127話
* * *
黄金色の網に包まれた都市。
「魔法」そのものだった。魂を奪われ、見つめるナ・ジョヨンをジオが面白くなさそうに諭した。
「 しっかりしろ。まだ終わってないから。」
「あ……!はい、はい!」
「すぐに‘トリックスター’の奴から片付けるぞ。」
「トリックスターですか?それは誰……」
ナ・ジョヨンは戸惑った表情だ。
近くの建物の上に降り立ったジオがちらりと横を見た。
ほぼ同じタイミングで到着する青年がいた。ぼんやりと光る白色のライオンと共に。
「詳しい説明はあいつに聞いて。」
「あっ、ドヒョンさん!」
乱れた呼吸を整えながらペク・ドヒョンが立ち上がった。
「ジオさん、そんなに急に走り去られたら……!」
「うちのドビーがジョー様を呼びながら竜王の前で深清 のように身を投げ捨てるのを私にどうしろと。こっちも被害者だ。」
「ハッ!ハア、 ジョジョ様!そ、そんな風に言われたら私があまりにも救いようがないじゃないですか。」
「ジョヨンさん……本当に迷惑千万ですね。」
「あんたは黙って!外国語一つできなくてお荷物みたいにジオ様の後ばかりちょろちょろついて行ったカクテキみたいなのが!」
スズランというトゥンリとの比喩が恥ずかしいほど、あっという間に近所のチンピラのようにペク・ドヒョンに顎を突き出すナ・ジョヨン。
何度目かも分からないドビーVS執事大戦がまた始まったのも束の間。
二人とも自分たちがどこにいるかくらいは自覚可能な種族だった。
衝撃的なカクテキ発言から素早く回復したペク・ドヒョンがジオに急いで知らせた。
「トリックスターは遠距離能力の使用が不可能です。 むやみに内部に入り込む奴ではないので……必ずこの近くにいるはずです。」
「分かってる、それくらい。」
もう感じているからな。
魔力透視。
都市全体の魔力の流れが鮮明だった。この中でキョン・ジオが知らない色、歪んだ特異点だけを見つけ出せば事は簡単だ。
1段階、2段階……3段階。
三番目のリミットが解かれた魔力回路は、速いスピードで主人の意思を実行した。
そして数秒後。
ジオは目を皿のようにして一方を凝視する。確信を込めた眼差しが向かった先は、青島TVタワー。
青島市の全ての全景が見下ろせる頂点だった。
* * *
「ポイント3が止まった。強制的に。」
老いた指がキューブを置く。もう思い通りに動かないおもちゃを見てトリックスターが長く笑った。
「キッドの言う通りだ。本当にあの恐ろしい怪物が中国に来たようだ。」
「笑ってる場合じゃないんじゃない?」
展望台から降りてきた少女がぶつぶつ言った。
「私は怖い。もう足が震えてるって。本当にむやみに触るべきじゃなかったんじゃないかしら。」
「13月の言葉は絶対的だ。それが我々〈解放団〉の第一法則であり。まさか反対でもするのか、6月?」
「反対ではなくて愚痴。これくらいは許されるでしょ。」
6月、 ‘ヘルパー’が自分の白金色の髪の毛を人差し指でくるくると巻いた。
目の前に広がる光の網が垂れ込めた大都市、実に圧倒的で驚異的な力だった。
ただ見ているだけでも畏敬の念を抱くほどに。
「これがたった一人の力だなんて……。いくら私がバフをかけたとしても、これをどうやって私たち二人で相手にするのよ!ありえないでしょ?」
私たちはみんな死ぬわ。
悲観に暮れたヘルパーの独り言にトリックスターが舌打ちをした。
「さあ、勝算が全くないわけでもなさそうだが。」
「何を馬鹿なことを……」
トリックスターは返事の代わりに手に持った鏡の破片を持ち上げた。すると指の関節ほどのその鏡の中に映る一つの影。
血に染まった長槍を握りしめた青年。
キョン・ジロクだった。
‘鏡幻影の迷路……!’
トリックスターが誇る勝算100%の罠だ。ヘルパーは顔をしかめた。
「頭がおかしいの?キッドが絶対に触るなと言ったじゃない!」
「触るなと言ったのは王の方だったはずだ、鹿の方ではないだろう?」
「それが同じでしょ!二人はそんなに死ぬほど愛し合ってるのに!」
ヘルパーがもどかしさに舌打ちをした。向こう見ずな老人みたい!
