198話
「……おお、キョン・ジオ!」
キョン・ジオは回想から我に返った。
振り返ると、キョン・ジロクが我慢の限界そうな表情をしている。
ますます暑くなるソウルの天気。
猛暑だとあちこち騒がしいが、最適温度に調節された室内は快適そのものだ。
しかし、季節は気分の問題。
肌の露出を極端に嫌い、真冬生まれらしく夏を嫌うバンビの機嫌は直る兆しが見えなかった。
あれでも他人の前だから、まだ自制している方だ。
「人が話をしているなら、聞くふりくらいはすべきじゃないか。一人でぼうっとして何してるんだ?」
「あ、いえ!大丈夫です。時間はたっぷりあります!これから住む家を選ぶのは、当然慎重になるべきです。もちろんです!」
不動産仲介人は慌てて両手を振った。
キョン・ジロクはひどく腰の低い彼が少し不満だったが、仕方ない。庶民の気持ちを理解できないほど、社会性が欠けているわけではなかった。
「はあ、時間があるとは。さっきから連絡がひっきりなしに来てるぞ。」
「すぐに切りましたが見てましたか?さすがハンターは違いますね。ハハ。最近のソウルはちょっとしたブームじゃないですか。他のお国の客様もたくさん探されて……」
言いながらも、仲介人は何度もジオの方をちらちら見た。
羨望と好奇心に満ちた眼差し。
もともと安定性で人気のソウルだったが、どうか売ってくれというレベルまで来たのは、全部あの人のせいじゃないか?
徹底的な箝口令にもかかわらず、「ジオ」が居住する家を探しているというニュースは、財界に口コミで広まって久しい。
ヨーロッパの某財閥の代理人は、情報だけでも教えてくれと天文学的な金額を提示してきた。
「人はみな同じように生きている、財閥も大したことないな。権力者と人脈を築こうと隣の家を覗き見する連中だとは。」
正直、滅多にない巨額に心が揺れたが……。
仲介人は誇らしい韓民族として義務と良心を選んだ。
我が祖国の大黒柱。家ではゆっくり休んでいただかないと。どこぞの連中が覗き見するなんて、見ていられない。
「ご不便なことは一切ございません。プレミアムフルビルトインで、非常にプライベートに建てられた場所ですので。外部遮断はもちろん、世帯間の干渉も少なく設計されています。」
同じ階でなければ、入居者同士で顔を合わせることも少ないだろうと、仲介人が付け加えた。
「私個人の意見としては、先ほどご覧になったところも良いのですが、ジオ様がペントハウスは全くお嫌いだとおっしゃるので……」
「ペントハウスは人が次々と死んでいくみたいじゃないか。眼鏡をかけた奴がドゥーリーの歌を歌いながら追いかけてくるし。」
「え?」
「気にしないでください。戯言ですから。」
キョン・ジロクの溜息をよそに、ジオは家全体を見回した。
遮るもののない見晴らしの良い漢江ビュー。目に障るものなく広い室内を、間接照明がほのかに照らしている。
ホテル暮らしをやめ、本格的に物件を見て回ってから三日。
ここはドロドロのドラマを思い出すから嫌だ、あそこは見栄を張っているみたいで嫌だ……。
好みがうるさい依頼人のおかげで、意気込んで準備したのか、今日見たところはどれも悪くなかった。もう少し正直に言うと、悪くないレベルではない。
「ふう、成功したな。キョン・ジオ。」
「ふむ。」
冷たいキャリアウーマンのように冷たい目で窓際に立っていると、バンビが隣に来て立つ。
ポケットに手を突っ込んだ重度のシスコンは、不快な気持ちを隠すつもりは全くないようだった。
「おい。今からでもやめろ。食って寝ることしか知らない食いしん坊が、一人で何ができるっていうんだ。独立は独立か?」
「チッチッチ、愚かな子よ。さあ、神ジオ曰く『大人』とはだな。」
「グミのチュートリアルも終わったじゃないか。バレないように俺の顔色を窺う必要もなくなったし、何のためにこんなことしてるんだ?まさか……」
「ん?」
「お母さんのせいか?……居心地が悪いのか?」
言語の鎖の話だった。
互いに秘密が極端に少ない兄妹は、しない話が珍しかった。身上に関わることとなると、なおさらだ。それは言わなくても先に感じ取れるから。
ジオは顔を背けた。
キョン・ジロクが見つめ返す。聞き心地の良い中低音が落ち着いた。
「……母さんも辛かったんだ。あの時は俺たちみんなそうだった。知ってるはずだ、俺より姉さんの方が先に母さんを許したじゃないか。」
険しい目つきがいつの間にか和らいでいた。ジオの肩に乗せられる手つきは慎重だ。
優しくて思いやりのあるバンビ。見つめるジオの視線が、顔から首にかかったペンダントまで続く。
「ロク。」
「ん。」
「お前が『チケット』をもらった日、あの時私が言ったこと覚えてるか?」
