159話
視点を少し変えれば、始まりはまた連続的なゲート出現で……。
午前中いっぱい静かだったので、今日は何事もなく過ぎるかと思いきや、とんでもない、錯覚だった。
覚醒者たちは悪態を飲み込み、素早く移動した。
！緊急災害メール［行政安全部］37°31'33.6,,N 126°55'21.3"E 本日12時20分 2級突発亀裂発生。特別災害法に基づき近隣
覚醒者の応召を願います。
降り注ぐ通知。それも汝矣島を皮切りに、新村、COEX、舎堂、往十里……すべて2〜3級に準ずる高リスク群の大型ゲートだ。
情報を受け取ったハンターたちの顔色が悪くなった。
「2級……クソ！ウェーブだって？」
「冗談だろ？水替えってマジだったのか？本当に全部入れ替えるつもりかよ、バベルがクソ……！」
「落ち着け！場所を見ろ、なんとかなりそうだ。」
友人の叱咤にハンターはもう一度画面を確認した。そういえば、この見慣れた位置は……。
「……全部5大ギルドの近くじゃないか？」
汝矣島の〈バビロン〉、三星駅COEXの〈D.I.〉は、もはや担当区域。
新村にはウン・ソゴンのせいで現在、獅子たちが陣を張っており、往十里の方はファン・ホンの活動圏だ。舎堂方面は顕忠院があるので、白鳥がどこへ行くかは自明だった。
「それなら話は別だ！」
それなら、もう駆け引きだ。
わざと知らないふりをするのでなければ、勝算の高い戦場へ行かなければならない。
「私たちは汝矣島に合流しよう。」
「マジかよ？汝矣島が一番キツいぞ！」
「ビッグ3は昨日も戦ったじゃないか。疲れているはずだ。そしてバビロンには……あの『サセジョン』がいるから。」
「クラッシュバリア！危険です！」
「ちくしょう、電力をもっと上げろ！」
センター支援チームは焦燥感に駆られ、現場を見つめた。バリケードの内側、薄緑色の波がノイズのように揺れていた。
対モンスタークラッシュバリア。
怪獣出現時、周辺被害を最小限に抑えるため、ゲート付近地域に魔力コーティングを施す装置だ。
値段がべらぼうに高いため、2.5級以上のゲートオープン時にのみ使用することになっていた。このような最低限の安全装置すらないと、被害は
手に負えなくなるからだ。
しかし、今のようにモンスター数が多く、衝撃波が持続するなら……。
「もたない……！」
「……仕方ない、範囲を狭める！コーダー、私が言うとおりに固定値を調整して、左……！」
「バリアを切ってもいいですよ。」
いたずらっぽい声
汗に濡れた支援チーム長の首が勢いよく振り返った。体よりもずっと大きな盾を持ったショートカットヘアの女性。
〈バビロン〉No.1タンカー、ドミが軽快に顎で示した。
「もっと『良いもの』が来たから。」
ブゥゥゥン-！
半球型のドームがゲート周辺を覆う。人々の視線が一斉にそちらへ向いた。
風になびく防御コート。
黒色に近い暗緑色のそれはギルド支給品だが、着る戦闘員はごくわずかだった。
あの男ほど頭が固く、自分の所属を愛する人でなければ。
胸元の上、鹿の角の形の金色の紋章が光る。
現ランキング11位、「結界人F」サセジョンが集めた指の間から落ち着いて詠唱した。
「［継承結界第5型。属性付与、重力（Gravity）］」
［積業スキル、7階級最上級特殊儀式—『多重エーテル大結界』］
怪音が長く響いた。
半透明な結界の中、小型の怪物たちは
そのまま重力で押しつぶされ、残りは動きが鈍くなる。
「ナイス、サマ様！」
「ふざけてないで急げ。2級だから長くはもたない。」
笑う余裕もない。一見、状況が好転したように見えても、開いた亀裂はなんと2級。
サセジョンは青い穴から巨大な塊を出す別の魔獣を見て、ぎゅっと唇を噛み締めた。
「ギルドの最高戦力が席を外している今は、長引けば長引くほどこちらが不利だ……」
