208話
「子ゲート」。
現場の隠語では、子どもの巣、また別の言い方では偵察兵と呼ぶ。
ゲート生成時、メインの怪獣たちが出没する亀裂の近くに開く枝分かれした小型ゲートをまとめてそう呼んだ。
互いに有機的に連結していて、メインの亀裂を閉鎖すると一緒に
消滅するが、厄介なのは別問題。
偵察兵らしく、メインゲートよりも先に現れたり、予想もしない場所からひょっこり現れたりするので、被害を予測するのが難しかった。
「現在の状況を報告しろ」
センター、災害総合状況室。
チャン・イルヒョンは到着するやいなや、状況からチェックした。
状況室を指揮していた特殊保安団のイ・ブンホン団長が即座に答える。
「負傷などの理由で不参加の人員を除けば、呼び出した覚醒者全員の招集が完了しました。ところが……」
「ところが?何か問題でもあるのか?」
「済州島の方で、避難案内が不十分だったため、問題があったようです。急増した人数でポータルに過負荷がかかり、ワープ移動が不可能な状態です。したがって、全員ヘリで移動中です」
チャン・イルヒョンは低く唸った。
済州島で高等級ゲートが開いたのは今回が初めてだ。
対応マニュアルが不十分でも、別に不思議ではなかった。
「……いい。どうせ海ど真ん中で開くゲートだ。ヘリの利用は不可避だ。避難の方に問題があったのなら、人命被害は?」
「軽微な負傷者を除けば、まだ被害は報告されていません。海岸の方に二度、人flゲートが発生しましたが、初動措置で状況終了。現在は城山公園の方でBレベルの戦闘中です」
「画面を映してくれ」
要員がすぐに拡大する。
モニターをチェックしたチャン・イルヒョンの眉が上がった。
あの人は……?
「タクラミン?1チームの要員じゃないか。あの友人がなぜもうあそこにいるんだ?」
「ああ、それが新婚旅行で休暇中だったのですが、たまたまそこが……」
ああ……そんな……。
ハネムーン中に剣を持って走り回る新郎の姿に、緊迫した状況室が一瞬、ため息で満たされる。
「……コホン、ご祝儀をたっぷり包んでやれ」
「慰めになるか分かりませんが、はい。そうします」
「それでは、現場指揮はあの友人が務めるのか?海上戦闘だからベテランが必要になるはずだが」
「いいえ。キムチーム長が招集した覚醒者たちと一緒に現場に合流することになっています」
よかった。
キム・シギュンなら心配する必要はない。
チャン・イルヒョンが頷きながら振り返ると、どうしたことか。イ・ブンホンの顔色がどうも明るくない。
「イ団長、どうした?」
「……偵察モンスターのレベルが予想を上回っています。既存の1級亀裂データに比べて著しく。現場には伝えてありますが、格別の注意が必要に見えます」
これを見ろと言わんばかりにタブレットを渡す。
データ分析資料。チャン・イルヒョンは素早く目を通した。
子ゲートから出てくる偵察兵はこちらにとっても貴重な資料だった。雑魚がどれくらい強いかによって、メイン魔獣の強さも大体見当がつくからだ。
イ・ブンホンが慎重に言った。
「局長、これ、やはり私たちの予想が当たっているようですよね?」
「……ゼロベース以降、全体的に難易度が上がった?」
「はい」
正確には、龍山区に現れた「正体不明」等級の出現以降だ。
同じレベルのモンスターでも違った。データグラフによると、既存より約1.5倍の戦力増加。
最近、現場のハンターたちがやたらと「このままだと骨が腐る」だの「昔とは違う」だの文句を言っているのは、理由のないことではなかった。
「高い確率で今回の1級も以前とは違うでしょう。そして…局長もご存知のように、1級災害は世界的に同時に……」
「それは後で。とりあえず、自分の飯の種から確保しよう」
「ゲートオープン45分前です!」
モニターに軍用チヌークヘリの姿が捉えられる。
着陸地点には、たまたま近海域に位置していた軽航空母艦が知らせを聞き、素早く待機中だった。
そして済州島の青い海。
一目見ただけでも潮流が尋常ではない。
チャン・イルヒョンはぼんやりと画面を見つめながら尋ねた。
「キングは?」
リアルタイムで位置をチェック中の専任要員が報告した。
「2分前、江原道から召喚体と一緒に移動されているのを確認しました。特に問題がなければ、約7分以内に目標地点に到達されると推定されます」
「……ふむ。まだ心配か、イ団長?」
忙しなく指示を下していたイ・ブンホンが振り返った。呆れた顔だ。
「冗談でしょう?さっきのは友好国に対する憂慮と義理ですよ。私は一度たりとも自国の未来を真剣に心配したことはありませんが」
熱心にモニターばかり見つめている要員たちがクスクス笑う。皆がその言葉にそれなりに共感していたからだ。
敵の戦力が1.5倍になろうが、3倍になろうが同じだ。
この小さな国の東から太陽が昇らない日は、とても想像することができなかった。
少し緩みかけた雰囲気にチャン・イルヒョンが机を叩いた。
タン!
