表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/501

168話 外伝2話

「……まだ寝ぼけてるのか?」


一番よく知っている片割れだけど、時々本当にどうしてああなんだろうと思う時がある。


慌てて追いかけたキョン・ジロクは、ため息とともにジオ親子の毛糸のボンボンを引っ張った。


「ジオ、何してるんだ。知らない場所では礼儀正しくしろと、お父さ……」


言ってはいけない


「……学校で習っただろう。忘れたのか?」


ジオはぼんやりと彼を見つめる。 天真爛漫な悪童のような目。 そこに少年が今感じている喪失感や苦痛のようなものはなかった。


よかった。


ジオさえ大丈夫なら構わない。


下唇を噛んだキョン・ジロクが再び口を開こうとしたその時。



ドーン!


突然、背後で大きな音がした。 開け放たれていた玄関が閉まる音だった。 同時に窓際のカーテンも一斉に口を閉じる。


外部の者たちは無言の力によって外に押し出され、邸宅内の使用人たちは深く頭を下げた。


どこからか獣の鳴き声、あるいは誰かがすすり泣く鬼哭のようなものが入り混じって聞こえてきた。


キョン・ジロクは足元の影が長くなるのを発見した。 素早くジオを自分の背後に立たせ、警戒するように周囲を見回した。


こいつがS級だとかそういうことは考慮しなかった。 ただの本能だった。


「ジオ、俺が時間を稼ぐから!」


「大丈夫だよ」


「え?」


「害を加えようとしてるんじゃないんだ」


……何言ってるんだ?


顔をしかめてキョン・ジロクがジオを振り返った。 しかしジオは本当に穏やかな眼差しだ。 固く握られた手をゆっくりと離すと、前に歩いて行った。


そしてジオがそうやって前に進んだ瞬間。



ドーン!


キョン・ジロクは急いで息を吸い込んだ。


ついさっきまで、あそこには確かに……誰もいなかったのに!


長く伸びていた影が一斉に何かの人影じんえいへと変わっていた。 ぞっとする。


冷たい気配に鳥肌が立った。 首と頬で産毛が逆立つのが感じられた。


その中で最も濃く暗い影がこちらにじわじわと近づいてくる。 黒い波が陸に押し寄せるように。


「ああ……」


錆びた金属のような嗄れた声で「それ」が囁いた。


「あなたを待つあまり、この長い歳月を彷徨ったのでしょう……」


偉大な運命。 待ち望んだ宿命。


長い歳月、闇に退化した目だったが、何よりも鮮明に見えた。 彼らを永遠と完全の世界へと連れて行く、燦爛たる黄金の光が。


世の外へと脱落したよこしまな者たちだったが、だからこそ一層、世界の意思に従わなければならない存在たち。


今、目の前にそんな世界が点じた彼らの主がいた。


オドゥクソニは驚異的な感激を感じながら、幼い足の甲に恭しく自分の額を当てた。


「娑婆世界に属して受けたこの老怪の真名、オドゥク……!」


- ドン! うぐっ!


しかし、最後まで言い終えることができなかった。


オドゥクソニは屈んでいた姿勢のまま吹っ飛び、壁に叩きつけられた。


一瞬にして変わった視界にジオが目をぱちくりさせた。 慣れ親しんだ匂いが嗅覚をぐいっと刺激してきた。


重くひんやりとした特有の体臭、タバコの匂い、その中に微かなお香の匂い……。


「ついに頭がおかしくなったか? 前後の見境もつかずに突っかかってくるな。 下品に」


オドゥクソニを強く蹴り飛ばした虎が、タバコをゆっくりと口に咥えた。


片手で火をつけようとしたが、子供の視線を感じてへし折る。 自分の腕に抱かれたジオを振り返り、彼が優しく視線を合わせた。


「……迎えに行けなくてごめん。 来る途中で何かあった?」


「うん。 大丈夫だよ」


「いい子だな」


こんな可愛い子に誰が被せてやったんだと言わんばかりに、毛糸の帽子に包まれた頬をくすぐる指先。


「……ハアッ! ハッ! 副代表! 予定があって来られないはずでは!」


虎が来るまで外でドアを開けようとずっと頑張っていた政府関係者たち。 後ろから慌てて追いかけてきたのか、乱れた息で肩で息をしている。


「ああ。 そうなるはずだったんだが……。 優先順位に遅れて気づいてな」



値募? ジオの笑い声に虎がそっと微笑んだ。


会議をひっくり返して出てきたので、後始末をするのに時間がかかるだろうが、特に決断を後悔はしない。


「引き継ぎはこれくらいでいいでしょう。 担当のチャン・イルヒョンチーム長には私が別途連絡しますので、これで……」


まだうろついているローサ前の老怪たちに無言の警告も送り、センターの人々も帰して……虎が忙しなく口を開くが。


ボフッ!


