14話
ジー……。
チュートリアルフィールドを照らしていたモニターも全部ノイズが入って使い物にならない。
難易度変更のお知らせ以降、状況がどうなっているのか全く分からなかった。
「バベルにモニタールームのような空間が存在する理由を知っているか、ジョー」
「見込みのある奴を拾ってきて育ててみろってこと?」
「それもそうだが、『モニタリング』の本質は予期せぬ事態に備えるためだ。対象が初心者なら保護のための観察だろうし」
〈銀獅子〉のギルド長と副ギルド長、バンビ、そしてジョー。
皆去ってごく少数だけが残ったモニタールームは静かだ。
ウン・ソゴンが真剣な口調で言った。
「ルーキーたちをここで失ってはならない。彼らは未来だ」
「何大げさな?ただの難易度変更なのに」
「私はバベルがモニタールームのようなシステムを用意したのは、このような突発的な状況のためだったと思う。『塔』が揺れた。初めてのことじゃないか。決して良い兆候ではないだろう」
「……だから何だって言うんだ?」
ジオはそっけなく言葉を続けた。
「 勝手に出てくるだろ、坊やお前の何だ?。知り合いでもい……」
「ハッ?」
いた。
キョン・ジオが。
フードの下でジオの瞳が揺れた。
そういえばペク、ペク執事……!
さっきまでソファーにのんびり座って「行け、回帰者。一番はお前だ!」と心の中でニヤニヤしていたのに、うっかりしていた。
急に言葉がなくなったジオ。
ギルド員たちを先に帰し、一人残ったバンビが我慢できずに口を開いた。
「お気持ちは分かりますが、獅子王。既に始まったチュートリアルは中断も不可能、途中参加も不可能です。ランカーなら尚更です。よくご存じでしょう。不可能なことでジオに負担をかけないでください」
「そのつもりはなかったのだが。そう聞こえたなら謝ろう」
「いいえ、謝るほどのことでは……まあ、もどかしいのは私も同じですから。星位たちが助けてくれるならまだしも、誰が抑止力まで行使してランカーに『専用チケット』を渡そうと……」
ビクッ。
「……」
「……」
ジオは生唾を飲み込んだ。
冷たい。
皆の視線が飛んできて突き刺さる。
だが心配するな。鉄面皮には隙がないから。このまま何事もなかったかのように家に……
「……動くな。鉄面皮でも発動したか?」
「ちくしょう。片耳ピアス、バンビめ。」
[特性、『鉄面皮』が無効化されます。]
まるで鷲のようにフードを掴んだバンビの手。
ギギギ。金属音のようにジオの首が回った。
「な、なに?わ、私に何かようでも?」
「お前……本当に不思議なんだが、お前嘘が下手すぎるって自覚あるか?俺も一度くらい騙されてみたいものだ。いいから正直に言え。お前の親バカ聖約星が『フリーパス』を渡したか、渡してないか?」
「シナリオ作ってんじゃねえよ、バンビ野郎が!」
「嘘ついたら指ちょん切るぞ。あ?」
ドタバタ。ドタドタ。
キョン氏兄妹の喧嘩を見ていたウン・ソゴンが心配そうに隣に聞いた。
「虎、止めなくていいのか?子供たちの言葉がひどすぎる」
「放っておいてください。あいつら今遊んでるんです」
経歴10年のベテランベビーシッター、虎が淡々と答えた。
ジオの世話をしながら数百回も見てきた猫と鹿の大騒ぎだった。
彼の言葉通り、言い争っていた喧嘩は、バンビがジオの手首をまくり上げて終わった。
「うっ……!」
腕の内側に刻まれた、白色のバベル紋章。
一般的なチケットとは異なり、粟粒ほどの大きさだったが、優秀なランカーたちの視力には非常にはっきりと見えた。
聖約星が星位固有の権限で任意発券する『専用チケット』。
別の言い方ではこうも呼ぶ。
フリーパス。
通常、塔に入るためには入場『チケット』持参、またはサーバーに覚醒者として名前が登録されている必要がある。
したがって『専用チケット』の本来の用途は、チュートリアルを経ずに、星位に選ばれて覚醒した恵まれた人々のためだった。
恵まれた人がニックネーム登録前にチュートリアルも経ることを望む場合に、聖約星が気を利かせて「あらあら、可愛い私の子供。底辺から経験してみるのも悪くないわ ㅎㅎ」と言いながら、例外的に用意してくれる入場券だったが。
実際にはそのような場合はほとんどないほど稀だ。
本来の意図とは異なり変質し、自分の聖約星と親しい化身たちがせがんで受け取り、大人の様々な用途に使ったりした。
文字通りバベルのルールよりも上にいる、(開放された階層なら)どこにでも行ける『フリーパス』だったから。
鬼火でタバコに火をつけながら虎があっさりとまとめた。
「フリーパスか?」
「……ゴホン」
「あーあ。もう。だからチケットを乱発するなって何度言えば!」
人生で見ることも難しいフリーパスでも、こちらには全く違った。
全く塔に行かないジオのせいで、ほぼ毎日お星さまと冗談半分でやり取りしていたもの。
ジロクが言い出すまで、ジオも受け取ったという事実自体を忘れていた。
[あなたの聖約星、『運命を読む者』様が、まさかこうなるとは思わなかったと言いながら顎を掻きます。]
[うちの可愛い子、お兄ちゃんを信じてる?ちょっと待ってろって、どうせこうなったからにはバベルの財布でも奪ってきてやるとオグオグと慰めています。]
三人の男の熱い視線の中。
窮地に追い込まれたジオがそうやって目をぐるぐる回していると。
さすが有能な親バカ、行動力は凄かった。
ピン。 [クエスト到着!]
