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118話

* * *


中国、北京。


タダダッ!


駆ける音が長い廊下に響いた。一列の紅灯と黄金が飾り立てる、豪華な邸宅だった。


「リリ! 待ってくれ、リリ!」


「離して!」


「一人でどこへ行くつもりだ、気が狂ったか?」


「狂ってないわ。十分に正気よ、ヤン・ガン。正気じゃないのは私じゃなくて、あの中にいる愚か者たちよ!」


「シーッ! 言葉に気をつけろ。公安に連れて行かれたいのか?」


憤慨した目で鄧莉が彼を睨みつけた。楊剛は掴んだ腕にさらに力を込めた。


「一体どうしたんだ、一体? 韓国の独走を阻止すべきだと主張したのはお前だったはずだ。最初にあの男を北戴河に連れてきたのもお前だった!」


「チェスの駒として使うために連れてきたのよ、振り回されるために連れてきたんじゃないわ! 今の状況を見てみなさいよ! 老いぼれ一人の言葉に右往左往するなんて、どこが大国の政治と言えるの?」


狡猾な老人、キョン・レイを思い浮かべた楊剛が低く唸った。


あの男のやり口が日に日に陰険になっているのは、彼もまた同意するところだった。しかし……。


「……もう遅い、リリ。あの男と中国はすでに運命共同体だ。錨を上げた以上、同行するしかない」


「いいえ」


鄧莉は冷たく否定した。


悪手あくしゅを打ったのが私なら、責任を取るのもまた、この鄧莉の役目よ」


祖国が的外れなことをするのを黙って見ているわけにはいかない。それが自分の過ちによるものなら、墓の中でも安らかに眠れないだろう。


「曹操は関羽を得ようと、手厚くもてなした。結局彼を得られなくても、それによって赤壁で命拾いした」


キョン・ジロクもそのように扱うべきだった。


今、あの密室の中にいる馬鹿たちが主張していることは、現実と全くかけ離れた妄想だ。鄧莉はさっと、勢いよく背を向けた。


遠ざかる彼女を楊剛が再び掴んだ。ちょっと……!


「どうしても行くというなら、一緒に行く」


「……将軍の息子が、今さら乗り換えでもするというの?」


「反逆者の妹を愛した時から、すでに俺の船は舵が壊れていたんだ」


楊剛が苦笑した。


「それで。どこへ行くんだ?」


「青島」


「最初から乗り込むつもりだな」


「鹿が北京、上海を置いて、あの小さな場所を目的地にしたのは、おそらく『あの男』に会うためだろう」


殺気立った顔で鄧莉が唇を噛み締めた。


「絶対にあの男には渡さない」





* * *


遥かに、滑走路が遠ざかる。


ペク・ドヒョンは点のように小さくなる風景を見て、尋ねた。


「青島に行く理由があるんですか、ジオルスキー?」


「当然、青島の羊肉串のためだ。それにジオルスキーと呼ぶな。ジオセッキと言っているみたいだから」


「本当にその理由だけではないでしょう? あなたの匂いの強い食べ物は口にもできないじゃないですか、ジオスキー」


「……あのさ、あんた。人生楽しんでる? 今ここで墜落しても悔いがないくらい?」


脅迫にもただ、はは、と明るく笑う回帰者。以前の極めて丁寧な態度はどこへ安売りしたのだろうか。


「この回帰者め、ちやほやしてやったのに、日に日に、え? 最近カリスマ不足だよ、キョン・ジオ」


ジオは顔をさっと固め、威厳たっぷりに腕組みをした。


「あんたもぞろぞろついてくる理由を白状しないのに、このキングジオ様が先に言う理由でもあるとでも?」


「ジオの知り合いがそこにいるからだよ」


「……」


信じていた肉親の足元を掬う行為。


裏切りに睨みつけようが、キョン・ジロクは平然と見ていた新聞をめくる。ナ・ジョヨンがびっくりして聞き返した。


「ええ? 人脈みたいなのがいらっしゃ……はっ! 申し訳ありません! 思わず本音が! はあ!」


「……」


信じていたドビーの裏切り。


最側近たちの連続攻撃に、キョン・ジオがぼんやりと窓の外を眺めた。


そうだ。どうせ棺は一人用。世の中に信じられる奴なんていない……。


[あなたの聖約星、『運命を読む者』様がエヘン、と咳払いをして、頼もしい存在感を力強く誇示します。]


「す、すみません。私は当然、青島が韓国と一番近いから行かれるのだとばかり思って……」


「何も分かってないな。ハンター歴十年で海外の人脈一つないなんてありえるか? チッチッ、だからニュービーは……」


「中国以外にいないじゃないか。」


……あの鹿、マジでムカつく。逆ギレしたジオがドン! とテーブルを叩いた。いるんだよ!


