138話
時はほんの20数分前に遡る。
「体が重い……!」
能力初期化はバリユンの護界玉でも経験済みだが、あの時とは全く違った。
開始地点は広大な沼地。
高くうっそうとした古木が空を覆い、不透明な水面からは異様な臭いが漂っていた。
「ホゴ……!」
ジオはズルズルと崩れる地盤から慌てて足を抜いた。
幸い浅い水深だったので直ぐに抜け出せたが、既に靴はめちゃくちゃだ。
突出した木の根の上にヨイショと上がると、沼地が一望できた。ううむ……。
「何だか知らないが、最悪の選択肢を選んだのは確かだな。ハハッ」
とりあえず現在の状態から正確に把握する必要がある。ジオはステータスウィンドウから確認することにした。
[AWAKENER STATUS]
• 名前: キョン・ジオ
• 登録名: ジョー / *チャンピオン
• 年齢: 20歳 (01.01)
• 等級: S級 (戦闘系/魔力特化)
• ランキング: World 1位 I Local 1位
• 性向: 自由に傍観する支配者
• 所属: アース 一 大韓民国
• 下位所属: バビロン (臨時)
• 星位: 運命を読む者 [唯一 慎 (眞) 化身 - 全知の司祭]
• ファーストタイトル: 魔術師王 (M)
• 固有タイトル: 一人者、万人之上、世界の王、逆転の反王、不敗の頂点、暴君、怠け者、世間知らず
+ 身体詳細情報 /Locked/
• 状態: 良好
• [体力: 中上] [魔力: 超越 (??)] [耐久: 上中] [敏捷: 上上] [知力: 最上] [魅力: 最上] [意志: 上下] [幸運: 極上]
• 魔力回路: ??等級 / Lv.3
• 成長進捗度: 3段階
• 総合能力値: S級
(※上位権限により全体能力が条件制限された状態です。解除されるまで既存能力値の活性化は不可能です。)
+ 保有能力 /Locked/
I . 職業スキル(47)
II. 星位固有スキル(5)
+ その他特性 /Locked/
+ 眷属リスト /Locked/
「哀れな私のぶっ壊れステータス、またもや借りてきた穀物になったな……」
それでもまだ希望は残った。
数多くの通知と共に片側に浮かんでいる新しいステータスウィンドウ。そこで輝く竜の形のマークが、途方もない期待感を呼び起こした。
「肉も食ってみた奴が良く食うと言うように、運の良い人 の目には見えていらっしゃるということか。黄金色のレアの後光が」
面倒なキャラクターに当たったとぼやいたのは直ぐに忘却したキングジオ が、自信満々に通知ウィンドウを押した。
[あなたは帝国軍の最前線攻撃手「ドラゴンドライカー (Dragon Striker)」です。]
/*ドラゴンドライカー: [特殊英雄I攻撃陣メインプレイに
- 蒼空を自由に飛び回る特殊部隊「ドラゴンドライカー」は、魔竜王に対抗する人間界唯一のライダー部隊として、味方の誇りであり帝国の希望でした。
帝国人たちはあなたの出現だけでも士気が上がり、敵は忘れていた恐怖を思い出すでしょう。/
[> 「ドラゴンドライカー」専用スキルを確認する]
[• 専用スキル: ドラゴン召喚、ドラゴンドライディング、ドラゴンドライカーチャージング、最上級帝国騎馬術、上級帝国剣術、精霊対話]
「キャー、やっぱり……!」
ザザッ!キョン・ジオは空に向かって格好良く両手を広げた。
「神は自ら助くる者を助く!」
誠実に生きてきた人生 (違う) を、ようやく報われるんだな。バベル、見ているか?これこそが幸運満タンの威厳だ。
「フフフ。ゲーム終わりだ」
これ、これ、あまりにもあっけなく終わるんじゃないか?最低分量が心配だが、知ったことじゃない!
「お前らお疲れ。アディオス、49階!」
ぶっ壊れ登場だ。ジオは卑劣な笑みを浮かべ、スキル「ドラゴン召喚」を押した……。
[召喚失敗!]
