傾国の父
男手ひとつで私を育ててくれた父が死んだ時、私はわんわん泣いた。もう二十歳だったけれど、お葬式で人目もはばからず涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして泣いた。
正直なところ、ある理由から私は父を疎んでいた。世間で反抗期と言われる年齢を過ぎてからも父に反抗して、冷たい態度を取っていた。それを死ぬほど後悔した。生前の父はあんなに優しかったのに。私がどんなことを言っても、どんなことをしても、決して怒らずに理由を聞いてくれた。理由さえ言わなくても、怒らずにただ悲しんでいた。そんな父に、親孝行も出来ないまま終わってしまった。
もう二度と会えないことなんてわかっている。それでも願わずにはいられなかった。もしも、もしももう一度会えたら、そのときはこれまでのことを謝って、大好きだと伝えたい……。それだけが私の望みだった。
それから三年後に私は死んだ。あっけなく死んだ。なんかジジイが運転してた暴走自動車にはねられて死んだ。お前さあ未来ある若者の命奪ってんじゃねえよマジで。
しかしそこで奇跡が起きた。救急車に乗せられ、薄れゆく意識の中でグエー死んだンゴと思っていた次の瞬間、はっと目が覚めた。そこにあったのは救急車の天井ではなく、漫画やゲームで描かれる中世ファンタジー的なイカした天井だった。同じくイカしたふかふかのベッドの中で私は眠っていた。それから、侍女だかメイドさんだかが目覚めた私をかいがいしくお世話してくれて、私のものとは思えないふわふわの長い金髪が美しく結われていくのを他人事のように見ていた。
そのメイドさん、赤い髪にそばかすのある素朴な顔をした、いかにもという感じのメイドさんには見覚えがあった。私が高校生の時分にハマっていたスマホの乙女ゲームに出てくる、メイドのアンナだ。この子は女の子だけどスチルがついていた。あとデフォルメのイラストもあった。チュートリアルキャラで、ストーリーにもよく関わってくるからだ。幾度とないリセマラの中で、この子が「今回は特別に十連召喚分の星の欠片を私がご用意しました」と言ったのを何回見たことか。ノイローゼになるほど見たせいで完全な八つ当たりで憎しみを抱いていたが、こうやって見るととても可愛い。さすがは二次元キャラ。
これは完全に、ラノベでよく見た乙女ゲーム転生モノなのでは? そして私は主人公のサラなのでは? その予想通り、アンナは私のことをサラ様と呼んだ。予想が確信に変わった。
生前は失恋まみれだった私に神様がご褒美をくれたのだ。この世界では攻略対象はもちろん目についた男みんな食ってやる。サラは乙女ゲームには珍しく、可愛く天真爛漫なだけでなく成績優秀、あと裁縫やら料理やら女の子らしい特技はすべて得意な超絶ハイスペックヒロインなのだ。貴族のお嬢様ってそんなことするの? 使用人がやるんじゃないの? とか言うのは野暮なので黙るように。そういうのは置いといて、とにかくサラは私が操作、つまり努力してパラメータを上げる必要はなく、はじめからすべてを手にしている完璧な女の子なのだ。じゃあどういうゲームだったの? というと、ガチャでカードを手に入れて無心でレベリング周回をするアホでも出来るゲーム性皆無の……ストーリー重視の濃厚なゲームだった。
この世界には、いわゆる悪役令嬢は存在しない。異世界転生モノでよく見る、悪役令嬢に嵌められたり戦ったり冒険したりするような不愉快で面倒な工程は存在しないのだ。攻略対象の男はみんな最初からサラ、つまり私への好感度がマックスの状態で始まり、一途に私だけを想い続けてくれる。しかもこの世界では課金しなくていい。十連爆死スクショを「オギャアアア」とか言いながらSNSに上げなくていい。こんな最高のセカンドライフがあるだろうか。ありがとう神様! 私、幸せになります。
私が目覚めた時、サラは十歳にも満たなかった。面倒くせえな、さっさと王立なんとか学院に入学させろよ、攻略対象を生で見せろよ。はじめはそう思っていたが、この世界はなかなか悪くなかった。前世に存在した本物の中世ヨーロッパと違うご都合ワールドなので、料理は美味しい、お風呂もトイレも綺麗で衛生面も心配無し。追い炊きとウォシュレットまでついててさすがに引いたけど。まあそれは置いといて、ここは乙女ゲームなので政治的な婚約もしなくていい。貴族ゆえの悩みなんてひとつもない。この世界の貴族はただの金持ちだ。うん、こんな世界なら一生ここで暮らしてもいいかも。あ、一生ここで暮らすんだったな。ガハハ!
