171話 外伝5話
信じられないことに、その言葉にまた涙が出た。泣きじゃくりながら、キョン・ジロクは言葉を詰まらせた。
「もし、俺が強かったら……あの日、そこにさえいれば、パパを行かせなかったのに……。姉さんが一緒に行こうって言ったのに……。俺が、無視したから……!」
「ジオはお前を恨んだことなんてないよ。」
「違う、今も……!」
兄妹は二人ともめちゃくちゃだ。真っ青な顔の子供を見て、虎は小さく舌打ちをした。
「ちょっと具合が悪いだけだ。過ぎ去ることだ。強いお前の姉を信じて待っていろ。」
「……聞こえていないようだな。」
手に付いた血から拭くべきだった。
放っておけば壊れるのが目に見えていたから、気が急いたが。
虎は少年が再び自分の目を真っ直ぐ見るように引き寄せた。精神を明らかにする術に、少年の目から濁気がじんわりと消えていく。
「キョン・ジロク。日陰のない木を見たことがあるか?」
「人も同じだ。日陰のない人はいない。成長しながら、また生きていきながら、『人』なら誰でも一度は辛い思いをするものだ。」
低く続く大人の声が落ち着いている。キョン・ジロクはぼんやりと彼を見つめた。
「辛い人は辛い言葉を言う。」
瞬間、少年の頭の中に多くのことがよぎった。辛い姉、辛い言葉を言うママ……。
「誰かが分かってあげなければならないから。辛いと叫んでこそ、誰かが聞いて助けてくれるから。」
うーん、子供には少し難しいかな?しばらく言葉を選んだ虎は、簡単な比喩を見つけ出した。
「そうだ、夕立……。夕立が降ってきて一人が濡れたら、誰かが傘を差してあげなければならないだろう。」
「お前がそんな傘を差す人になりたいと思っていると思っていたんだが。俺の言葉は間違っていたか?」
傘
キョン・ジロクはその言葉を噛み締めた。
雨が降る日。一緒に日陰に埋もれるか、それとも包み込んでくれる日陰になるかは、結局成長しながら少年の選択になるだろう。
★★★
ジオは長い眠りから覚めた。
[あなたの聖約星、『運命を読む者』様が、再びそのような生意気な真似をしたらただでは済まさないと、恐ろしい脅しをかけています。]
「え……怒ってる。」
[星位、『運命を読む者』様が、子供のわがままに負けてばかりもいられない、寿命が縮まるとぼやいています。]
ぶつぶつ言いながらも、大丈夫かと優しく気遣っていた星様が、状況を簡単に説明してくれた。
一時的な魔力暴走現象。
ただでさえ不安定だった魔力が、一度に多くの契約をしたことで刺激され、体内の流れが一時的に乱れたのだと。
[〇〇様ほどの星だから収拾できたものの、そうでなければうちの可愛い子が大変なことになっていただろうと、星位が露骨に褒めを求めています。]
「ありがとう、お星様。」
[星位、『運命を読む者』様が、純粋な化身の姿に少し戸惑って咳払いをしています。]
[とにかく、もっと急ぎの者がいるから、そろそろ横を見るのが良いとアドバイスもしてくれます。]
「横?」
ジオは重い体を起こした。
暗い部屋の中、日陰の中で誰かが座ってこちらを見ていた。
遅い時間なので真っ暗だったが、ジオは難なく見分けた。
「バンビ……?」
静寂。返事がすぐに返ってこなかった。ジオが近づこうとベッドから足を下ろした。その時。
「俺じゃ足りないの?」
「足りないからそうなの?」
月を隠していた雲が退き、ついに闇の中から少年の顔が現れた。無表情な顔でキョン・ジロクが再び言った。
「姉さんが憎くなりそうだよ。」
「姉さんは自分のことしか考えてない。姉さんと姉さんが好きな人たちを見て、一人ぼっちの俺は振り返りもしない。」
「俺が自分のことを考えろって言ったじゃないか。俺の気持ちはそんなによく分かっているのに、なぜ俺のことは考えてくれないの?」
「怖い。」
俺、怖いんだ。
キョン・ジロクは、ずっと我慢していた本音を噛み砕くように吐き出した。
「姉さんは俺しかいないって嘘をつく。でも、俺は本当にそうなんだ。本当に姉さんだけなんだ。」
学校に行く時も、帰ってきた時も空っぽの家。毎日毎日、4人用の食卓で一人でご飯を食べ、温もりのないベッドで一人で眠りについた。
いつも彼を守ってくれた両親も、いつも彼と一緒だった姉も、全部そばにいなかった。
パパが死んだ。
姉さんが具合が悪くなった。