[現在英雄の能力値が低すぎるため、使用できません。]
[専用スキル「ドラゴン召喚」の使用に失敗しました。(スキル要求Lv:99)]
……ううむ?
そ、そうだ。直ぐに終わったらつまらないからな。それならとりあえず協力者だけでも得よう。どこだ、精霊と言ったか?
[対話失敗!]
[レベル以下の英雄に失望した精霊が対話を拒否します。]
[ナイトチャージング失敗|]
[手に何を持っていますか?虚空は敵ではありません。専用スキル「ドラゴンドライカーチャージング」に失敗しました。]
パタパタ!
羽ばたきながら飛んでいく鳥の鳴き声が勇ましい。ジオはポツンと沼地を見つめた。
あまりにも静かなので、鳥の鳴き声がこだまのように響き渡る場所。
今にもワニの群れが出没しそうな陰鬱さで、空の上の黒雲はひたすら不吉な色を帯びている。
見知らぬ世界、重い体、平凡な視界……。
その時になって現実感が急襲してきた。
「私、本当に丸腰で一人なのか……?」
【いいえ。】
【君が一人であるはずがないだろう。】
キョン・ジオの周辺。背の高い成人男性が抱きかかえるほどの、円一つの空間の中だけで全く違う風が吹き始めた。
穏やかな笑みを帯びた声、聞いているだけでもだるくなる低音が沼に降りてくる。
骨の髄まで傲慢なその余裕から出たとは信じられないほどの優しさで、彼が囁いた。
【君の最後の歩みまで、私が見守ると約束しただろう。忘れられたら寂しい。】
「……どこにいたんだ、今頃になって出てきやがって?」
【出てきやがるとは、そんな可愛い口の利き方をして……。いつも君の傍にいると今も言っただろう。】
ジオは自分の髪の毛先をくすぐる手をパッと払いのけた。
前後関係のない拗ね方は (正直、足を踏み出す場所を見てから横になるのもあるが) 彼があまりにも自分の内を良く知っているからだ。
「それなのにしらばっくれるのがムカつくし」
今見てもそうだ。聞いていることが何か分かりきっているくせに、一度で答えることがない。ジオの眉がひそめられると、なだめるように星が笑った。
【放置したのではない。私が君にどれだけ献身的なのに、その疑い病は治まらないのか?】
「顔も知らない奴をどうやって信じるんだ?」
【いやはや。匿名制なんて嫌いだ。】
チッ、短く舌打ちした彼が、不満そうな口調でポツリと吐き出した。
【話しかけるのも反則なんだ。】
「何だって?」
【ルールがそうらしい。皆が共通の出発点で競争するというトーナメント精神に違反する行為だとか、何とか……】
【正当な過程で君が制限を解除するまで対話も禁止。干渉も禁止。ちなみに今も点数はリアルタイムでむちゃくちゃに削られている最中だ。下降曲線が美しいな。】
「何だとおおおお?」
お前はどうして点数版まで可愛く見えるんだと言いながら、のんきに戯言をほざく星様。
「こ、クソ、図に乗って採点までしていたのか?」
審判官うんぬん言う時から気づくべきだった!点数トラウマが深刻な大韓民国浪人生が苦しげに髪をむしり取った。
「……消えろ」
【ん?】
「消えろ!直ぐに私の点数版から消えろ!この生きて呼吸する不正行為野郎!」
【……。】
いや……あまりにも寂しがるから堪り兼ねて出てきたのに……。
「消えないのか?マジで!」
【……行く。行くよ。】
【そうでなくても消えてやるつもりだった。初対面から星と対話する姿を見せたら、ちょっとまずいだろう。】
「初対面?」
誰かがこちらに来ているという意味だった。またジオが知っている人でもないという話。
一緒に入場した名前を思い返すジオに、星様が最後に囁いた。
【これだけは覚えておけ。このゲームは時間との戦いだ。】
【オーナメントを探して君の足枷を外すことにだけ集中するように。他のことは重要ではない。49階は単に通過する道に過ぎないから。】
時間の無駄遣いは止めて、出来るだけ早く終わらせろ。
彼らしくない強い口調の念押しだった。ジオが再び顔を上げた時には、既に風が元の方向を見つけた後。そして……。
チャプ!
