16話
緊急災害速報
━ x月xx日 ━
! 緊急災害速報 [バベル庁]
3月7日 13時42分 ソウル特別市 北漢山一帯。京畿道 水原市 長安区 西側地域 2級 突発亀裂同時発生。危険地域へ直ちに避難してください。
! 緊急災害速報 [バベル庁]
3月7日 13時45分 京畿道 南楊州市 4級 突発亀裂発生。安全にご注意ください。
! 緊急災害速報 [国民安全処]
3月7日 13時50分 ソウル、水原、南楊州亀裂特報発令中。外出自粛、危険地域への避難及び接近禁止、高齢者などの安全確保など安全に注意し、災害放送を聴取してください。
ブーブー、
ピリンピリン。
祝日らしく人でごった返すカフェの中が一瞬にしてメールの通知音で染まった。
災害速報を確認したキョン・グムヒは、習慣的にYouTubeアプリから起動した。
インデックス画面はすでに別のバージョンに切り替わっていた。
リアルタイムの関心がすべて「ハンター」の方に集中したという意味。
YouTubeには2つのバージョンのインデックスが存在する。
一般動画がアップされる「ノーマルバージョン」と、ハンター関連動画がアップされる「ハンターバージョン」。
ハンターバージョンは右上ボタンで切り替わるため、よくウチューブ、またはハンチューブと呼ばれる。
ストリーミング時代。
ハンターコンテンツを前面に出した他のプラットフォームにシェアを奪われ続けていたYouTubeが打ち出した超強手だった。
最初から大衆の関心が大きかった覚醒者たち。
塔の中では撮影ができないが、ダンジョンを放置しておく手はない。
ダンジョン攻略ライブやマーケットのようなハンターたちの日常を撮ったVログ、亀裂動画などは業界に旋風を巻き起こした。
お金がとても儲かったのだ。
しかもレイド見物には言葉の壁もない。
再生回数(=お金)は国境を越えて天井知らずに跳ね上がった。
むやみにダンジョン攻略にだけ没頭する脱獄派の認識が良くないのも当然だ。脱獄派はほとんどこのようなユーチューバーだと言っていい。
そして芳年17歳。セッピョル高校1年4組。
キョン氏三兄妹の末っ子キョン・グムヒは、圏外ランキングの脱獄派炎上系ユーチューバーだ。
[LIVE!!!] こっそり放送) ソウルから南楊州へGO (流入歓迎)
[独学 生放送] え?ここでですか?いきなりですか?水原に来たらゲートに遭遇
[*LIVE*] サドンゲート三連発 一緒に応援しよう
「マジかよ。早すぎだろ。」
「あー、家に帰らないと?ねえ、みんなどうする?チュートリアルワークは怪獣フリーが定番じゃなかった?亀裂はなんでいつも首都圏にだけ集中してんだよ。」
「頭数が多いから。人口数に比例して発生するんだって。」
「今日からアフリカ移住を目標に人生プラン再設計に入るわ。」
「うん。もう金持ちが全部食い尽くしたよ。あんたは門前払い。」
「え、マジ!黙ってて!キョン・ジロクだ。」
[ 水原 長安区。5位ランカー キョン・ジロク 他 バビロンギルド到着 ]
カフェの壁にかかったテレビ。
速報が流れるニュースチャンネルにはLIVEマークがはっきりと付いていた。
揺らめく青い亀裂。
咆哮する怪獣。
撮影距離は遠い。
ヘリから軽やかに飛び降りるキョン・ジロクの登場にカフェの中の人々がざわめいた。
そしてすぐに建物の上を走りながら槍を召喚する姿がズームアップされると、あっという間にワールドカップ16強の雰囲気に転換。
「きゃーどうしよう!マジかっこいい うちの兄、最高 超イケメン!」
「ソルボ、騒ぎすぎじゃない?バンビの妹は別にいるのに、なんであんたが騒いでんの?」
「……あ、恥ずかしい。ゴホン、聞こえないふりして。」
ずっとリアルタイムタブを確認していたキョン・グムヒが顔も上げずに答えた。
「何か言った?」
「ちょっと、ほっといてあげなよ。あの子、自分のお兄ちゃんのこと全然興味ないんだから。まだ知らないの?」
「見れば見るほど不思議だよね。私だったら自分の血縁者が天上界ランカーだったら担いで歩くわ。バンビみたいに超絶イケメンだったらお小遣いもあげる気ある。」
「あんたのお兄ちゃん、いつもあんたにお小遣いもらってるじゃん。強制お小遣い。」
「ほんとそれな。生きて二酸化炭素濃度だけ上げてるようなやつだよ。あいつの頭の上にゲートが開けば願いが叶うのに。」
どうでもいい話をしている間も、視線はそのまま画面に固定。
ハンターという者たちはそうだ。どこにいても人の目を奪う力がある。
しかもランカー。
その中でもキョン・ジロクのような天上界ランカーの戦闘ライブは、毎日見られるものではない。
今このカフェの中でテレビの方を見ていないのは、スマホだけを見ているキョン・グムヒだけだった。
「うわ……マジ、やば。さっきのターンの仕方見た?あーよだれ出る。うちのバンビ、バンビ、ワールドランキング何位だっけ?」
