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異世界転生したけど、稼ぎが全部消えた件について

いつの間にか眠ってしまっていたエイト。


目覚めると、ゴンダァと手に入れた魔石が消えていた。

「ガーン!魔石が全部消えているんだが!?」


いったいこれはどうしたことだ?


──なんか、嫌な予感がする。


まぶたを開けた瞬間、エイトはそう直感した。


寝起きのぼんやりとした視界の中、昨日のことを思い出す。


そう、俺は掘った。めっちゃ掘った。


ギルドマスターを探しに洞窟に入ったら、運が良くて、魔石がボコボコ出てきたんだ。市場に持っていけば、かなりの金額になるはずだった。やばい、今日から貴族の暮らしが始まっちゃうかも!? とか調子に乗って、気持ちよくぐっすり寝たはずなんだが──


あれ? 俺の魔石は?


起き上がると同時に、すぐそばに置いておいたはずのバックパックに手を伸ばす。


──ない。


「……え?」


もう一度探す。周囲を見回す。


──どこにもない。


「ちょ、え、待て待て待て!? 嘘だろ!? 俺の魔石、どこいった!?」


苦労して掘った魔石が、跡形もなく消えている。


なにこれ、ドッキリ? いやいや、誰がやるんだよこんな面白くもなんともない悪戯。


それに──


「……ゴンダァ?」


隣にいるはずの相棒の名前を呼ぶ。返事はない。


「ゴンダァ?」


家の中に俺の声が響くだけ。


おいおい、どういうことだよ!?


ゴンダァまで消えるとかありえねぇだろ!? 何の痕跡も残さず消えるとか、どう考えてもおかしい。


家の中をくまなく探した。一応便器の蓋も開けたがいない(実際いたら大変だが)。どこにもいない。


これ、普通にやばくね?


昨日まで確かにここにあったものが、一晩で全部消えた。まるで最初から存在しなかったかのように。


魔石が消えたのは、まあ……運が悪かったってことにできる。泥棒が入った可能性もある。でも、ゴンダァまで消えてるってのはどういうことだ? あいつ、誰かに連れ去られるようなヤワなヤツじゃない。


いや、そもそも盗まれた形跡すらねぇし!?


「ちょっと待てって……マジで何が起きてんだよ……」


全身に嫌な汗が滲む。魔石も、相棒も、全部消えてる。


──やばい、これ絶対ただの盗難事件じゃねぇ。


コンコンッ


扉を叩く音がした。


「エイトさーん、朝ごはん持ってきましたよー!」


透き通るような可愛らしい声。


エイトは一瞬動きを止めた。


(……やべ、取り乱しすぎてた。落ち着け、俺)


適当に髪を整えてから扉を開ける。


「おはようございますっ!」


ニコニコと笑顔を浮かべるのは、この村でエイトの朝食係をしてくれている少女、ミーナだった。

 

手には編み込まれたバスケット。その中から、パンの香ばしい匂いと、甘酸っぱいジャムの香りがふわりと漂ってくる。


「今日も頑張ってくださいね!」


ミーナは明るく言って、バスケットをそっとエイトに差し出した。


「……あ、ありがとう」


エイトは受け取りながら、どこか上の空だった。


(ヤバい、どうする? このまま何事もなかったフリをして朝飯を食うべきか? いや、でもゴンダァが消えたのは放置できねぇよな……)


しかし、グゥゥゥゥゥ……と情けない音が腹から鳴り響く。


ミーナがクスクスと笑いながら、「冷めないうちに食べてくださいね!」と言い残し、足早に去っていく。


エイトはバスケットをじっと見つめた。


(……クソ、まずは腹ごしらえだ)


謎は多いが、ひとまず冷める前に朝食を済ませるしかない。


そう決意しつつ、エイトはパンをひと口かじった。


ふと扉の向こうに視線を向けた。


(待てよ……もしかしてミーナ、何か知らないか?)


