154話
最初からキスが上手な人なんて、忙しく働く国会議員みたいなものだ。つまり、想像上の動物ってことだ。
経験もないのに上手くできるわけがない。初めてのキスはすぐに終わった。
「これで合ってるのか……?」
誰が見ても放蕩に生きてきたような経験値MAXの相手からは、特に反応がなかった。
ジオは結局、曖昧な顔で下手くそに唇をくっつけることを繰り返した。ちゅ、ちゅ……。
しばらくそうしていたと思う。
最初は少し遠慮して。次は、なぜ何の反応もないのか不思議で。
そして今は……なぜか腹が立って。
「こいつ、なぜ何の反応も……」
唇も疲れたし、イライラする。顔をしかめてジオが彼の体の上から起き上がろうとした瞬間。
【……今更やめるなんて、どういうつもりだ。】
遅すぎる。
そこまでが、彼が持っているすべての忍耐心の限界だった。
可愛いからと曖昧に済ませるには、彼は待ちすぎたし、我慢しすぎた。
両手がジオの頬を包み込んだ。左手が顎のラインをなぞり、首の後ろを覆う。
それが始まりだった。
「ちょ……、ちょっと、待って……」
声を出すことができなかった。言葉が崩れる。
必死に彼の服の裾を掴んだジオの手に、ぐっと力が入った。どうすることもできない小さな頬を握り、彼が顎を深く傾ける。
タッ。床を荒々しく叩く音がした。
いつ姿勢が変わったのかもわからなかった。いつの間にか背中に行き止まりが触れた。
おかしくなる感覚と同時に、唇を離そうとするたびに「まだ終わってない」というような没頭した呟きが返ってきた。
ジオは手を伸ばした。
伸ばすところすべてに彼がいた。
本能的に自分の腰を支えた彼の腕を伝って上がっていく。指先に触れる筋肉が熱い。
固く血管が浮き出た手首から、彼の激しい鼓動が感じられた。
ジオはこの傲慢に見える超越者が、自分に恐ろしく集中していることを全身で感じることができた。
そしていつの間にか自分もまた。
【……今度はまた、どんなクソ野郎が貴様の初めてを奪っていくのかと思ったが。】
ねっとりとした声、乱れた眼差し。
消えない熱気を無理やり抑えた低音で、星位が低く笑った。
【ありがたいことに、クソ野郎当選か。】
口元を優しく拭う手つきに、ようやく我に返る。ジオは握っていた彼の髪から慌てて手を離した。
「クソ……、ゴホッ!ゴホッ!」
タイミング最悪……。
堂々と「お前がクソ野郎だ」と言ってやろうとしたのに、よりによってまたそこで音程が外れる。
ジオは顔を背けて咳払いをした。
その無表情で白い顔から、交わした交感の痕跡を発見するのは、また別の面白さ。
「運命を読む者」は、赤らんだ頬から目を離さず、包んだ腰を自分の方へさらに引き寄せた。
【冷たいな。熱烈なキスが終わったら、パートナーの目を見るべきだろう。それがマナーじゃないのか?】
「そ、そうなの?」
【……ああ。】
「……笑いを堪えないで。こんな放蕩なクソ野郎が、純真無垢な二十歳をからかってる……これ、離して?あっちへ行け。」
憤慨した野良猫の拳。
決して軽くはないジャブが、バシバシと飛んできて突き刺さる。キスは上手なくせに、またこんなに上手いのかという言葉が混ざっているのを見ると、複合的なようだ。
意図する通りに受け止めながら、星位が答える。
【ふむ、知らなかったか?実は、真の私の名前は「運命を読むキスマスター」なのだが。】
「こいつ、本当に狂ったのか?」
手の甲で馬鹿げたことを言う顎を払いながら、ジオが顔をしかめた。
少し雰囲気に飲まれたが、冗談を言っている場合ではない。
「すり切れて余裕なのはよくわかったけど、もらうものもらったら、出すものも出せ。」
【……余裕?】
私が?
