114話
あの、すみません。
これって きっと、「平凡なヘル朝鮮人だった私が実は朝鮮民主主義人民共和国の人だった?!」から始まったんじゃないの?
北朝鮮ジオに続く人外ジオ。
家系図を確認しに来たら一体何事?嵐のように押し寄せるアイデンティティ論争に頭がぼうっとする。
ジオはわざと深刻そうに顎を撫でた。
「もちろん、このキングジオ様が脱人間級最強者であることは万物が知っており、地球村の友達みんなが知っている公明正大な真実だけど……」
「種族まで変わったら設定過多エヴァーだわ」
「しっ!静かにして!声が混ざるでしょ」
くだらないこと言ってないで。
眉をひそめたキョン・グミが肘で脇腹を突いた。うっ!バタンと膝をついた人外ジオは眼中にないというように前を見つめる。
二人の男の会話は続いていた。
「何をそんなに驚いているんだ?」
「自分の子供を見て人間じゃないと言われて驚かない親がいるでしょうか!」
さあね。「人間」がそんなに大したことか。
長い歳月を生きた超越者にはあまりピンとこない言葉だった。首を傾げながら虎が問い返す。
「なぜだ。お前の子供じゃなくなるのか?」
「……言葉を選んでください。どう生まれようと大切な私の娘です」
「結構、それならいい。一度頑張って育ててみろ。大物になるだろう」
イーロンのものがキョン・テソンにつかなかった理由は、状況からして一つしかない。
すでに「門」の使い道を終えたこと。
何か巨大な運が彼をとうに通過したのだろう。そして、こういう場合は大抵「最初の子」がその理由であり結果だった。
「簡単だ。神であれ、縁であれ。強力な『何か』があちらを通して人間の胎を得て世に出てきたんだ」
もし邪な「天穴」だったら大悪人を吐き出していたはずだが、こちらは……。
「二度とない偉人になるだろう。過去の歴史の中のイーロン、天穴の最初の子たちがそうだったように」
「……あ、お褒めの言葉でしたか?言ってくださいよ。無駄にむきになってしまいました。ハハハ。お礼はどう……?」
「誰を巫女扱いしているんだ」
冷たい言葉にもキョン・テソンはただ嬉しそうな顔だ。
胎夢から誕生日まで特別な最初の子。だから大きくなるだろうとよく言われてきた話だが、聞くたびに気分がいいのはどうしようもない?
しかし、虎の表情はどこか微妙だった。
「喜ぶ話ではないはずだが」
「世の中には良くても、さて。果たしてそちらにもそうだろうか?」
天穴は「門」。何がどうであれ、結局本質は門だ。
そして門とは本来、出入りする者が多ければ多いほど、また出入りする体積が大きければ大きいほど摩耗するもの。
虎が見るに「あれ」は寿命を終えた。
「使い道が終わった天穴はいつ死んでもおかしくない」
ぼんやりした、キョン・テソンの手から彼がタバコを抜き取った。
ふうっと吸い込むと再び生き返る火種。その煙に、キョン・テソンの肩の上の亡霊が焼け付いていく。
「こんな雑鬼どもを連れて歩いていると……いつか、運悪く野垂れ死にするかもしれない」
「……」
「価値を終えたからだ。定められた宿命だ」
「……残酷じゃないか」
黙って聞いていたジオが振り返った。先が割れた声。キョン・グミだった。
拳を握った末っ子がむすっとしている。人に使い道だとか、何だとか。
「世の中にそうするために生まれてきた人がどこにいるの?親も絶対にそうするために産んだ……!」
ピタッと途切れる言葉。
不意の悟りによるものだ。虎が淡々と念を押した。
「親?天穴に親はいない」
「……」
「言ったはずだ。大晦日に『造られた』生命だと」
彼らはただ、自然に生まれるだけ。
パッと音を立ててキョン・グミが顔を背けた。問い詰めるように尋ねる。
「じゃあ名前は!」
「……ん?」
「苗字よ。キョン!それご両親から受け継いだんじゃないの?」
「ああ……」
キョン・テソンが苦笑した。
「これは保育園の園長先生のご主人さんの苗字だよ。いい人たちだった。昔の事故で二人とも亡くなったけど」
そのせいで急激に保育園が衰え、お坊さんに引き取られたのが彼の幼い頃の総まとめ。
姉妹が互いを見つめ合った。
思いがけず、思いがけない方向にこうしてパズルが解けていく。
とぼとぼと、その時彼らのほうに近づいてきたギルド員が慎重に虎を呼んだ。あの、副ギルド長。
「C組までの移動が終わりました。時間が迫っているのでこちらもすぐに移動するようにとのことです」
「あと何分だ?」
