異世界転生したけど、相棒が激おこブンブン丸の件について
飯を台無しにされたゴンダァはキレた。
「…(`・ω・´)岩」(見守っているぜ!)
ドゴォォォン!!
地面が爆ぜ、砂塵が吹き上がる。
その中心にいるのは、二体の巨獣——いや、一方は魔獣、もう一方は石像だ。
「グリフォーーン!! 貴様ァァァ!!」
荒れ狂うのは、石像ゴンダァ。
普段は理性的で温厚な彼が、今、尋常ではない怒気を放っている。
エイトは呆然と立ち尽くしていた。
「これからぁ三日三晩煮込んで作ろうとしてたオラのぉ魔石スープを台無しにしやがったなァァ!! 許さんぞぉグリフォーン!!!」
どうやら今日は、食い物の恨みは恐ろしいという話を体現させてくれる日みたいだ。
風の魔獣グリフォーン。
「フッ……些細なことで吠えるな、石頭よ」
空中を舞う漆黒の翼。
鋭い金色の瞳が、怒り狂うゴンダァを見下ろしている。
グリフォーンの羽ばたきが生む暴風が、さらにすり鉢の底に残ってきた粉状の魔石を吹き飛ばした。
「貴様ァァァァァァ!!」
ゴンダァが動いた。
石像とは思えないスピードで地を蹴り、拳を振りかぶる!
ドゴォォン!!!
地面が割れ、岩が砕ける。
だが、グリフォーンはすでに空中。
「のろまが」
バサァッ! と翼を広げたかと思うと、突風を巻き起こしながら急降下する。
その蹴りが、ゴンダァの石の体を直撃——
「グガァッ!!」
石の体が吹き飛び、岩壁に激突。ゴンダァの頭にヒビが入り、岩の破片が降り注ぐ。
「お、おいおい……」
俺は動けなかった。
というか、動くなんて選択肢が頭にすら浮かばなかった。
だって、目の前の戦いは——規格外すぎる。
魔石スープの恨みで暴走する石像と、それを軽くあしらう魔獣。
空間が歪むほどの衝撃が飛び交い、ただ見ているだけで息が詰まる。
でも——
(なんだ、この感覚……?)
心臓が、早鐘のように打ち鳴らされる。
呼吸が熱い。
恐怖じゃない。
これは——
(俺、ワクワクしてる……!?)
自分の体の奥から、何かが湧き上がってくる。
理解できない本能的な衝動が、エイトを戦場へと誘う。
(俺も戦闘に参加するべきだ!)
砂塵が舞う戦場のど真ん中で、石像ゴンダァと風の魔獣グリフォーンが対峙している。
ゴンダァの石の体には無数のヒビが入り、グリフォーンの漆黒の翼は羽ばたき方が鈍くなっている。風圧も弱い。ばて気味だ。
戦いは終盤。だが、決定打がない。
「このままじゃ埒が明かねぇ……!」
エイトは近くの岩陰から戦いを見つめながら、頭をフル回転させていた。
戦力的に俺は二人(?)には到底及ばない。だけど、知恵ならワンチャンある!
(ゴンダァの攻撃は強力だけど、スピードでグリフォーンに負ける……)
(逆にグリフォーンは速いけど、一撃の重さではゴンダァに劣る……)
——詰まるところ、グリフォーンが避けられない攻撃をぶち込めれば勝てるはず!
とはいえ、それが簡単にできれば苦労しない。
ゴンダァの拳は何度もグリフォーンを捉えかけているが、ギリギリのところで回避されていた。
となると——
(……いや、待てよ? 避けられないようにすればいいんじゃね!?)
エイトは目を見開いた。そして、ゴンダァの後ろ、足元に転がる一本の丸太に気づく。
スープ作りに使っていたすりこぎだ。
(いや、でもすりこぎ投げるって……アホすぎんか? いや、でも……)
「おい、ゴンダァ!!」
エイトは意を決して叫んだ。
「そのすりこぎを投げつけろ!! そんで、グリフォーンが避けた瞬間にぶん殴れ!!」
ゴンダァは一瞬きょとんとした。
「……すりこぎ?」
「そうだ!! すりこぎだ!! すりこぎ投法だ!!!」
「………………」
ゴンダァは数秒考えた後、すりこぎを拾い上げた。
「なるほどなぁ。やるかぁ!!」
ゴンダァの短くも逞しい手がすりこぎを握る。
大理石の腕がぐるぐると回転し、今まさに投擲しようとしている。
対するグリフォーンは、不敵な笑みを浮かべる。
「石頭よ、焦ったか? そんなもので——」
「うぉおおおおお!! 必殺! すりこぎ投法!!」
ヒュンッッッ!!!
音速を超えたすりこぎが、グリフォーン目掛けて飛んでいく!!
「くっ、そんなもの……!」
グリフォーンは余裕の表情で、ひらりと身を翻した。
——だが、その瞬間!!
(うっ!目にゴミが入った!?これは魔石の粉か!?)
グリフォーンは焦った。
「もらったァァァァ!!!」
ゴンダァが巨大な拳を振り抜く!!!
「なっ——!?」
グリフォーンがすりこぎを避けた直後、完全に無防備になったところへ、全力の拳が炸裂!!
ドゴォォォン!!!!
グリフォーンの体が地面に叩きつけられ、轟音と共に砂煙が舞い上がる。
俺は思わず拳を握った。
「決まった……!!」
「うぉおおおお!」
追撃。すりこぎを素早く回収し、グリフォーンにたたきつける。
砂煙が晴れたとき、そこには大の字に倒れ、動かなくなったグリフォーンの姿があった。
パラパラと灰のように崩れていく。
ゴンダァは、しばらく沈黙していたが、やがてゆっくりとすりこぎを見つめる。
「……エイトぉ」
「ん?」
「すりこぎって、いいもんだなぁ」
恍惚の表情を浮かべるゴンダァ。
「いや、そういう話じゃねぇ!!!」
こうして、魔石スープを巡る壮絶な戦いは幕を閉じた。
そして、この日を境に——
ゴンダァのスペシャル戦闘スキルに、【すりこぎの一撃】が加えられた。
すりこぎの一撃…これから使いどころがあるだろうか?