「ねえサラ、話があるの」
そんなハッピーライフを送っていたある日、ソフィアはそう言って私を部屋に呼び出した。ソフィアはサラの姉で、サラと違い綺麗なストレートの黒髪をしている。この子もストーリーによく関わってくることもあり、アンナと同じで女の子ながらスチルが用意されていた。この世界のソフィアもスチル通りの美しい姿で、同性の私でも息を飲むほどだった。異世界転生モノのラノベならこの子が悪役令嬢になりそうだが、彼女にはすでに婚約者がいるためライバルにはならない。なお、その婚約者のスチルは出てこない。そういうキャラに限って熱狂的なファンが出来て攻略出来ないバグとか言われることが多いが、そんなことは起こらない安心仕様だ。サラには婚約者いないのになんで姉は婚約してるの? とか聞いてはいけない。
ソフィアがストーリーに絡んでくるのは、期間限定イベントのストーリーでサラと男どもが冒険やらバカンスやらに行くときに「とても良いところだったから、あなたも行ってみてね」ときっかけを与えるために出てくるのがほとんどだった。設定も「優しい姉」くらいしかない。そして実際、この世界でも彼女は優しい姉だった。優しいソフィアお姉様、今日は一体なんのご用事で?
「おかしなことを聞くのだけれど……その、意味がわからなければ無視していいの、あのね……」
「お姉様、どうしたの?」
ソフィアは今まで見たことがない神妙な顔つきで私を見つめた。そして少し息を吐いてから、決意したように言った。
「その、あなたって優奈なのかしら?」
時間が止まったようだった。優奈。前世での私の名前だ。それをどうして彼女が? まさか、彼女も?
「え、えっと……」
「ごめんなさい、わからないわよね? いいの、なんでもないの」
「違うの! その、そう。お姉様……いや、あなたも転生してきたの?」
そう言うと、ソフィアはぱっと明るい笑顔を見せた。ゲームで見た落ち着いた微笑みでも、この世界で見てきた儚げな表情でもない、心の底からうれしくってたまらない、そんな笑顔だった。
もちろん、私だって同じだ! バラ色の人生には違いなかったけれど、やっぱり前の人生をきれいさっぱり忘れることなんてできるはずない。でも、もう二度と戻れないんだから……そう割り切って思い出さないようにしていた。それが、こんな、こんなに近くに! あの頃のことを語り合える友達がいたなんて!
「そう! そうなんだ! 会えてうれしい……また会えるなんて、夢みたいだ」
私の、転生してきたの、って問いかけに、ソフィア……いや、ソフィアの中に宿っている前世の友達が上擦った声で答える。私だって同じ気持ちだ。夢みたい、こんなに幸せなことない!
「あ、あなたは誰なの? 美咲? あ、千夏かな?」
「お父さんだよ!」
え。
「お父さ、ん、って……」
「優奈のお父さんだよ。……ずっと、もう一度会いたいって思ってた。もっともっと、お母さんの分まで優奈のこと守ってやらなきゃいけなかったのに、って……」
「ああー……どうも……」
感動の再会だ。泣きながらハグすべきだ。毒親でもなんでもない優しいお父さんとまた会えたんだ。それなのに私の体は動かなかった。あとあんまり頭も動かなかった。理由はわかっているがあまり考えたくない。
「えっと……なんでわかったの?」
「わかるよ! だって僕……優奈のお父さんだから」
なんか私がわからなかったのが薄情みたいじゃん。なんにも気づかずに優しいソフィアお姉様ぁ〜んとか言ってた私がボケカスみたいじゃん。
また会えたらこれまでのことを謝って大好きだと伝えたい、その思いに嘘は無かった。たとえばこれが、サラの父親だったら。サラの父親にお父さんが転生していたら。まあ、それでもちょっとどうしようかと思うけれど、今ほど思い悩むことはなかった。
私が父を疎んでいた理由が、この世界において都合が悪すぎるのだ。この世界、乙女ゲームの世界では、本当に本当に都合が悪すぎるのだ。
「優奈……今度こそ、お父さんが守るからね」
お父さんはそう言って私を抱きしめた。やめて。マジで困る。お前がこんな美人の女に生まれ変わってるのマジで困る。父親が女になってるのがキモくて受け入れられないみたいなのじゃなくて、マジで、普通に困るんだよ。やめろ、見せつけるな、お父さんが儚げな美女であることを私に見せつけないでくれ!
