110話
* * *
「登録証がないだと?うーん……それは困ったな。」
彼らの間では「ハンターキャンプ」と呼んでいるようだが、ぼろぼろでみすぼらしい仮設テント村。
受付を担当していた男が、手に持った書類の束をぱらぱらとめくった。
簡単な身上と攻略内訳、そして政府の印章が押された文書。粗末ではあるが、あれがこの時代の「ハンターライセンス」のようだった。
ほほう、ジオが小さく感嘆した。
「見た目は不法滞在者も受け入れてくれそうなくせに、一応ルールもあるんだ……うっ、うっ!」
「は、はは。こいつ、ちょっと頭がおかしいんですよ。き、気にしないでください!」
「……ゴホン。とにかく攻略隊に入りたいなら、区役所に行って登録証をもらってこい。最近は10分もかからないらしいぞ。みだりに未登録者を使ったせいで罰金を払う羽目になったら、面倒なことになる。」
最近、覚醒者の犯罪が急増して取り締まりがさらに厳しくなったと、男がぼやいた。
しかし、10分であろうと、1時間であろうと。
未来人のキョン姉妹が区役所に行けるはずもない。
同じ理由で何度も断られ、たどり着いたのが今のここが最後だった。ここで断られたら、今日はマジで野宿確定だ。
焦ったキョン・グミが、足りない社会性を最大限に引き出した。
「あの、おじさん。どうにかなりませんか?正直、私たちが今すぐ登録できる立場ではないので。」
「うーん……。」
「少女の認可?」
分別がない妹を連れて姉が苦労しているんだな。
世の中がこんな状況だから、家に帰って勉強でもしろと余計なことを言うのも気が引ける今日この頃だった。
家にいる娘のことを思い、気の毒にもなり……。すっかり誤解した男が、後頭部を掻いた。ええい、どうにでもなれ。
「ちょっと待ってろ。おい、チェさん!ちょっと来てくれ!」
呼びかけにさっとUターンするチェさんという女性。首に巻いた白いタオルが、工事現場のベテランを連想させる。
「木工用手袋は一体なぜつけているんだ......? 」
ここは本当にただの肉体労働の現場なのか?それともコンセプト?ジオの顔が深刻になるかどうかなど関係なく、二人の労働者は取引を始めた。
「何ですか?」
「ここの学生たちが仕事を探しているんだが、連れて行って日当を少し多めに払ってくれないか?」
「ほら、これじゃあ、蒸し暑い幕末の労働紹介所じゃん。? 」
「何ですか。何かいい話があるかと思ったら、ガキどもを……。結構です。お断りします。」
「そう言うなよ。魔力も使うらしいぞ。俺が確認も全部したんだ。」
「……魔力ですか?でも、こんな単純労働をなぜ……。ああ、未登録のやつらか?お前たち!家出したのか?さっさと家に帰れ。」
「こ、こら、チェさん。」
「アジョシもそれはひどすぎますよ!まだ若いのに!まるで本当に戦争でも起きたみたいじゃないですか!ええい、ペッ!」
「事情も知らないくせに、むやみに言うな!能力のある子たちにじっとしているだけなのも暴力……!」
「死んだパパを探しに来たんです。」
「……え?」
自分の見せ場を全部奪っていくシンの乗っ取り犯たちの蛮行に我慢できず、親不孝ジオ登場。
ジオは手の甲でさっと鼻を拭った。土埃がつき、家族メロドラマの主人公のビジュアルが完成する。
「最後に聞いた情報がダンジョンだったので、探しに来たんです。」
「……いや、急にドキュメンタリーを……。あ、ママは?」
「家出。」
龍仁に下ったから、とにかく家出したのは間違いない。
「この世に妹と私しかいなくて、行く当てもなくて、一日中パンとジャガイモ半分しか食べられなくて……。」
マックマフィンとハッシュポテトを半分ずつ分けて食べたから、これも間違ってはいない。
「持っているのは魔力だけなのに、今日は道端で寝なきゃいけないなんて。ああ……かわいそうな私の妹、グミ。まだ成長期なのに、夜露に濡れながら寝るのは大丈夫だよね?」
鉄面皮の特性がなくても堂々としていた。嘘は一つも言っていないから。
隣でキョン・グミが顎を落とし、チェさんと受付のおじさんが口を塞ぐ。ゲームオーバーだった。
「登録証がないと、まともなところでは絶対受け入れてくれない。チェさんのところなら、単純労働の中では指折りにいいところだから、一度頑張ってみろ。」
とにかく暗黒期には珍しい好意だった。
ジオは「ナ・サンファン」という彼の名前を、一応覚えておくことにした。
「まったく、あのアジョシ、私が甘いと思ってるんだ。いつも厄介者ばかり押し付けて。ああ、私の運命や。」
実はチェさんのところの単純労働の募集は、二時間前にとっくに終わっていた。
国から支援してくれる物資を受け取りに来たところに、引っかかったのだとチェさんが舌打ちした。
「とにかく、未登録なら等級もわからないな。ええい、登録はなぜしなかったんだ?ガキども、国をなんだと思ってるんだ?」
「……パパが出生届を出してくれなくて。」
もう犯してしまった親不孝は取り返しもつかない、利用するしかないじゃないか。
罪悪感を抑えながら、それで住民登録番号もないとグミが呟いた。
こくこく。ジオも隣で深刻な表情で同調する。
タバコに火をつけようとしたチェさんが空振りした。いや、一体どんな事情が……。メロドラマの自動販売機か?
