異世界転生したけど、クエストが勝手に更新される件について
エイトは数日を呑気に暮らしていたが、少しさびしさも覚えていた。
突然頭痛に襲われる。
エイトは村の空き家だった小さな小屋から出ると、ギルドマスターが行方不目になったとされる目的地へ周辺を調査していた。
といえば聞こえばいいが、実際は散歩していただけだ。
ここ数日はエリオットの用意してくれた衣食住にべったり甘んじていた。
今は洞窟の位置を確認しただけで内部調査はしていない。なんとなく踏ん切りがつかないでいた。
「なぁ、ゴンダァ。お前がいてくれたら、そろそろ本気で異世界転生者らしいクエスト始められたんだがなぁ――」
独りごとを言ったその瞬間、頭の中でビリッと鋭い音が響いた。エイトは思わず頭を押さえてよろける。
「ぐっ!痛い!」エイトはその場に屈みこんだ。声が届いていた。低く、冷たく、まるで魂に直接語りかけるような声。
『お前が優先すべきは、そんな甘い使命じゃないだろう?』
「何……?」エイトは目を細めて呟く。声は勝手に続ける。
『見ろ。お前のクエストを。目を覚ませ、エイト』
エイトは意識を集中させた。無意識のうちにカードに親指を押し付けていた。カードは紫色に発行していた。頭の中にクエストリストを映し出す。そこに浮かんだ新しい文字を見て、エイトの息が止まった。
【メインクエスト更新】
『ギルド職員の罪を認めさせろ』
「エリオットが隠した真実を暴き、その罪を認めさせなさい。報酬:不明/失敗ペナルティ:不明」
「はぁ!? 何!?」エイトは思わず叫んだ。
「なんだと! クエストが……変わった!?ギルドマスターを探すって決めた瞬間、なんか頭の中に介入してきて、エリオットの罪を認めさせるのがメインクエストになった!? 何だこれ!?」
エイトの頭は混乱の嵐だ。確かにエリオットの村の様子は少し怪しかった。でも、こうやってクエストを押し付けてくるってことは、何かデカい秘密があるってことだよな?
「くそっ……俺、ギルドマスターを探したいのに、なんでこんなタイミングで!」エイトは拳を握り潰しそうにしながら地面を睨む。頭の中の声がまた響いた。
『優先するのはお前が決めることじゃない。お前は選ばれた者だ。従え。』
「うるせぇよ!」エイトは声を張り上げて、「俺のやりたいことくらい自分で決めさせてくれ!」
エイトは反骨精神で洞窟に向かって疾走した。
※
エイトは、目の前の薄暗い洞窟を見つめながら一瞬だけ足を止めた。風がゴウゴウと唸り、不気味な空気をビリビリ感じさせる。頭痛は大分収まっていた。ここまで来たら引き返すなんて選択肢はねえ。異世界の冒険者としてこれくらいサクッと攻略してやる――ビビってる場合じゃないぜ!
「よし、いくか!」
気合を入れて、エイトは勢いよく洞窟の入り口に飛び込んだ。瞬間、体がフワッと浮くような感覚に襲われ、次の瞬間には硬い地面にドサッと着地。
完全に闇だ。スマホを取り出して辺りを照らした。
そこには予想外の光景が広がっていた。
洞窟の中は、青白く光る魔石が壁一面にびっしりと埋め込まれていて、まるで星空の下にいるみたいだ。そしてその中央では、石像がキラキラした目で魔石を掘りまくってる。ピッケルがカンカンとリズミカルに響き合い、時折「でっけえのが出ただぁ!」とか「こりゃぁ珍味だべぇ!」なんて叫び声が飛び交ってる。なんつーか、異世界らしい活気に満ちた発掘現場だ。
「なんだ、やたら元気のいいやつがいるな……って、あれ?」
ふと視線を動かしたエイトは、ある一点でピタリと固まった。魔石を掘る群れの端っこに、ポツンと佇む石像。いや、ただの石像じゃねえ。その無骨なフォルム、どっしりした肩幅、そして何よりその懐かしい存在感――俺の目が離せなくなった瞬間、石像がガリガリと動き出した。
「エイトォ……オマエ、生きてのかぁ?」
その低く響く声に、俺の心臓がドクンと跳ね上がった。石像の表面に刻まれた無数の傷跡と、濡れたような苔の跡が、薄暗い魔石の光に照らされて浮かび上がる。そいつは紛れもなく俺の相棒――いや、かつての相棒、ゴンダァだった。川の急流に流されてはぐれて以来、ずっと会えなかったあのゴンダァが、今ここにいるなんて……衝撃すぎて言葉が出ねえ!
「ゴンダァ、お前……川に流されてからどうしてたんだよ!?」
俺が叫ぶと、ゴンダァは重々しく首を振ってガリッと音を立てながら近づいてきた。
「急流に飲まれてなぁ……そのままこの洞窟まで流れ着いただぁ。魔石の力でなんとか動けるようになったがぁ、ここはまるでオラにとっては天国だでぇ。ここでぇ魔石を貪り食ってただぁ~」
その一言で、俺の中で何かが弾けた。懐かしさと興奮が混じり合って、思わず笑っちまう。
こっから先、一緒に何をやらかすか考えるだけで胸が熱くなってくるぜ!
「くっ・・・はっはっはっは!!」
エイトはこみあげてくる笑いを堪えきれなかった。
「待たせちまった分は取り返すぜ、ゴンダァ。まずはその魔石、俺にも掘らせろよ!」
こうして、洞窟に響くゴンダァの重い足音とピッケルの音が、俺たちの新しい冒険の幕開けを告げたんだ。