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異世界転生したけど、初仕事は闇クエスト?

早くもクエストを受注することになった。


闇バイトみたい。

俺はフィールドに独り飛び出した。


背後では、まだ石像の咆哮と剣戟の音が鳴り響いている。


「さて……これからどうするか」


自由を手にしたはいいが、問題は どこへ行くか だ。


治安維持部隊のような連中に一度捕まった以上、街には戻れない。


このままでは 国中に指名手配される可能性もある。


しかし、希望が持てる点は俺が「無登録ギルド冒険者」であるということ。


そして無断でフィールドに出れるということは、そこから得られる資源はそっくりそのまま手に入るということだ。


そして治安維持部隊の制服を着ている点だ。


普通の住民の目は誤魔化せるだろう。気を付ければ街に入っても大丈夫かもしれない。


(逃げるだけじゃなく、逆にこっちから動かなきゃならねぇな)


小高い丘の上に、ボロボロの監視塔がある。人はいない。あそこに登れば何か見つかるかもしれない。


俺は監視塔を目指して歩いた。


途中、目のないネズミのような四つ足の動物に出くわした。


襲われるかと思ったが、ギ~ッと鳴き声を上げるとどこかへ逃げ去った。


監視塔に近づくとその存在感に圧倒されそうになる。


石段は苔だらけで、梯子は腐っている。比較的安全そうな床を選んで一歩ずつ進んだ。


途中、2回ほど足を滑らせたが何とか一番上まで登りきれた。


冷たい風が、肌を刺すように吹きつける。


俺は、荒れ果てた石造りの 監視塔 の上に身を潜め、息を整えていた。


――脱出は成功した。


だが、これからどこへ向かうかは決めていない。


監視塔は、かつて国境防衛のために使われていたが、今では廃墟となり、周囲には誰の気配もない。


と、いったところか?


高さは20メートルほど。ここからなら、広範囲を見渡せる。


(まずは、ここで周囲の状況を確認するか……)


俺は塔の縁に寄り、遠くの景色に目を凝らした。


広大な草原の向こうに、黒くうごめく影が見えた。


そこには、煙を上げるキャラバンの隊列があった。



「おい、大丈夫か?何があった」


幌馬車が数台。


その周囲には、倒れた護衛兵の姿。


荷物が散乱し、馬が倒れ、幌馬車は巨人に踏みつぶされたように変形していた。


「……あんた、助けてくれ。ここだ」


弱弱しい声がした。


人だ。


おそらく、異世界の商人。


襲撃されたキャラバンの護衛たちは、すでに骸と化している。


(……どうする?)


関わる理由はない。


今の俺に、彼を助ける義理はない。


だが、もしこのキャラバンに「異世界を攻略する手がかり」があるとしたら?


荷台には貴族向けの品が積まれているように見えた。


となれば、王都や他の都市に向かうルートを持っている可能性が高い。


うまくすれば、このキャラバン隊の関係者に恩を着せて逃亡を続けることもできる。


(リスクはあるが、動く価値はあるか……?)


俺は軽く息を吐き、視線を商人へと向けた。


「オホン!ここで何があったのか、説明してくださー、いや説明しろ」


「巨大な石像が二体、突然襲ってきおって。護衛の傭兵はどこかに吹き飛んで、もう訳がわからない」


商人は頭を抱え込んで、その場にうずくまった。


「ん!?貴公、怪我をしているな」


俺が声を上げると、商人はゆっくりと顔を上げた。その様はまるで幽霊のようだ。


「兵隊さん、馬鹿言ってはいけません。手前は鳳屋おおとりやの善之輔ですよ」


息も絶え絶えに、クエストの依頼書を差し出してきた。


この男、この状況で俺を雇おうというのか?


唖然としていると善之輔は続けて金貨を一掴み分、懐から差し出してきた。


「どうせ内容は積荷の中にある、珍しい魔術書とか王族が書いた極秘文章を依頼主に届けるとか、そういうのだろう?いわゆるお使いクエストー善之輔さん?」


善之輔はピクリとも動かなくなっていた。息もしていない。すでにこと切れていた。


俺は合掌すると、積荷を物色し始めた。使いやすそうな長方形のレザー製バックパックがあった。


これがあればかなりの量の物が運べる。変装に使えそうな衣類、食料になりそうなものをバックパックに詰め込んでいると、後ろから嫌な視線を感じた。


狼のような魔物を連れた人がじっとこちらを見ている。


賊だ。


治安維持部隊の制服を着ている俺が荷物を漁っている。この異様な光景に躊躇っているようだ。


(これはまずい状況だぞ)


俺は冷や汗をかきながら、そそくさと退散した。



「ああ、畜生!勿体ないことしやがって」


俺は石造りの監視塔の上部に陣取っていた。


賊は幌馬車と積荷を一つ残らず全部燃やしてしまった。


バックパックの底から望遠鏡が出てきたので、賊の一部始終を観察することができた。


賊は一度はどこかへ行ってしまった。


もう一度、積荷を漁りに行こうと思った矢先、賊は仲間を連れて戻ってきた。


そして、あたり一帯に油のような液体を撒き、火を放った。


あっという間に火の海になり、一帯が消し炭になっていくのを、俺は魚の干物を咥えてみていた。


積荷は半分も見ていない。まだ使えるものがあったかもしれないのに。


硬いパンに乾燥肉を挟んでかぶりつこうとしたが、歯が立たなかった。


仕方なく乾燥肉は舐めて塩分補給用にし、パンは唾液で時間をかけ、ふかして飲み込んだ。


異世界転生した後の食事といえば、お店でムニエルとかスープとか、なんかそういう感じの小洒落たやつかと思ってたのに。


情けなくて泣きそうだ。このままでは埒が明かない。


「これできっとフラグが立つのだろう」


善之輔から受け取った依頼書を開いた。


「は・・・?」


見たことがない文字だ。何が書いてあるのか読めない。


「設計者!この世界の偉い人!出てこい!」


俺は絶叫した。


その時、スマホの振動音がした。着信音だろうか?


「ファントムバイブレーションか」


スマホ画面には何の変化もない。しかし振動音は止まない。


「ん、これか?」


ジェリドから渡されたカード、漆黒だったはずだが、今は紫色に光っている。


指が触れると、体中に衝撃が走った。


「俺が!今すべきこと!それは『鳳屋の番頭を始末する』ことだぁあ!」


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