サア、サッ
静かな沼地のおかげで緊張した息遣いが、濾過なしに聞こえてきた。あちらもそれを知っているのか、無理して動かない。
ジオは素早く木の陰に隠れ、向こう側を注視した。
「味方?敵?」
対峙状態は幸い長く続かなかった。
向こうから先に反応した。チャプチャプ、絡まった沼地の植物の上にゆっくりと両手が上がってくる。
異邦人が落ち着いて白いハンカチを振った。
「降伏。助けていただければ帝国軍の全ての情報を提供します。」
「……いや、何だ、あんな売国奴みたいな奴は?」
「ハ、韓国人?ど、同志!そちらはどなたですか!」
ドサッ!
慌てて出てきたせいで、そのままズルズルと滑ってしまうガラスのハート。
ドタバタと一回転した彼が、泥の付いた眼鏡を持ち上げながら落ち着いて宣言した。
「撹乱策でした。コホン、何を考えていらっしゃるか知りませんが、誤解です。」
「騙されないぞ。イ・ワニョン、有名な売国奴の孫みたいな奴め。」
民族烈士の魂を被ったかのような浪人生の断固たる態度に、若い売国奴…チョン・ヒドが泣きそうな顔をした。
こ、こうなるはずではなかったのに。
* * *
[• 位置情報 — デルパマの沼 (unlocked):帝国西南端のまだら尻尾の森に形成された巨大な沼地である。デルプ江の河口に隣接しており、地形特性上ゲリラ戦に特化しており、人魔大戦当時帝国軍の主要拠点の一つとして使われた。]
[マップ (map) 情報が追加されました。知力が小幅上昇します。]
[知力: 2-5]
「知力が5……
これはもう脳が無いレベルじゃないか?
数字で表示されるドラゴンドライカーのステータスウィンドウはジオの既存ステータスウィンドウとは違ったが、注意深く調べる必要もなかった。
基本能力値が2から出発したことだけ見ても、知能レベルがマリモ……アメーバ……そんな方々と同類だと見なさなければならなかった。
「宇宙に二人といないバカになった気分」
ナイト何とか言う肉体派たちは、皆こんな気分で世の中を生きているのか?
魔法使い的偏見を強化中のキョン・ジオ に、また別の魔法中毒者が話しかけた。
「ところで、そちら、アイテムはチェックしてみましたか?」
「アイテム?」
「既存のインベントリにあるものは使用できませんが、割り当てられたキャラクター専用アイテムが与えられたはずです。それくらいは直ぐにチェックすべきでしょう。とにかく。」
相手を見下すエリートのあの眼差し。
力隠し本能でB級剣士だと紹介してしまったことが大きな失策だったことを、ジオも徐々に悟っていた。
「……お前は何が出たんだ?」
ジオがシニカルに尋ねた。
彼女と情報を交換するや否や、チョン・ヒドは直ちにグループ別に状況が回ると確信した。
似たような役割を集めて一つの組にまとめる。例えば彼らで言えば、ここは帝国軍[攻撃組]。
そしてこの攻撃組のサブを務める彼のキャラクターは「皇宮魔法使い」。
皇宮の無い皇宮魔法使いチョン・ヒド(Lv.1) が笑顔と共に懐から羊皮紙を取り出した。儚い笑顔だった。
「皇宮秘密地図です。」
「あ、そして公爵家紋章指輪……
うす暗い沼地の真ん中でルビーの指輪がキラキラと輝いている。ジオがウサギの目で眺めた。
「うわああ。めちゃくちゃ役に立たない……!」
1レベルの初心者たちに必要な物では絶対になかった。すごく嫌な感じ。
「まさかこっちもゴミ当選じゃないだろうな?」
ゴミのように生きてきたが、ゴミを拾ったことはない温室育ちの運の良い人 が焦って懐をまさぐった。すると……。