「11位だったはず。」
「やっぱりレベルが違うね。絶対人間じゃないじゃん。」
「デビューしてまだ数年も経ってないのに、S級なのを考慮しても才能がすごい……そういえば、あの子の家も結構すごいよね。お兄ちゃんはワールドランカーだし、グムグムもハンターだし。お父さんもハンターだったんでしょ?お母さんとお姉ちゃん以外は、完全にハンターファミリーじゃん?」
「羨ましいなー。でもキョン・ジロクだけがあまりにも天上界すぎて。せめて一般人のお姉ちゃんがいてくれてよかった。グムグムと2人だけだったら、ちょっと剥奪感を感じて気分が悪かったかも。」
忙しなく動かしていたキョン・グムヒの指がピタッと止まる。
初めて顔を上げる。キョン・グムヒは気にせず鼻で笑った。
「何言ってんの?家族同士で何が剥奪感よ?それに私もどこに行っても引けを取らないわよ!何なの?」
「そうよ。うちのグムグムはユーチューバーよ、お前ら。チャンネル登録者がなんと1万人もいるんだから。」
「昨日バンビのインスタのフォロワーが3億人超えたって?1万人と3億人……うちのグミグミ、泣いてないよね?」
「クァク・ソラ、言い過ぎ。私帰る。」
「え、なんで?どこ行くの?グムグム、怒った?」
「いいの。どうせ行こうと思ってたし。トップテンが出たってあちこちで生放送始めて騒いでるわ。私も北漢山の方に行ってみようと思って。ソルボ、一緒に行く?」
いいよとソル・ボミが快く立ち上がった。
その時、キョン・ジロクが出ている画面を見ていたクァク・ソラが何気なく一言。
「何バカなことしてんの?お兄ちゃんチャンス使えばいいじゃん。すぐに1時間以内にチャンネル登録者3000万人は行くよ。」
隣のソル・ボミが止める間もなかった。
きゃあ!
全部テレビに向いていた目が、大きな音に一部振り返る。
キョン・グムヒは気にせず、髪を掴んだ手に力を入れた。
後ろに首が折れたクァク・ソラが驚いて泣きそうになる。
「な、何すんのよ!」
「ちょっと頭を使ってから喋って。事実でもむやみに言うな。なんで事実『暴力』っていうんだと思うの、ソラ?痛いから気分が悪いんでしょ。ソラ、あんたヤンキーなの?」
「……ご、ごめん。」
「うん。謝るべきよね。呼んでって言われたら私が勝手に呼ぶから。グムヒにはちゃんと計画があるから気にしないで、何も知らないうちのソラ。」
爽やかに笑ったキョン・グムヒが手をパッと離した。
そして振り返るとすぐに消える笑顔。
ソル・ボミがそっと顔色を窺いながら腕を組んできた。
「私は……何も言ってないもん。」
「あんたはバンビのこと好きな時点でアウトだよ。」
「えーん。グムグム、機嫌直して。ネイルしに行こうか?」
「北漢山に行くって言ってるじゃん。そこにジョン・ギルガオンが出たんだって。周辺までは行けなくても、うまくいけば帰宅姿は見れるかも。」
「え?それをなんで今言うの?は、早く行こう。」
そうしてカフェから出て行く直前。
キョン・グムヒはちらっとテレビの方を振り返る。
地面をなぞるキョン・ジロクの長槍に沿ってそびえ立つ木の監獄。
あっという間に都市の真ん中に、一つの樹林が誕生する。
4級怪獣である異種血鬼士たちが彼に届くこともできずに飲み込まれた。
キョン・ジロクはそんな彼らを振り返りもせず、そのまま正面の巨大な異界怪獣に向かって走っていく。
静かな喜悦に満ちた目で。
「あらら。スイッチ入ったね。今日絶対連れて帰るって豪語してたけど……ジオは今頃どこで何してるんだろう?」
一般人か。笑いも出ない。
まあ、前に出るのが年中行事レベルだから、あながち間違った話でもないか?
「どうして人間に生まれてきたんだろ。どこかの田舎の猫にでも生まれればよかったのに。」
人生の誰かを思い浮かべる足取りが自然と荒くなる。
見ているだけでもイライラする誰かのせいで、今ではほとんどキョン氏一家の伝統になってしまった歩き方。
ソル・ボミはなぜか怒っている友達の背中を急いで追いかけた。
出て行く彼女たちの背後で、キョン・ジロクの勝利を喜ぶ歓声が大きく響いた。
* * *
「わー。上手い上手い上手い。」
「な、なかなかやりますね!」
トントン。ペク・ドヒョンが軽く着地した。
さすがにちょっと遊んでみた回帰者は一味違った。
休憩を終えると、まさに破竹の勢い。
休むことなく変種食人種たちを退治すること約2時間。
チュートリアルが始まってから5時間で、すでにボス戦が目前だった。
途中で楽しく食事中の食人種集落にも出会い、ゾッとする沼も通り過ぎ。
まあ色々あったが、ジオが大きく出ることはなかった。
たまに後ろから銃を数発撃ってくれた程度。
もちろんその銃が魔弾の射手から取り出した悪魔銃だったが、些細なことは気にしないでおこう。
「あまりにも逆境がないから、そろそろ気まずくなってきたな。バベルまさか……やられたのか?」
化身愛に目が眩んだ悪辣な星に?
