173話 外伝7話
まるで得度した僧侶。仏のようなそのオーラに、子供が一瞬たじろぐ。
「どうしたんだ?」
近くにいて騒ぎに気づいてやってきた教官だった。
隣の組の子供が、ここぞとばかりに告げ口する。一部始終を聞いた教官が、ジオを優しく諭した。
「みんなが一生懸命やっているのに、一人だけ抜け駆けしちゃだめだ。さっき先生も協調性が大事だって強調しただろ。さあ、起きてみようか?」
しかし、言うことを聞かない子供の最も大きな特徴は、やれと言われると絶対やらないことだった。
ジオは、しらばっくれて目をそらした。生意気な子供の態度に、教官がそのタンブラーを取り上げようと手を伸ばしたその時。
「やめてください!患者なんですよ!」
今回もセッピョル小学校の生徒会長様だった。ジオの前を遮ったチャン・セナが、目をむく。
「え、患者?」
「そうですよ!昔、交通事故にあって死にかけて生き返った子なんですよ!タンブラーに入っているのは、具合が悪くて飲む薬!人生の苦味というのは比喩法だってことも知らないんですか、大人様は!?」
「そ、そうだったのか……?」
ジオは、そっと様子をうかがった。
困惑した教官と、全身で仕事をするチャン・セナ生徒会長。それならここでやるべき行動は……。
「……ゴホッ!」
「ジオは大丈夫?」
「あ、めまいがする。ああ、頭が……。今日も血を吐くのかな……?」
「ほら見てください!どうするんですか、先生!また倒れたら先生が責任を取るんですか?」
「さあ、とりあえず落ち着いて……」
「この組はどうしてこんなに騒がしいんですか?何か問題でも?」
彼らが貸し切ったわけではないキャンプ場。騒音の通報を受けて出動した別の大人。センター所属の要員が顔をしかめて状況をうかがい……
「ハッ?」
「あ、別に大したことではありません。ちょっと子供同士で言い争いがあったので止めようとしただけです。」
「大したことなさそうには見えませんが。」
「え?」
わけのわからない表情の教官を、要員はさっさと引っ張って行った。それでは先生方はこれで失礼します、続きをどうぞ、と手で払いながら。
子供たちから少し離れると、教官は手を振り払った。
「一体どうしたんですか、急に!説明くらいしてくださいよ!」
「正気ですか?所属はどこです?特別管理対象リストを受け取っていませんか?」
「は?J小学校ですが……。しかし、国がやっているプログラムに特別管理対象とは、一体何のことですか……。それって不正行為じゃないですか?」
「全くの一般人か。はあ……。バランスを取るために何人かは抽選で選ぶとは聞いていたが。」
「よく聞いてください、先生。これも全て人がやることじゃないですか。私たちも融通をきかせましょう。ほら、ここに、ここに。」
自分の胸元をトントンと叩きながら、要員は言った。小さくてよく見えないかもしれませんが、目を大きくして見てください。
「銀色のライオンのバッジをつけている子供たちには、絶対に手を出さないでください。爆弾だと思ってください。」
「爆弾ですか?一体どんな子供たちなんですか……。まさか国会議員の子供たちでもいるんですか?」
「うちのセンターが、たかがバッジごときで萎縮するところに見えますか?それは心外ですな。」
「申し訳ありません。納得がいかなくて。」
要員は、深いため息をついた。あの教官の気持ちが理解できないわけでもない。彼も初めて命令を受けた時はそうだったから。ただ。
「先生。爆弾処理を習う時、こう言われるんです。今にも爆発しそうな赤ちゃんを扱うように扱え、と。」
「ああ……」
「実は私も詳しい事情は知りませんが……先生も私のように、その点だけ覚えておけばいいと思います。」
重要なのは爆弾が何かではなく、爆弾であるという事実そのものだから。大人たちが視界から消えていく。
ジオは、つまらなそうに胸元の銀バッジをいじった。確かにこれを見るや否や、いなくなった。