「忘れたの、トリックスター?私たちの役割は、ほんの少しその人の視界を遮るだけなのよ。ヒットアンドアウェイなのよ!ここで決着をつけるのではなく。」
あと30分だけ持ちこたえれば全て終わる。
プライドだけ高いトゥンリは予想通りに動いてくれたし、彼女の覚醒者部隊が抜けたおかげでキッドが言ったタイミングに合わせることができた。
トゥンリはもっと大きな絵を見て、軍隊を抜いたのだろうが、結果的にトリックスターの容易な身動きに役立った格好だった。
彼らが結局必要なのは誰かの視界を遮る、一時間ほどの時間だけだったから。
「やることはほぼ終わった。時間だけ稼いで。先走らないで。愚かに。」
焦燥感に唇を噛み締めたヘルパーが助言する。しかしトリックスターはただニヤリと笑ってみせるだけだった。
「あら、もう遅かった。」
* * *
「••••••ん?」
余裕だった足取りが止まる。ジオの片方の眉が上がった。
겉보기에는 (見た目には) 멀쩡했던 (まともだった)TVタワー。
しかし内部は全く違っていた。
内側に足を踏み入れた途端に風景が一変する。ジオは顔が映る床をじっと見下ろした。
‘鏡••••••?’
四面が鏡。
まるで遊園地の迷路のような構造だ。
顔を上げると数十、数百に分かれる自分の姿が見えた。
一緒に入ってきた一行はどちらにも見えない。
ジオはつまらなそうに床を足で軽く蹴った。
カン、カン!鏡特有の音が共鳴するように響き渡った。
‘感覚は幻影ではないのに。’
……知ったことか。どうせまたくだらない悪ふざけだろう。
キューブのように分かれたホテルの建物を思い浮かべながらジオが魔力を集めた。空間に関する主導権争い。勝者は決まっていた。
そして少し前のようにまさに‘領域’を宣布しようとしたその時。
— ジオ。
- ジオ!
「……キョン・ジロク?」
無意識的な反問だった。
少し幼い声ではあるが、確かに……ジオは体をひょい回した。横をかすめる感覚!
タタタッ、軽い子供の足音が耳元を鳴らした。
魅入られたようにジオは追いかけて歩いた。
水色のカラーTシャツに半ズボン。セッピョル幼稚園の園服だ。 確かに幼いキョン・ジロクの姿だった。
見えるか見えないか、鬼ごっこでも
するようにギリギリで消える後ろ姿。ジオの足取りがどんどん速くなった。
鏡の壁を越えるたびにキョン・ジロクも一緒に成長した。
子供から少年に。
少年から青少年に。
そして彼を追うジオの足取りに沿って鏡でできた壁面が全部その頃の映像で染まる。
同い年の兄妹が一緒に育った記憶たち。キョン・ジオの記憶の中のキョン・ジロクの姿だった。
- ジオ、ジオ!トイ・ストーリーまだ見てないでしょ?俺と一緒に見るって約束したじゃない、うん?
- あ、その、コッパンビ……?友達が欲しいって言うからあげちゃった。俺たちもうそんな人形持って遊ぶ年じゃないでしょ。いや、失くしたんじゃなくてプレゼントであげたんだって!俺を信じられないの?
- あの、ここに1組にキョン・ジオいますよね。呼んでください。誰かって、そちらはじゃあ誰なんですか?知る必要ないでしょ。
- おい、日付が変わった。もうジオの誕生日だよ。ろうそくをもう一度つけて。……あ、
ブサイク 、マジで。ケーキが飛んできたら避けなきゃ、それを食らってるのか?あの三姉妹たちマジで……。ほら、目をゆっくり開けて。痛い?