「……そんなクソみたいなやつがいるか。もういい、もういい。やめよう。まあ実際、この底辺で登録証がないやつなんて、一人や二人じゃないし。」
「え、そんな人が多いんですか?」
「多いさ。登録したら召集に応じなければならないから、しないというクソ野郎もいるし、死ぬほどしたいけど、できないやつらもいるし!」
「……?」
何のことだ?全く理解できない顔のキョン・グミ。
風の反対方向にタバコの煙を吐き出しながら、チェさんが笑った。何を惚けているんだ?
「「非覚醒者」たちのことだよ。」
「……非覚醒者がダンジョンに入るんですか?そもそも入場が不可能じゃないですか。」
「できないわけないだろ?」
「いや、エンターストーンが……。」
プハッ!面白い話を聞いたとばかりに、チェさんが笑い出した。何のことかと思えば。
「エンターストーンまでついているところにお前たちが行けるわけないだろ?夢でも見てろ。そんなところは後で登録して貴族にでもなったら行け、お嬢さん。」
「それってダンジョンごとに付いている基本アイテムじゃないんですか?」
「何……。」
疑わしい目でチェさんが姉妹をじろじろ見た。さっきから世間知らずなことばかり言って。
「これってもしかして、庶民体験しに出てきた金持ちの道楽息子たちじゃないか?」
「以前、センターの要員が直接説明してくれたんですが。」
「ふむ、ただの妄想症か。」
チェさんが頷いた。
(同情心を込めて)一段と温かくなった声で言う。
「入り口があってバベルが選別してくれる。そんな親切なところはこちらには贅沢だよ。私たちが行くのは「穴」だ。」
「ああ……!」
ようやくキョン・グミも理解した。
つまりチェさんが今言っているのは「魔窟」だ。
バベルの「最優先管理国家」になってから、現在韓国では全部閉鎖された最下級ダンジョンたち。
ダンジョンポータルが別に存在せず、穴のように見えるので「魔窟」と呼んだ。そんなわけで、確かに入場制限はないが……。
「それでも危ないでしょう、非覚醒者には。」
「仕方ないんだ。」
「……。」
「ハンターは圧倒的に足りない。かろうじているやつらも、毎日、いや、毎時間死んでいっているし。」
終わりのないサイレンの音、煙に隠れて見えない空。裂けた雲の間からは、閉じてはまた開く亀裂がいくつも見える。
タバコをふかしながら、チェさんが灰色の都市を見つめた。
「S級が出れば「チケット」数もぐんと増えて、ハンター数も増えるらしいけど……こんな小さな国にそんなことがありえると思うか?」
「……。」
「おかげで少ない人数でこの希望のない国を救ってみせると、あのように忙しくしているんだ。貴重な人材の代わりに、残りの者でも一生懸命入ってみなければならないんじゃないか?」
ハンターたちがまともに戦うには、アイテムと魔石が必要だから。
「何もしないで遊んでいるより、祖国のためにこんなことでもしなければ。」
もちろんみんなこんなマインドではないだろうけど……とにかく私の場合にはそうだと言って、肩をすくめるチェさん。
暗黒期を生きる人々。ジオが無心に言った。
「そちら、非覚醒者なんですね。」
「まあ……。ああ、そういえば自己紹介もしていなかったな。」
がらがらした口調、ふっくらとした体格。
西×大学政治外交学科の大学生。タバコよりも祖国を愛するヘビースモーカーがにやりと笑った。
「私はチェ・イスルだ。気軽にチェさんと呼んでくれ。」
* * *
三人を乗せた車が走って到着したのは冠岳山。
ソウル・京畿地域では最も規模が大きい魔窟がある場所だった。
そのせいか、山の入り口にはさっきのハンターキャンプと似たように人が多かった。
「キムさん、人員チェックは終わったか?」
「どうせみんな同じようなもの……。なんだ、この子たちは?」
「ハンターキャンプからついてきたお荷物たち。それでも魔力を使うらしいから、ポーターとしては使えるだろう。」
「二人とも幼く見えるけど。ふむ、うちのマクコンジャンがちゃんとやったんだろう。」
「ったく……。お前たち、挨拶しろ。私はただの案山子で、こちらが私たちの実質的なマクコンジャンであるキムさんだ。D級戦闘系ハンター。」
「どういう集団かと思えば。」
ジオはそっけなく彼をじろじろ見た。細かい傷跡だらけの男。
キムさんは一目見ただけでベテランだとわかった。まともなハンターがいるにはいたようだ。
他のマクコンと順番の整理をするため、チェ・イスルがしばらく離れ、新米ポーターを引き継いだキムさんが顎を掻いた。
じっと彼を見つめている姉妹。
一方は大きく、一方は小さいので、すぐに姉妹とは見えなかった。
それはそうと。
「なんだか見覚えがあるな……。」
「覚醒してからどれくらいになる?」
「うーん、10年くらい。」
「……?」
「あ、まだそんなに経ってません。」
ちゃんとやれと歯を食いしばるキョン・グミと、これ以上どうすればいいんだと口を尖らせるキョン・ジオ。
一応、小声で話しているつもりだが……。
「あの、全部聞こえてますけど……。」
「すみません!おい、お前マジで!」
キムさんがぎこちなく笑った。
「いや、まあ…マクコンには元々独特な性格が多いからな。うちのマクコンも例外じゃないし。本当にどうしようもなく運のないやつが一人いるんだ。」
「運がないんですか?」
「文字通り「運」がない、運がとことんないやつなんだけど……。ああ、ちょうどあそこにいるな。おい!」
瞬間、同時に姉妹が立ち止まった。
ドキドキ。
見間違えるはずがなかった。
キョン・グミは古い写真帳の中の写真で、ジオは古い思い出として記憶している顔。
「キョンさん!」
ジオは唇をぎゅっと噛み締めた。
動揺しないと思っていたのに、内側から熱い何かが込み上げてきた。
遠くからキョン・テソンが笑う。
「はい!」
「パパ」だった。




