158話
ソウルの西、セブランス病院。
国葬のために国会議事堂前の庭に移されるまで、ウンソク院長の殯所は一時的に病院側に設けられた。
許された弔問客はごく少数。センターのキム・シギュンはそのうちの一人だった。
「8位か……」
名前の前の数字が自分のものとは思えないほど見慣れない。キム・シギュンは複雑な表情で黒いネクタイを引っ張った。
「チーム長、まさかタバコを吸ったんですか?禁煙すると言って何年も飴ばかり舐めていた人が……」
「うるさい。アン・チサンは?」
「まだあちらにいらっしゃいます。」
歩いていき、廊下の隅に座り込んでいる男の前に立った。ずっとむせび泣いていた銀獅子の左腕は、もう完全に魂が抜けた顔だ。
「アン・チサン、そろそろ俺も疲れてきた。」
「副代表は外出を控え、専務は廃人に……皆で一緒に滅びようとデモでもしてるのか?いい加減にしろよ。偉そうにしていた〈銀獅子〉がたかが……」
「チーム長!」
「なんだ。俺も我慢の限界だ。」
「あ、いや。そうじゃなくて!」
「……誰かは立ち上がれと突き放し、誰かはじっとしてろと監禁し。人差別がひどすぎるんじゃないか、公務員様?」
高級ブランド店でしか嗅げないような洗練された香り。公務員たちの中ではなかなか見られない種類だ。
キム・シギュンはゆっくりと振り返った。黒色の喪服もモデルのように着こなす美男子、ジョンギル・ガオンが片手を上げて見せた。
「……なぜここにいる?」
「ああ。俺も嬉しいよ。」
「ふざけるな。ノア法を忘れたか?」
ノアの箱舟制度。アメリカの指定生存者制度と似ていた。
非常事態の際、主要戦力が一度に全滅する可能性を防ぐため、ハイランカー最低1名がバンカーに留まる国家安全装置。
「ジョー」とすべてのS級が不在で、銀獅子が死んだ今……指定順はジョンギル・ガオンだった。
「ランキングがひっくり返ってからどれくらい経ったと思ってるんだ。閉じ込めるなら俺じゃなくてハ・ヤンセを閉じ込めておくのが正しいんじゃないか?」
「くそ、ハ・ヤンセとは話が通じないじゃないか!」
「だから人は悪く生きるべきなんだ。俺みたいに善良に生きると、こうやっていいように利用されるんだよ。」
コーヒーでも一杯くれと言いながら、自販機の前へ場所を移すジョンギル・ガオン。
キム・シギュンは神経質そうに硬貨を押し込んだ。
「らしくもなく、そっちまでどうしたんだ?すでに合意済みだと思っていたが。」
「すぐに戻れ。急にハ・ヤンセのコスプレでもしたくなったんじゃないだろうな。忙しいのに仕事増やさないでくれ。」
「恥ずかしい。」
「何?」
一瞬聞き間違えたかと思った。
しかし、安物のコーヒーをすすりながら、彼がもう一度言った。
「恥ずかしいんだ。」
「……どういう。」
「じっとしていようと思ったんだ。このめちゃくちゃな状況で、俺だけ特別に休ませてくれるなんてありがたいじゃないか?ところが。」
用意されたバンカーは地下とは思えないほど庭もあり、人工の太陽光のおかげで暖かささえ感じられた。
そしてまた……静かだった。
誰も邪魔しないその平和さのおかげで、ジョンギル・ガオンはひたすら「考える」しかなかった。
「王は未来のために戦いに行き、獅子は死んでまで戦い、君子は無条件に戦うのに。」
俺はここで何をしているんだ。
「ちょっとした倦怠感を感じてドラマでも見ようかと、TVSをつけたんだ。」
その時、突然鳴り響く騒音。キム・シギュンは音がした方向に顔を向けた。
彼らから少し離れた左側、テレビ画面で生放送の速報が流れていた。
[おい、この野郎ども!離せ!俺が誰だかわかってんのか!]
[カメラをどけろ!お前ら何者だ、すぐにどけろ!]