∨イベントクエスト
/条件付きランカー専用/
▷ 助けてください、魔術師王~
• 難易度 | EASY
▷ 目標 I チュートリアルを終了せよ
━ エラーコード: unknown errorによりGFシナリオ〈始まりの祭典: 人間失格〉が危機に瀕しています (ᗒᗣᗕ)
統制が取れなくなった危険要素を除去し、シナリオを無事に終わらせてください!
[完了報酬]
• 固有スキル熟練度3% UP
• シナリオ進行中、成長バフ加速化(5倍)
ううむ。
「……先輩として、危機に陥った後輩たちを見過ごすわけにはいかないだろう」
「……?」
「これが私の使命なら受け入れるしかない」
「……」
「ここは私に任せて皆行ってくれ。チュートリアルというやつは魔術師王が相手をしよう。」
「……何だ、この突然の態度転換は?お前の親バカ聖約星に何か与えられたのか。」
バンビが何かを噛み潰したような表情で呟いたが、ジオは無視して凛々しく振り返った。
吸い殻を消した虎が顔をしかめる。
「ジオ、本気か?」
「うん」
「冗談はやめろ。猫のいたずらにヒヨコが死ぬぞ」
「はいはい。小言はほどほどに」
ジオは気にせずチケットに魔力を注入した。
塔マニアのバンビのおかげで使い方はよく知っている。
《ジオ様が専用チケットの使用を要請します。》
《正しい権限所有者。承認完了しました。》
《現在ジオ様がいらっしゃる場所は0階モニタールームです。既に入場されているため『塔の入場』に該当しません。他の階の入場権限に代替します。》
《ご希望の階数をお申し付けください。》
ジオが答えた。
「グラウンドフロア」
《グラウンドフロア。広場。チュートリアルシナリオ - 〈始まりの祭典: 人間失格〉》
《進行中のシナリオです。途中入場しますか?》
《確認。ジオ様1名の例外入場を許可します。》
水面を波紋が広がるように虚空に扉が現れる。
微風に前髪がなびいた。揺らめく光がジオを染める。
視線を背に、ジオはドアノブを掴んだ。
塔に入ってから1時間40分経過。現在固有スキル熟練度17.033%。
「ふむ。私は、まだ2位のままか?」
[あなたの聖約星、『運命を読む者』がどうってことがないと言いながら『1位ジオ 』と書かれた王冠の被り物をゴソゴソ取り出して被ります。]
「よし」
それじゃあ、行ってみるか?