そして、聡明な参謀の予測は不幸にも的中した。
「火を消せ！」
「なぜテケテアがここに……！」
「これじゃ2級でもないじゃないか！」
火の鳥「テケテア」。
最初に南アフリカ共和国に現れた火炎系魔獣で、1級には及ばないものの、最終1.5級と判定されたモンスターだった。
非常に暑い地域にのみ現れる
ため、韓国をはじめとする北東アジアではめったに見られない種なのに……。
キエエエエエク！
「ヒーラーを保護しろ！うわああ！」
「ここは汝矣島！水属性、氷属性スキル可能なハンター緊急支援願います！1.5級に段階変更！魔獣テケテア出現、テケテア出現！」
テケテアの執拗な火は消えないことで有名だった。
火が燃え移った片腕に浴びせられるヒールとポーションを感じながら、サセジョンは呻き声を抑えた。
「スキルが使用できるように指だけ動かせればいいんです。早く……！」
まさにその瞬間だった。
ポツ、ポツポツ！
額の上に落ちてくる冷たい感触。炎を防いでいたハンターの一人がぼうぜんと上を見上げる。
「……え？こ、これ。」
ザアアアア-！
乾いた空からの雨だった。
風も、前兆もなく突然に
始まる。
あっという間に雨脚が周囲がぼやけて見えるほど降り注いでいた。
テケテアが怒りに満ちた叫びを上げた。巨大な炎の翼を羽ばたかせ、雨雲を自分の領域から追い払おうと試みる。
しかし、人々は悟った。
「自然発生した雨ではない。」
努力する人間たちがかわいそうで、上から降りてきたのではなかった。彼らと同じように地に足をつけて呼吸する一
人の人間が生み出した奇現象。
雨とともに降る魔力で肉体に活気が戻った。魔法系の誰かが叫んだ。
「9階級……ウェザーコントロール！」
その言葉を聞いた誰もが戦慄した。
自然法則という限界を自分の意志で打ち破る、超自然であり圧倒的な力。
国内で9階級以上の呪文を実現できる大魔法使いは、彼らが知る限り、たった一人だけなので。
「どけ。一緒に焼き鳥になりたくなければ。」
聞き慣れた低音！
サセジョンは勢いよく立ち上がり振り返った。激しい雨脚で薄暗くなった雨の中で緑色の閃光が光った。
［積業スキル、7階級上級槍術（強化）—『アウトレイジ（Outrage）』］
［星位固有スキル、『百発百中（百発百中）』発動］
シュエエエエエク！！
一筋の巨大な矢のような投槍
だった。
聴覚を切り裂く共鳴とともに風を切り裂いた槍がそのままテケテアの翼を貫く。
キャアアアアク！激痛にテケテアが全身をよじり悶え苦しんだ。
「あれを殺しても火は消えないんだよな？ちょっと生かしておくから早く消せ。」
「何してる？」
〈バビロン〉の若きボス、キョン・ジロクが
片方の眉を上げた。
あの生意気ささえ涙が出るほど嬉しいなら、俺はついに狂ったのか？サセジョンは唇を噛み締めた。
「こちらです。援軍もいます。」
「……チョンヒも？」
周辺の空中に浮かび上がる豪華な色の水晶たち。最上級魔石で細工したタリスマンだ。
サセジョンの近くにやってきて立ち、チョン・ヒドが肩をすくめた。
「結界に使う魔力容量が足りないんですよね？バッテリー費用はギルドに請求……ゴホン、若様のギルドなので特別に無料奉仕して差し上げます。」
「魔塔の人格破綻者がなぜ……いや、若様？」
「……まあ、そういうことです。」
曖昧に濁したチョン・ヒドが手を叩き、魔石を適所にセッティングした。
帰ってくるなり戦場投入だと文句を言うこともない。
空の雨は依然として止んでいなかったからだ。まるで呼んだ者の感情を代弁するかのように。
* * *
数分前、バベルの塔の前。
燃え盛るソウルの光景に視線を奪われたのも束の間。
合わさる『時間』の感覚が感じられるたびにチャンネル通知が一つ二つと浮かび上がった。