「テ、ティモシーと……ゴホン、ティモシーと……ティモ……シー、シー……」


適当に顔見知りの〈イージス〉の奴らでも言おうとしたが、ヤンキーの名前だから思い出せなかった。ジョーとかルーとか……ああ!


「グイードとか。めちゃくちゃ運の悪い奴も一人いる……」




チャリン-!


破裂音。三人の視線が一斉に片方に向けられた。


「ああ……」


割れたグラスを持ったペク・ドヒョンがぼうぜんと彼らを見つめている。何かに殴られたかのような顔で。


そしてそれが意味することを正確に読み取ったのは二人だった。


キョン・ジロクが呟いた。


「警戒する奴、名簿に追加だな」


ペク・ドヒョンは慌てて表情を取り繕った。


「裏切り者」グイード・マラマルディ。


その名前をジオから聞くとは思わなかった。


1回目の人生でティモシー・リリーホワイトを殺害し、消息を絶った〈イージス〉の副ギルド長は「キッド」のほうに合流したという説が有力な者だった。


世界律がどこまで許容するか分からない。だから多くのことを話すことはできない。しかし。


「……直接会ったことはありませんが、良い印象を与える人ではありません」


客観的な判断をうんぬんする者は常に存在する。そのため事件当時、グイードの立場も聞くべきだという意見も一部にはあった。


しかし数時間後、ティモシーの殺害現場が流出すると、もはや誰もそう言わなくなった。


ワシントン記念塔。


アメリカの首都の中心であり、建国の象徴であり、偉大な指導者を称える純白のオベリスク。


高く白いその壁に両手を広げたまま、死が剥製にされた英雄。


その残酷な最期はまるで、十字架に磔にされ殉教したもう一人の「神の子」とそっくりだった。


国家全体への侮辱、また一つの信仰への冒涜だった。


アメリカは類まれな憎悪を示し、全世界がその怒りに共感した。


彼の名前の前に付いた「裏切り者」が、宗教史上最悪の罪人ユダから取られたことを知らない者はいなかった。


「申し訳ありませんが、ジオさん。もしかして親交はどの程度……」


「ただ名前と顔を知ってるだけ」


よかった。


沈んだ声でペク・ドヒョンが言った。これは個人的な願いだが。


「できるだけ、近づかないでいただきたいと思います。……私の判断を、また私を信じてくださるなら」


ジオの視線がじっと彼に向けられた。


清らかで真っ直ぐなペク・ドヒョンが最も強くなる瞬間は、剣を握った時でも、敵の前に立った時でもない。


彼は「本心」を伝える時、最も強い男だった。


そしてキョン・ジオは英語の問題の答えは分からなくても、人の本心だけはきちんと読み取れる人だ。


「分かった」


「はい」


ペク・ドヒョンが安心して頷いた。ジオも真剣に一緒に頷いた。


「ああ。やっぱり外国人は排斥しなきゃな。このグレートキングジオだけを信じろ。ソウルの底からヤンキーの種を絶やしてやる」


「は……はあ? あ、いや、そうじゃなくて!」


こ、これはどういう極端な国粋主義者みたいなことだ……!


市庁舎の前ででも見かけるような狂気の急発進と、目の当たりにした正常な人々が当惑を禁じ得なかった。


そんな意味じゃないと混乱するペク・ドヒョンと、

お前の読解力はどうしたんだと尋ねるキョン・ジロク、

そして何が何だか分からないけど、これは違うと怯えるナ・ジョヨンまで。


四人が大騒ぎしていたその時だった。


騒々しい騒動に水を差したのは、折しも鳴り響くスピーカー。



ジ、ジジジ-。


[「……キャプテンスピーキング。操縦席からお知らせします」]


[「1時方向4マイル、6000フィート下方に未確認怪獣発見。ランカーチェッキング願います」]


