101話
【キョン・ジオ。】
【走れ。すぐに。】
急に似合わない雰囲気を出して騒ぎ立てるなんて、いつものように冗談を言う暇もなかった。
ジオは本能的に白鳥の襟首を掴み、そのまま空間移動した。
「瞬間移動」が見える範囲内で施術者の位置を調整するなら、「空間移動」は距離と距離を飛び越える跳躍。
正確な座標計算といくつかの前提条件が必要だが、高位魔法使いには無意味な話に過ぎない。
したがって、すぐにジオが意図した場所、「塩の橋」の前に到着するはずだったが……。
[大悪魔■■■■の支配力が聖都全域を掌握します!]
[遮断された区域です。該当範囲内でスキル使用及び魔力運用が制限されます。]
[適用範囲:豊かな聖都「アドミヤ」全域]
[警告!フィールドペナルティにより職業スキル「空間移動」が無効化されます。]
[スキル「空間移動」に失敗しました。]
パアッ!
目標地点まで半分残った距離だった。尖った氷山の上空へ二つの人影が墜落する。
ヒュッ、白鳥が素早く空中で体を捻った。ジオを引き寄せて抱きしめ着地する。
「大丈夫か?」
近くに触れ合った体のため、白鳥特有の蘭の香りが感じられそうだったが、それよりも……。
ペッ。
ジオは黙って顔を背け血を吐いた。
スキル失敗による逆ダメージ。中からの逆流した血の匂いがむせ返るほどだった。
「クソ。走れってこういう意味だったのか?」
「君、体が熱いが。」
「究極技を使った後に反動ダメージまで食らって無事なら、それは人か?」
「……内傷の程度が深刻なのか?」
スッと口元を拭ったジオが白鳥を睨みつけた。
髪の毛先を引っ張ると、ぐっと近づく顔。 戸惑いに揺れる二人の目が見えます。
ジオの声が低くなった。おい。
「今そんなこと気にする時か?正気か?」
「これ、感じないか?」
「……。」
ドクン、ドクン。
さっきから心臓がなっていた。
天敵、あるいは強敵を間近に置いて本能が送る危険信号。ずっと背筋がゾッとした。首筋の鳥肌が引かなかった。
魔法使いは敏感な動物だ。
警告アラームが鳴った直後から誰よりも感じることができた。これは人間の力で相手できる敵ではない。
再び落ち着きを取り戻した白鳥の表情。ジオは神経質そうに笑った。
「正気に戻ったなら走れ、クソ。」
むず痒いお姫様抱っこの姿勢がどうのこうの文句を言う時間もない。
ジオが白鳥の首を抱きしめると同時に、ピンと張り詰める全身の緊張感。
矢が弦を離れるように、白鳥が前へ射出された。
ザーーーーー。
頬が冷たい。
今降っているのは雪の代わりに雨。
大魔法が起こした余波だった。
神聖な光の災い、「アポカリプス」。邪なものを浄化するにとどまらず、猛烈に燃やす光輝の津波は、凍りついた北風を払拭するに十分だった。
アドミヤの長年の冬がリアルタイムで溶けていた。
一秒、二秒。目を瞬くたびに、ヒュッヒュッと風景が変わる。崩れる雨の中の雪国。
あちこちで崩壊する氷山と雪崩を見て、ジオは思った。
「いや、マジでやらかしたな……。」
いくら韓国バベルの塔がバランス崩壊のヘルモードでも、まさかこの程度のはずがない。おそらく本来意図された攻略方向は絶対にこんな方向ではないだろう。
呪いで時間制限をかけて、抗魔力を持つ少数の攻略隊員たちが「塩の橋」を渡る絵くらいを考えていたのだろう。
問題は変数。
変数がちょっと過剰だった。
人間的な怪物が突然城門で足止めされ、解けといたわけではない悪魔の呪いは、ブラコンにかかってあっさり解けてしまい。
わあ、天上界様、ここで何してるんですか……?お願いだから空気を読んで……。
バベルの深い嘆息が聞こえてくるようなこの気分。
ピー、ピー。
止まらない赤色警告が、バベルがどれほどメンタル崩壊して冷や汗をかいているのか如実に示していた。
死ぬなと誰よりも大騒ぎしているように感じたら、気のせいだろうか?
