219話
面の皮以外に取り柄もない奴が、気に障るとわめき散らして人格破綻者が癇癪を起こした。
何…… なんだ、このめちゃくちゃな慰め方は?
共感性ゼロのマイペースぶりに呆れたのも束の間。
すぐにティモシーの肩がククッと震え始めた。
あはは。 ただ、不可抗力でそうとしか笑えなかった。
「 [かなわないよ。 本当に最高だ、君は。] 」
「こいつ、どうかしたか。 急に一人でニヤニヤしだしてアルファベット書いて、ふざけて……」
「でもジオ、君が正しいよ」
「俺は克服しなきゃ」
泣き声なのか、笑い声なのかわからない。
涙で潤んだまつげ。 そして外のニューヨークの夕日が完全に沈もうとしているのか、夕暮れ時の光がティモシーの瞳の中で輝いている。
「あいつ以外に俺のそばに残ってくれる人が本当に…… 本当にたくさんいるんだ。 俺のためにそばにいてくれる人がたくさんいる」
昔の友人の写真が飾ってあったその隣、ティモシーの視線が他の写真がある方へ向かった。
笑っているギルドメンバーたちと、これでもかというほど顔をしかめているルーカス、そんなルーカスを突き飛ばすジョナサンなどなど。
住宅を改造して初めて〈イージス〉のギルドハウスを作った日。 ホワイトハウスに行って団体で勲章をもらった日。
また…… 初めて1級災害を防いで市民とパレードをした日。
思い出を振り返るティモシーの眼差しがだんだん強くなった。
「俺は家であり、垣根だ。 この個性的な人たちが喜んで集まることに合意した求心点だ」
そうして集まった人々は、より強い盾を作り、また別の「家」を作る。 より広く、より大きな。
彼は視線を上げて窓の外を見た。
くっきりとした星明かりの下、都市を彩る数万個の光。
「そしてそれがまさに…… 俺が守る世界だ」
引率者、ティモシー・アンゲロス・リリーホワイトが噛み締める決意。
静かにそれを聞いている支配者、暴君は何か考えにふけっているような顔だ。
そんなジオを振り返り、ティモシーがふと思いついたように尋ねた。
「そういえば、ジオ。 君はずっと一人でいるつもり? もう隠れて暮らす必要もないのに」
そうだな。
キョン・ジオもティモシーを見つめ返した。
「勘のいい奴だな」
正確に言うと、こっちもまさにそれを考えていたところだった。
以前は名前を隠すことで周りの人々を守ってきたが、今はもう話が違う。
完全に世の中に身をさらした以上、今からはむしろ「名前」を刻んでおく方がいいかもしれない。
これはキョン・ジオのものだから、死にたくなければ手を出すな、と。
その方法でギルドも考えなかったわけではないが……。
「私がギルドを作ったらどう思う?」
チャリン!
デザートスプーンが床を転がった。
ニューヨーク、真昼のブライアント・パーク。
カフェの屋外席に座ってニューヨーカー気分を満喫しながらサンデーアイスクリームを楽しんでいたナ・ジョヨンの瞳が揺れた。
「え……?」
「ギルド。 キョン・ジオメイド」
再び言うのが面倒くさいというようにコーヒーカップをかき回しているが、絶対に、絶対に。
「聞き間違いじゃない」
ナ・ジョヨンは硬い顔で片手を上げた。
「少々お待ちください、陛下」
「……はい。 もしもし? ええ、私ナ・ジョヨンです。 ああ、そうです。 ソウルが明け方なのは知っています。 でもその時、秘書様が急ぎの用件なら連絡するようにとおっしゃったので。 はい、はい」
いきなり目の前に人を置いて通話?
ドビー、こいつマジで成長したな。 ジオが顔をしかめようとしたら。
「まだ私の所属が〈D.I.〉になっているんですよね。 ああ、はい。 実は今すぐギルドを脱退しようと……」
「ちょ、ちょっと待って!」
ちょ、ちょっと、待って。 この狂信者め…
「な、何ですか。 私今とても急いでいるんです。 陛下、重要なことでなければ後で」
「切れ、すぐに」
[本当にこの汚い世の中に珍しい純粋な人材だと「運命を読む者」様が感嘆しています。]
「何も言えないな」
恐ろしいほどの行動力。
目の前にいる女性が、澄んだ瞳の狂人だということを忘れていた。
ジオはふてぶてしくスプーンを向けた。 おい。
「人の話を最後まで聞けよ。 誰が作るって? どう思うか、意見を聞いているんだ。 意、見」
「で、でも……! 急がないと、先、先着順が……! みっともない競争相手の群れが整理券を引いて、ミズオオカメのように きっと駆けつけてくるはずなのに、えっと……!」
泣きべそをかきながらナ・ジョヨンが爪でしきりにナプキンを噛みちぎった。
「目がイッちゃってるよ、こいつ」
「何であれ、家政婦の座は保証してあげる、いい?」
「ドビーの意見が聞きたいと? 私は賛成です。 古来より偉大な支配者には、権力を裏付ける勢力が付き従うものです」
理性を回復した狂信者が落ち着いて答えた。
「もちろんジオ様はそんなものがなくても絶対的ですが…… ところで、どうして急にそんなことをお考えになったんですか?」
「遅いよ」
「今、何かありましたか? 記憶が……」
しらばっくれる厚かましさもレベル級。
「よく見ると、素晴らしい狂人の力量はすべて備わっているんだな」
