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【第2話】重力と干渉

ギルド本部の片隅。

誰も座ろうとしない椅子に、銀髪の少女がいた。


黒の戦闘装束。

無駄のない所作。

そして、どこか“隔絶”された雰囲気。


名は、エリシア・ヴェルト。

“重圧領域”を操るユニークスキル持ち。

その名を聞けば、誰もが一歩引く。


 


リオは、黙って彼女の正面に立つ。


「その依頼、俺と組まないか?」


周囲の空気が揺れた。

振り返った冒険者たちの視線が、ざわめきを連れてこちらに向く。


エリシアは、ちらとリオを見上げた。


「……あなた、Dランク」


「条件は満たしてる。俺でいいなら行こう」


「……怪我するかもしれない。それでもいいの?」


言葉は淡々としていた。

それでも、その中に微かな“諦め”があった。

何度も拒絶され、何度も見捨てられてきた者の声。


「なら、怪我しない工夫をする。それだけだ」


 


彼の答えに、エリシアはほんの僅かに目を見開いた。

そして、椅子からすっと立ち上がる。


「……わかった。じゃあ、よろしく」


掲示板から抜いた依頼票を手に、彼女はカウンターへ歩き出す。

その後ろ姿を追って、リオも歩き出した。


 


カウンターでは受付嬢のシェリルが、あきれ半分、心配半分の顔で出迎えた。


「ほんとに組むの? リオ、無理しないでよ?」


「条件は合ってるだろ?」


「それはそうだけど……あの子、今まで十回組んで十回全部、仲間が怪我してるのよ? ほとんど途中離脱」


「まあ、それでも一度やってみないと分からないしな」


「……ほんと、変わってる」


 


依頼は、Cランク向けの討伐任務だった。


対象は、《呪毒喰い》という30層以深に出現する特殊種。

毒性の高い瘴気を纏い、近距離での戦闘が困難な魔物。


本来は経験あるCランク複数人で挑むレベル。

だが、今回は“ペア限定”という特別条件があった。

おそらく、ギルド側もエリシアに同行できる者を見極めたかったのだろう。


 


「確認だけしておくけど、スキルは?」


「ユニークスキル《重圧領域》。今は、制御できない」


「具体的には?」


「私を中心に半径五メートル以内。圧力か、反発のどちらかが発生する。……ランダムに近い」


「怒ると暴走、って聞いたけど?」


「怒りじゃない。感情全般。緊張とか、驚きとか」


「なるほど。……じゃあ、驚かせないようにするよ」


 


彼の冗談ともつかない言葉に、エリシアが少しだけ眉をひそめた。

だが、否定はしなかった。


 


「君は?」


「俺のスキル? うん、まあ、器用貧乏だよ。三つあるけど、地味でね」


「三つスキル持ってる人って、たしか、派生もしにくいんでしょ」


「そう。だから、工夫してどうにかするタイプ。期待しすぎないでくれ」


そう言って笑ったリオに、エリシアは不思議そうな顔をした。

彼女にとって、“自分を過大評価しない相手”は、むしろ新鮮だった。


 


ギルドを出ると、朝の陽射しが二人を照らした。


ダンジョンゲートまでは、石畳の大通りを歩いて十数分。

その道の途中、誰からともなくざわめきが戻ってくる。


「うわ、あの子と三つ持ちのやつ……」


「マジかよ、片方は暴走、片方は器用貧乏じゃねーか」


「無理ゲーすぎんだろ」


 


エリシアは、何も言わなかった。

けれど、リオは彼女の歩幅がわずかに小さくなったことに気づいていた。


「……少し、静かに歩く?」


そう提案すると、エリシアはほんの少しだけ、うなずいた。


 


道の角を曲がった先、喧騒から外れた街路。


そこを歩きながら、リオはふと口を開く。


「俺のスキル、変わってるって言われることはあるけど……」


「……言ってたよね、“工夫”って」


「うん。でも、たいしたもんじゃない。使える状況も限られるし、あんまり信用されてない」


「……そう」


会話は続かない。でも、不快ではなかった。


それだけで、リオは「この組み合わせ、悪くないな」と思った。


 


目の前に、鉄の門が見えてきた。


大地に突き刺さるように建つ石造のアーチ。

その奥に、黒い渦が渦巻く《ダンジョンゲート》が静かに待っていた。


ふたりは無言で、門をくぐる。


《第30層、扉開放──通行を確認》


魔導機械の声が響き、空間が揺れた。


まばゆい光と共に、ふたりの姿はゲートの中へと消えていく。


その先に待つのは、瘴気渦巻くダンジョン。

そして、“信頼”と“破滅”が紙一重の試練だった。

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