199話
「 少し前に、虎 が私の名前で捨て犬保護センターに10億ウォンも寄付したとか。むやみに犬を捨てたりしたら、インスタで泣きながら謝罪文を書く羽目になるぞ。大変なことになる。」
「ジオさん。」
「なんだ。」
「私は……自分のことがあまり好きではありません。どこをとっても気に入るところがないんです。」
「でも、そんな私の人生にジオさんがいて。」
あなたに一目惚れして。
彼が目を開ける。
視線が絡み合う。
ペク・ドヒョンは優しく、あっさりと笑った。
「少なくとも、自分自身を嫌いにはなりません。自分の人生を否定したりはしません。それは本当に、良いことであり、また……本当に気に入っているんです。」
「ジオさんが私の初恋でよかった。」
武装解除された顔。
そして心。
過去に暗い過去と、秘密をたくさん抱える回帰者が彼女にだけ見せる姿であることをキョン・ジオも知らないはずがなかった。
「……ったく。」
ジオはしばらく沈黙した後、ぶつぶつ言った。あの回帰者め、しきりに。
「ずかずか入り込んできて、雰囲気を妙にさせる。癖なのか、まったく。」
「ジオさんもいきなりドキドキさせてくるくせに、私はそうしちゃいけないんですか?それってちょっと不公平じゃないですか。」
「生意気な口をききやがって。こいつを今夜、裸にして追い出してやろうか。」
「いつも忘れていらっしゃるようですが、厳然と私のほうが年上です。ジオさんはずっと年下ですし。」
とにかく、長幼の序は人類最悪の無駄な行為だ。
傍若無人な国家代表は彼の言葉を軽く無視し、再びソファに寝転んだ。とにかく。
「だいたい状況がどうなっているのか分かったから、これから幹を掴まないと。ペク執事、あの懐中時計が99階にあると『どうやって』知ったんだ?」
目に見えてペク・ドヒョンがびくっとした。何かをはっと悟った表情で。
「番……人!確かに『番人』から聞いたと言いました。」
これは、これは絵がぐっと狭まる。
「その番人ってやつを詳しく話してみろ。お前、さっき私が聞いた時、最初から話すべきだと言って話を逸らしたじゃないか。」
姿勢を正したペク・ドヒョンが真剣に説明を始めた。
「アウターゲート出現後に現れた超越者たちです。接触した人が少ないため、知られていることは多くありません。しかし、人類の味方であることは確かで……。」
躊躇したのには理由があった。
ペク・ドヒョンはためらう様子で再び言葉を続けた。
これは確かではありませんが。
「聞いた噂によれば……あなたを人類の敵と見なして追いかけているそうです。」
人類には味方。キョン・ジオには敵。
だからだろうか、『番人』と一度でも遭遇した人々は彼らを『ジオ狩り』と呼んだ。
ふむ、なるほど。
ジオは頷いた。どうでもいいという顔だ。
「番人から時計の話を聞いたやつは誰だ?最初に話したやつがいるはずだ。」
「それは正確に覚えています。〈銀獅子〉側の残りの生存者でした。」
ああ、それならこの次は虎を調べればいいんだな。
ある程度整理がついた。
ジオはぐっと伸びをして立ち上がった。すでに午前0時を過ぎた時刻だった。
「だいたい分かったから、もう帰っていいよ。ふああ、そろそろ眠いな。」
何の返事も、動きもないので振り返ると、回帰者がすっきりしない顔でぼうぜんと立っていた。
「なぜだ。今日、すべてを打ち明けたのが正しいことだったのかと思っているのか?」
「……どうして分かったんですか?」
まさにそんな顔をしているじゃないか。
ジオは返事の代わりに軽く笑った。
ペク・ドヒョンが弁解するように続ける。
「ふとそう思ったんです。無駄に私一人では手に余って……聞いてくれると言ったのを口実に、ジオさんに心配事を押し付けてしまったのではないかと。」
家族の死とか……。
そのようなことは、どんなに強い人でも決して軽くはない問題だった。
「まだまだだな。」
「はい?」
「ペク執事は勉強があまりできなかったのか?核心を掴んだら、無駄なものは捨てるべきだ。」
「……?」
要領を得ない顔が少しおかしい。首を横に振ったジオが特有の重みのない口調で言った。
「全部忘れろ。鳥肌が立つような軍団長だとか、憂鬱極まりない99階登攀譚だとか。すべて全部。」
何の役にも立たないから。
「すでにあの時とは違うということは、誰よりも回帰したご本人が一番よく知っている事実じゃないか?」
夏の夜が生暖かい。
歩いてベランダを大きく開けた。開けた途端に入ってきた夜風がキョン・ジオの真っ黒なショートヘアを激しく乱した。
「世界が何の目的でいろいろと騒いでいるのか知らないけど……安心して。」
最上階。光に満ちたソウルの夜景が一望できる。そして。その巨大なメトロポリスを広大に包み込んでいる世界の魔力まで。
両足の下に置かれた私のトイワールド。
「この世界は私のものだ。」
傲慢極まりない発言に、はるかな距離、お星様が呆れたように笑う。
ペク・ドヒョンは世界を背景に立っている小さな背丈の超越者をぼうぜんと見つめた。
ある人は暴君、ある人は救世主、またある人は悪党と呼んだその顔。
主人公、キョン・ジオがにやりと笑った。
「私の好みは泰平の世だ、回帰者。」
「……と、明け方の感性に浸って大げさに言ってみたけど。」
「何?」
真昼間にまともな精神で眺めたソウルはまた違った感じ。
キョン・ジロクの問いに何でもないと答えながら、ジオが目の下のクマを一度ぐっと押した。
