104話
「うち」の家。
〈銀獅子〉大邸宅がそう呼ばれていた時があった。
中学校の頃、ジオの訓練が終了して足が遠のくと、自然に幼年期の思い出として残されたが。
トントン。ガチャ。
「……寝ているって言ってたのに」
ジオは回想から抜け出す。ドア際に立つ虎が小さく失笑した。
「『天使のように眠る顔を静かに見ているだけでいい』……とおっしゃるので見に来たら。退屈で今にも死にそうな人しかいない」
天使はどこに隠したのかと冗談を言う。絶対に負けないキョン・ジオが言い返す。
「どなた?」
「また、ふざけて」
「あら、うちの狂犬様じゃないの。朝見た財閥の御曹司と全然違うから、よその家の男かと思ったわ」
「何のことだ?」
虎がガウンのポケットに手を突っ込んで歩いてきた。
少し濡れた髪、軽く室内ガウンを羽織った姿。
退勤してすぐにシャワーを浴びてきたようだった。
キョン兄妹が城北洞の邸宅を離れる時、彼も家を出たのだが……今回ジオが入ってくることになり、しばらく一緒に暮らすことになった。
家は楽であるべきという主義のウン・ソゴンのおかげで、本当に家の中でしか見られないリラックスした姿。
ジオも久しぶりだ。こんなに完全にリラックスした虎を見るのは。
ベッドの下に虎が寄りかかって座る。ジオはぼんやりとした瞳で彼の袖を握った。
「ねえ、ちょっと。」
「外の世界はどうだ……?このグレート・キョン・ジオがいなくても、私の帝国は、私の臣民は……無事、ゴホッゴホッ……!なのか?」
「泰平の世だよ。よくご存じでしょう。Wi-Fiが繋がらないと、あんなにお年寄りたちを叱ったとか……」
「ちぇっ」
年寄りたちは年を取って口だけは達者で。脱儒教ガールのキョン・ジオが卑怯に舌打ちをした。
病院から城北洞の大邸宅に移ってきて二日。
学生のグミの面倒を見なければならないし、仕事もあるし。忙しいでしょうから、私たちが代わりに心を込めてお世話しますと虎が母さんを説得した結果だった。
最初は迷惑をかけるわけにはいかないと母さんも頑なに拒否したが……。
「体調はどう?」
「めっちゃ元気」
「お母様には連絡した?」
「した」
「代表には?」
ジオは会ったと言って頷いた。
バベルの塔39階攻略。
六つの階層が解放されたとか、歴代級の登山だとか、あちこちで騒いでいたが、お祭り騒ぎをする暇はなかった。
妙な不快感も、記憶の空白さえも噛み締める暇もなく、ジオはある知らせと向き合った。
一昨日の明け方、母さんからの切羽詰まった連絡で呼び出された虎が、出発する直前に言った囁き。
「砂時計……確認したか?」
「運命の砂時計」。
聖約星固有スキル、「ライブラリ化」の下位特殊スキルで、対象の残り寿命を知らせるスキルだ。
そして現在、その砂時計の唯一のスロットを占めている「対象」は……ウン・ソゴン。
ジオは一瞬にして減ってしまったウン・ソゴンの時間を見ることができた。
母さんの意固地がついに折れたのには、その影響が一番大きかった。彼女も知らせを聞いたからだ。
熱も疲労も消えて久しい。
39階から抜け出すと、異常現象はすべて消え去った。
だから部分記憶喪失が再発して絶対安静のための療養とか言っても、正直全部言い訳だ。
実情は健康が急速に悪化して本当に療養中のウン・ソゴンを慰めるために滞在するという方が正しいだろう。
数日間滞在するジオの荷物を受け取りながら、虎は母さんに丁寧に頭を下げた。
大変な時期に父に大きな慰めになるだろうと……感謝すると。
「よくやった。お利口さん」
「え?いや、何そんな恐ろしいことを……取り消してください、すぐに」
聞くに堪えないことでも聞いた人のようにジオが急に顔色を変えた。
当分の間、善良だとか、良い人だとか、秩序善良などなど。こんな悪質な善意の群れとは少しも関わらないつもりだったから。
マルチ商法もどきの秩序善良グラデーションでキング、ジオの骨の髄までしゃぶり尽くした許しがたい「あの集団」。
白鳥は、3位更新、ナ・ドビーは31位で1番チャンネル進入だったか?
彼らだけで株を上げたという知らせを遅れて聞いて、ジオは病室のベッドの上をゴロゴロ転がった。
お腹痛い、お腹痛い。苦労はこのキングジオ一人で全部して!
「奥義一発撃つのにどれだけ頭が痛くなるか知ってるのかよ、え?間抜けに剣を振り回したり、インチキ祈祷ばかりして何がわかるんだ!」
お前ら演算の味がわかるか!