「……ん?」


彼の頑丈な足を蹴り上げる、向こう見ずな小さな足。


片方の眉を吊り上げながら虎は下を見下ろした。 縮れ毛の丸い頭頂部。 そして勢いよく顔を上げる顔。


「……こいつは」


敵意に満ちた少年の目に虎が口角を少し上げた。 険しい眼差しでキョン・ジロクが言う。


「降ろせ」


「すぐに」


年老いた獣ばかり、うようよしていると思っていたら、幼い獣もこんなに近くにいたとは。


虎はふっと笑いながらジオをゆっくりと床に降ろした。


睨みつける視線を維持しながら、キョン・ジロクは荒々しくジオの手を掴んだ。


こっちに来い。


「……何? なんで残念がってるんだ? 頭おかしいのか?」


「でも……大きくて楽なんだもん」


「俺が抱っこしてやればいいだろ!」


「バンビはちっちゃい……」


「こ、この怠け者が! お前は足がないのか? 自分の足で歩け! 明後日には4年生になるくせに!」


「また怒鳴って…… あうう。 ジオ、頭が痛い。 めまいが……」


「……大丈夫か? こっちを見て。 どこがどう痛いんだ」


「バカだな、大げさだよ……」



虎は失笑しながら首を横に振った。 年齢に似合わず鋭くはあるが、子供は子供。 まだ姉の甘えには免疫がないようだ。


幼い兄妹のじゃれ合いを微笑ましく見守りながら、周囲で変態のような笑みを隠していると。


「おお、こんなに家が賑やかなのはいつぶりだろうか……」


柔らかく剛直な声。 皆の視線が階段の上に向かった。 兄妹も顔を上げた。


銀色に近い白髪、長大な体格、西洋の映画俳優のようにハンサムな顎鬚が自分の服のように良く似合う老将。 この大邸宅の主人、「銀獅子」ウン・ソゴンが人懐っこく微笑んだ。


「幼い友人たちに感謝しなければならないな」




★ ★ ★


銀獅子邸。 ここは旧韓末に建てられたという。


日帝が憎たらしくて強奪したことに未だに居座っていると言いながら、夕食の最中にウン・ソゴンは冗談のように笑った。


「あまり冗談には聞こえませんでしたがね」


隣に座った、自称「イムギ」が自分の業績だと自慢したくてたまらなかったから……。 蛇の舌と鱗まで見た手前、正体を信じないわけにもいかない。


しかし、この話まで全部電話で伝えることはできない。 キョン・ジロクは自然に別の話題へと愚痴をこぼした。



「大人たちは子供たちをあまりにも簡単に騙せると思ってるんだから。 俺たちがバカだとでも?」


[「あらまあ本当に、賢いのね。 どこの家の息子さんかしら」]


「でもみんな優しくしてくれるよ。 まるで漫画映画に出てくるお姫様、王子様みたいに。 キョン・ジオはもうここが自分の王国だよ」


[「よかった。 でもそうだからといって、うちみたいに勝手な行動をしてはいけないよ。 感謝するとちゃんと挨拶することを忘れないで。 わかった?」]


「わかってるよ。 俺が子供でもあるまいし」


[「そうよね、うちの息子はもう大きくなったわ。 お母さんは当然信じてるわ。 きっとうまくやるでしょう。 それでも心配なのよ。 お母さんの気持ちわかる?」]


電話線を伝わってくる声が優しく、また恋しい。


キョン・ジロクは目を伏せた。


「お母さん、まだ病院にいるの?」


[「ええ、そうよ。 ああ、うちの息子に会いたいわ」]


「……姉さんもお母さんに会いたがってるよ」


[「……」]


「口には出さないけど、すごく」


[「……」]


「少しでも来られないの? 本当に少しでいいのに。 グミが具合悪いのはわかってるけど、あの子も具合悪いんだよ。 寝言でいつもお母さんを探……」


[「ジロク」]