「こいつら、浮かれて。しっかりしろ。へまをして事故でも起こしたら、お前ら全員現場行きだぞ!」
しかし、このような非常事態の中でも笑える余裕が、強国の特権であり贅沢なのだろう。上がろうとする口角にぐっと力を込めた。
チャン・イルヒョンは顎を撫でながら厳しく再び叫んだ。
「コホン、気を抜くな!」
「わ、緊張して死にそう……」
タンカーのイ・テヨプは、ガタガタ震える自分の太ももを肘で押さえた。
揺れるヘリの中、バリアのおかげか騒音は大きくない。
しかし、それとは別に、どこかにバケツがあれば顔を突っ込んで思いっきり嘔吐でもしたい心境。
「一体なぜ俺がAチームのメインタンカーなんだ?誰かお願いだから、これは夢だと言ってくれ」
久しぶりの休暇で釜山で楽しく水遊びをしていたところ、招集令を受けたことまでは、まあ。運がないと思ってやり過ごせる。
しかし。
「Aチームのメインタンカーはイ・テヨプハンター」
「……はい?チ、チーム長?聞き間違いではありませんか?」
「自動的にAチームのリーダーでもあります。もし知らないチーム員がいれば、すぐに顔を覚えておいてください。それでは、次のBチーム」
「キム・シギュンチーム長は俺の仇だ」
イ・テヨプは再びむず痒くなろうとする鼻をぎゅっと掴んだ。初の1級災害参加も足りず、攻撃の主軸であるAチームのリーダーだなんて。
「ナ・ジョヨンにウ・ナセム、ヨ・ガンヒまで……この人たちに攻撃オーダーを出せと?俺が?私がですか?」
ソウルから急遽招いたヒーラーを除けば、皆、位置的に近い順にピックアップしただけだというが、急造された人員にしては華やかすぎるほどだった。
メインタンカーがリーダーを務めるのがこの業界のルールではあるが、いくら彼が最近ホットなタンカーだとしても……これはちょっと違うだろう。
「あの……隊長?」
ずっと彼をチラチラ見ながら小声で話していたうちの一人が話しかけてくる。
舐められないようにしよう。イ・テヨプは声を厳めしく低くした。
「……何かありましたか?」
「テヨプさんなら、10人のゼロベース英雄たちの一人ですよね?」
「ああ」
嫌味ではなかったか。
10人の《ゼロベース》英雄たち。
あるいは、王の遠征隊。
ディレクターのホン・ヘヤを含め、ゼロベースに呼ばれて行った9人をそう呼んだ。
「チャンネル代表」としてバベルに召喚され、「ディレクター」という革新的な役割も発掘したのではないか?
何よりもあの黄金ラインナップ。
S級というS級はすべて呼ばれて行ったのだから……。
各種インタビューや側近の話を通じて広まった9人の帝国冒険談は、今も人気を博している。
その冒険談が広く広まるのに、チェ・ダビデと共に貢献度ツートップを走る、インタビュー最多出演者のイ・テヨプが堂々と胸を張った。
「ええ。私がイ・テヨプです」
「じゃあ、ジョヨンさんやバンビさんと本当に一緒にミッションしたりしたんですか?すごい。直接会ってみてどうですか?」
「ジロクさんと一緒に戦闘はしました。コホン、互いに信じて背中を預け合った戦友というか……。実際に見るともっとかっこいいです。ハハッ」
「うわああ!」
何か誇らしくなって鼻の頭をさっと拭ったイ・テヨプがハッとする。
少し離れた場所。ナ・ジョヨンが情けない田舎者を見るような目つきで彼を睨みつけていた。
「なぜ、なぜあんな風に見るんだ?自分も褒めてほしいのか……?」
「……ああ。もちろん、私よりもあそこにいらっしゃるジョヨンさんの方がはるかに活躍されました。矢を受けながら尖塔にオーナメントを運搬され」
何か近づき難い雰囲気だったので話しかけることもできずにいたのだが、うわあ。
ハンターたちの感嘆が今度はナ・ジョヨンの方へ向かう。
視線を意識したナ・ジョヨンが足を組み、45度に顎を傾けた。最も優雅に見える姿勢だった。
「ああ、また手の甲が疼くわ……」
「ナ・ジョヨン様!大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。精神的な後遺症に過ぎないわ。ふう、これもまた司祭として私が耐えなければならない神様が与えた試練でしょう。うっ、痛っ」
「素敵……さすが韓国の灯台!」
浮かれた騒ぎも束の間だった。
「遊びに来たんですか?少しは緊張してください」
日焼けした肌に太くウェーブのかかった黒髪、二重まぶたのない涼しげな目元。
ランキング53位のヨ・ガンヒが遠慮なく水を浴びせた。
「遠足に来たわけでもないのに。いくらシニアハンターの数が少ないとはいえ、皆、気が緩みすぎているのではないですか?」
「攻隊長も1級ゲートのAチーム隊長なら、もう少し責任感のある姿を見せてほしいですね。率先して雑談するのではなく」
韓半島南部はもともとゲート生成率が比較的低い。
近くの上等級ハンターたちを急遽手配したところ、イ・テヨプのように夏の海辺で遊んでいて連れてこられた者がほとんど。そのため、大多数が若いハンターたちだった。
気まずくなったイ・テヨプが慌てて周囲に謝った。
「あ、はい!気をつけます。申し訳ありません、皆さん。私がほどほどにすべきでした」
彼なりに雰囲気を収拾するつもりだったのだが、あまりにも下手に出すぎたか?かえって逆効果になった。
「いいんですよ。何を謝るんですか」
「そうよ。戦闘前に緊張しすぎるのも良くないというのは常識じゃない?雰囲気良かったのに、嫉妬がすごいね」
「……何ですって?」
クスクス、押し殺した嘲笑が漏れる。
「ああ、そこまで聞こえましたか?ごめんなさいね。うっかり」
「何とおっしゃいましたか?嫉妬ですって?」
「またムキになって。うっかりだって言ってるじゃない。本気で怒ったら本物みたいじゃない。ああ、そういえばタイミングも、ちょうど私たちがジョヨンさんのことを褒めていた時だったわね?」
いや、透けて見える。透けて見える。
周囲から合いの手が入る。
ヨ・ガンヒの顔色が青ざめてきた。




