175話 外伝9話
力が抜けたような雰囲気が冷たい。ジオは戸惑った顔で教官を見つめた。
「狂ったんじゃねえの、何言ってんだ?こいつ、マジで〇〇じゃねえの?〇〇」
[星位「運命を読む者」様が言おうとしたが、子供たちの勇気がすごいと舌を巻いています。]
「……本当に偽物だって?」
お星様の最後の終止符まで。
状況把握が終わった子供たちも緊張が解けたようだ。ヤン・セドがへたり込んで、オエオエ声を上げて泣いた。
「ママああ……」
「ほら、ほら。泣かないで起きて。」
しかし、教官は容赦なかった。
慰めるどころか、少し厳格な口調で雰囲気を一新する。
「よくやったのに、なぜ泣くんだ?みんな教わった通りによくやった。結束を解くのは満点。状況判断も満点。諦めなかったことまで全部素晴らしい!中学生のお兄さんお姉さんたちを差し置いて、君たちが現在最高スコアだ。」
教師ではなく「教官」。
ジオは淡白なその態度に、彼らがここに遊びに来たのではないという事実を改めて実感した。
単純な野外体験のように見えても、ここはセンターとギルドが明確な目的の下に主催するサバイバル式の能力開発キャンプ。
衣食住を自力で解決する生存環境も、危機的状況への対処も、すべてその一環なのだ。
「どうりで、何か間抜けだと思ったよ。」
「どうりで鍛えられた体つきだと思った……」
隣でキョン・ジロクもつぶやく。しかめっ面がジオと同じ気持ちなのが明らかだった。
ジオはさっと周りを見回した。
緊張しているように見えなかったこと、あるいは見えても無視していたことが、ようやく目に入ってきた。
ずさんな縛られ方をしていた手足、どうぞ私を使ってくださいとばかりに周りに丁寧に置かれた生活武器、かすかに漂う睡眠剤の匂いなど……。
「まさか、インドルミオ溶液をただの犯罪者が使うなんて……バランス崩壊だろ。」
雪山の魔水晶洞窟の奥深くで採取されるインドルミオ溶液は、世界でたった一人、「極地の大魔女」が流通させる。
純度が高く、控えめには安定剤や睡眠導入剤、
大胆には毒薬までカバーするこの魔性の溶液は、彼女が匿名でも広く世界に名を馳せたきっかけだった。
しかし、サプライズだったからといって、腹が立たないわけではない。チャン・セナがむっとして抗議した。
「むかつく、こんなのありえない!先生の名前は何ですか、うちのママに全部言ってやる……」
ドーン!ゴーン!
その時、突然壊れるドア。
キャー!
ソル・セラが悲鳴を上げた。ジオはハッと目の前を遮る大人の影を見る。
防弾型の黒服、そして強固な背中に刻まれた黒い文字。
[CRT(Crisis Reaction Team)]
緊急対応班。大韓民国最高の国家
覚醒者エリートたちの登場だった。中に進入した要員の一人が冷たく告げた。
「Aチーム、制圧して拘束しろ。残りは子供たちを連れて帰還する。」
「……え?ちょ、ちょっと待って!少し待ってください!私の知り合いなんです!」
慌ててその隙間をかき分けて出てくる一人。黒服一色の要員たちとは異なり、一般的な服装だった。
「あ、うちの傘下ギルド所属です。おい、パク・ドゥホン!この野郎、お前はなぜ無線を受けないんだ?」
制圧された教官に向かって、彼が慌てて叱責した。しかし、依然として周囲の視線は冷たいままだ。
「いや、その、度胸試しを担当する友人なのですが、途中で少しコミュニケーションエラーがあったようです……」
「……最近は度胸試しでこんなことをするんですか?」
しらじらしい口調で周囲をさっと見回す要員。現場のビジュアルが度を越していた。ギルド員は困惑して目をぎゅっと閉じた。
「鶏の血?鶏の血をどこに使うつもりですか。ただの水飴で作った血を、、、、、」