慌てて会話を遮る声。 あるいは慌てて席を外す声。


[「ごめんね、息子。 お母さん行かなくちゃ。 看護師さんが呼んでるわ。 グミに何かあったみたい。 お母さんが後でまた電話するわ。 わかった? 愛してるわ。 姉さんにも伝えてね」] カチャ。




ツー、ツー……。


「……僕も愛してるよ、お母さん」


それなのに。


お父さんが死んだのはキョン・ジオのせいじゃないじゃないか。


お母さんがキョン・ジオを嫌ったらどうすればいいのか、僕はよくわからない。 あいつを嫌うのは俺を嫌うのと同じなのに。


「……バンビ?」


キョン・ジロクは後ろを振り返った。


ベッドで目を擦っているジオが見えた。 あんなに寝たのにまた眠いのか、夜8時にもなっていないのに眠ってしまったジオだった。


「どうした? また寝なよ」


「バンビの溜息の音で……。 何してるの? 寒くて寂しいから、早く来て抱きしめて」


キョン・ジロクは毎日お父さんの腕の中で眠りについたジオを覚えている。


世界で一番頼りになるキョン・テソンの片方の腕にはジオが、もう片方の腕にはジロクが抱かれて、彼らは長い夜を共に過ごしたものだった。


キョン・ジロクは具合の悪いジオが忘れてしまったお父さんの代わりに、自分よりも小さな姉をぎゅっと抱きしめてあげた。


「愛してるよ」


「お母さんが伝えてくれって、お前に」


「……ジオもバンビのこと大好きだよ」


お互いをよく知りすぎているため、辛いのは嘘が難しいということだ。 囁いたジオが再び眠りについた。


熱いその額に頬を埋め、少年はふと思った。


「早く大きくなりたい」


早く成長して、早く大人になりたい。


だからすべてを許し、すべてを愛し、弱いものを


自分の腕の中に全部抱きしめることができる大人になりたい。


そんな強い大人に……早く、なりたい。




★ ★ ★


……くそったれ、狂った家!


最初に見て綺麗な大邸宅だと思ったのは全部取り消しだ! 頭のおかしい妖怪の巣窟!


「離してください!」


「あらまあ、目がどうしてこんなにうちのお坊っちゃまとそっくりなの? 坊や、これもちょっと食べてごらん」


「離せって、この臭い年老いたカボチャ!」


自分の頬を粘土のように弄ぶ手を叩き落としたキョン・ジロクが、険しく目を吊り上げた。


「やめなさい、イムギ。 子供の性格が悪くなるでしょう」


「アイデイン……。 性格は気が強い方がいいんだよ。気に入ってやってるんだ、この野郎!」


片腕のイムギの爺さんがぶつぶつ言ったが、聞こえなかった。


キョン・ジロクはぼんやりと首を傾げ見上げた。 優しく少年の背中を撫でてくる、大きな手。


ウン・ソゴンが優しく目を合わせた。


「どうした? もしかしてこの爺さんが抱っこする姿勢が辛いのか? 悪かったな。 子供を抱っこしたのは久しぶりで……」


「あ、いいえ。 降ろしてください」


「よければしばらくこうしていよう。 ヒントをもらったんだ」


「はい?」


「自分がすることはバンビも全部好きだって……ジオが言ってたぞ?」


ジオも嫌がるふりをしたが、わっと抱きついてきたと言いながらウン・ソゴンがからからと笑った。


バンビの幼い耳がたちまち真っ赤になった。


「違うよ! キョン・ジオ、あいつ本当に!」


片方では命がけの鬼ごっこ。


目をひん剥いた九尾狐と仰天するジオ、そんなジオを抱いたままひょいひょい避ける虎の三つ巴戦を見ながらキョン・ジロクが歯ぎしりをした。




「ううっ、しくしく、旦那様! 私ですよ、私ユンですよ! 旦那様!」


「うわああ、ジオを助けて!」


「パリユン、私の言葉が聞こえないのか? 退くように警告したはずだ」




「狂った家……」


「子供を捕まえようとしてるじゃないか。 あれは一体どうしてああなんですか?」


うんざりしたように尋ねる言葉にウン・ソゴンは少し困った顔で笑った。


「さあな。 あれは我々も予想した絵ではなかったんだが……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