星は微妙な顔で彼女を見つめた。
時々、こいつは勘が良いのか、悪いのかわからなくなる。彼は作り笑いを浮かべながら、後ろに寄りかかった。
【そう見えるなら幸いだ。私は今、正気で会話しているのが不思議なほどなのに。】
あまりにも長くかかった出会いだった。
ここでジオを見て、自分自身が思ったより平然としているので、長い待ち時間に鈍くなったのかとも思った。
しかし、違った。
彼は実感できていなかっただけだ。唇が触れる瞬間まで。そして……。
【愚かで無知な貴様にはわからないだろうが、快感が持つ欠点は、その強烈さと同じくらい……短いということだ。】
意味深な言葉、苦い笑顔。
ジオは異変を感じて、ハッと振り返った。囲まれた空間の感じが前と違っていて、その原因を発見するまで長くはかからなかった。
広大に整列した本棚の端。
その端から微細な亀裂が入っている。
「運命を読む者」が、微かな笑みを浮かべて呟いた。
【反省しておけ、化身。】
【私の崩れた精神力には、貴様の功績が実に大きいのだから。】
瞬間、感覚が研ぎ澄まされる。
ジオはぼんやりと見つめた。膨張するように、彼の「格」が体を膨らませていた。
「全部じゃなかった。」
ほとんどわかったと思っていたのに、それさえ彼のほんの一部に過ぎなかった。
驚異的な超越者が近づいてきて、指先でジオの髪の毛を一本なぞる。
こんなに近いのに……。
また、こんなにも遠かった。
【約束は守るから心配するな……。別れの時だが、何か言い残すことは?】
白色星系に一人立つ灰色の影。
偉大な星。
全知なる虚空録の全能なる主人。
無情な絶対者であり、名もなき未知の契約者であり、また……堅志五の唯一の聖約星。
数多くの名前を持つ彼だったが、今この瞬間には、ただ孤独な一人のようにしか見えなかった。驚愕する存在感で掌握したこの空間でさえ。
だからジオは言った。
「……どこへも行かないで、私のそばにいて。」
【……。】
「いつも。」
【……ああ、いつも。】
長く生きて得な点は、泣きたくても、泣かないことにもっと長けているということだ。
最後の言葉を噛み締めた彼が、ゆっくりと頭を下げた。
丁寧な口づけが、小さな額と瞼、鼻筋を経て、唇の上へと優しく降りてきた。
少し前の激情的な交感とは違った。つまり、これは「挨拶」だ。
ジオは目を閉じた。
やがて、徐々に彼の感覚が消えていった。
米 * *
『究極星位、「■■■■」様が
身を起こしてバベルの塔を眺めます。』
ギイイイ。
終わりのない深淵の中で、数億個の虚空門が開き……。
「上位権利行使、確認中。」
『上位星系の権限により「内部テスト:インターリム」が強制終了されます。』
* * *
帰還者ペク・ドヒョンは、自分が無意識世界に入ってきていることを、非常に早く悟った。
「……ドジャン、バビロンギルド長!」
「……はい。」
「私の話を聞いていますか?いや、こちらの話をちゃんと聞いているんですか?」
1回目の記憶だ。ペク・ドヒョンは無表情で相手を見つめた。
責め立てていた政府側の人間は、その殺伐とした顔と向き合って、彼が昨日同僚たちの葬儀を済ませたという事実を思い出したようだった。
しまったという様子で、もごもごと言葉を続ける。
「ふう……、集中してください。心情はわかりますが、皆が大変な時期じゃないですか?」
「注意します。」
口が勝手に動いた。
この無意識世界では、体は思い通りにコントロールできないようだ。ペク・ドヒョンは正面を見つめた。
様々な顔が浮かんでいるテレビ会議。見慣れたセンターの地下会議室だった。