「約18分20秒残っています」
地盤が非常に弱くなった、ダンジョンは大規模な運身が不可能だった。
したがって、人員を分けて移動中だったが、今回は彼らの番という意味だった。
案内に従って一人二人と人が動き始める。暗くて長い道を歩いて行った。
本意なく一緒に聞いた、キムさんが慰めるように、キョン・テソンの背中を叩いた。
「おい、テソン……」
「どうしたんですか。私は大丈夫です」
一点の嘘も混じっていない本心だった。心から彼は大丈夫だった。
「むしろいいですよ。親ならほとんどそうじゃないでしょうか?」
「天穴」の宿命が元々そうであるように、親もまた元々そうだ。
自分の子供が自分よりもっと良い人生を送り、自分よりもっと幸せになることを願う。
幼いジオの写真がある内ポケットを撫でながら、キョン・テソンが微笑んだ。
「私は少し見苦しく生きてもいいんです。私の娘さえうまくいけば、もっとひどい道も見ますよ。だから……」
「うわ!ちょ、危ない!」
ドゴーン!
突然大きく揺れる地軸。
それによる落石が頭の上に落ちてきたのは一瞬だった。しかし……。
キョン・テソンはゆっくりと顔を上げた。
すぐ目の前、鞘を持って防いだキョン・グミの背中と魔法使いの念動力によって止まった石の破片たち。
視線が合う。
目を離さずに、キョン・テソンが優しく言葉を続けた。
「本当に大丈夫だよ」
「……」
「『パパ』は本当に」
眼鏡越しに見える確信と慣れた愛情。
激しく、ジオの二つの目が揺れた。唇が震える。漏れ出した声はか細かった。
「……知ってたの?」
一体いつから?
キョン・テソンは黙って笑った。
ありえないことだからまさか、まさかと思っていたが、完全に気づいたのは少し前。
天穴だとか何だとか言っても、虎が言ったことは結局、身に余る子供を得て彼が死ぬということだった。
それに本能的にこの子たちを見つめていた自分を自覚しながら、また……泣いていないが、泣いている顔で立っている「娘」を見てついに彼は悟った。
「大きくても、小さくても……愛する私の娘を目の前にして見分けられなかったらパパ失格じゃないか」
ドゴゴゴーン!
洞窟が再び揺れた。
慌てた人々の悲鳴と早く脱出せよという叫び声が入り乱れる。
しかし、彼らの考えとは異なり、これはダンジョン暴走による余震ではなかった。
これはそれよりもっと「外部」から来た衝撃だ。
キョン・ジオがぼんやりと呟いた。
待って。
「……まだだめだ」
「まだ言うことが……」
タッ!
その瞬間ジオを掴む手。
柔らかくても確かな線が存在していた数分前の配慮とは異なり、手加減がなかった。
やや混乱した様子の虎を見てジオが噛み砕くように言った。
「離して」
「……おかしい。私も理由がわからないが」
「……」
「私の本能が『これ』を今お前に渡せと言うんだ」
パッと、彼の指の間から起こる青い炎。
晴れると一目見ても只者ではない紙、赤い字で書いた黒いお札がそこにあった。
誅殺符。
遠い昔、狡猾な大狐を引き裂いて殺せと命じた鬼主の誅殺令。それが込められた神物だ。
[あなたの聖約星、「運命を読む者」様が外でもとても焦っている様子だと失笑します。]
ジオはじっと虎を見つめた。正確には、若い彼に宿っている「現在」の彼を。
目を伏せながら虎が囁いた。
「そして……私の本能が言うには、わざわざ言わなくてもお前がわかるだろうと」
ああ、そうだ。わかっている。
「馬鹿な真似はやめよう」
こんなクソみたいな状況でも魔法使いの判断力は健在だった。
「……キョン・グミ。こっちに来て」
「お、お姉ちゃん」
「早く」
インスタンスダンジョンについて何も知らなくてもこれくらいはわかる。このままでは閉じ込められる。
出るなら正確に「今」だった。
前の入り口に向かって走り出す人々とぼんやりと立って姉妹を見つめる……「パパ」。
キョン・ジオは一瞬迷った。しかし、この言葉だけは言いたかった。
「……ごめん」
心の片隅にいつもあったその言葉。
私がもっと早く強くならなくてごめんなさいと。それがとても申し訳なくて、後悔して……。
とても耐えられなくて馬鹿みたいにあなたを消してしまったと。
本当にごめん、と。
不可能だとわかっているけど、会ったら必ず謝りたかったのに。
許されたのはたった一言。
これ以上あれこれ言う時間はない。歯を食いしばりながらジオは誅殺符を破った。
キャアアアアアアク!