[あなたの聖約星、『運命を読む者』様が心の優しいうちの可愛い子が何日も眠れずに寝返りを打っているのを憎らしい回帰者めが知っているのかと憤慨しています。]
[あいつは最初から気に入らなかったと言って、やはり始末してしまおうと聖位専用ベストセラー〈私の化身の周りのろくでなしを賢く間接的に殺害する101の方法〉をそそくさと取り出します。]
「その怪しい本のタイトルは何……」
渋い表情を見てキョン・ジロクはこいつまた聖約星と無駄話をしているんだな、という様子。
とにかく、できるだけ自然に振る舞おう。ジオはそっと切り出した。
「とにかく、なんだ……うちのバンビ、最近周りにいじめるやつはいないか?挙動不審な暗殺者とか……」
「……?」
何言ってるんだ、という表情。
「いないのか……」
「どこか具合でも悪いのか、お前?暗殺者という単語自体がおかしいけど、万が一いたとしてもお前に来るだろう、俺には来ない。」
「な、何?私がどこがどうだって言うんだ!このマンチキン・グレート・ゴッド・ジオに何の罪があるっていうんだ!」
敵も多く、ヘイトもたくさん集める世界序列1位がむきになった。
きれいに無視してキョン・ジロクは確信する。
「間違いないな。グミとママのせいだ。」
どんなクソ野郎かは知らないが、誰かがこいつに周りの家族が危ないとか、何とかでたらめを吹き込んだに違いない。
本人は自分の家のことを調べていたら良い物件があったからだと言っていたが、
最近、しぶしぶ安全特区に実家を移したのもそれで全部説明がつく。
「自分のそばにいると危ないから距離を置いて守るつもりなんだ。一体誰のせいだ、マジで捕まえてやる。」
ソウル江北に居住中のペクさんが胃を痛めることを考えながら、バンビがジオの頭頂部を押した。ぐっと。
「痛っ!」
「バカ。あまり抱え込まなくてもいいんだ。」
「グミも十分に強い。もうすぐ火星から出てくるし、もっとそうなるだろう。お前も今回追いかけて行って自分の目で見たじゃないか。」
幼い頃に犯した罪があるからもっとそうなるということをキョン・ジロクも知っている。姉妹間のことなので距離を置いて見守っていたが。
「たまには信じて見守って……あげるのも応援なんだ。」
キョン・ジロクが突然言葉を濁した。
訝しげに振り返るジオ。彼はため息とともに再び言った。
はあ。
「お前、この家気に入ったんだろ?契約しろ。」
「急に?子供の分家を反対する石器時代の頑固親父みたいに反対していたのに。一日に気分が何回も変わるんだ?」
「違う。話しているうちに自分自身にも必要な言葉だと気づいて。それより、お前ずっとそう思っていたのか?マジか。」
「ここ!ミスター不動産、契約書カモン!」
ベテランの仲介人が素早く書類を取り出す。ジオもさっさとそちらに駆け寄った。
新築なので別途インテリアをする必要はなかった。入居日もその場で決まった。
電光石火、79億ウォン現金一括払い。
1分も経たないうちに〈バビロン〉名義で振り込まれた金額を見て仲介人はイエスに出会ったペテロのような表情だった。
良い条件ではあったが、価格が高すぎて厄介者扱いされていた物件だったのに……。
「ジオ様、必要でしたらいつでもご連絡ください!犬馬の労を取らせていただきます。これから駅前で配っている〈聖なる魔尊の証人たち〉のチラシも私が絶対に捨てずに!」
「何それ、誰が見ても新興宗教団体みたいなネーミングは?」
「ああ、ご存知ありませんか?天上の聖なる存在だった魔術師王が人類のために自ら王臨……」
「やめて、お願いだからやめて……!」
ジオが恥ずかしさに身を震わせた。
この程度なら祖国全体が私を相手にドッキリを仕掛けているのではないかと強く疑う。
苦しむ魔尊とは異なり、仲介人はただにこにこしていた。エレベーターのボタンを押しながらもずっと唾を飛ばしながら喋る。
「本当に素晴らしいご決断をされました。申し上げませんでしたが、実はここは居住条件を本当に厳しく見るところなので。並みのVVIPの方々でなければ名刺も出せないというか。」
「へえ、家ごときが偉そうにしてるな。」
「はは、だから住民もみんなマナーが良く、名望のある方々ばかりなのですが。そうだ、もしかしてご存知かもしれません。先日、あの方もここに入居されたのですが……」
ピンポーン!
タイミングよく到着したエレベーターのドアが開く。
一秒、二秒。
フリーズ。
麻痺状態から覚めたジオの首がぎこちなく回った。
おい、ミスター不動産……。
「あんた、さっき同じ階じゃなければ住民同士でも顔を合わせることはないって……」
「そうです!本当に良かったじゃないですか?同じ階の方々だけ見ればいいので、お二人ともランカー様なのでお互いにご不便をおかけすることはないでしょう!」
ハハハ!仲介人が明るく笑った。
脈絡を全く読めていない様子。
横で殺伐と顔をしかめているキョン・ジロクの顔は見えてもいないようだ。
「……クソ。この契約、今すぐなしだ。」
「え、え?」
「水臭いこと言うなよ。」
バタン!
閉まるエレベーターのドアを掴む手。
手首の上の高級時計は持ち主の好みに合わせてハイエンドブランドの中でも洗練されていて若いデザインだ。
慌てる仲介人。気まずそうな兄妹。そしてその中で唯一笑顔を浮かべる、映画俳優のように素敵な美男の顔。
ドアに立ったジョン・ギルガオンが悠々と挨拶した。ジオの方に少し上半身を傾けながら。
「お会いできて嬉しいです、『ご近所さん』。」