「ふふ、あったかいね……」
おっぱいやらけ〜〜〜。
ということで、私は父に謝らなかった。うるせえな。薄情者とか言うな。謝りたい感謝を伝えたいそれだけが私の望み……とか言ってたくせにって? 今はもういいんだよ。喉元過ぎればってやつだよ。
そうこうしているうちに私は十六歳になり、晴れて王立カタカナいっぱい学院に入学する運びとなった。ソフィア……父は私の三年前に入学している。この学院は四年制なので、一年だけではあるが四年生である父と同じ学校で過ごすのだ。つまり、この学院にいる攻略対象の男どもは、全員ソフィアに出会う可能性がある。というか、二年生以上のやつらはもう出会っているはずだ。まずい。非常にまずい。杞憂に終わってくれないだろうか。だってこれはボーナスステージなんだ。バラ色の人生なんだ。神様が……ご褒美にくれたはずのぉ……。
「あのさあ」
父と私しかいない生徒会室の中で、ため息混じりに話しかける。父はびくりと肩を跳ねさせた。
「私に嫌われてるとか言いふらすのやめてくんない?」
「そ、そんなことしてないよ!」
「アーネスト様もノアもジェイクもみんなお前にそう言われたって言ってきてんの! ソフィアに厳しく当たるのはやめろ、反抗期なんてみっともないぞ、とか言われてさあ……私が悪者みたいになってんのよ!」
そう怒鳴ると、父は言い返すこともなくしおらしく目を伏せた。ごめん、ごめんね、そんなつもりじゃ……。か細く震えた声に、頬を伝う美しい涙……。
いい加減にしろよこいつよぉ!
アーネスト様は文武両道の第一王子様だ。ゲームでは看板キャラだったけど実際のファン人気はそこそこ、という評価だったがこの世界では設定通りにファンが大量についている。王子のファンって何? 宮内庁のYoutubeチャンネルのチャンネル登録者みたいなこと?
ノアは学院始まって以来の天才で、将来はなんか……すごい要職に就くだろうと言われている。具体的な名前は知らない。文部科学大臣とかだと思う。すごそうだし。
ジェイクは剣聖と呼ばれている人の弟で、兄を凌ぐ腕前の持ち主だ。剣聖が何をしてる人なのかは知らない。戦争とかしてないからどうやって稼いでるのかも知らない。でも聖とかついてるしなんかすごいんだと思う。
そんなすごそうなやつらがサラに惚れて次から次へと甘い誘い文句を言ったりサラの手料理を食べて頬を染めたりするはずだったんだよ。それが蓋開けてみればこうだよ。まあわかってたわ。わかってたけどマジで目の前で起こるとキツいわ。
「違うんだよ、僕はただ優奈と仲直りがしたくて……」
「はあ? それでなんであいつらに相談するわけ?」
「僕から相談したんじゃないんだよ。みんなが、どうしたのって聞いてくれたから……」
どうしたの、何か悩みがあるなら言ってごらん、って、そう言ってくれて……。だから、つい……。父は目を涙でにじませながら、弱々しい声で続ける。
何それ? 私はそんなこと言ってもらったことないんだけど!?
え……ていうかそれあれじゃない? あの「どしたん? 話聞こか? あーそれは彼氏が悪いわ、俺ならそんな寂しい思いさせんのに」じゃない?
「みんな、そんなの気にせずに自分と仲良くしようって言ってきてちょっと気持ち悪かったけど……」
やっぱりそうじゃん!
いやでもさぁ、あいつらソフィアに婚約者いるって知ってるよね? 婚約者いる女に言い寄るクズだったの? まさか、これまでそんな素振り……。
見せてたわ。生徒会入ってから起こるはずのイベント軒並み発生してないわ〜フラグ足りてないんかな〜攻略wiki見てぇ〜と思ってたやつ。全部お父さんが先に起こしてたわ。前世では限定SSR引いてレベルカンストさせないと見れなかったイベントとかも全部お父さんがやってたっぽいわ。
あれ痺れたね。いつも寡黙なノアがサラの手作りのお菓子を食べて微笑んでくれるスチルがあってさ、それ完全再現したわけ。これは勝ち確だと思うじゃん。でもさ、その微笑みがさ、ソフィアに向けられてたんだよ。あのガリ勉野郎、ぽかんとしてる私を完無視して「これ、本当はソフィアが作ったんだろう? なんだか、そんな気がして……」ってデレデレの声出してよぉ! まあそれ本当にお父さんが作ったんだけどさぁ!