よく考えると熱病にかかったのも全部あいつらのせいのような気がする。(違う)
マンチキンのバスにしっかりタダ乗りしておいて、感謝だと最敬礼もしないで、よくもまあ、あえて言及もしない?(バンビがさせた)
俳優や歌手も年末授賞式でサンキューゴッド、挨拶程度はして過ぎるのに、これは何だ!
ゴッド、ジオありがとうございます、一言くらいは朝の挨拶のようにできるんじゃないか?(決して違う)
とにかく付き合えないやつらだった。
「だから先祖様たちの言葉に、頭の黒い獣は飼うもんじゃないって言うんだよ。え?無念ジオ、無念ジオ!」
「そう、無念ジオ。もう無念がるのはやめろ」
タプコル公園の年寄りみたいな愚痴を一日二日相手にしているわけではない、レベルMAXのベビーシッターが淡々と受け流した。
片方ではインベントリを開く。
寝ているというので明日あげようと思ったのに……寝ているどころか、両目が爛々と燃えているではないか。
すると瞬間、ふわっと漂う甘い香り。
蟠桃だった。よく天桃として知られている。
虎が目を伏せた。
小さな短刀を取り出し、柔らかい果肉を食べやすい大きさに切り出す。
「はい」
「……」
前に差し出された桃の欠片。
ジオはぼんやりと見つめ、小さく口を開けた。舌に触れると、サラサラと涼しい感覚で溶けていく。
甘かった。
三千年に一度実がなるという天の仙果。
初めて実ったものを食べると神仙になり、二度目には雲に乗り、最後の九千年桃を食べると永遠に生きられるという不老不死の果物だが……。
西王母の蟠桃園で育った本物ではないので、そこまでではない。
ただ、もう少し健康になり、魔力回路を清める程度?
今は元気で健康だが、魔力コントロールで苦労していた幼い頃には、熱病がひどかったジオ。
唾も飲み込めず苦しそうにしているたびに、虎は隣に腰掛けてこの桃を剥いて食べさせてくれたものだ。
その時は何も知らずによく食べていたのに……。
「もう食べない」
「なぜ?」
「……あんた、具合悪いじゃん」
【聖約星、「運命を読む者」様があんな愚かな行為を見たかと舌打ちをします。】
火で焼かれたように真っ赤に染まった虎の指先。
いつものように平然とした顔つきだが、騙されない。
いくら子供っぽくても、それくらい見分けられるくらいには成長した。ジオは掴んでいた大きな手をポンと突き放した。
「マゾかよ。幽霊が桃を何で触るんだ?寿命を縮めたくて気が狂ったか。変態ですか?」
自分の親指の先を軽く噛みながら、虎がゆっくりと笑った。言いたい放題だな。
「幽霊とは……。真面目に人の真似をしながらちゃんと生きている人に失礼だ」
「幽霊だろうが、お化けだろうが。大体そんなもんでしょ。人じゃないものって、みんな似たようなもんじゃないの?」
「お化けではないってば。いつまでそのこと言うんだ?ドラマ終わってからずいぶんと経つぞ。いい加減抜け出せ」
名ばかりの鬼主ではないか。
万鬼の頭。あらゆる幽霊やお化けを扱う総称、「魑魅魍魎の代理人」。
手下と同じ扱いとは困る。虎が眉尻を少し上げた。
とにかく霊系の方は何でこんなに複雑なのか。ジオもつられて眉を上げた。
「じゃあ何なの?」
虎がだるそうに答えた。
「さあ」
彼も知らない。
記憶している時点ですでに彼は存在しており、幽霊やお化けたちが崇める彼らの頭だった。
それがずっと昔からだったことだけは確かだ。
20数年前、バベルの塔の出現はある意味、合図弾のようなものだった。
チャプターの転換。世界という舞台の主人公が人間から超越者たちに移ったことを知らせる宣言。
バベル時代が到来するはるか以前から、雪岳の〈ヘタ〉がそうだったように、「超越的なもの」はこの世に存在していた。
1世代覚醒者の代表格であるウン・ソゴンもその一人。
もちろん「魔力」というバベルが開いてくれた力との出会いは初めてだが、彼はもともと紫微宮の最後の後継者だった。
別名、「北極星一族」。邪悪なものを人間から隔離し、閉じ込めておく看守の一族。
外見は普通の人間。強い力を持っているわけでもなく、長い時間が経ち高貴な血さえも薄れてしまったが、妖怪を扱う腕前だけは卓越していた。
檀君の子孫として玉皇上帝の命を受けた一族だったからだ。
したがって、その邪悪なものを閉じ込めた場所も上帝の宮殿、紫微宮と呼んだのが集団の始まり。
現在、その紫微宮のもう一つの名前がまさに、「牢娑殿」。
「虎」はその牢娑殿の最後の収監者だった。
*******
「しーっ。警戒しないでくれ。私は家族が多い、ただの人間だ。幼く見えるが、生まれてから長いのか?」