「心配しないで、これだけは必ずつけていろと念を押されたけど。」
こういう魂胆だったのか?猛毒種のモンスターにでもなった気分だが、まあ。世の中楽になるから、悪くもない。
ジオは、再びテント張りに集中した友達をちらっと見た。
キョン・ジロクの隣で、ポールをひと掴み持って四苦八苦しているヤン・セド、火鉢を手際よく組み立てるチャン・セナ。
「ふむ、交通事故……」
確かにそうごまかした。
悪夢の3月のトラウマだけで何年も倒れて、時々血を吐くことまで全部説明することはできなかったから。
[あなたの聖約星、「運命を読む者」様が、子供たちの目は正確だと言い、どうして薬だとわかったのか不思議がっています。]
「そうだよね。また私が言ったのかと思った。」
気が利かないのか、それとも気が利いているのか。ジオは、国から丹精込めて貢がれたセンター特製安定剤を、もう一度ゴクゴクと飲み干した。
いつも飲むわけではないが、数日前のコントロール訓練中にまた一度暴走を起こしたため、少なくとも一ヶ月くらいはきちんと飲まなければならない。
「桃味でごまかしたけど……。ふざけてる?解熱剤シロップの味じゃん。」
「ああ、それにソル・セラはトイレに行ったきり、一体いつになったら来るんだ?4人でテントをどうやって張るんだよ!しかも1人は5年生なのに!」
「……ずっと5年生どうこう言うんだったら、本当に私までやらないってことになりかねないよ、チャン・セナ。」
「バ、バンビ、ちょっと手伝って!」
「兄貴、これも一人で持てないの?はあ、しょうがないな、貸してみろよ!」
「……お、お前ら!おい!」
とにかく、両班にはなれない。
ハーフアップにした長いストレートヘアをきれいに靡かせながら、セッピョル小学校の美少女ソル・セラが、走るようにキャンプ地に入ってきた。
息が切れるのか、しばらく腰をかがめていると、その隙を逃さずチャン・セナが甲高い声で指をさした。
「おい、ソル・セラ!あんた、そんな風にタダ乗りするつもり?あんたはキョン・ジオか、何なのよ!」
「セナが私に何もさせないように奪っておいて、私はどうして……ジオは悔しいジオ。」
「このアマ、黙ってろって言っただろ!」
「わかったってば、ボス。」
「はあ。道に迷ってどうしようもなかったの。途中で天使みたいな綺麗なお姉さんが助けてくれなかったら、もっと迷ってたかも?いや、そうじゃなくて!みんな、私が来る途中で何を見たか知ってる?」
子供たちの視線が一斉に集中する。
額の汗を拭ったソル・セラが、集まってみようと急いで手招きした。そして、緊張した顔で声をひそめて叫んだ。
「今、この森に……サ、殺人鬼がいるみたい!」
★★★
「ただのよくいる変質者だって。」
薪を投げながら、少年キョン・ジロクがうんざりしたように言った。全ての衣食住を自力で解決しなければならないサバイバル式キャンプ。
テント張り、火起こし、水汲み、浄水などなど。
バベルの塔出現以降、教科課程に義務的に生存訓練が含まれているだけに、特に難しいことではなかったが……ソル・セラが投げかけた話題は、解決される気配が全く見えなかった。
「でも、もしセラが見たのが本当だったらどうするの?やっぱり教官たちに知らせるのが……」
ためらいながら、ヤン・セドが言葉を濁した。キョン・ジロクは、神経質そうに言い放った。
「臆病者扱いされるようなことするなよ?ただでさえ子供だってバカにしてるのに。」
「でも……」
「世の中に、ジグソウのマスクを被って歩き回る殺人鬼なんてどこにいるんだよ?捕まえてくれって、宣伝してるわけでもないのに。ただのハロウィンの仮装みたいなもんだよ。」
「バンビ、あんたが直接見てないからそう言うんだよ!すっごく汚くて何日も洗ってないみたいで、まるでここにずっといた人みたいだったんだもん。」
道に迷ってさまよっていた途中、ソル・セラが森の中で偶然目撃したという怪しい身なりの男。