ピリン、ピン、ピン!
[警告:致命的な状況!ダンジョンマスターの状態が非常に不安定です。]
[所有者がダンジョンを維持できない状態です。自動的にダンジョンが閉鎖手続きに入ります。]
崩れる空間の中。
最後に見た彼は幸いにも笑っていたようだった。
[インスタンスダンジョン - 「狐の玉」から脱出しました。]
……。
……。
「……お姉ちゃん!」
慣れた空気、全身に爆発的にみなぎる魔力。
たった一言で世界を崩壊させることができる刃の上。いつもと同じ、キョン・ジオの世界だ。
ジオはゆっくりと目を瞬かせた。
正面、普段より蒼白なキョン・ジロクが見えた。低い中低音で確認するように頬を包み込む。
「大丈夫か?」
「うん」
キョン・ジオは立ち上がって周りをさっと見回した。
時間は夜。
目を閉じた時だけども明らかに真昼の邸宅の中だったのに、なぜか月光だけが照らす森の真ん中だ。
隣で末っ子の面倒を見る、キョン・ジロクを置いて、ジオは手首を撫でながら歩いて行った。
[実績スキル、7階級高位呪文 - 「再生(Regeneration)」]
ねじれていた手首が一瞬にして元に戻った。
命が危ない致命傷、四肢が切り落とされた者も一時に回復させる高位級救生呪文。
たかが手首の治療に使うのを他の魔法使いが見たら気絶するだろうが、まあ……。
もう一握りの魔力にすがるニュービ、ジオではないから。
「ネズミの糞ほどの魔力で遊んでたら本キャに戻ってきたからめっちゃ適応できないんだけど」
「元気そうだけど」
「古参のセリフタイムだから引っ込んでて。そっちの順番はこの次だから」
木に寄りかかった虎が軽く笑った。後ろにパサッと倒す髪の間から冷や汗が光る。
いくら格が違っても、完全な狐の領域。
他人の心房をかき回したのだから無理がいくのも当然だった。無理やり取り出したせいで少なくとも禁制一つは解いただろう。
とぼとぼ、ジオの足がついに止まる。落ちてくる声は夜のように静かだった。
「バリユン」
大狐「バリユン」。
床に縛られてめちゃくちゃな姿のメグがゆっくりと顔を上げた。
「一つだけ聞く。ちゃんと答えろ」
「……」
「なぜそうした?」
私にどうしてキョン・テソンを見せた?
……フ、フハハハ!狂った狐はすすり泣くように笑った。
「なぜでしょう、哀れで幼い私のご主人様」
「……」
「ずっと恋しがっていたじゃないですか。会ったら出ていく考えなんてなくなるから。ずっとそこにいると思ったから……!」
あの食い殺してやりたい鬼主の邪魔さえなければ、「悪夢の3月」の時期に送ることができた。
そうすれば絶対に戻ってこなかったのに!
ずっとその中に、私の腕の中にいたのに!
予想よりも早く追撃してきた鬼主は、すぐに過去の本人と連結された交差点を見つけ出し、そこに視点を固定してしまった。
狂気に満ちた、メグの目が怒りでギラギラと光った。
一方、聞く者の顔は……。
「ふーん、それが全部?」
「……ご、ご主人様」
「ちゃんと答えろって言っただろ、ユン」
平穏どころか無感情な顔つき。
退屈そうな視線で囚人を見下ろしていた、キョン・ジオが迷うことなく大鎌を振り回した。