エイトはバスケットを小脇に抱え、急いで扉を開けた。


「おーい、ミーナ!」


ちょうど小さな背中が角を曲がるところだったが、エイトの声にぴょこんと振り返る。


「はい? どうしました?」


相変わらずの笑顔。


エイトは少し迷ったが、ここで聞かない手はない。


「なぁ、ゴンダァ見なかったか?」


「ゴンダァ……さん?」


ミーナが首を傾げる。


「俺の相棒なんだけどさ、ガッチリした体形のやつで…朝起きたらいなくなってて。昨日まではここにいたんだけど……」


エイトが言うと、ミーナは考え込むように「うーん」と唇に指を当てた。


「朝ごはんを配りに行く途中ですけど、それらしい人は見かけなかったですね……」


「そう……」


「あ、でも」


ミーナは何か思い出したようだ。


「エリオットさんが言ってたんですけど、治安維持部隊のやつらは信用しちゃダメだから近づかないようにって注意されました」


まったく役に立ちそうにない情報をくれた。がそこが萌える。(ただし美少女に限る)


家の中に戻ると、朝食を平らげた。なんにせよ腹ごしらえはしなくては。


「……なんだこれ?」


エイトは家の裏口を出た瞬間、地面についた大きな足跡に気づいた。


ゴンダァのものだ。間違いない。


しかも、足跡の周囲にはズッシリとした荷物を引きずった跡まで残っている。


(ゴンダァのやつ、まさか魔石を運び出したのか?)


エイトは、足跡をたどることにした。


裏山へ続く道を進んでいくと、途中で見覚えのある魔石が落ちているのを発見する。


「これ……確か一角兎を仕留めたときの魔石じゃないか?」


エイトは魔石を拾い上げ、改めて辺りを見渡した。


地面に点々と続く魔石のかけら。まるでポケットからこぼれ落ちたみたいに散乱している。


(ってことは、ゴンダァのやつ、やはり魔石を運んでた……? いや、そんなわけないよな)


ますます謎が深まる中、足跡を追い続けると、やがて小さな開けた場所に出た。


そこでエイトが見たのは——


「……は?」


巨大なすり鉢と馬鹿でかいすりこぎで鬼気迫る表情のゴンダァだった。


ゴンダァは一心不乱に魔石をすり潰す!それだけの石像と化していた。


「おいゴンダァ! 何してんだよ!」


「見りゃわかるだぁ、魔石を砕いてんだぁよ!」


「いや、なんで!?」


エイトの問いに、ゴンダァはドヤ顔で答えた。


「極上の魔石スープを作るためだぁ!」


「はぁぁぁ!? 何それ聞いたことねぇぞ!!」


「魔石をすり潰しぃて煮込むとぉ、濃厚なぁエネルギーが染み出してぇ最高にうまいスープになるんだぁ! ただし、雑に砕くとエグみが出るぅ。だからこうやってぇ丁寧に粉状にするのがコツなんだぁ!」


「そんな料理法、誰が編み出したんだよ……」


「おらぁだ!!!」


「自信満々に言うな!!!」


 ゴンダァの圧に押されつつ、エイトはすり鉢の中を覗き込んだ。確かに細かく砕かれた魔石の粉が山になっている。


(本当に食えるのかこれ……?)


そう思っていると——


風の魔獣が乱入してきた。鷹のような風貌で風圧のようなバリアを纏っている。


「ゴンダァ、それよりヤバくないか?」


「ん?」


エイトが指さした先で、ゴンダァは風の魔獣と目があった。


突然、周囲の空気がざわつき始め、地面に落ちていた枯れ葉が一斉に舞い上がる。


「おいおい、なんか来るぞ……」


「……チッ、グリフォーンけぇ…これはぁアンラッキーだぁ…」


ゴンダァが眉をひそめるのとほぼ同時に、それはいきり立った。


ゴォォォォォ!!


 突如として吹き荒れる暴風。ただの強風ではない。魔力を帯びたそれは、エイトとゴンダァの体を押しのけ、さらにはすり鉢の中身ごと粉砕した魔石を吹き飛ばしてしまった!


「お、おおおおおい!!!!!」


ゴンダァが絶叫する。


せっかく苦労してすり潰した極上魔石の粉が、まるで砂のように風に舞い、空へと消えていく……。


「てめぇええええええええ!!!!」


ゴンダァの拳が硬く握り締められる。


目の前には、風と一体化したかのような魔獣。


まるでニヤリと笑ったかのように見えるその顔に、エイトは確信した。


(こいつ……わざとやりやがったな?)


「ゴンダァ、どうする?」


「決まってるだぁ……」


ゴンダァは怒りをこめて拳を鳴らし、歯茎をむき出しにしてニタリと笑った。


「ブチのめす!!!!」


ゴンダァはズシンズシンと体の重みを生かし、土俵にあがる力士が如く、風圧をものともせず魔物との激闘へと突入するのだった——。

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