- 卒業おめでとう、キョン・ジオ。
- これ何、何のネックレス? ‘三戒命’?邪魔くさいな、何、喧嘩する時に邪魔……あ、クソ!すればいいんでしょ!その顔を引っ込めろ、今すぐ。
- ジオ。おい、キョン・ジオ……。
声がぼんやりと遠くなる。
ジオはぼうぜんと立ち止まった。
華やかで眩しい映像が過ぎ去り、いつの間にかジオは廃墟の真ん中に立っていた。
空は深紅色で、雲は黒い。パキッ、踏まれる、石ころの感覚にジオがはっとした瞬間。
【違う。】
【これは、見せたら反則だ。】
[警告、許容範囲を超えた介入です。ご注意ください。]
「ジオ。」
掴めそうなほど鮮明な声。消えた映像に疑問を持つ暇もなかった。
キョン・ジオは再び迷路のコーナーを通り過ぎた。すると……。
ザアッ、ザッ。
ぼうぜんと歩みを運んだジオが下を見下ろした。
チャプチャプ。溜まって流れた血のりが足元まで届いていた。
全部、弟のものだった。
両膝をついた美青年。人気を感じたのかゆっくりと瞼を上げる。視線が合った。
長槍に寄りかかったキョン・ジロクが血まみれの体をどうにか起こした。
ジオは弟の血のついた手が近づき自分の頬を撫でるまで身動き一つできなかった。
キョン・ジロクが呻き声のような笑みを漏らした。
「お前のせいだ……」
「お前が全部台無しにしたと」
体温も、声、感触も全部本物だった。
嘘だと信じるにはあまりにも現実的だ。いつもより無力な気分でジオが目を瞬かせた。
自分の頬を掴んだキョン・ジロクの手にどんどん力が入っていた。
そしてもう片方の手に持った長槍の方向がこちらに向かって傾く刹那。
ジオの唇が動く。
「……何言ってんだ。ブサイクが。」
グシャッ!
胸を貫通して出てきた槍の刃。
方向は…… ‘両方’だ!
魔力錐で貫いていたジオがはっと顔を上げた。同時に、破裂音と共に飛散する鏡の破片たち。
ガシャン!砕ける鏡の間に誰かが映る。
乱れた髪、険しい目つき。
‘本物’キョン・ジロクだった。
「悪いけど仲睦まじい家庭だから、こんな低俗な悪ふざけには付き合わないんだよ。」
偽物のキョン・ジオの胸に槍の刃を突き刺したキョン・ジロクがこちらを見つめる。
乾いた眼差しにどんどん焦点が合い……。
「……キョン・ジオ?」
あ、バン……!
パンビを叫ぼうとしたジオの言葉が途切れた。
タン!長槍が床に転がる音が大きく響いた。
キョン・ジロクは黙ってジオを抱きしめた両腕にさらに強く力を入れた。
崩れるようにうずくまった背中、子供のように
ジオの肩と顎にひっきりなしに頬を埋める。まるで確認でもするように。
「クソ…….気分クソ悪い、マジで……」
こいつがどんな気分なのかキョン・ジオは分かった。こちらも同じだったから。
偽物だろうが、何だろうが血縁の顔をしたものの胸に刃を突き刺すことは決して愉快ではなかった。
ジオは冷や汗でいっぱいの弟の額を一度撫でて、斜めに頬を寄せた。
そして下ろしていたその目が再び上がった時は。
‘付き合ってやるのはここまでだ。’
黄金。最も暖かい色で最も冷たい光を帯びた魔力が凶暴に輝く。
“[領域宣布。]”
ガガガ!
迷路が壊れていった。
粉々に砕ける世界。空間が一瞬にして入れ替わった。
揺れ動き、また崩れる空間の中で滞りなく二度ほどの跳躍が相次いで行われた。
敵にどんな余裕も与えるつもりはなかったから。
驚愕に染まった顔。一気に視界に入ってくる。
みすぼらしい格好をした老人。
目を瞬く間に押し寄せた恐怖の実体にトリックスターがうめき声を上げた。
「ど、どうして……!」
「黙れ。」
ガーン!キョン・ジオは容赦なくその顔を踏みつけた。
後を追ってきた数万個の鏡の破片が王の意思に従い一斉に敵に刃を向けた。
風の代わりに刃をまとった捕食者ピラミッド最強のハンターが優しく囁いた。
「どうせエキストラは力の差を見せつけてやらないとへこたれないんだよ。」
地球が丸いと目で見て初めて信じる馬鹿みたいに。
「後悔も、言い訳も死んでからしろ。」
それがお前の愚かさの代償だから。




