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異世界転生したけど、もう酒でも飲もうか

クエストに失敗しストレスマックスのエイト。


匂いに釣られ、ふらりと店に入る。

「お兄ちゃん、随分疲れた顔しているね。何かあった」


店主が声をかけてきた。


「別に」


「ワシでよかったら、話きくよ」


ドンと酒の瓶が目の前に置かれた。


「好きなだけいきなよ」


「大将!いいのか」


店主はグラスに酒をなみなみと注いで勧めた。


勧められるがままに、おごり酒をぐびぐび煽った。


エイトは考えなしに今まであったことを全部しゃべった。


いつの間にか異世界転生したこと。治安維持部隊に目をつけられていること。幌馬車から積み荷を持ち出したこと。善之輔という人物から受けた仕事が達成できそうにないこと。部活中にお茶をこぼしてしまい、やむを得ずズボンをジャージに履き替えて行列に並んだこと。そのファッションをミラクルフレッシュマンデビュースタイルと揶揄されたこと。


「よくぞ話してくれた面白かったよ」


店主は目をキラキラさせて頷いた。


「( ̄∇ ̄;)ハッハッハ当然!俺のネタなんだから!」


エイトは吐き出せるものを全部吐き出しすっかり気を良くした。


ここにくる途中に見かけた宿に泊まろうと立ち上がった。


「お代はいらんよ」


エイトは目を丸くした。


「いいのか?大分豪遊したと思うけど」


「お代はアンタの身の上話だ」


異世界に来て初めて人の温かさに触れ、エイトは感涙した。


「おお!なんという親切な人だ!」


そしてこれからもこの店に通おうと決意し、店を出ると、千鳥足ではす向かいの宿屋に入った。



その日の深夜ー


「あいつ、異世界転生者か」


「へえ、そのようで」


「どういうわけか、善之輔の大親父と面識があったようで」


「お前、あいつがこの屋敷に来たというのに、見す見す見逃したらしいな?」


「いやそれは……まさかあんなのが異世界から来たとは夢にも思わなかったんで」


「最近、やたら金が出て行っているらしいな」


「SSランクの鎧も紛失したと聞いているぞ?管理はどうなっとる?」


「は、すでに回収の手配はすんでます」


「そうか」


スッと立ち上がると男は隣人に耳打ちした。


「重蔵は消せ、使い物にならん(自白酒が役に立った)」



朝日が差し込む木枠の窓から、ほんのりと温かい光が宿屋の一室を照らしていた。まだ外は静かで、遠くの市場からかすかに荷馬車の軋む音が聞こえる。


「ガーン!バックパックが無い!」


エイトは昨日の酒とバックパックを失くしたことのダブルショックで頭が割れそうになっていた。


「きっとあそこだ!酒を飲んだ店」


バックパックの中には、善之輔から受け取った金貨が入っている。あれがないとここの宿賃が払えない。


そうなるといよいよ通報され治安維持部隊にしょっ引かれる。どんなひどい目に遭わされるかと思うと吐き気がした。


「これは使えんよなー」


ユキチちゃんとエイイチ君を取り出してみると、困り顔になっていた。何の解決にもならない。


その時ドアをノックする音がした。


もうこうなったら窓から飛び降りようかと思ったが二日酔いだ。


そんな気力はない。目が回る。ああ、もう終わりだ。


覚悟を決めてドアを開けようとしたが、その必要はなかった。


ドアの下から封筒が差し込まれただけだった。


封を開くとクエスト成功報酬、『宿賃の支払いと食事代、及び医療費の全免除のお知らせ』とあった。



「いやーまさか『漆黒の楯』の方がお見えになる日が来るとは」


宿屋の主人は驚きながら朝食を用意してくれた。焼きたてクロワッサンにベーコンを敷いたターンオーバーエッグ、厚切りフライドポテトバター付き、鶏むね肉が入った野菜スープ。


全部タダになると言われた。


「そんなにすごいんですか?」


「え?」


主人は一瞬変な顔をしたが、すぐに気を取り直して話してくれた。


「無論ですよ、遥か彼方の世界から突如として舞い降りし、我が世を安定へと導く・・・ええと、そんな感じの有名なやつです」


「……ふーん、そう」


新聞が目についた。驚くことにそこに書いてあることが完全に理解できた。これも報酬なのだろうか。


封筒を開いた途端、またファントムバイブレーションが来た。


そう思ったが違った。カードだ。青い光を放っていた。触ると体に爽やかな風が吹いた気がした。


「このカードで全部支払いしたことになるの?」


「ええ、見せるだけで大丈夫です」


「あとで請求書がくることはないの?」


「?」


「いや、何でもないです(マジか!スゲーラッキー!!異世界におごられっぱなしじゃん俺)」


もう二日酔いの苦しさなど吹っ飛んでいた。


ウキウキしながら新聞を開いた。


ー 大商人、不審死? 鳳屋の重蔵さん 遺体でみつかる ー


エイトの手が震えた。まるで、俺の仕事を誰かに横取りされたような感覚。いや、それどころじゃない。


重蔵の顔写真が掲載されている。確かに昨日みた顔だ。


落ち着け、と自分に言い聞かせる。


ー昨夜未明、商業都市ドルユーロの老舗店、『鳳屋』の番頭重蔵さんが亡くなった。遺体には鋭利な刃物による傷があり、暗殺の可能性も出ている。現場には争った形跡がほとんどなかったことから、犯人は相当な手練れと見られている。現地の治安維持部隊は現在捜査を進めており……


異世界転生者の文字は掲載されてない。しかし


「……これ、俺に容疑がかかるパターンじゃね?」


重蔵が暗殺された鳳屋はここから目と鼻の先だ。そして、俺は昨日まさに鳳屋で重蔵と鉢合わせになった。確か女もいたはずだ。治安維持部隊は当然、鳳屋に事情聴取をするだろう。オークと若い男の警護兵の二人も証言することになる。どう考えても俺は容疑者の一人にされるだろう。


――最悪だ。


まだ状況ははっきりしないが、のんびりしている場合じゃない。俺は素早く服を整え、荷物をまとめながら、次の行動を決める必要があると自分に言い聞かせた。


「さて、どう動くか……」


部屋の窓から外を覗くと、通りには見覚えのある布鎧姿の男たちが数人、宿屋の周囲を警戒しているのが見えた。


「……マジかよ」


どうやら、俺にとってこの異世界生活、いきなりベリーハードモード突入らしい。



書き直しが多いです。


すみません(-_-;)

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