ジオは酸味の強いコーヒーの後味を感じながらカップを置いた。 その行動一つ一つをナ・ジョヨンの熱烈な視線が追う。
「まあ…… 例えば」
「はい」
「ただのナ・ジョヨンよりは「キョン・ジオ」のナ・ジョヨンの方が手出ししにくいんじゃないか? もしそうする気になったとしても」
「だいたいそんな感じだ」
所属はその人の後ろ盾を明確に示す。
もちろん今もナ・ジョヨンの背後に誰がいるのか、それとなく知られているが、目に見えるものと口伝えのものには隔たりがあった。
「わかりやすく君を例に挙げただけで、ドビー、君以外にも私の幼なじみたちと……」
「ジオ様」
「なんだ」
さっと掴んでくる手。
公園の方を見ながら話していたジオが、ようやくナ・ジョヨンを振り返った。
こちらに腕を伸ばしたまま、うなだれている。 髪の毛の間から見える耳は赤くなっている。
「••••••何だよ」
「いいえ……。 ただ、幸せなんです。 本当に、本当に…… 私、もっと頑張ります」
ひしひしと伝わってくる感情。 ジオはぼんやりと彼女のヒーラーを見つめた。
自分の人間を一人入れることは、自分の世界がさらに広がるということだ。
「キョン・ジオ」の垣根が広がる分、「王」の視野は狭まるだろう。 以前のように全体を見て傍観することも比較的減るだろう。
しかし、そうして狭く見る世界も、それほど悪くはない気がして。
ティモシーの大きな「家」のように。
今や鼻水まですすっている、友人であり最も信心深い信徒。
彼女の頬についたアイスクリームを拭いてあげながら、ジオはそっけなく言った。 これ以上何を頑張るんだ。
「いつものようにしろ。 十分すぎるほどだ」
「……でも今日は一日中こうして遊んで、いや、休んでいらっしゃるんですか? ニューヨークに何か用事があったんじゃないんですか?」
赤くなった鼻で鼻声を出してナ・ジョヨンが首をかしげた。
〈イージス〉ギルド長がニューヨークに言及した途端、顔をしかめたジオを覚えている。 嫌そうな顔からして、何か予定があるのは明らかだった。
「どうして。 私と二人でいるのが嫌か?」
「い、いえ! そんなことありません! 私は当然嬉しいです、永遠に二人だけのパラダイスにいたいです!」
ナ・ジョヨンが手を振る。
ジオは人が集まってくるのを警戒して、かけていた濃いサングラスを人差し指で持ち上げた。
[星位、「運命を読む者」様が、会いたくないなら無理に会う必要はないのではないかと尋ねています。]
「まあ、気になるのは確かだ」
虎の勧めもあるし、ここまで来た以上、会って帰るのは間違いないだろう。
しかし…… あの僧侶。
「果たしてそうでしょうか?」
「このキョン・ジオが山奥の僧侶ごときの言う通りに動くのはちょっと」
雪岳山の屈辱は一度で十分だ。 ジオは斜めに椅子に背を預けた。
「それにどこにいるかもわからないし」
「え?」
「何でもない。 ドビー、君がやりたいことをもっと考えてみろ。 いつもあるファンサービスじゃないぞ」
「うーん。 メモしておいたところは昨日全部さっさと行ってきて…… あ、そうだ! 行きたいところはないけど、やりたいことはあります。 これ!」
カバンをまさぐるナ・ジョヨン。
一人でニヤニヤしている様子が、一目見ただけで何か変態的なことだろう。 ジオはむっつりと見つめた。
「じゃーん、カップル結びブレスレット!」
「……一つだけど?」
「ああ、最近流行っているんですが、ご存知ないですか? 紐は一つに見えますが、こうしてお互いの手首に結んで」
ルビー色の細くて長い紐だった。
放っておく気配を察知したナ・ジョヨンが、嬉しそうにジオの手首と自分の手首に何重にも巻き付ける。
「それからこれを爪で切ると…… え? な、なぜできないの?」
[あなたの聖約星、「運命を読む者」様が、真っ昼間に結びプレイとは、あの信徒様は本当に一線を越えていると言って口元を覆っています。]
お星様、あのクソ野郎笑ってるんですけど?
「この変態ども、マジでどうかしてる」
「元の状態に戻せ。 3秒やる」
「し、実施! 申し訳ありません! なぜできないんだ! も、もしかして? 施術者の欲望を感知するセンサーでも付いているのか? こんな天才的で悪魔的な……」
絡まった糸がよくあるように、解く人がパニックになると、さらにめちゃくちゃに絡まっていた。
やってられない、マジで。
ジオがため息をつきながら魔力を動かそうとしたまさにその時。
サアアアッ……。
ナ・ジョヨンがびっくりして顔を上げた。
二人の手首の上に静かに置かれた、肌の色が全く違う手。
触れて落ちるその手つきの下で、サラサラと紐が流れ落ちる。 いつ結ばれていたのかというように、最初の状態のまま。
「……タイムコントロール」
正確に、特定の物体の時間だけを数分前に戻した。 精巧で細密な腕前。
ジオはゆっくりと視線を上げた。
全身真っ黒な女。 丸刈りに近い短い縮れ毛をしたアフリカ系アメリカ人。
ワールドランキング5位。「冬の枝」ミストルトがぶっきらぼうに二人に告げた。
「[おいでください。「魔女」がお待ちです。] 」




