12話
強者たちからのみ感じられる空気が熱い。
だから、勘のいい小僧……いや、ランカーは嫌なんだよ。
もちろん、塔に来る前からある程度予想していた部分ではある。
ジオが探している人が「獅子」ウン・ソゴンであるだけに、ある程度は必ず露出するだろう。
だから顔も隠したし……何よりもコントロールには自信があったから。
バレる可能性はほぼ百万分の一、ものすごく低いと思っていたのに。
ここまで堂々とバレたのは、おそらく突然の能力値変動のせい。
バベルに入場するや否や降り注いだ各種バフのせいだった。驚いた拍子にコントローラーをガチャンと落としてしまったのだ。
「油断した……」
ランカーは掘れば掘るほど蜜しか出てこない。
これほど甘い蜜だとは誰が思っただろう?プロ蜜吸い師も戸惑うほどのバランス崩壊の現場。
もちろん、ここで正体に気づかれてもどうせ1番チャンネルの奴らだけだろうから大きな問題ではない。
ランカーチャンネル別の所属感と連帯感は非常に強い方だ。
チャンネルの中で話したことを外部に流出させないのは不文律。
互いの秘密を守ることは国ルールに近かった。
「頭のおかしい奴が破れば正義実現してやるさ。」
ジオは非暴力を追求する傍観者だが、元々絶対者の道というものがそもそも。
「雑魚が騒げばあちこち、ちょっと叩きのめすこともできるし……」
あそこのナザレ出身の誰それの息子イエスさんも、言うことを聞かない悪徳商人を拳で治めたと聞いたことがある。
勉強で忙しくてそんなことに力を注ぐ時間はないけど、まあ仕方ないか?
ジオのノーマル安楽ライフは、修能よりも重要な第一順位だった。
[あなたの聖約星、「運命を読む者」様がうんうんと頷いています。]
[うちの子がやりたいことは、全部やれと言って応援棒をそそくさと取り出して振っています。]
とにかく、どうせバレたことだし。
力を隠したフード女見解はとぼとぼと目的地に直進した。
歩みごとに遠くから悪魔化しているバンビの眼差しが降り注いだ。
ほとんどレーザービームだ。
「え、サイクロップスかと思った。」
「……リーダー。おい、バンビ、どうした?」
「うぬ。うむぐっどぅ うぬぬっく すんぐっく。」
バタン。
ジオは無視してそのまま歩いて誰かの前、一人用ソファに大物のようにふんぞり返って座……ろうとしたが、体格に比べてソファがかなり大きくて足を上に引き上げて畳んだ。
しかし、顎を上げるところにはそれなりのカリスマがあった。
「ねえ、じいじ。最近元気すぎなんじゃないの。」
「……どなたか存じませんが、今これはどういう無礼……」
「アン・チサン。」
虎が顎で示した。
空気を読まずに出しゃばらずに後ろに下がれという意味だった。
ウン・ソゴンがさっぱりと笑った。
「相変わらずだな。久しぶりだな。元気だったか?」
「今朝までは。」
「王座簒奪くらいのことをしなければ、君が直接動かないのか。それも知らずに毎回会ってくれとせがむばかりだった。晩年に良い教訓を得たな。」
「王座」奪還。
王座……王?