「兄貴、そんなものはリアリティにだけ任せてください!です。ハハハ。」
「ああ、あの勘違い野郎を使って。残念なことを言わないでください。重要です。あの、海兵隊出身数日前から過没入が尋常じゃないと思ったら、やっぱり!」
「その……覚醒して間もない新人なので、意欲が過ぎたようです。私が別途注意しておきます。」
「先輩、まだ状況終了ではありません。重要なことではないので、とりあえず。」
「……そうだな。とりあえず帰ってから話しましょう。子供たちを連れて帰還する。丁重にお送りしろ。」
ここにいる末端ギルド員たちは知らないだろうが、緊急配置された本部要員たちは、彼らが誰をエスコートすることになるのか、すでに注意を受けていた。
長い髪の要員が優しい手つきでジオを抱き上げた。マイクを切りながら小さく囁く。
「大丈夫ですか?どこか具合の悪いところは……」
「ないよ。ちょっと眠い。」
「眠いとおっしゃっています。眠いそうです。」
「無線を打つな、こんなことで……」
緊張が解けて、軽い疲労感があるだけだった。友達も一人ずつ抱きかかえられて場所を後にする。
ジオは頼もしい要員の腕の中で、体の力をすっかり抜いた。
★★★
雰囲気が妙だと思ったら。やはり単純なハプニングだけではなかったようだ。
戻ってきたキャンプ場の周辺はポリスラインが張られており、大人たちが集まっている方には、草木が剥がされたように地面がへこんでいた。
ニュースを見るのが好きなヤン・セドが、爆発のようなものがあったようだと言って友達にこっそり話した。
「ねえ、ねえ!みんな、これ見て。セドの言う通りだ。ここにリベンジテロが予告されていたんだって。」
足の速いチャン・セナがどこからか拾ってきて突き出す携帯電話の画面。
毛布を被って寄り添って座っていた友達が頭を寄せ合った。
画面の中、アナウンサーが硬い顔で話していた。
「すぐに追跡に乗り出した管理庁と警察は、近隣の旅館に滞在していた容疑者50代男性キム某氏を逮捕しました。キム氏は数ヶ月前、ゲートで経験した財産被害に対する報復心から犯行を計画したと自白しており……。」
「現場には多数の青少年がキャンプのために滞在していたことが確認され、大きな公憤を買っています。またしても大きな悲劇につながりかねなかった今回の事件に、政府は国民の高い問題意識が必要……?」
「あの、2ヶ月前だったか?東大門ゲートあったじゃない。そこで店をしていたおじさんだったって。すっかり潰れて銀獅子に恨みを持ったって……」
「銀獅子にどうして?店が潰れたこととそれがどう関係あるの?」
「それが、その時東大門ゲートを担当していたギルドが銀獅子だったから……」
ソル・セラの慎重な説明にも、ジオはよく理解できなかった。
キョン・ジロクが苛立たしげに自分の髪をかき乱した。
「まあ、そういうこともあるんだと思っておけ。世の中はそんな風に回ってるから。リベンジテロ自体が、亀裂被害者たちがハンターに恨みを持って犯す報復犯罪のことを言うんだ。」
自分が受けた悲劇、お前も一度同じように経験してみろ。
ランカーの家族が殺害されたことで有名になったこの「リベンジテロ」は、非常に大きな社会的波及力と同じくらいの数の模倣犯罪を引き起こした。
「もともとそうだ。世界を守るけど、皮肉なことに自分の周りは守りにくいのがハンターの現実……」
シニカルに言っていたキョン・ジロクがハッとして振り返る。しかし、ジオは彼を見ていなかった。
嵐が過ぎ去ったように剥がされた地面、慌ただしい大人たち、そして子供たちが去ってがらんとしたキャンプ場をゆっくりと視野に入れた。大切な、そして弱い自分の友達まで……。ジオは一度想像してみる。
万が一、自分の正体が明らかになったら、友達はどうなるだろうか?
また、家族は?