ニュースの字幕は、マソクと高等級アイテムを大量に持ち出し、国外に逃亡しようとした人物たちが現場で発覚したという内容だった。
画面に映る、滑走路をめちゃくちゃに塞いだ数台の飛行機と車両。
洗練された英文ロゴのおかげで、誰の仕業かは明白だった。
キム・シギュンは横を向いた。顎を突いたジョンギル・ガオンの顔は静かだ。しばらくの沈黙の後、彼が尋ねた。
「キムチーム長、俺がドラマをなぜ好きなのか知ってるか?」
「ドラマには蓋然性というものがあって、人物たちが皆理由を持って動く。どんなにドロドロでもそうだ。だからとてもわかりやすい。」
「現実はそんなものが全くないんだ。天井も、底もなくて、全く限界というものがない。」
とんでもなく醜いことを平気でやってのけたり、生涯人間嫌悪に震えていたくせに、人々を救うために突然自分の命を投げ出したり……。
うんざりするほど度がない。蝋人形のような無表情でジョンギル・ガオンが呟いた。
キム・シギュンはふと、この男の過去を思い出し眉をひそめた。
「もしかしてまだ、その子を……亡くなった人のせいで感情的になっているのなら、本当にやめろ。」
「ジョンギル・ガオン?名前がギルガオンなの?私は「コウン」だけど……私たちの名前、ちょっと似ていますね。」
「誰、ああ。死んだ婚約者のことを思い出してこうしているのかって?まさか。」
そんなはずはないと言いながら、ジョンギル・ガオンが鼻で笑った。
「そんなに馬鹿で未練がましいはずが……
ただ、愛したものを失って残される人の気持ちくらいはよく知っているから。また、どう立ち上がればいいのかも経験して知っているから。
そのすべてをよく知りながら、傍観しているわけにはいかない。
無責任で醜い加害者たちと同じレベルに転落するのは、とても恥ずかしい。」
「結論、ノア法はもっと暇なやつを探してくれ。俺は獅子が残してくれた場所で仕事でもしないと。」
もちろん、商売人らしく若干の計算もある。
「忘れたか?キングが不在中に調子に乗ったら瞬殺刑だろ。俺、マジで怖いんだ、それ。」
大切にして、愛していたものを失った。
ジョンギル・ガオンも目と耳があり、銀獅子とジョーがどれほど親しい仲だったのか大体知っている。
帰ってきたら、おそらく何も見えなくなるだろうから、目をつけられるようなことは少しでも避けておかないと。
勘のいいこの「アルファ」は、彼らのキングが帰ってくるという事実を、一瞬たりとも疑ったことがなかった。
* * *
ニューヨーク、ロックフェラーセンター。
知っている。
もう死んでしまったものを愛し続けるほど愚かなことはないということを。
しかし、この多様な世界には、それでもしがみつかなければ生きていけないような愚かな間抜けも存在するのが問題だった。
「特に僕はその分野では世界一だ。」
「怖いな、なぜ独り言を?」
キッドは顔を上げた。メイクアップアーティストに扮したヘルパーがため息とともに手を引っ込めた。
「真似しようとしても、もう触るところもないな。とにかく顔だけはめちゃくちゃ整ってるやつ。」
「僕の食い扶持だからな。あの凶悪なシチリアで生き残った秘訣だ。最近はティミのおかげで少し隠れている面もあるけど。」
まあ、それでも僕たち二人は消費層が全く違う顔だから関係ないと言って冗談を飛ばす。
しかし、ヘルパーは笑えなかった。躊躇し、周りの様子をうかがいながら尋ねる。
「あの……ティモシーはどうしたんだ?全然見かけないけど。」
「心配か?」
「いや!そういうわけじゃないけど!それでも……ティモシーはいいやつだよ、団長。本当に。」
しょんぼりした子供の顔。
キッドはじっと見つめ、優しく微笑んだ。あらら。
「それでも殺すよ。」
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「もちろん、今すぐじゃない。うちのティミはまだ僕の盾になってくれないと困るから。」
最も適切な時に、最もふさわしい姿で送り出してやるつもりだ。たった一人の友達だから。
キッドは青ざめたヘルパーの頭を撫でた。