王冠を取り戻しに。
ジオは笑った。半日も長い。
面倒で煩わしくても運命は運命。
怠惰で無関心でも王は王。
ジオは生まれつき王として生まれた。
だから一瞬たりともそうでなければならなかったし、そうでない理由もなかった。
[AWAKENER STATUS]
• 名前: ジオ
• 年齢: 20歳
• 等級: S級 (戦闘系/魔力特化)
• ランキング: (in progress)
• 性向: 自由に傍観する支配者
• 所属: アース ━ 大韓民国
• 下位所属: なし
• 星位: 運命を読む者
• [唯一 真(眞) 化身 - 全知の司書]
• ファーストタイトル: 魔術師王(M)
• 固有タイトル: 一人者、万人之上、世界の王、不敗の頂点、暴君、怠け者、世間知らず
* * *
ナ・ジョヨンは歯を食いしばった。
バベルの塔、『チュートリアル』の悪名についてはよく聞いていた。
一般人だったビギナーたちから
殺戮の躊躇いを消し去るために、無条件に人型の怪獣だけが出てくると。
文字通りだった。
『人間失格』という今回のテーマに合わせて、シナリオのモンスターは人食い人種。
見た目は一見普通だが、口が腰の下まで裂けている怪物たちだった。
生きたまま参加者を飲み込んだり、引き裂いて食べたりする残酷さと凶悪さを誇っていた。
それでも外見はどうであれ人間であるだけに、精神さえしっかりしていれば十分に立ち向かえる相手でもあった。
確かにそうだったはずなのに……
「マジかよ、なんで急に進化してんだよ!お前らデジモンかよ!」
《外部要因によりチュートリアルの難易度が再調整されます。》
《シナリオが開始されたチュートリアルは中断できません。》
[難易度調整に伴う措置として、開始時に与えられたアイテム以外に臨時武器を支給します。武器は参加者の特性に合わせて任意に提供します。]
[シナリオ内生存中の参加者全員の体力が完全に回復されます。]
[『同族処置』のポイントが50点から0点に変更されます。これ以上参加者同士の決闘で点数を獲得できません。]
お知らせがいくつか表示されてからだった。
翼のある人食い人種、頭が二つある人食い人種などなど。
細かく見てみても絶対に人間の感じではないモンスターが出没し始めた。
「私、私……帰りたい……」
チュートリアルでは死んでもマジで死なないことはもちろん知っているが……
これはゲームでもないのに。
しかも痛みはフィルタリングされずにそのまま伝わる。
巨人食人鬼に食い散らかされていたパーティーメンバーたちのハードコアな悲鳴がまだ耳に生々しかった。
全部で5人のパーティーだったが、ナ・ジョヨンだけを除いて綺麗に全滅した。
フウッ、フウウウッ。
食人巨人の熱い鼻息が頭上をかすめる。ぞっとした。
ナ・ジョヨンは岩の下に体をさらに丸め、数十分前の選択を後悔し始めた。
「くそ、くそ!誰が見ても主人公みたいなやつについて行けばよかった……」
さっき偶然出会ったペク・ドヒョン。
チュートリアルの順位は参加者全員にリアルタイムで公開される。
人当たりの良い顔で恐ろしい点数を記録しているのが妙にゾッとして。
ペク・ドヒョンが(意外にも)同行を提案したが、ナ・ジョヨンは(クールに)断り、後で出会ったパーティーを選んだ。
「あいつについて行けば少なくとも食人巨人に引き裂かれて死ぬことはなかったのに」
「うっ……」
悔しくて思わず漏らした嗚咽。自分の出した音に青ざめ、ナ・ジョヨンはハッと体を転がした。
クワアン、クオオオオ!
「きゃあ!」
ババババ、石の破片が四方八方に飛び散る。
さっきまでナ・ジョヨンが身を隠していたその岩だった。
少しでも遅れていたら、壊れていたのは岩ではなく彼女だっただろう。
ナ・ジョヨンは手のひらが血まみれになるのも構わず、よちよちと床を這った。
立ち上がらなければならないのに、どうしても足に力が入らなかった。
「お願い、お願い、動いて……!」
「助けてください。誰でもいいから!」
実は、回帰者ペク・ドヒョンがナ・ジョヨンに同行を提案したのは、彼女が持つ特性のためだった。
特性、『狂信者』。
何を信じようと、崇拝対象が何であろうと重要ではない。一部の星位たちが判断する基準はひたすらその信仰心の純粋さ。
心が純粋であればあるほど、星位から選ばれる確率も、また高い等級で覚醒する確率も高かった。
今のナ・ジョヨンは知らないだろうが、ペク・ドヒョンが記憶している以前の世界の彼女はAA級ヒーラーだった。
生まれつきの純粋さではどこに行っても引けを取らないという意味。
そしてそんなナ・ジョヨンの切実さをバベルも見過ごさなかった。
「『領域宣布』」
ライブラリー、具現化(具現化)。
『魔弾の射手 ━ 百発百中の銃。
強化キーワード: 『狡猾なザミエルよ、銀でできた私の銃口には七番目の弾丸はない』』
サラサラサラ。
紙がめくれる音を聞いた気がした。
そう思いながらナ・ジョヨンが閉じていた目を開ける瞬間。
タアアン-!
鋭い銃弾音が響いた。
本のようなものではなかった。
クググン!悲鳴もなく額の真ん中を貫かれたまま倒れる巨人。
ナ・ジョヨンはぼうぜんと顔を上げた。
フィールドの真ん中に悠然と一人立つ、黒いフードを目元まで深く被った者。
狙っていた銀製の大物狙撃銃を肩に担ぎながら言う。
「オリンピックに出ようかな」