声を低めた静かな会話だったが問題ない。
ウン・ソゴンの周辺側近と、そうでないふりをして熱心に耳を傾けていたごく少数の最上位圏ランカーには、それだけでも十分だった。
音のない驚愕が彼らを襲う。
ジオは目を一つ瞬きもせずに会話を外部と遮断した。抑揚のないトーンで乾いたように言う。
「じいじさん、ふざけないで。すっかり古びた体で何をするつもり?そんなにすぐに霊安室直行したいの?」
「ジオ。」
「よせ、虎。」
手振りで制止したウン・ソゴンが尋ねた。
「それで、あと何年残っている?」
じっと見つめていたジオが顎を突き出して答えた。
「長くて2年。」
「短ければ?」
「1年。」
「これは……」
「だから誰が騒げと言った?5年残っていたものをこうして減らす?せっかく人が親切で教えてあげたのに。恩を仇で返すんだな。」
ジオはむっとして顔を背けた。
「ライブラリ化」の下位特殊スキルの一つである「運命の砂時計」は、残りの寿命を教えてくれる時計だ。
開いたスロットはただ一つで、ジオはこのスキルが使用可能な熟練度に達するや否やウン・ソゴンを対象に指名した。
初めて会った時から還暦を過ぎていたじいじさん。
ジオが知っている人の中で一番最初に死にそうだったし。
そうなったら突然挨拶もなしに送り出したくなかったから。
彼女が記憶のない父親のように。
「今回が最後だろうから機嫌を直してくれ。仕方なかったんだ。」
「……」
「こうして一生生きてきて、こうして生きる方法しか知らないんだ。違う生き方をするにはあまりにも長く生きてしまった。元々年寄りの意地が一番怖いと言うじゃないか?」
「……」
「死ぬとしても挑戦しながら死ねるなら、ハンターとしてそれより良い結末もないだろう。慶事だよ。たとえ目に入れても痛くない孫娘が気になるとしても……」
ウン・ソゴンがジオを見て微笑んだ。
S級だろうが何だろうが重要ではない。
10年前。
一生実子がいなかった彼の元に虎が小さなジオを連れてきた時。
ウン・ソゴンには、すでに世界にたった一人の彼の孫娘だった。
「……事故を全部起こしておいて何を言うの?バスは出発しましたよ。」
「おやおや。また捕まえようと思ったらどうすればいいのかな?」
「ふん。つまらない。入れ歯ギャグ。」
「……ジオ、お願いだから。」
虎が額を押さえた。
自ら育てた災い……
甘やかして育ててはきたが、よりによって小学生の頃から韓国序列1位になった子を甘やかして育ててしまったせいで、時々度を越して傍若無人だった。
鼻で笑ってジオはどさっとソファに背中を預けた。
「挑戦だとか何だとかキングジオに焦げ臭くさせるなんて。メンツ丸つぶれ。近いうちにまた取り戻すから傷つけないで保管しておいて。」
「ほほ。それでも久しぶりに1位になってみたら、それは気分がとても良かったよ。昔を思い出したよ。」
「だから二位とはぎくしゃくするのが嫌なんだよ。優しくしてあげると、純粋で善良な一位の結末は背中にナイフが刺さったり屋上から突き落とされることだけだから。」
用件が終わったから行くかと虎が目で尋ねた。ジオは面倒くさそうに首を横に振った。
「来たついでにチュートリアルまで見てあげるよ、まあ。」
+ 00:00:37:59 成長バフ *(on)/off
[固有スキル、「ライブラリ化」熟練度:17.028%]
[タイトル特性、「竜魔の心臓」、「魔力遅滞」(2段階成長中)]
「覚悟してろよ、じいじさん。すぐにひっくり返してやる。」
聖約星の言うことを聞けば寝ていてもS級が落ちてくるという。
いつも塔に行けとせがんでいた小言にもすべて脈絡があったんだ。
まさかこんなサプライズプレゼントが待っているとは。
ジオはそっぽを向きながらステータスウィンドウをちらっと見た。
一生懸命維持しているポーカーフェイスとは異なり、テーブルの下ではつま先がずっともぞもぞしていた。
覚醒者の「タイトル」とは、二つに区分される。
一つは生まれ持った宿命による覚醒者個人のアイデンティティを指す「固有タイトル」。
例えば、回帰者、転生者などがここに属する。
もう一つはそれぞれ「ファースト/セカンド/サード」に分かれて呼ばれる「適業(通業)タイトル」だった。
こちらは才能および適性による「特性」がいくつか集まった時。
それに合わせて開花する一種の職業のようなものだと思えばいい。
ジオのような場合は、覚醒と同時に隠していた特性、「不世出の天才」、「竜魔の心臓」と「魔力遅滞」などが解除され、すぐに「大魔法士」というファーストタイトルを得た。
格の高い聖約星と出会ったバフで種族の限界を超え、「ライブラリ化」熟練度が高まり、「魔術師王」として最終開花し。
そしてこのように開花を終えたタイトル関連特性は、よほどのことがない限り段階が上がらなかった。
武侠小説のように何か悟りがあったり、ドラマチックなきっかけがない限り。
ジオもともと生まれ持った保有魔力はアンリミテッドだが、まだタイトル特性が1段階なので魔力回帰に制限がかかっていた。
もちろんそれでも有り余るほど十分なので放置していたが……
勝手に上がるというのに受け取れない理由はないでしょう。そうでしょう。
しかもチュートリアルワーク。
攻略もしないで、座っているだけなのに熟練度が上がるなんて?