「驚くことはないよ、ダーリン。今日は違うと言ったじゃないか。今はせいぜいダンジョンにいるだけだ。時間がかかるだろうけど……僕たちも余裕を持って構えないといけないんじゃないか?」
魔力に変えた彼の目が真っ青な色に光った。
華麗な青系の美男。
彼を愛するファンとマスコミが「ボンベイサファイア」あるいは大洋に似ていると口を極めて称賛した色だった。
しかし、ヘルパーはこの豪華な外面の下に死んでいる彼の本当の色を知っている。
「この狂ったやつ……」
「……で、でもあまり無理に進めるのは……!」
「6月。」
怖い。〈解放団〉の「6月」、ヘルパーはそのまま固まって見上げた。
美しい指が彼女の顎を掴む。手つきは優しく、声もまた優しかったが……ヘルパーは、なぜか鳥肌が立った。
「これが今回のチャプターのラストチャンスだ。」
キッドが優しく目を細めた。
「「ディレクター」がすべてを引き継いだら、俺たちは以前とは違う戦いをすることになるだろう。もう少し複雑で、もう少し面倒な……」
「だから最善を尽くさないと。こんなことで文句を言っていたら、世界のために死んでくれた人たちがかわいそうじゃないか。」
「そう思わない?」
ヘルパーはいつ自分が頷いたのかもわからなかった。涙をぽろぽろ流していることさえ。
スキル「感情同化」の余波。
伝わってきたキッドの感情にヘルパーが耐えきれずへたり込んでしまった。全身が痛くなるほど強烈な痛みだった。
そんなことはお構いなし。キッドは平然とした顔で立ち上がる。手を差し伸べて起こしてやりながら微笑んだ。
「よくやってきたじゃないか、これからもずっとうまくいくさ。そうしてくれるだろ?」
敵を倒す方法はたくさんある。
しかし、絶対に勝つことも、殺すこともできない不敗の相手。至高の強敵を相手に目的を勝ち取る方法は一つしかない。
永遠に止めてしまうこと。
「ジョー」をこの世から隔離しなければならない。
彼は待合室から出て、巨大なタイムズスクエアを見下ろした。
無数の光が乱れ飛ぶ中、建物の外壁スクリーンで生中継画面が流れていた。
同盟国に派遣された放送局がリアルタイムで送信する韓国の状況。
燃え盛るソウルが鮮明だ。数日前までは誰も想像できなかった光景だった。
「あれ?マラマルディ!始まる前に挨拶しようと思っていたのに、今日のトークショーの司会を務めるマークです。」
快活に挨拶を交わす司会者
は浮き足立っている様子がありありだった。
「インタビュー絶対しない方がどうした風の吹き回しで応じてくれたのか!連絡を受けてここは大騒ぎになったの知ってます?」
「そうでしたか?」
「そりゃもう、みんな気になって仕方ないんですよ!神秘主義を貫いていたのに、なぜ……ああ、もちろん嫌だっていう意味じゃないですよ。」
「さあ、どうでしょう。アリバイ?」
さりげなく投げかけた本心だったが、カリフォルニア出身の司会者は自分の気分に酔いしれて興味もなさそうだった。早口で言葉を続ける。
「とにかく生放送だってことは知ってますよね?ワールドワイドだけど、俺を信じてください。こっちも運がいいけど、あなたもラッキーですよ。」
この道のベテランじゃないかと自分の胸をパンパン叩いて先に歩いていく司会者。キッドは失笑した。
言葉通り本当に彼の運がいいのなら、世界は今日終わるだろうから。
遅れてヘルパーがついてくる。彼は振り返らずに囁いた。
「アルケミストに伝えてくれ、ヘルパー。」
塔の「インターリム」で要する時間は最低二日。
しかし、その時間をすべて満たす忍耐力は期待しない方がいい。
ポケットの中の名刺が熱い。設計図はすべて終わった。だから。
「執行者(Executor)」キッドはソウルから目を離さないまま笑った。
「「雨」が降れば始まりだ。」
長い子守唄を歌う時間だ。
たった一人のために。
* * 米
そして。
49階の鐘が鳴ってから約10時間後。ニューヨークの生放送が始まってから30分後。
大韓民国ソウル全域に土砂降りの雨が降った。圧倒的な魔力で動き、炎を鎮圧する……。
戦っていた者たち、見守っていた者たち。誰もが例外なく悟った。
王の帰還だった。