ママが、家族が崩れていった。
少年は怒っていた。
「姉さんしかいないから、姉さんを守ろうと俺が努力しているじゃないか。なのに、姉さんは……姉さんのいない俺のことを一度でも考えたことがあるの?それって本当に、地獄みたいなんだ。」
息が詰まると、キョン・ジオ。
「やめろって言ってるんじゃない。全部やめようって言ってるわけでもない。」
「ついていくよ。一人でいるのがどれほど怖いことか知っているから、姉さん一人にしないように追いかけるよ。だから。姉さん、だから。」
「お願いだから、ゆっくり行って……俺を一人にしないで。」
キョン・ジロクががっくりと首を垂れた。ジオは音もなく涙をぽろぽろと流す魂の片割れを……見つめた。
泣かないでと、慰めたかった。
慰めてあげたかった。
でも、難しかった。
数学の問題でも、魔法でも、世の中のことでも。難しいことなんて全くなかったのに、目の前の大切な弟を慰める方法だけは……ジオはどうしても分からなかった。
★★★
ウン・ソゴンは穏やかに微笑んだ。
結んでくれた人が誰か明らかな可愛いリンゴ頭と、お嬢様ワンピースを着た姿で堂々と彼の前に現れた、小さな女の子。
「聞きたいことがあるの、おじいちゃん。」
「ほほ、まさか私に学ぶことなんて一つもないと言っていたのではないか?筋肉バカと言っていたか……。」
「些細なことを気にするとハゲになるよ。ハゲになりたいの?男の人たちにとっては死ぬことよりも酷い災難だって。」
「そんな言葉はどこで覚えたんだ?」
「イムギのじいさんが。とにかく!」
ジオが腰に手を当てた。さすがセッピョル小学校のボス。勇敢だった。
しかし、年寄りにしてはとても元気なウン・ソゴンには、震える手とゴクリと唾を飲み込む喉が全部見えていた。
「……教えて。」
「耳が遠くなった?早く大人になる方法、教えてってば。」
ウン・ソゴンはわざと困ったように顎を撫でた。おやおや……。
「早く大人になる、か……。それではジオとおじいちゃんがこうして一緒にいられる時間も減ってしまうのに?」
深刻な顔で悩みに沈む子供。小さな頭で考えることがそんなに多いのか、ずいぶんと時間がかかる。ウン・ソゴンは笑って待った。
「あ!それなら。」
明るく叫んだジオが、少し躊躇する。もじもじと迷いながら、そっと顔色を窺いながら尋ねた。
「それなら……ジオが好きな人たちがジオを見て笑える方法。」
「おじいちゃん、それは教えてくれる?お願いします。」
ウン・ソゴンは慎重に自分の服の裾を握る子供の手を見つめた。
込み上げてくる、温かいようなものが心をじっとりと濡らしてきた。彼は黙ってジオをひょいと抱き上げた。
胸がいっぱいになった。抱きしめてくる子供の温かい体温を感じながら、ウン・ソゴンはかすれた声で囁いた。
「……さあな。悲しいことに、長く生きたからといって全てを知っているわけではないからな。すぐには分からないが、一緒に探してみようじゃないか。」
「うん。」
「これは、ジオが任せてくれた宿題のせいで、このおじいちゃんはもっともっと長生きしなければならないな。」
大きな手が小さな額を撫で上げる。なぜか懐かしい感じ。ジオは彼の首をぎゅっと抱きしめた。
「うん。ジオと一緒に、もっともっと長生きしてね、おじいちゃん。」
真冬の正午。窓辺を伝って白い日差しが入ってくる。
王として生まれ、後々世界に君臨する者だとしても、今この瞬間には未熟な成長期の子供に過ぎない。
ウン・ソゴンはどうかこの日差しが子供に長く長く降り注ぐことを心から願った。
★★★
「ジオとは口をきいていないと言っていたな?」
今日は少し違うことをしよう。
そう言ったウン・ソゴンが訓練室の代わりにキョン・ジロクを連れて行ったのは、邸宅の静かな場所だった。
ウッド、そして緑と金色で飾られた居心地の良い部屋。中央には巨大なグランドピアノと、かなり古そうな蓄音機が置かれていた。
珍しいものを見るようにあちこち観察していたキョン・ジロクが顔を上げた。
「あいつが言いつけたんですか?」
「会話をしたのだろう。今、ジロクとしているように。バンビがピアノを弾くのが好きだと、これもジオから聞いたんだ。」
「よくもおしゃべりしたな。」
「ピアノはいつから習ったんだ?」
「赤ちゃんの時から……ママが教えてくれました。」