唐突に投げかけられた言葉に、キョン・ジロクが少し眉をひそめた。
それをどうして忘れられる?ましてや他のことはともかく、キョン・ジオの言葉は些細なことでもほとんど覚えている。
「どうしてその話をするんだ。」
「死ぬな。お前が死んだら私も死ぬから。」
「ただ、忘れないでちゃんと覚えているのかと思って。私がうちのバンビをどれだけ大切に思っているか。」
「……つまらない。」
窓の外の漢江。
同じ方向をしばらく眺めていた二人。
ジオが言った。
「うちのパク女史を私がなぜ居心地悪く思うんだ?全然そんなことない。バンビ、君は知らないだろうけど、そもそも母娘の間には息子たちは知らないクールさみたいなものがあるんだよ。」
「じゃあ、何なんだよ。お母さんのせいでもないなら、グミのせいでもないんだろう。」
さあね。
ジオは数日前の会話を再び思い起こしてみた。
家族の中で誰が死んだのか分からないと言っていた回帰者。
彼の断片的で限られた話を聞きながら、キョン・ジオはようやく分かった気がした。
なぜ人物情報が彼を「主人公」と命名したのか。また、「失敗した世界の主人公」が何を意味するのかも。
実はあまりにも当然のことだ。
ペク・ドヒョンの物語では、ペク・ドヒョンが主人公だ。そこでキョン・ジオという人物は助演に過ぎず、その世界は主人公である彼の視点から記憶される世界。
ペク・ドヒョンが経験し、記憶する人もただ一人、ペク・ドヒョンだけ……主人公ペク・ドヒョンの完全に閉ざされた世界だった。
そして、どういうわけか、現在の世界はそんな彼を失敗した世界だと結論付けた。
失敗があるなら、当然「成功」もあるはずだ。
ここからが問題だ。
もし一つの世界を一つの物語だと仮定してみよう。
ある物語が同じ背景、限定された条件で「成功」を目指して動くなら……壮絶に失敗した後はどうするだろうか?
答えは簡単だった。
主人公を変える。
また、新しくリセットする。
「世界はある目的の成功のために動き続けているんだ。だからペク・ドヒョンを戻して、主人公の座から脱落させたんだ。」
そして、回帰したペク・ドヒョンが「初めて」接触した者が誰なのか考えた時、交代された主人公は高い確率で……。
キョン・ジオは確信した。
「私だ。」
「……これ、これを今。つまり、私の話だけを聞いてすぐに推論されたということですか?バベルとこの世界がある目的の成功のために試行を繰り返していると?」
あっけらかん。
ジオの仮説を聞いたペク・ドヒョンの反応だった。
「なぜ。違う?」
「あ、いえ……。考えもしなかった話なので、少し戸惑って。」
「ペクさん、もしかしてちょっと間抜け?バベルが塔の頂上にその懐中時計をわざわざ置いたと思う?明らかに、くそ、大失敗したら最初からやり直さなきゃいけないし、面倒だから、ただ乗りできるカモを一人引っ掛けて毒を盛っておこうってことじゃないの。ったく……。」
「毒、毒って!」
「犬扱いは嬉しくて死にそうだったくせに、ネズミ扱いは嫌なのか。」
「私にも好みというものがあります。いや、そうではなくて……少々お待ちください。」
ペク・ドヒョンはかなり混乱した顔だった。
なぜ今までそれを考えなかったのか、自責の念も少し垣間見える。
だからジオはぽつりと吐き出した。
「いいんだよ、水に溺れて今にも死にそうなのに、考える余裕なんてどこにある?藁にもすがる思いで掴むしかないんだ。」
あの時は本当にそうだった。
懐中時計がなぜそこにあるのか、どんな意図で来たのか疑わなかった。そんな暇はなかった。
世界は急速に崩壊していて、人々を数えきれないほど失った。
元に戻したい。
もう一度チャンスを得たい。
ペク・ドヒョンとその世界の生存者たちは切実だった。
「慰めてくださるんですね。」
「ふん。」
「……私を恨んではいませんか?面倒なことが大嫌いなのに、これが事実ならその程度で済む問題ではないじゃないですか。」
単純な世界滅亡阻止や平和維持のようなものではなく、私たちの世界の根幹と絡んだ問題だった。
今ではあまりにも慣れすぎて日常のように当然になったあの黒い塔と、彼を含めた全てについて。
「知ってる。」
以前から予想していた。
だから最大限知らないふりをしてきた。
他人よりも多くのものを見て、知っている魔法使いたち。ましてやキョン・ジオは一般的な魔法使いでもなかった。ペク・ドヒョンを「ちゃんと」見つめれば、日常は大きく変わってしまうだろう。
今、知ろうと決心した途端に核心にたどり着いたように。
「それでも仕方ない。」
ジオが失笑した。
「私のものは私が守らないと。ちゃんと拾うと決めたんだから。」




