異世界転生者としての俺の名はエイト
取調室の部屋番号が8だったからエイト。
ちょっと安直過ぎないか?いくら処刑されるからって。
普通名前を決めるなんて、結構時間かけて悩みぬいた挙句決めるってもんだろ。
「俺は処刑されるつもりはねぇ」
「馬鹿野郎、身元引受人になるって言っただろ」
「へ?処刑されるんじゃないの俺?」
枷は外された。そして一枚のカード手渡された。
苦笑いしながら騎士の男こと、ジェリドは扉を開き、廊下に出た。
そのあとに俺、エイト。
その後ろに女性取締官、シルビィ。
三人は列になり廊下を歩く。
7番の前の部屋はすでに開放されて、中はもぬけの殻であった。
6番目の部屋の前には布鎧を着た兵士が立っていた。敬礼してきたので俺はほんの気持ち程度に会釈をした。
5番目の部屋は扉が半分開いていて中が見えた。ギルドの中年の職員が鼻血を出しながら、天井を向いて気絶していた。
4番目の部屋は声が聞こえてくる。あの服を仕立てさせてほしいと懇願するような内容だ。あの服とは俺の着ていた服のことだろうか。
3番目の部屋の前を通りかかろうとしたら、バンと大きな音とともに戦士の男が飛び出してきた。
俺は思わず身を固くした。
部屋の中から声がした。
「そいつは麻痺状態、心配ない」
床に男は転がった。まるで凍ったマネキン人形が転がっているみたいだ。ピクリとも動かない。
2番目の部屋と1番目の部屋は特に何事も起こらず通り過ぎた。
建物の外に出ると、外は明るかった。日が昇っている。
罪状を読み上げている役人が目についた。
神妙な顔で聞いている男と女が床に正座している。彼らはこれから処刑されるのだろうか。
(駄目だ、こいつらはとても信用ならない!)
「エイト、何をボーッとしてる?いくぞ」
シルビィに促され、フィールドにあと一歩で出られるところまで来た。
「ちょっと待て、何か変だぞ」
赤い光が4つこちらに向かってくる。あれはギルドにいた石像だ。
建物に向かって走っていく。
ドォォォォォン!!
建物が大きく揺れた。石像は壁をぶち破り、取調室の中に侵入していった。
「何だ!?」 シルビィが立ち上がる。
「……襲撃か?」 ジェリドが低く呟いた。
建物からは、悲鳴と金属のぶつかる音、そして石像の 獣のような咆哮 が聞こえてきた。
(あれはギルドの石像?安全装置が作動したのか……?)
俺が思考を巡らせた刹那――
ドォン!!!
取調室の扉が、吹き飛んだ。
粉塵の中から現れたのは、二体の石像だ。
灰色の体に、赤黒い目。そして、両手は被害者のものと思われる滴る血。
その後ろには、トボトボと歩くギルドの中年の職員が見えた。
どうやら、こいつらは この建物を襲撃しギルド職員を助けにきたらしい。
布鎧を着た兵士が石像に向かっていくが、弾き飛ばされていた。
「チッ……魔物の群れか!」 シルビィが即座に腰の剣を抜く。
「厄介なことに……!」ジェリドも鋭い眼光を石像に向けた。
(今だ……!)
俺は、無意識に口元を歪めた。
――どさくさに紛れて逃げるには、最高のタイミングだ。
取調官二人が石像に意識を向けた瞬間、俺は乗ってきた荷馬車の轍を確認 した。
しかし、安全な街に完全に続いている補償はない。
(全速力なら、逃げ出せるか……?)
全神経を集中させる。
二人は完全に石像の方に気を取られている。
(よし……いける)
取調官二人が石像と対峙する中、俺は 一気に駆け出し、フィールドへ飛び出した。
そのまま、道沿いに走り出す。
「待て!」 シルビィが叫ぶが、すでに石像が彼女に襲いかかっていた。
「クソッ、逃がすな!」 ジェリドの声が響くが、彼自身も魔物との戦闘に巻き込まれているようだった。