こんなやつらに課金して天井まで追ってイベント走ってマジで時間の無駄だったわ。婚約者のいる女を取り合い? そんでその妹には一方的に説教? キンタマで物考えてる?
……いや、違う。わかっている。すべて父が悪いのだ。
小6のとき好きになった足が速かった優くんも、中2のとき付き合い始めた背の高い宏先輩も、高1のときナンパされていい感じになった大輝も……全員こいつに惚れた。
それでなんか「優奈のせいで俺の性癖が歪んだ」とか言われた。
私のせいじゃないだろ! 「優奈のお父さんのせいで」だろ! なんであいつは絶対悪者にならないんだよ!
私の恋人だった男、恋人になりそうだった男はみんな父に燃え上がるほどの恋をした。意味わかんねえよ。けれど父はそれに応えることはなかった。当たり前だろ。
もちろん男はみんな意気消沈した。しかしそのとき、自分の恋心を踏みにじったのだと父を逆恨みする男はいなかった。目が覚めたよ、と私をもう一度恋人に選ぶ男もいなかった。
代わりになぜか私が悪いことになるからだ。
あの人と出会わせたお前が悪い、お前がいなければ俺はあの人に出会うことなんてなかった、こんなに心が苦しくなることなんてなかった……。それが男たちの言い分だった。泣き出すやつすらいた。そうやって嘆き悲しむ彼らを見て、私は思った。
うるせえバカどもが。
とにかく父は男を惑わせまくったあげく失恋した男の負の感情の矛先にも選ばれない、人を振り回し続けてなんの報いも受けない人間なのだ。しかもムカつくのが、その毒牙にかかる男は皆、私の恋人もしくは恋人候補だった。本当にそいつらだけだった。だから別に日常生活に支障はないのだ。誰彼構わず爆モテしてストーカー被害に遭うようなことはなく、けれど私の彼氏だけは的確に落としてきた。特効カードか?
もちろん父が好き好んで男を惑わせているわけではないのは知っている。私を産んですぐ亡くなった母のために毎日祈って、仏壇に向かって「今日は優奈が幼稚園で、僕の似顔絵を描いてくれたよ」と私がクレヨンで描いた下手くそな絵を見せたりしているような人なのだ。見た時はちょっと照れた。そんな父が、不特定多数の人を惑わし、人生を破滅させるようなことを望むはずがないのだ。知っている。わかっている。
でも私が悪者になるのはおかしいんだよ。
疑ったこともあった。ほら、男親って娘に恋人が出来ると寂しいって言うじゃん。お前なんかにうちの娘はやらんぞ! みたいな。だからもしかして父も、私の彼氏が気に入らなくてわざとやっているのでは? と思ったのだ。しかし、私がそう思って彼氏と父を接触させないようにしても、何の因果か彼氏と父は必ず出会ってしまった。父が仕事でいない時に彼氏を家に呼べば、思ったより早く退勤してきた父と鉢合わせてしまった。隣町のスポッチャに行こうとしたら、駅で外回りをしていた父とすれ違ってしまった。すべて、あきらかに偶然だった。父がこっそり私の予定を覗き見たんじゃないか、GPSでも仕込んでるんじゃないかと疑うこともあったが、彼氏と目が合うたびに青ざめた顔で背をちぢこませてその場を立ち去る姿を見るととてもそうは思えなかった。男どもによると、そんな姿が守ってあげたくなっちゃうらしい。お父さん筋トレしてるから守る必要ないよ〜と笑うと「ストイックで美しい人だ……」と返された。じゃあボディビルダーと付き合えよ。
「ていうかさ、私の知ってるこの世界ではお父さん……ソフィアには婚約者がいたはずなんだけど」
「ああ、トラヴィスさんのことかな」
そういえばそんな名前だったっけ。立ち絵とかないから影薄いんだよねそいつ。
「婚約者がいるのに男どもとペラペラ喋っていいわけ?」
「あはは……みんなただの友達だよ。僕にかまうのは、トラヴィスさんが侯爵家……? の人らしいから、そこと関わりを持ちたくてやってるんじゃないかな」
んなわけねえだろ。あいつらソフィアの前では全身チンポ人間になってんだよ。爵位とかわかってねえよ。そもそもゲームじゃ爵位とかふわふわした設定しかなかったから。多分この世界でもふわふわしてるよ。
「それに、トラヴィスさんは僕が男性と話していたって怒らないよ。優しい人だし、なにより僕のことを信じてくれているから」
父はそう言ってはにかんだ笑みを見せた。え? なに?