「……クソッ。これからは、ここまで計算に入れて動かないといけないな。」
「ん?何?」
「何でもない。」
最小限の露出で、最高の効率だけを引き出すように動く。幼いジオは、そうやって全世界が慟哭する覚悟を骨に刻み込んだ。
「みんな!保護者の方々がいらっしゃった!家に帰らないと。」
「わあ。ママが来たみたい、行こう!」
「とにかく!修練会に来ていたお兄さんたちが通報しなかったら、こんなに早くは捕まえられなかったはずだって。」
私たちのようにソウルから来た工業高校だそうで、表彰状ももらうと聞いたとチャン・セナがこそこそ話した。
緊急に開かれたワープホールの近く。
鬼気を抑えるタバコの煙が一人白い。遠く離れた保護者たちの側から離れて、斜めに立つ人影。
虎が見えそうで見えない合図を送った。ジオは軽く笑って友達と一緒に歩いて行った。
そして、賑やかなその場所で、瞬間横をかすめる清涼な気配。
「……俺はあいつ、マジで狂ってると思ったよ!捕まえておくから大人たちを呼んでこいって?頭がおかしいやつだとは前から知ってたけど、はあ。」
「だよな。剣道習ったやつらはみんなこうなのか、え?ペク・ドヒョン、何か言ってみろ。」
「ああ、高校生活1年生からスペクタクルだね。そうじゃない?」
制服を着た高校生の一団だった。
ジオはちらっと振り返る。
騒がしい集団の真ん中から飛び出してきた背の高い男子学生が見えた。
「あの人かな。気になるな。」
言ってみれば、一応恩人だから。後ろ姿だけなのが少し残念だけど、まあ縁があればまた会えるだろう。
ジオは未練なく振り返った。
そして……。
「ペク・ド、どうしたの?」
「いや……何か感じが。」
勘違いか、振り返った人波の中には何もいない。
「気のせいかな?」
慶州の風が吹く。目の前をかすめていく青い葉っぱにペク・ドヒョンは失笑して再び振り返った。
「いや、何でもない。」
ただ敏感になっていたのかもしれない。なぜか残念な気持ちがしたんだけど……。
★★★
鮮明なほど青々とした葉っぱ。
冷たい雪の中でもまだ生きているのが不思議だった。
十九歳、いつの間にか最後に制服を着る年だった。ペク・ドヒョンは葉っぱをそのままポケットに入れた。
「汚いな。何で床に落ちてるものを拾うんだ?」
「ただ。」
「天下のペク・ドヒョンも修能の日が近づいてきて気が滅入ってるってことか?」
「俺は修能を受けないって言ってるだろ。すぐ働くんだ。」
「マジで?受付はしたじゃん?」
「担任がうるさいから受付だけしたんだ。俺の分までちゃんと見てこいよ。」
「それなら来て床でも敷いてくれよな、義理のないやつだな。就職何するんだ?呼んでくれるところなんてあるのか?……まあ、お前くらいの面構えなら呼んでくれるところがないわけないか。」
友達が不満そうな顔で舌打ちする。ペク・ドヒョンは淡々と答えた。
「まだ生きている『魔窟』があるらしくて、そこから支援してみようと思ってる。手当はそこが一番高いから。」
「……生命手当だから高いんだろ、バカ。覚醒もしてないやつがモンスターの巣に何で行くんだ?マジで頭おかしいのか?」
「家賃滞納して何ヶ月目だよ。できる時にやらないと。そっち回れば覚醒する可能性も高いらしいし。」
「おい!」
停留所の人々が驚いて見つめる。すみません、頭を下げた友達が再び声を潜めて口を開いた。
「それでも、お前マジで……」
「ちょっと。」
停車していたバスが去り、向かい側に不意に固定された視線。
ペク・ドヒョンの視線をずっと追っていった友達が、おお、と丸く唇を尖らせた。
「あれ、あれキョン・ジロクじゃない?あの開明高校のコン・サンジンを前歯ボコボコにしたっていう中学生?隣は彼女か?」
スマホゲームに熱中していた別の友達が顔を上げた。見て、ぽつりと吐き出す。
「違うよ。兄妹だよ。歴代級のシスコンだって江南では有名だよ。」
「お前はどうしてそんなによく知ってるんだ?江南のやつでもないのに。」