音楽を聴きながら絵を描くのが好きだったママは、自分の子供たちだけは自分とは違って、好きなだけ学んでほしいと願った。ないお金をやりくりして、自分が少し家族全員が休めるジオが学園で自慢し、ママは
もっと苦労しても。ある週末になると、習ったバレエの動作をピアノの前に座って
少年に優しく音を教えてくれた。
「ママはね。幼い頃からこのピアノの音を聞くと、その日辛かったことも、腹が立ったことも全部消えてなくなるの。どう、息子?」
「うん!バンビも好き!ママが好きだから。」
「あらあら、可愛い私の子供。誰に似てこんなに優しいのかしら?」
生まれた時点から全てを記憶するバベル世代の新人類の子供たち。おかげで温かい思い出も鮮明なだけだった。
ディン。
降り注ぐピアノの音が澄んでいる。ウン・ソゴンは子供の眉間が久しぶりに和らいでいるのを発見した。
「聴くのも好きでなければならないだろう。」
「好きですよ。」
「良かった。」
並んで座った祖父と孫。長く没頭する鑑賞時間が続いた。
全4楽章の音楽。
静かな弦の音で始まった序奏、しかし生き生きと続き、獰猛な嵐のように吹き荒れ、勝利を叫ぶように終わった。
「……これ。タイトルは何ですか?」
「マーラーの交響曲第1番、『巨人(Titan)』というんだ。」
「若い青年の物語だ。傷にも関わらず、闇を踏み越えてついに光に向かう旅路。」
地獄から、再び世の中へ。
「自分に降りかかった運命と苦難に立ち向かい、闘争する一人の人間が『巨人』になる過程とも言うな。」
彷徨う青春の勝利。人間の英雄神話。
「おじいちゃんが好きな曲だが、一度弾いてみるか?教えてやろう。」
ウン・ソゴンは何か考え込んでいる子供をピアノの前に連れて行った。
巨人の序盤は遅いので難易度はそれほど高くない。
教えてくれる通りに鍵盤を一つ一つ押してみることしばらく。キョン・ジロクが突然口を開いた。
「俺はおかしいですか?」
「ある子がそう言っていました。俺はおかしいと。俺も自分が少し違うことは分かっています。でも……分かりません。ずっと腹が立ちます。」
乾いた山の火のように止まらない怒りが、音もなく少年を蝕んでいた。
「憎んではいけないのに憎くなります。俺もなぜこうなのか分から……」
「ジロク。」
荒い不協和音。
ウン・ソゴンは鍵盤を押し付ける少年の手を掴んだ。下ばかり見ている視線をなだめ、優しく目を合わせた。
「会話をする時は目を見なければならない。お互いに。」
「……あ。」
「時々、ここが言う言葉はここよりもここから聞こえるものだ。」
胸、唇、目元。
優しい手が順番に指し示してきた。
それに何かを悟ったキョン・ジロクの顔がぼうっとなる。ウン・ソゴンが再び言った。
「そして、その問いに答えるとするなら、このおじいちゃんは少し違う考えを持っている。おかしいのではなく……他人よりもゆっくり進むだけなのだと。」
もっと慎重に、傷つかないように歩みを進めるだけ。
「知っているか?鹿はとても臆病な動物だ。しかし。」
「丈夫な角が生えれば、立派な角が生えた雄鹿は誰よりも勇敢で頼もしい守護者になるんだ。」
ライオンも恐れず、虎と立ち向かい、誰の前でも退かず、自分の群れを守る首長。
「まるで『巨人』のように、だ。」
ママは森の中で群れを率いる美しい雄鹿の夢を見たと言っていた。その胎夢に沿って胎名もバンビ、名前もジロク。
近くで見つめ合う目からは多くのものが見えた。その中の愛情まで。
だからだろうか?ずっと一人で押し殺してきた話を話す勇気がようやく湧いてきた。少年はゆっくりと口を開いた。
「あの日、ママがキョン・ジオに……」
★★★
ザーザーザー。
20XX年の街。
爽やかな夕立が降っていた。通行人たちは急いで雨宿りをするのに必死で、周りに関心がない。
とぼとぼ、とぼとぼ。青年はその間を雨の中横切った。悠々と歩いていき、ある商店の建物の前に立ち止まる。
「おい。」
「……え?バンビ!」
「お前一体……正気か、どうかしてるのか?インタビューのせいで少し遅れるから、どこかに入っていろって言っただろう。」
輝かしい二十歳、いつの間にか世の中の『巨人』になった鹿。
そして見違えるほど成長した兄妹。
キョン・ジロクが斜めに大きな傘を傾けた。レインコートを着てうずくまっていたジオが、にやりと笑い返した。