同時に機内のモニターが外部画面に全体切り替えされる。


一見緊迫した非常事態。しかしチェックを願う機長の放送には、特に緊張感はなかった。


魔石で塗り固められた飛行機も飛行機だが、機内に座っている国宝級の兵器たちを知らないわけがないからだ。


ジオはつまらなそうな顔で画面を見つめた。ふむ。思ったより、これ。


「ギュニギュニ、クエスト達成が早いかもな」


大韓民国領海から出てわずか20分。


家を出てきたランカーたちに容赦のないバベルが送ったモンスター配達だった。



* * *


「よ、ここは黄海! メーデー! メーデー!」


数日前から黄海の主が変わったという話はよく耳にした。


それによって沿岸が閉鎖され、すべての貿易が中止されたとも。


しかし海上モンスター。


海の上だから空中は大丈夫だろう。


安易だったといえば安易だったその考えが、人生を終わらせる最悪の選択につながるとは誰も思わなかった。


「ク、クラーケンだ!」


「緊急、緊急! はあ、応答せよ! はっ、はっ、救助要請願う! メーデー! メーデー! く、クソ!」



ザアアアッ!


巨大な波が彼らを再び覆う。壊れた機体にぶら下がっていた遭難者たちの顔が絶望に染まった。


警護目的で同乗したハンター二人はすでに海に飲み込まれて久しい。


唯一残った覚醒者、少年黄梓軒が泣き出した。


知っている分だけ見えると言った。


彼らの中で誰よりも、あの悪魔的な怪獣の脅威を体感している者はいなかったはずだ。



[海王種『深海のクラーケン(A)』出現!]


[格の違いが歴然です! とても太刀打ちできない強敵! 避難を強く勧告します。]



クオオオオオ-


「うわあああ! た、助けてくれ!」


ザアッ! 柱のようにそびえ立つ波とともに現れる黒い影。


彼らが乗ったヘリを襲撃したのもまさにそれだった。少年の動体視力では形態を把握することさえ難しい敵。


巨大で凶暴な足が振り回されるたびに、隣の仲間が吹き飛ばされた。


バラバラになった機体が揺さぶられる。黄梓軒もこれ以上耐えられず、水面下に墜落した。


「た、助けてください!」


海水が肺を満たした。


今、彼を飲み込んでいるのが波なのか、恐怖なのか黄梓軒は分からなかった。


「死にたくない……ママ、ママ、助けてください、お願い……!」


ますます遠くなる視界。


そしてついに意識を失うその瞬間、少年は感じた。


水温が非常に急激に、また奇異なほど涼しくなるのを。



「[それは最も低くそびえ立つ。] 」


[敵業スキル、8階級最上位呪文 - 『氷城(The Castle iceberg)』]



チチチチチチッ- メキメキ-!


「プハア!」


水面外に投げ出された体。


ドスン! びしょ濡れの背中が機体とぶつかった。呻きながら黄梓軒は必死に床を……床?


びっくりして顔を上げた。


するとその時初めて見えた。真っ黒な黄海に到来した「氷城」が、また広大な氷海ひょうかいが。


水面、波、水しぶき……。


全部丸ごと、氷だ。


怪獣に引き裂かれた波は、押し寄せていた形そのまま凍りついていた。


さらにはこのすべての恐怖の原因、「クラーケン」までも。


「ああ……」


少年はようやく怪獣の姿をまともに見ることができた。


家ほどの大きさの瞳がすぐ目の前、氷山の中に閉じ込められていた。


もがく足、怒りに満ちた目まで余すところなく剥製にされたまま。


そして……一見残酷とさえ言えるその氷山の上に一人立っている者。



チャリン、チャリン、チャリーン、ドカーン-!


ひび割れてひび割れていた氷壁が、足を下ろすと同時に爆発する。


砕け散った破片が朔風のように舞い散った。凍りついていたクラーケンの残骸だった。


遭難者たちが広を置いた。


きっとさっきまで恐ろしい悪夢の中にいたのに......


黄海の新しい主人を無慈悲に打ち砕いた征服者が彼らのほうへ歩いてきた。


少年黄梓軒はぼうぜんと尋ねた。


「……誰、誰ですか?」


それに征服者、キョン・ジオが答えた。


「韓国」


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