最近の亀裂閉鎖状況アップデートおよび警報から……ランキング。
ジオは数字が変わったチャットウィンドウをじっと見つめた。
I 8 | ギュニギュニ: 迅速な情報伝達のため、しばらく自粛してください。
I 8 | ギュニギュニ: ［至急］15日午後2時頃 ウン・ソゴン戦死。
「え？……あ、いや。これはありえない……これじゃダメなのに……？」
隣でチェ・ダビデが慌てて呟いた。他の者たちも確認したのか、重い沈黙が降りてくる。
ジオは目をそらしスキルウィンドウを開いた。
+ 保有能力
I . 積業スキル(47)
II. 星位固有スキル(5)
• 下位スキル: 運命の砂時計(特殊) ［対象なし I 1個選択可能］
「マジか。」
本当に逝っちまった。挨拶もなしに逝っちまった、うちのじいさん。
「……ジオ。」
キョン・ジロクが音もなく指を絡めてくるのが感じられた。慎重で深い接触だった。
しかし、ジオは大丈夫だった。
実は、自分でも驚くほど平然としていて落ち着いているようでもあった。
心臓が少し変に脈打っていることを除けば。
「もう逝っちまった人をどうしろってんだ。何もできずに昨日逝っちまったって言うし。やるべきことをやるしかないだろ。」
「何してるんだ、みんな暇なのか？国が空き巣に入られてあんなにめちゃくちゃなのに？」
ジオのように、一角をなす強者たちなら抱えているものも多いはずだ。
ここの全員が誰であろうと名のある強者たちだった。
みんなに『必要』な……。
下から始まった風に黒い髪がなびく。小さな足元に雄大な黄金色の魔法陣が浮かび上がった。
自然を歪めて雨を呼び、一寸の狂いもなく凛と立つその背。
後ろからその光景を見てチョン・ヒドはふと思った。
現実逃避なんてもうやめようと。
「あの女じゃなければ一体誰がトップに立てるんだ……？」
若干の敗北感と巨大な畏敬の念。その中で若い魔法使いの口元が歪んだ。一生忘れられない敗北の瞬間だった。
そして、躊躇しながら足を踏み出すチェ・ダビデ、硬い顔のファン・ホン、嗚咽を飲み込むナ・ジョヨンなどなど……。
みんなが自分の役割を果たすために移動する中、キョン・ジロクはぼんやりと自分の妹を見つめていた。
「バンビ、お前も用事を済ませてこい。パク女史とグミのことは心配しないで。」
「……俺が行く。」
「私の方が『速い』。」
乾いた声。人形のように何の感情も表に出さない顔。
『今回も』彼にできることはないようだ。
キョン・ジロクは押し寄せる自責の念に歯を食いしばった。舌先に広がる血の味がひどく苦い。
言いようのない感情に睨みつけてもジオは微動だにしなかった。
そのまま視線だけを交わし続けることしばらく。
「クソ……泣きでもしろよ。」
馬鹿で利己的な俺の片割れ。
噛み締めるように吐き捨てた罵声とともにキョン・ジロクが振り返った。
雨の中に消えていく弟。しばらく凝視してから魔術師王は『空間移動』した。
自分だけの悲しみ。
自分だけの憂鬱。
その前ではすべてが贅沢だった。
世界の魔力が帰ってきた主人を迎え歓喜に震えていた。邪な眷属たちが飛び出してきて慌ててひざまずいた。
トボトボ、トボトボ。
緊張感のない足取りが従者たちと巨大な邸宅の間を横切る。
まだ昔の主人の死に酔っている何人かが感情を抑えきれず這い寄ってきて足先に口づけをした。
「主よ。」
「我らの王よ……」
ジオは払い除けながら最も奥深くに閉じ込められた部屋へ向かった。
ギイイイ。
固く閉ざされていた扉が開き。
深い闇の中で目を開けるのは……禁制の呪縛に縛られた、哀れな一匹の獣。
爆発的に溢れかえる鬼気。霊気。また猛獣の殺気。
そのすべてを力でへし折り踏みつけながら娑婆世界の王が呟いた。
「葬式か。めでたいな。」