「……」
「名前は何という?」
「……鬼主」
「ほほ、それは名前ではないな」
金色の点が散りばめられた灰色の瞳。
闇の中の猛虎のような瞳だ。
若いウン・ソゴンは感嘆して彼を「虎」と呼んだ。
生まれて初めて味わう白米は温かかった。少年は長い影から出てきた。
星が輝く夜。
人が言った。
「最近、空模様が良くない。世の中が騒がしくなるだろう。そうなると一人では辛いだろう。よければ、私と一緒に行かないか?」
「……」
「私はもう年を取ったから、君のように元気な息子がいれば心強いと思うんだ」
手を差し出す。
温もりは驚くほど中毒的で、少年はどうしても拒むことができなかった。
こうして彼は人々の「虎」になった。しかし、もう……人「々」の虎ではないようだ。
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虎は片方の顎を突いた。
ジオを見つめる。無心に彼を見下ろしている瞳。
老いたウン・ソゴンの力は、もはや虎を捕らえておくことはできない。
それでも自らを削る封印式を体に刻み込み、つまらない人間の真似をしながらまで、しつこくこの地に足をつけている理由。
虎は小さく絶対的な彼の支配者を見上げた。
鋭い青い鬼気が漂う青銅色の髪、斜めに額をかすめ……。
「私が何であろうと、重要か?」
彼の暴君が笑った。
邪悪なものに致命的な桃の甘い香りをぷんぷんさせながら。
「いいえ」
「……」
「キングは寛大だ。私のもの限定で」
かつて幽霊、かつて獣、今は人間……魑魅魍魎の覇者、娑婆世界の最も偉大な囚人は思った。
人は私を手懐け、この子は私を支配する。
避けようもなく弱くなった心で虎は苦笑した。
ジオの鼻先を軽くつつき、大きな背中を屈める。膝の上に斜めに横たわる頭。
声は夜のように低かった。
「……外は寒い。できれば出歩かないで。お前も療養中の患者だということを忘れるな」
「リョーヨー?全然違うって知ってるくせに」
「もともと自分の体は本人が一番わからないものだ。今を見ても明らかじゃないか」
鼻で笑おうとしたジオが止まった。数日ですっかり弱ってしまったウン・ソゴンの姿が思い出されて。
「弱くなるのは一つで十分だ」
「……ちっ」
そう言うのは反則だ。ジオが文句を言おうとした瞬間。
バタバタ、ドーン!
「おい!お願いだから、このクソじじいどもを何とかして……!」
一瞬にして室内に漂う青々とした森の匂い。
荒々しくドアを開け放ったキョン・ジロクがぴたりと立ち止まった。部屋の中を見ると、何かのスイッチが入ったのか口元を歪める。
「……二人で何してるの?」
そんなことはお構いなし。ジオは素早く状況判断を終えた。
肩で息をしている様子と乱れた髪。その間に浮かぶ額の汗……何よりも雑に手形がついた革のジャケット。
「あいつ、めっちゃ激しい追いかけっこでもしたのか……?」
そ、それなら。
「ど、どいて!」
ドサッと床に突き飛ばされる虎。
なりふり構わず虎を突き飛ばしたジオが、慌てて布団を被った。
そしてグーグー。必死に寝たふりを始めるのと同時に。
「あー、可愛い子鹿ちゃん!まさかうちのお嬢ちゃんが起きた……!あらら。違うわね」
「バンビ、この可愛いいたずらっ子め!姉ちゃんが具合悪いのに起こしちゃダメだって、じいちゃんが言ったか、言わなかったか!こっちに来なさい!」
「く、くそ、義理もへったくれもない浪人生……!」
「グーグー……」
引きずられていくキョン・ジロクのレーザーのような視線が感じられたが、義理も良心も犬にでもくれてやった浪人生は無視した。
【特性、「お荷物生存本能」が活性化されます。】
「あらあら、ダメだわ、この意地悪な子鹿ちゃんめ。このじいちゃんたちと久しぶりに一緒にお風呂でも入ろうか?うん?」
「あらまあ!いいわね、いいわね。うちの坊やがどれだけ大きくなったか見てみましょうか?」
「や、やめろってば!」
「アディオス、バンビ……」
紫微宮、牢娑殿などなど。世間であれこれ騒いでも、キョン兄妹にとってここはこう呼ばれる。
ボケた年寄りのタプコル妖怪公園。
愛情も過ぎれば毒となるのではないか。
手厚い育児物に精通したプロたちも、あ、これはちょっと……と後ずさりする溺愛の竜巻。
「あらあら、ちょっと待って!うちのお嬢ちゃん、さっきまぶたが少し上がったような……?」
「グ、グー、グーグー……」
あ、誰か助けて……!
数百年生きた老妖怪たちのお嬢ちゃん、両目をさらにぎゅっと閉じた。ダラダラと冷や汗を流しながら。