うちの家がもうすぐ崩れるって大慌てで判子押したら、実は再開発だったみたいな?
[あなたの聖約星、『運命を読む者』様が全部聞こえてると咳払いをしています。]
[バベルがあんなに世間知らずなやつではないと顔を背けてまた咳払いをしています。]
しかしそんな中でも成長速度はぐんぐん上がっていた。
+ 00:05:09:15 成長バフ(x5)
*(on)/off
[固有スキル、『ライブラリ化』熟練度: 17.12%]
[タイトル特性、『竜魔の心臓』、『魔力遅滞』 (2段階成長中)]
17.12%……
ちょっと待てよ。
いくら数学の時間にいつもぐっすり昼寝していた美大受験浪人生だとしても、この程度の暗算は朝飯前だ。
完了報酬まで無事に受け取れば、うーん……
「考えてみれば、騙された方が悪いか。」
危うく些細な同情心で大事をしくじるところだった。
感受性のない冷たい都会の女らしく、キョン・ジオは気持ちを引き締めた。
うんうん、頷きながら隣のナ・ジョヨンを後ろにパッと引っ張る。
ドーン。
ついに進入したチュートリアルのファイナルステージ、岩壁洞窟の中。
ナ・ジョヨンが立っていた場所がそのまま崩れる。
ジオは彼女を抱えて飛び降りながら考え続けた。
「もちろんそれでもキョン・ジオの面子があるから、情けなく騙されたやつだとしても人情はかけてあげないとね。こんなに惜しみなく与えてくれるお人好しには特に。」
ドググググー ドーン!
「ひゃあ!」
数千本の毒矢が土砂降りのように降り注ぐ。
ジオは適当に足を踏み鳴らして保護膜を張りながら悩んだ。
矢が結界にぶつかり、哀れに跳ね返された。
「ほどほどに面子を立てる程度にするんだ。でもうーん、一体何をすればいいんだ?」
シャー シー!
「お、お母さん……?」
万毒窟。
異界の毒蛇たちが柱の下で牙をむき出しにした。
ジオはその上をトボトボ歩きながら眉をひそめた。
まばらにあった柱はいつの間にかまっすぐな舗装道路のように繋がっていた。
「やることがないな。回帰者のやつが強すぎる。ボス?ボスの首でも絞める?いや。それでもチュートリアル用ボスのスティールはちょっと。」
そうして塞がれば壊し、道がなければ作って歩くこと数十分……
はあ。
キョン・ジオは巨大石像の下で腕組みをして、ため息をついた。
「何なの?ボスダンジョンなんでしょ?なんで何もないの?やることがないじゃん!」
「……」
「……ジョ、ジョジョ様!う、後ろ、後ろ!」
「あ?何よこれはまた?人の話を聞かずに無礼に睨みつけて!」
「ニャンニャン不便。」
「ニャンニャン不便だ。」
ペク・ドヒョンとナ・ジョヨンが同時に思った。
そして取るに足らない虚空へのパンチに、シナリオ〈始まりの祭典:人間失格〉の最終関門。
人身供養祭典を守っていた古代石像たち。
千年ぶりに目覚めた野蛮神の門番たちの目から赤い眼光が完全に消え去った。
事実上、機能喪失だった。
「インテリアのレベルが低すぎる。……誰が装飾品をこんなところに置くの?」
「それ元々そこにあったのが……い、いえ、何でもありません……入りましょうか?」
「ちょっと待って。あのね、色々悩んでみたんだけど。やっぱりボスステージはうちのペク執事が仕上げるのがいいと思う。大物だけど、快く譲ってあげるわ。」
「まあ。どうして人の器がこんなに大きいんでしょう!度量が本当に素晴らしいです!」
「見ればわかるでしょ?生まれつき偉大な人なのよ。」
「ああ。大きすぎてとても見ることができません。ジョジョ様!」
「さっきのが中ボスだった気がするんだけど……」
死んだやつは口がないと言った。
しかも何か言おうにも、中ボスのくせに死に方が虚しすぎた。
それでもペク・ドヒョンが見るに、ステージ難易度は手口が悪辣になったこと以外は以前の回と大きな違いはないようだった。
ボス戦までは難易度変更が間に合わなかったのだろうか?
考えを整理しながらペク・ドヒョンは先頭に立って巨大な石門を押した。
すると……
すぐに彼らを襲ったのは霧。
濃くて意識まで朦朧とする血の霧だった。
* * *
……あれ。
……
しまった。
精神系攻撃抵抗力を忘れてた。
糸が切れた人形のように倒れる化身を見て、遠くの聖位が遅れて額を叩いた。