背筋が凍るようなジグソウのマスクを再び思い出したソル・セラが、ぶるぶると肩を震わせた。その言葉に、残りの子供たちは周りをそっと見回す。
ここは。新羅千年の古都、慶州の奥深い山。
点々と位置するテント村、その端に位置する彼らのテントは、森とすぐ近くで接していた。
キャンプ場はある程度人の手が加えられているが、暗闇に包まれたうっそうとした森の方は、とても人が住める場所には見えない。
「……よ、余計な話はやめて、ご飯でも食べよう!」
パン!手を叩いて換気するチャン・セナ(嫌悪ジャンル:ホラー・スリラー)の顔が、青ざめていた。
隣でうとうとしていたジオを、慌てて揺り起こす。
「ううう、ママ、あと5分だけ……痛っ!」
「寝てないで早くご飯食べろって。全部焼けたから。怖くないのか?ほら!食べろ!」
「うう、生臭い……」
夢うつつだったジオが、パッと顔を背けた。焼き魚を突き出す方向へ、アザラシのように素早く回避することしきり。チャン・セナがついに爆発した。
「こら!死にたいのか?ちょっとは食えって!ここまで来て好き嫌いするな!」
「放っておいてやれよ。」
対岸の火事見物をしていたキョン・ジロクが、ポツリと吐き捨てた。
「あいつ、魚はお母さんが焼いてくれるものしか食べないんだ。生臭いって言って。学校でもいつも残してるじゃん。キョン・ジオ、お前はこれ食べろ。」
一緒に焼いておいたホイル焼きのジャガイモを渡すバンビ。遅れて好き嫌い王の日常を思い出したチャン・セナが、顔をしかめた。
「生意気なガキだな。魚は全部同じだろ、母親が焼いてくれたら何が違うんだ?」
真剣な顔でジオが頷いた。うんうん、違うんだよ。
「うちのスンヨお姉様は、私の好みに合わせた手料理の達人だから。すでに慣らされてしまった体なんだよ。今回の人生は諦めてくれ、チョルボ生徒会長。」
「……だ、誰がチョルボだって!本当に死にたいのか!?」
「ホドルドル。セナはジグソウが怖いよお。今夜は殺人鬼が出てくるんじゃないかと一人で寝られないよお。怖いよお。ホドルドルドル。」
「セ、セナ!我慢して!ジオは患者なんだから、セナ!」
今日こそはあいつを殺して、私も死んでやるとばかりに襲いかかるチャン・セナと、それを必死に止める3人の友達。
その前で、平然とした顔でジャガイモの皮を剥くバンビと、パクパクと食べることしかできないこの区域のアグロキング。
しばらくそうやってテントが騒がしい中。
「あの、『幼稚園から人生詰んでる』……組?お前らの組の名前ってこれであってる?とにかく、7時までに食事を済ませて、赤い旗の下にみんな集合だって。」
「え、私たちだけ?」
「違う。全体。区域別に分けて呼んでるみたい。度胸試しみたいなのをするらしいよ。じゃあ、これで。」
他の組にも知らせなければならないと言いながら、伝達者が再び去っていく。度胸試し!友達は同時に顔を見合わせた。
嫌でたまらないという顔で、チャン・セナが深いため息をつく。
「ああ、本当に家に帰りたい……」
★★★
「さあ、みんな宝探しは知ってるよね?ルールは簡単だ。この紙に書かれたミッションの品を探してくるか、どうしても見つからない場合は、『宝物』と書かれた物を3つ探してくればいいんだ。」
制限時間は1時間。
一番早く終わらせた組にはプレゼントが用意されていると、教官が雰囲気を盛り上げた。
もちろん、ビリのチームには恐ろしい罰ゲームが待っているという、大人げない脅迫も一緒に。
「ふむ、プレゼントはおそらく〈銀獅子〉と関連したものだろうな?罰ゲームは何だろう。」
「決まってるだろ。みんなが寝ている時間に何かさせられたりするんじゃないか?徹夜の見張りとか。」
最後の葉っぱのようにしおれていた士気が、突如火山のように湧き上がる。
ジオは、両手をグッと握りしめた。今までになく深刻な表情で、断固として宣言した。
「セッピョル小学校の諸君、今日我々は優勝を目標に、与えられたミッションに臨むようにする。」