例えるなら、獅子の穴の前まで行ってこいと送り出したのに、眠っている獅子を起こしてしまったドジなパーティーになった状況のようだった。
「ジオ様!」
「宗主!」
ジオは顔を向けた。
ぎこちなく 慌てて、こちらを見ている顔ぶれ。雨にずぶ濡れの姿がなぜかおかしい。
ヒュイッ、氷山の間を軽々と飛び越えながらよく走る白鳥。
鳥のように飛ぶように走るおかげで、一行もすぐにすれ違う。ジオは笑いをこらえずに叫んだ。
「何してるんだ、このバカども!」
走れー!
半島のランカーたちだけあって、勘は抜群だった。
躊躇せずにすぐに走り出す。
ペク・ドヒョンがナ・ジョヨンを米俵のように担ぎ、キョン・ジロクが罵詈雑言とともに雪道を駆け出した。
もう高校生くらいにはなっただろうバンビが雨の中で叫ぶ。
「おい!俺たち詰んだってことだろ!」
ジオも思い切り叫んだ。
「見ればわかるだろ!完全に詰んだって!」
「……ジョー。君、私の耳元で叫ばないでもらいたいのだが……。集中が乱れる。」
「うるさい、この白いサツマイモ!全部お前が城門の前で無駄なことしたせいだろ!」
白鷺からサツマイモに転落した白鳥は、やや不当な顔つきだった。唇を少し尖らせているようだが、ジオは無視した。
バキバキッ!
溶けている大地の果てから再び薄氷が張っていた。
まるで「誰か」が彼らに徐々に近づいてくるかのように。
ポツ、ポツ。
少しずつ雹の破片が混ざり始める雨。ジオは雨に濡れた前髪を乱暴に掻き上げた。
「……近い。」
「橋。」
橋が見えてきたと白鳥が囁いた。キョン・ジロクが鋭い笑いをこぼす。
「ハ。バベル、この殺してやりたいほど親愛なるバベル!」
「な、何事ですか!またなぜ……ハッ!あ、あれ!」
ジオも体を捻って確認した。
塩の橋。白く崩れそうな橋の向こうのガラス管の中の赤いバラ一輪、そしてまたその向こうに遠くに見える……。
「勝利の鐘……!」
階層の最終関門に到達すると現れるというバベルの鐘。あの巨大な鐘を鳴らせば階層の攻略も終了する。
実物を見るのは初めてだった。
しかし、珍しいと感心したり、ついに来たと安心するには早すぎた。
「白鳥。」
ジオは囁くように尋ねた。
「壊せるか?」
ちらりと腕の中のジオを見る白鳥。何を尋ねているのかすぐに理解した。雨の中、白鳥の顔に微かな笑みが広がった。
「こういう時、剣士には……。」
「……。」
「斬れるかと、尋ねるものだ。魔法使い。」
そしてこの偉大な剣士に斬れない敵はいても、斬れなかった敵はいなかったのだ。
体は疲れているが、関係ない。
速度を上げながら白鳥は片手を伸ばし、虚空を掴んだ。
主力武器を持つ戦闘系覚醒者たちの専有ジェスチャー、「専用武器召喚」。
雨の中で水墨のように黒い瞳が静かに鎮まる。
白鳥は自分の呼吸を最低点まで下げた。片手はジオを抱いているので使えない。それなら……!
逆手。
荒々しく口で鞘を剥ぎ取った白鳥が、虚空で剣柄をヒュッと持ち替えた。
スキル使用が禁止されたとしても、それも関係ない。数万回振るった剣の軌跡は体が覚えていた。
「……白鷺一点雪。」
逆手で握った剣がそのまま虚空を切り裂いた。
ザック、パガガッ!
