異世界転生したけど、朝から大騒ぎの件
バックパックの中には治安維持部隊の制服が入っていた。
今の俺はミラクルフレッシュマンデビュースタイルだ。
目立ちすぎる。人混みに紛れて逃げる手は使えない。
「すまん!失礼するよ!」
エイトがいる二階まで声が聞こえてきた。
兵士が宿屋に入ってきた。
俺はこっそり階段の踊り場から一階の様子を窺っていた。
(まずい……あいつはシルビィだ!)
まず間違いない。女性取調官シルビィだ。以前、取調室会ったときと同じ、漆黒の軍服を着ている。
「宿の客を確認させてもらう、二階が客室だな?」
宿屋の主人の返事を待たず、数名の布鎧を着た兵士が入り口から入ってきた。
(もはやここまで……万事休す!な~んてね)
エイトは颯爽と自分の部屋に戻り、扉を閉め鍵をかけた。
ドタドタと兵士たちが二階に上がってくる足音がしたが、エイトは気にせず窓の前に来ると、脱出ルートをおさらいした。
右手にはカードを持っている。目を閉じて、中心を親指でグッと押し込むと、周辺のマップが見えてくる。
意識をさらに集中すると、脱出ルートが視得てくるのだ。なぜ自分がこんな能力を発動できるようになったのかはわからないが、使えるのなら使わないと。
(窓を開ける。外に出ると右方向へ進む。隣の建物の屋上へ飛び移る。酒場の看板の裏を通り職人が使う足場があるので、それを使って地上に降りる。そこから78歩教会に向かって走る。運送業者の荷馬車があるから底に張り付く)
これで脱出完了だ!
「朝からなんだ!?知らねぇよ!訪問客は借金取りだけで十分間に合ってらぁ!」
隣の部屋から怒号が聞こえてくる。どこかで聞いたことのある声だ。兵士たちは対応に揉めているようだ。
(いいぞ、もっとやれ、時間稼ぎになる)
エイトはごほんと咳払いし、ビシッとポーズをとった。
「それではみなさん!よき一日を!」
誰に言うことでもないが、何となくそう口走りかっこよく窓を開けようとした。
……開かない。なんでか開かなあーい!?
何で!?
「捜査協力ありがとうございます」
隣の部屋が済み、向かいの部屋の取り調べが始まった。
ドアを叩く音がする。
エイトは焦った。この窓、建付けが悪いのか?押したり引いたりしてみたが、ビクともしない。
「朝からご苦労様ねぇ」
向かいの部屋の客は温厚な性格のようだ。和やかなムードの話声が聞こえてくる。
こっちはそれどころではないっちゅーに。
エイトはイライラしながら、窓をバンバンと叩いた。
ついにエイトの部屋の扉がバンバンと叩かれた。
「くそっ、くそっ」
思わず焦りの声が漏れる。この窓さえ開けば安全に脱出できるのだ。冷や汗がポタリと床に落ちた。
もうこうなったら、いよいよ体当たりでぶち破るしかないぞ。そう思ったとき、後ろから肩を掴まれた。
振り向くとシルビィが立っていた。
「朝早くからわりぃねぇ」
エイトに手枷魔術がかけられた。
「じゃあ行こうか」
※
「その服、着てくれてたおかげで一瞬で分かったよ」
シルビィはポンと背中を押した。エイトは幌馬車に乗せられた。左右に兵士が座ってくる。後ろにもう一人槍を持った兵士が歩哨についた。
もう逃げられる余地はない。
幌馬車の周囲には野次馬が何人か集まってきている。
「さあ、出るよ!道を開けて!」
シルビィが叫ぶとサーッと道が開けた。
宿屋の主人も唖然として見送っている。
「これどこに行くんですか?」
隣の兵士に恐る恐る尋ねてみるが、今にわかると高圧的に言われたきりだった。
しばらくして窓から外を見ると、貧民街と思わしき街を通るところであった。
冒険者ギルド制度を廃止せよ!など書かれたプラカードが散乱していた。
「おい!これを被せとけ!」
後ろの兵士が黒い布製の袋を投げ渡した。
エイトは周りが見えなくなった。袋を頭に被せられたからだ。
治安維持部隊は見れらるとマズイとでも思ったのだろう、だがもう遅い。
この道ではつい最近までパレードがあったみたいだ。それもきっと、キナ臭い感じのやつだ。
住宅の屋根が傷んでいる。何か投げつけられたみたいだったのが見えた。
「なあ、アレ何やらかしたんだ」
住宅を補修していた職人が、幌馬車を見て言った後
「先輩、あんま見ないほうがいいス」と後輩っぽい職人が話しているのが聞こえてきた。
それから小学生くらいの子どもから、あー親指隠せーと言われたのもメンタルにきた。
エイトの気分は最悪だった。これでは犯罪者、もしくは死人扱いではないか。異次元レベルでついていない。
タダ酒、タダ飯にありつけた反動だろうか。
幌馬車はある施設に着いた。
見直すと結構書き損じが出てくる(´・ω・`)