蜜を吸うのもこれくらいなら少し申し訳なくなる。
ジオは平然としたふり、チュートリアルに興味が湧いたふり、ニュービーを発掘するベテランランカーのふりをして、ガラスの向こうの広場に真剣な視線を投げかけた。
「怪しいな。」
むくむくと上がっていくその口角と、そわそわともぞもぞしている足を見逃すはずがない虎が目を細めた。
しかし、彼が何か指摘する直前。
[Opening Soon...... 00:00:00:00]
バベルネットワーク
《万流天秤の塔、聖地バベルへようこそ。》
《あなたの名前を天文に響かせてください。星たちが呼びかけに応えるでしょう。》
[チュートリアルが始まりました。]
[始まりの祭典 - 人間失格 Start!]
いよいよチュートリアルの幕が上がった。
* * *
/S級ハンタージロク様のパーティー「受け取って」が生成されました。/
/選択されたパーティーチャンネルのカテゴリーは[親睦]です。[親睦]では分配方式の設定をはじめとするパーティーの様々な機能が制限されます。(全体表示)/
/匿名様が[親睦]「受け取って」の招待を拒否されました。/
/匿名様が[親睦]「受け取れと」の招待を拒否されました。/
/匿名様が[親睦]「はあ……」の招待を拒否されました。/
/匿名様が[親睦]「受け取れば十万円」の招待を受諾されました。/
/招待された対象は名前非公開状態です。任意に変更しますか?変更された名前は相手に見えません。/
/[任意]ニックネームが変更されます。/
バベルネットワーク
バンビ
「おい浪人生」
バンビ
「無視か」
バンビ
「二日ぶりに現れて無視か?」
バンビ
「お前は本当に人間か。」
バンビ
「ちょっと、お前のその服は、何だ。男の服じゃないか お前まさか男の家で外泊したのか?!?」
バンビ
「既読無視がもう癖になってるな」
バンビ
「すぐにそっちに行く前に答えろ」
ジオ
「友達の服。体がちょっと大きいドヒの服」
バンビ
「ドヒは誰だ」
ジオ
「 ペク・ドヒ。バンビが知らない子」
バンビ
「 お前の友達を全員知ってるのに何。友達といえば一生幼稚園の同級生3人しかいない引きこもりが。」
ジオ
「ロク」
バンビ
「うん?」
ジオ
「これチュートリアルずっとガラス窓から見下ろしてなきゃいけないの?
見づらい お姉ちゃん乱視じゃん 」
バンビ
「だから、いつもスマホとパソコンばかり触ってて 転がってウェブトゥーンばかり見て 俺が、お前に小説はもう読むなって言っただろ」
「先月の料金がいくらだったか知ってるのか?一体お前の人生ジャンルが現代ファンタジーぶっ壊し物なのに現代ファンタジー小説をなぜ読んでるんだ」
ジオ
「最近はカカオページロマンスファンタジー見てるけど。
一番好きなのは黒髪が素敵な冷たい北部の悪魔大公ウィンター。離婚歴があって しょっちゅう唸ってるけど かっこいい 超ときめく。」
バンビ
「そんな時間があるなら塔にでも登れ お願いだから」
バンビ
「はあ」
バンビ
「分かれたグループや区域別にモニターが映れる。それを見ればいい。
リアルタイムランキングも出るし」
ジオ
「うん」
バンビ
「?」
バンビ
「おい」
バンビ
「こいつマジで。ありえない。」
* * *
[3, 2, 1.]
慣れ親しんだ塔のカウントダウン。
ペク・ドヒョンは静かに目を閉じた。
心臓が大きく高鳴るとしても、心だけは湖のように穏やかだった。数日前からずっとこの状態のようだ。
絶望的な状況で回帰したにもかかわらず、決して焦らなかった。
もう知っているから。
「未来は変わりうる。」
直接経験したじゃないか?
王と出会い、3月の宣陵駅グラウンドゼロが消えた。
何よりも……「ジオ」はまだ人類の味方だ。
再び開いたペク・ドヒョンの目が落ち着いて輝く。
「変えられる。十分に。」
二度目の機会。
二度目の再入場。
回帰前、同一の条件でF級ペク・ドヒョンのチュートリアル成績は3位。
最終所要時間4日。
《バベルの塔へおかえりなさい、ペク・ドヒョン様。》
《チュートリアルが始まりました。》
そして今日彼は、今回の期新しい1位として塔の最短記録を塗り替えるつもりだった。