粉々に砕け散るガラス管と、その中のバラ。
砕けたバラの花びらが雨の中でばら撒いた。 そして……来る!ジオは歯を食いしばって叫んだ。
「私を投げて、先に進め!」
「キョン・ジオ!」
驚愕して見つめるキョン・ジロク。
離せ!
ジオは白鳥を押した。 抱いている腕に無理やり力を入れた白鳥が躊躇する。
「本気か?」
「そんな時間はない、バカ!」
「キョン・ジオ、お前気が狂ったか?クソ!」
じゃあどうするんだ?「あれ」を私以外に誰が止められるんだ一体?
決意を終えた瞳はすでに集中して涼やかに輝いていた。その眼差しを見ると、もうためらうことはできなかった。
ジオが白鳥の肩を掴み体を起こす。白鳥は奥歯を噛み締め、その足を止め……押した!
熱で全身が疼く。
失敗の反動でひっくり返った内臓がしきりに悲鳴を上げていた。
そして雨音とともに耳元を叩く赤色警告音。
[遮断された区域です。スキル使用に失敗しました。]
[魔力運用が制限された遮断区域です。スキル使用に失敗しました。]
スキル使用に失敗し……。
失敗……失敗。刹那の間、数十個の失敗アラーム音がかすめて過ぎ去った。
しかし、キョン・ジオは知っていた。
「ふざけるな。」
魔力の中で生まれ、魔力と闘争しながら育ち、ついに魔力を支配することに成功した者。
キョン・ジオは「魔術師王」だった。
万物の法則を壊し、自分の 意のままに再確立してバベルと星界が敬意を込めてプレゼントした名前。
「だから……。」
暗い雨の中で王の瞳が黄金色に輝いた。
「早く動け!」
[タイトル特性、「竜魔の心臓(伝説)」の3段階成長が完了しました。]
[タイトル特性、「魔力遅滞(希少)」の3段階成長が完了しました。]
[限界解除!]
[覚醒者「キョン・ジオ」の魔力回路制限が3次解禁されます!]
クワアン!
巨大な衝突音とともに金色の幕が垂れ下がった。実に間一髪。
クワガガガッ。鉤爪のような黒色魔力が触れるたびに結界が壊れていく。壊れ、生成され、休む間もなく 攻防が交わされた。
「強い。」
ジオの瞳が冷たく燃え上がった。
ゾッとした。
戦力を余すところなく注ぎ、 ぶつかっているのに、どうしてもこの者に勝てるという確信が持てない。
相手も同じなのか、躊躇しているのが感じられた。
隙。ジオは口元を歪めた。同時に迷わず「空間」を畳んだ。
「アディオス!」
誰のためによく相手してやるものか?
そんな馬鹿なことは熱血少年物の主人公にでも探しに行け。
残念だが、こちらは勝負欲なんて全くないんだよ。ジオが嘲笑するその瞬間。
タアク!
「……!」
歪む空間を突き破って腕を掴んでくる手。
ぞっとするほど涼しい体温だ。キョン・ジオは驚いて振り返った。するとこちらを掴んでいる大悪魔……。
「……悪魔?」
荒廃した冬がそこにいた。
幻想の中の騎士のように頑丈な体格。雨に濡れた青灰色の髪、冬の夜のように静かな深淵の瞳……泣いている瞳。
彼を濡らしているのが雨水なのか、涙なのか区別できなかった。
世界を自分の足元に置いていることを一目見てもわかるほど傲慢で、圧倒的な支配者の顔で極めて無力に囁く。
「君だとは知らなかった。」
「……。」
「知っていたら、まさかそんなことをしただろうか。」
悲しいというより疲れてしまった嗄れた声で、ジオに懇願した。
「行かないで。お願いだから。」
また、私を置いて……。