「俺、塾そこで通ってるじゃん。親のすね、かじりながら。」
ちらちらと視線が交差する道路の向こう。
友達の雑談が耳をかすめる。ペク・ドヒョンはぼんやりと停留所に寄りかかって立つ女の子を見つめた。
ネクタイのない制服。弟の言葉にクスッと笑う口元、風に浅く揺れるミディアムヘア、細い顎。
素早く過ぎ去る車の間からその姿が見えたり見えなかったりを繰り返した。
「親不孝者め。お前は修能失敗したらマジで梁花大橋に行け。とにかく江南キッズたちがこんな遠くてダサい町までどうしたんだ?まさか転校してくるのか?」
「あの、あの子の名前は……」
「何の関係があるんだよ。どうせ俺たちは卒業する……あ、バス来た。おい、ペク・ド、俺たち先に行くぞ!」
キーッ!視線を灰色に染めながらバスが止まる。友達が去り、車も再び去り……。
「……消えた。」
あっという間に向かいの停留所は空っぽになっていた。反対側の道路から遠ざかっていく青いバスが見えた。
ペク・ドヒョンはしばらく見つめてから振り返った。
理由もわからない感じ……もし縁があれば、いつかどこかでまた会えるだろうと思った。
「すみません!おじさん!ちょっと待って!」
「おい、ナ・ジョヨン、何してるんだ?早く行こうって。遅れるぞ。」
視界から完全に消える青いバス。一生懸命走って追いかけていたナ・ジョヨンがズルッ、と床に倒れる。
「ハッ!ジョヨン!大丈夫か?」
「……だ、大丈夫だけど恥ずかしい。」
「だから乗るわけでもないバスをなぜ追いかけるんだ!」
「いや、これ……」
めちゃくちゃになった服を払いながらナ・ジョヨンが泣きそうな顔をした。一緒になって目に濡れてまだらになったヒヨコのキーリング。
「バスに乗ってるときにこれを落としたから、持ち主を探してあげようとしたら……」
「相変わらず優しいな。誰が班長様かってくらいおせっかいも……。目もいいな。それはまたいつ見たんだ?」
「返してあげることもできなかったのに、まあ。」
……うん、それでも洗濯はしておかないと。人の縁はわからないから。後で探しに来てくれるかもしれないし。
ナ・ジョヨンは痛む肘をさすりながらキーリングをカバンの中に大切にしまった。
「……え。私のキューティーパティー赤ちゃんチキンどこ行った?ああもう、どんな狂ったスリ野郎が寿命短縮を願ってやがる。」
「何わけのわからないこと言ってるんだ、また。」
苛立たしげに尋ねるキョン・ジロクにジオががらんとした自分のカバンをパタパタさせた。ひどく悔しそうな顔で。
「赤ちゃんチキンがいなくなったって、ブエーン。」
「その汚いヒヨコ?愛着人形にもほどがあるだろ、捨てる時だぞ。もう送ってやれ。」
「いや、違うってば……そこに私の非常金を隠しておいたんだもん。クソッタレスリ野郎がどうして金のことになると鼻が利くんだ。ああ、私のお金。」
捕まったら殺してやると、ぶつぶつと泣き言を言うキョン・ジオ。情けないホラーが他にいない。
「おい、いいから。俺、ついにギルド名決めた。決定。」
「覚醒もしてないやつがギルドって何だよ、うちの鹿も避けられない中二病怖い怖い……」
「……興味ないってこと?」
「いや、いや!何、言ってみて。」
白い日差しが窓を突き抜けて降り注ぐ。秘密を囁くようにキョン・ジロクがニヤッと笑った。
「バビロン(BABYLON)。」
人類文明最初の繁栄と最初の中心だった場所。破壊的な征服者たちの名札。
あの空に届くことを最初に願った名前であるだけに、その挑戦精神はまさに受け継ぐに値する。
「俺は、あの塔の最後まで登り詰めてみせるから。」
白い冬、雪雲の間から遥かに黒い塔が見えた。
塔の頂上に登るという弟の決意は、数年が経つにつれてすっかり熟していた。
とにかく何でも本気なバンビ野郎……。ジオは窓に頭を預けながら軽く笑った。
「うん、そうして。応援するよ。〈バビロン〉ギルド長様。」
もちろん応援だけ。
こちらがあの塔に登ることはないだろうから。永遠に。
外伝「少年期」 終