元々は政府側が密かに使っていた空間だったが、協会及びギルドが役割を果たせなくなると、一箇所に凝集することになった。
「とにかく、東部戦線の方が騒がしいです。臨時に北部から〈ヘタ〉が降りてきて食い止めていると言いますが、北部もギリギリなのは同じじゃないですか。」
「落ち着いていく過程でしょう。大変なことがあってから間もないからそうなのであって、〈バビロン〉も徐々に収拾していくはずです。そうですよね?ハハ。」
「臨時ギルド長がソウルにいるのに、どうやってですか?残りのギルド員たちも指揮系統が整ってこそ、収拾しようにもできるんじゃないですか?ペク・ドヒョンハンターから派遣するのが正しいです!」
「騒ぐな!じゃあ首都はどうするんだ、この人!戦死したキム・シギュンチーム長の席は誰が埋めるんだ!あんたが埋めるのか?」
「首都にはまだ〈ウンサジャ〉がいるじゃないですか!北部から東部まで降りてきて食い止めれば、二箇所とも一度に崩壊します!」
「この人が……皆死んで消えた〈ウンサジャ〉に誰が残っていると!首都が崩壊すれば、国も崩壊します。え?私がこんな基本的なことまで説明しないといけないんですか?チッチッ。」
年老いた議員たちが、聞けというように嘲笑った。大きく首を横に振る。だから経験のないやつらはダメだとか、舌打ちをしながら。
熱心に反論していた管理局所属の要員が、悪態をつきながら画面から消えた。答えが見えないというその表情は、ペク・ドヒョンもよく知っている種類だった。
「いつからこんな風になったんだ……?」
透明な政府、正義の政治などなど。夢見ていた理想ではないにしても、見ていられるくらいには機能していた国家は、本当に圧倒的な力による抑制だったようだ。
「彼女」が消えた後から、国は急速に内側から腐っていった。
強制的に「ジョ」の正体が明かされた後……幼いものが大きな力を得て傍若無人だ、大事なことを知らないと猛非難していた世論も、後になって後悔するのに忙しかったのだから、推して知るべしだ。
場内の声がどんどん大きくなっていた。ペク・ドヒョンは我慢できずに立ち上がった。
「意味のない議論はこのくらいにしましょう。どうせ行くつもりでした。東部戦線へ。」
「あ、来たの?」
「遅れて申し訳ありません。」
「いいんだよ。ソウルでも色々あったでしょ。年寄りどもは見なくてもわかるよ。ご苦労様、ルーキー。疲れてるだろうけど、すぐ投入?」
ギルドに入ってからもずいぶんと経ったが、ドミをはじめとするギルド員たちは、まだ彼を「ルーキー」と呼んだ。
「なぜ一人でいるんですか、姉さん。セジョン兄さんはどこに行ったんですか?」
「あの廃人を何のために探すの。どこかに行ってまた酒を飲みながら、ヨンボスのことを嘆いているんでしょう。」
21世紀最高のキングメーカー、〈バビロン〉の「張良」と呼ばれていたそのサ・セジョンも、忠誠を誓っていたリーダーの不在の前ではまともではいられなかった。
死んだのか、生きているのかもわからない堅志録の行方を掘り下げながら、月日を無駄に過ごすだけ。
苦笑するペク・ドヒョンを見て、ドミが話題を変えた。
「体調が良ければ、少し手伝ってくれない?台風のせいで流速が速くなって、今日は特に遺体収容が大変なんだ。」
「昨日午前中にゲートを閉鎖したと聞きましたが、まだ全部見つけられていないんですか?」
「それが、このくらい探したら、本来は遺失として分類するのが正しいんだけど……戦死者が、そうやって見送ってはいけない子だから。」
「誰なんですか?」
「え……聞いてないの?」
こめかみをぐっと押さえたドミが振り返った。ぼんやりと笑う。
「あの子だよ。『静かな夜』……ナ・ジョヨン。」




