首ががっくりと垂れる。
死ぬ?
本当にこのまま死ぬ?
絶望感が押し寄せてくる。
ナ・ジョヨンは真っ青になってペク・ドヒョンにしがみついた。
「だ、だめ、だめ。しっかりして! 起きてよ!ヒーラー置いてリタイアするディーラーがどこにいるのよ!クソ野郎!どう見ても助演でもないくせに!今すぐしっかりして?」
「ここで終わるのか?こんなにあっけなく?本当に?」
近づいてくる怪獣たちの凶悪な影。
必死に否定してみる現実とは反対に、心の片隅では諦めが漂うその時。
キエエエエク-!
パラララ。
「デジャヴ。」
そうだ。それはデジャヴだった。
「……ハ、ハハ……」
ナ・ジョヨンはハッと振り返った。
死んだと思っていたペク・ドヒョンの肩が震えていた。
微かにほとんどうめき声に近いが、確かに笑い声だ。
彼女も経験したことがあるから知っている、絶望直前に救いと出会った者の……
そしてそれがナ・ジョヨンが記憶できる最後の瞬間だった。
「うちのドビーはちょっと寝ていて。」
ライブラリー、
前回の作業を呼び出す。
ブックマーク - ナンバー4。農村体験
『ライブラリー検索
〉キーワード「グリム・リーパー(Grim Reaper)」
〉範囲:「ウェスト」フィルター:「武器」「死」』
の具現化を実行しますか?
「正義実現収穫タイム。」
やっとのことでペク・ドヒョンは顔を上げた。血に濡れてぼやけた視界を無理やり瞬きした。
黒い龍と共に「魔術師王」を代表する象徴となってしまった武器。
自分の体よりもはるかに巨大な大鎌を容赦なく振り回す背中が見えた。
生きているものを引き裂き、さらに空間まで引き裂く。
まるで農夫が収穫するように刈り取る、文字通りの死。
真っ黒なおかっぱを翻した「ジョー」が怪獣の頭をドン、と足で踏みつけた。
のんきな表情。
だるそうな声。
「誰の許可を得てここでネズミ捕りをしてるの?」
逆説的にも。
だからこそもっと頼もしい。
「この区域の狂った猫、いやキングは私だ!」
呆れてペク・ドヒョンは笑った。
本当に笑えるけど、否定できないほどそんなものまで。
「ちくしょう……かっこいいじゃん……」
[Ground F ━ チュートリアル開始の祭典:人間失格]
[シナリオが終了します。]
デーン デエーン。
数えきれないほど聞いた鐘の音、しかしこんなに近くでは初めてだ。
[タイトル特性の2段階成長が完了しました。]
[クエスト完了報酬を精算中です。]
また、今鳴り響くこの鐘の音は、やっとここにだけ限定されるものでもないだろう。
忙しく上がっていく数字を見てジオはにっこり笑った。
熟練度20%達成。この言葉はつまり、
バベルネットワーク
[ランキングが変動します。]
《バベルネットワーク、ワールドアラート》
[現在、ジオ様の国内ランキングは1位です。]
《ランキングアップデート - 惑星代表交代》
[全体ランキング。1位です。]
《1位 - ジョー • 非公開(▲3) 》
シナリオフィールドが徐々に消えていった。
周りに残った人はいない。
チュートリアル参加者は皆、聖位選択のための最終関門、「天文」に移動されたから。
ジオはのそのそと塔を抜け出した。
暮れゆく3月の夕暮れ。夜空には星が一つ二つと現れていた。
「ジオ、こっち。」
「……え?ゲートに行かなかったの?」
「閉めてきたんだ。お連れしたからにはお送りするところまではしないと。」
タバコの火を消した虎が軽く顎で合図した。
ゲートからすぐ来たのかオフロード型のジープに、目にも青い鬼気がまだ残っている。
戦闘疲労のせいか声も普段よりだるい。
「嫌がってたのに、派手に楽しんでたじゃないか。」
「山があったから登っただけ。」
「国内1位になろうとしたら、世界1位まで背負い込むことになって驚かなかったか?」
「……そ、そんなことないけど?」
車のドアを開けてくれながら虎がニヤリと笑った。
「とにかくおめでとう、王座奪還。」
その言葉にジオも少し立ち止まって空を見上げる。
今日に限ってひときわささやかな星明かり。多分だからだろうか。
偉大なる聖位が見下ろすこの時代に、取るに足らない人が一人死んで、あえて大きな星になったとしても……
今日一日くらいは信じてみてもいいんじゃないかと思った。
ジオは静かに呟いた。
少しは気分が良く、またどこかすっきりとも見える顔で。
「1位になるにはちょうどいい天気だな。」




