異世界転生したけど、初見クエストがムズ過ぎる件
力が湧いてきた。
その勢いでメインのボスのところまで突っ切っていくエイト!
解る!目的の場所が解る!追跡できる!
見張り塔から飛び降りると、南西に向かって進んだ。
田舎道に出ると371歩道なりに進み、大通りに出て、このまま153歩進んで左に向けば真正面に出るはず!
夜の街は静寂に包まれていた。
遠くで猫の鳴き声が聞こえるだけで、人通りはない。街灯の明かりが細い路地を照らし、石畳の上にはエイトの影が伸びていた。
その影は、目の前にそびえる 「鳳屋」 の門で止まる。
(裏クエスト──"鳳屋の番頭を始末しろ")
それが、瀕死のキャラバンの生き残り善之輔から託された仕事だった。
「鳳屋の番頭」── そいつが何者なのか、どんな罪を犯したのか、善之輔は語らなかった。
主人公は門の前で足を止めると、一度だけ深く息を吸った。
(さて、どう入るか)
鳳屋──金と血にまみれた商家
鳳屋は、表向きは街で名の知れた豪商だった。
珍しい香辛料や高級絹布を扱い、貴族や上級冒険者たちと太い繋がりを持つ。
──だが、その裏の顔は、闇取引と奴隷売買を仕切る 「闇商人」 の巣窟だった。
金で動く傭兵たちを抱え、手を出せば即座に"消される"。
「鳳屋に逆らった奴は、朝にはもう見つからねぇ」
そんな噂が、酒場では囁かれていた。
表玄関から堂々と入るのは自殺行為だ。
だから、主人公は 塀を乗り越え、裏口から忍び込む ことにした。
(夜警がいるはず……どこに配置されている?)
塀の上から屋敷の中庭を見下ろすと、数人の護衛が巡回していた。
槍を持った男、短剣を手遊びする若い兵士、そして──
「……俺が着てた服?」
主人公は目を細めた。
そこには、一人だけ明らかに異質な男がいた。
質の良いブレザーによく似た服を着た、学生風の男。
(転生者か?)
鳳屋はただの商家ではない。異世界転生者すら抱えている可能性がある。
──しかし、それでもエイトは止まらなかった。
(関係ねぇ……俺は"番頭"を始末しに来たんだ)
エイトは無音で塀を飛び降り、暗闇の中に溶け込んだ。
屋敷の中に侵入すると慎重に廊下を進んだ。
障子の向こうには、まだ灯りが漏れている。
どこからか、女の笑い声と、酒を酌み交わす音が聞こえた。
主人公は音を頼りに進み、やがて、ひときわ広い部屋の前にたどり着いた。
(ここか……)
襖に手をかけ、静かに引く。
そこにいたのは、着物姿の男だった。
腹の出た中年の男。紅い着物を身にまとい、酒盃を片手にくつろいでいた。
「……誰だ?」
番頭、鳳屋の重蔵。
金を動かし、命を弄ぶ闇商人。
エイトは、静かに言った。
「お前を始末しに来た」
その言葉に、番頭はゆっくりと盃を置いた。
そして──
「え、始末?俺を?」
彼の口元に、不気味な笑みが浮かぶ。
「それはそれは……面白いことになりそうだ」
重蔵は女にあれは余興か?とこそっと尋ねると、知らないと女は応えた。
「え?マジの奴?それにしては軽装だぞ?」
エイトは言われてみればそうかもと思った。
丸腰で有効なスキルも身に着けていない。そもそも俺はレベルはいくつなんだ?このクエストの推奨レベルはいくつなんだ?勢いだけで飛び出して来てしまったが、そもそも俺は戦い方なんかまったく知らない。
(やばい、泣きそうだ)
※
俺は警護兵に屋敷の裏口からつまみ出された。
「まあ武器の類なんか所持しとらんし、物を盗ったわけでもない。今回はこれで見逃したるけど、次はこうはいけへんかもやで」
深緑色のオーク族は念を押すようにエイトに言った。
「はい、ご迷惑おかけしました」
エイトは直立不動で腰は90度に折り曲げ誠心誠意謝罪の意を表明した。
「多いんですよねー色んな手を使ってうちとコネを持とうとする人」
いつの間にか後ろに若い警備兵が立っていた。エイトより少し年上だ。
「確認が取れました。ギルド協会に問い合わせましたが、冒険者ではないようです」
「何で最近ああいうの多いんだろうな?」
ばたんと裏口は閉められた。
エイトは頭を上げるとさあ帰ろうと思った。
帰る?どこへ?そもそもどうやって?
夜の街に、ふわりとした出汁の香りが漂う。
酒場から漏れる笑い声とは裏腹に、エイトは一人、肩をすくめながら歩いていた。
(チッ、楽しそうにしやがって)
こうなったら面が割れていない別の冒険者ギルドに登録して野良グループに入れてもらおうか。
治安維持部隊にも目をつけられている俺を受け入れてくれるグループがあるだろうか?
(腹が減ると、余計に考えがまとまらねぇな……)
そんな時、ふと視線の先に、小さな食堂が目に入った。
『萬月食堂』
木の看板が年季の入った建物にぶら下がっている。
周囲の賑やかな飲み屋とは違い、静かで落ち着いた雰囲気だ。
(……まぁ、少し休むか)
エイトは戸を開け、ふらりと店内に入った。
店内は思ったよりも広く、席は半分ほど埋まっていた。
カウンター席の奥では、年配の男が鉄鍋を振るい、香ばしい匂いが立ち上る。
「いらっしゃい」
無愛想だが、どこか貫禄のある声。
エイトは適当な席に腰を下ろし、壁の品書きを眺める。
焼き魚定食、塩煮込み、麦飯ととろろ……
派手な料理はないが、どれも滋味深い味がしそうだ。
「何にする?」
カウンターの向こうから、店主がぶっきらぼうに尋ねる。
「じゃあ、塩煮込みと……酒を一杯」
店主は無言でうなずき、手際よく鍋をかき回し始めた。
(ここ数日、ずっと気を張りっぱなしだったな……)
熱い煮込みの湯気が立ち上り、スプーンですくうと、ほろほろと崩れる肉が現れる。
口に運ぶと、程よい塩気と肉の旨みが広がった。
その瞬間、少しだけ肩の力が抜ける。
(……悪くねぇ、いや旨い)
壁を見ると侵入者を返り討ちした功績を称える鳳屋の新聞記事がこれ見よがしに張り出されていた。
鳳屋戦績リスト
『グレイヴ・ロート Aランク冒険者』
『シェリル・ヴァイス Bランク冒険者』
『ザガン傭兵団 第五隊 全滅』
他20数名
エイトは無意識に奥歯を噛みしめた。
(こいつは、ただの商人じゃない……)
これまでに何人もの冒険者を"処理"してきた。
(こいつには、戦いに"勝てる理由"がある……)
どうやってAランク冒険者や傭兵団を葬ったのか?
どんな戦術を持っているのか?まるで未知数だ。
ヒイヒイ言いながら書いてます。(笑)
なんかちょっと少年漫画っぽい感じになってきたかな