「え……お父さんさあ、トラヴィスさんにガチ恋してんの?」
「がちこ……?」
あざといんじゃボケ。
「トラヴィスさんのことマジで好きなのって聞いてんの。男のことそういう目で見れるの?」
「いや……僕は」
父は迷いながら、えっと、もちろんそういう人もいるんだけど、僕は、その……ともごもごと話し続けた。ノンケです、で伝わります。
「でもね、騙してるみたいで気が引けたから、正直に言ったんだ。あなたは素敵な人だし、人間として尊敬しているけれど、どうしても恋人として愛せないの、って」
血の気が引く。爵位はふわふわ設定だけどさ、それでもそういう……上の立場の人間って怒らせたらヤバいんじゃないの? 反逆罪的な……切り捨て御免的な……。
「そうしたらね、トラヴィスさん、それでもいいって」
そんな心配をよそに、父は幸せそうに続ける。
「人間として尊敬出来る、そう言ってくれただけでうれしいって。それから、私を愛してくれるように努力するよ、って」
え? 惚気けられてない? 理解のある彼くんの自慢されてない? キンタマ脳全身チンポ人間じゃないまともな婚約者がいることをこれでもかと言うほど自慢されてない? いやまあ、こんな悪態ついてるけど……それでもやっぱり娘としてはお父さんがチンポ・サピエンスの餌食になるなんて嫌だし、そういう人がいるなら安心できるんだけどさ。
「婚約者なのにどうしてそんなことを言うんだ、って怒られるかと思っていたから、それを聞いた時すごく安心して……その、この人ならもしかしたら、って思ったよ」
そう言った父は優しい目をしていた。まぶしかった。美しいのはソフィアの容姿だけじゃない。純粋で誠実な心が宿っているからこそ、お父さんはみんなを魅了してしまうんだろうか。
ああ、やっぱり謝らなきゃ。みんながお父さんに惚れるのは私のせいじゃないし、私のせいにされるのはムカつくけど! でも……お父さんのせいでもない。お父さんがきれいだから、暗闇の中でもあたたかく光っているから、みんながそれを目指してしまうだけなんだ。
「あの、お父さ……」
「ソフィア!」
突然ドアが開いた。入ってきた男の人は、走ってきたんだろうか、ずいぶん息が上がっている。いや、そんなことは問題じゃない。
ビジュ良すぎ〜〜〜!!!!
髪サラサラ! 目デカ! 鼻高! 唇うす! え? 語彙力ゴミすぎる。でもほんと言葉であらわせないくらいヤバいビジュしてんの。いやマジで、どの攻略対象の男よりもかっこいい! こんなキャラいたっけ!? あ、私が引退してから追加されたキャラとか!?
「ソフィア……よかった、ここにいたんだね。このくらいの時間ならいつも中庭にいるはずなのに、どこにもいないから心配して……」
「ああ、お話ししていなくてごめんなさい……。探しに来てくださってありがとうございます」
うわ、案の定お父さんに籠絡されてるよ。ビジュ良いから期待したのにてめえも結局チンポのチンパンジー、チンポンジーかよ。いやでも諦められん、なぜならビジュが良すぎるから。どうせお父さんが好きなのは婚約者のトラヴィスってやつだけでしょ? さっさとそいつフってよね。サラちゃんの包容力で受け入れて美味しいお料理で胃袋掴んじゃうゾ♡
「おとう……あ、ソフィアお姉様ぁ〜♡ そ、そちらの方はぁ〜?♡」
「ああ、紹介するね。この人が僕の婚約者のトラヴィスさんだよ!」
は? てめえマジでふざけんなよ攻略出来ないバグじゃねえかおいコラ運営狂ってんのか謝らねえ絶対謝らねえからなこの悪役令嬢がよぉ〜〜?????