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異世界転生したけど、前に会ったギルド職員と再開した件について

ようやくたどり着いた村の入り口。全身ずぶ濡れで泥だらけのエイトは、肌寒い風が吹きつけ、くしゃみをした。服が体に張り付いて気持ち悪い。


──どうにか村まで来れた。あとは、この金時計をギルド職員に返すだけだ。


だが、村に足を踏み入れた途端、周囲の視線が一気にエイトへと集まった。


「お、おい、あれ見ろよ……」

「見たことねぇ格好だぞ。どこのヤツだ?」

「あんなボロボロで、何か企んでるんじゃねぇか?」


ひそひそと囁き合う村人たち。その視線には警戒と疑念が滲んでいる。いや、まあ俺の見た目を考えれば無理もない。現代日本のミラクルフレッシュマンデビュースタイルの服はこの世界じゃ珍しいし、何より今の俺は水浸しでみすぼらしい。


 やがて、屈強な男たちが近づいてきた。村の自警団らしい。


「お前、どこの者だ? 何をしに来た?」


「お、俺はただ……」


 説明しようとしたが、村人たちは俺の話も聞かずに縄を取り出した。


「こいつ、怪しいぞ。まずは拘束して、村長に報告だ!」


 ──え、ちょっ、待って!? いやいや、俺は怪しい者じゃない!


そんな抗議もむなしく、あっという間に縛り上げられてしまった。



 村の広場の真ん中で、俺は椅子に座らされ、縄でぐるぐる巻きになっていた。周囲には村人たちが集まり、不審者を見るような目で俺を睨んでいる。


「だから! 俺はギルド職員にこの金時計を返しに来ただけなんだって!」


「金時計だぁ? 盗んだものじゃねぇのか?」


「ち、違う! 俺は拾っただけだ!」


「証拠は?」


「いや、証拠って……」


 説明しても、誰一人として信じてくれない。むしろ、「やっぱり盗賊かもしれねぇ」と疑いが濃くなっていく始末。


 ……終わった。異世界転生して一週間も経ってないのに、冤罪で人生終了かもしれない。


 だが、その時だった。


「おい、騒がしいな。何があった?」


 落ち着いた男性の声が響く。振り向くと、整った身なりの男が馬車に乗って帰ってきた。村人たちは一瞬息を呑み、そして口々に叫んだ。


「おおっ、エリオット様が戻られた!」


「村の誇り、ギルドの出世頭だ!」


エリオット、と呼ばれた男は馬車を降りると、俺を見るなり目を丸くした。


「あ、あんたはあの時の!」


ついてる!向こうから来てくれるとは。


「……その金時計、あんたが持っていたのか?」


「あ、ああ。例の治安維持部隊の施設で拾ったんだ!大事なものかと思って」


「そうだ。取り上げられてしまって……。わざわざ届けに来たのか?」


「そうだ!その通り!」


俺の返事を聞いた瞬間、エリオットは静かに頷いた。


「礼を言う。助かったよ!」


そう言って俺の縄を解き、軽く肩を叩く。そして、エリオットが微笑みながら村人たちを見回した。


「彼は私の恩人だ。丁重にもてなしてくれ」


その言葉を聞いた途端、村人たちの態度は一変した。


「えっ、そ、そうだったのか!? それなら話は別だ!」


「いやぁ、最初から良い人だと思ってたぜ!」


「ささ、冷えただろう! 温かいスープでもどうだ?」


「服も乾かさないとな! わしの息子の服があるぞ!」


──え、さっきまでの冷たい視線はどこ行った?


俺は困惑しながらも、村人たちの急激な態度の変化を受け入れるしかなかった。


……とりあえず、捕まったまま処刑される展開にならなくてよかった。


エイトは風呂に入れてもらい、キレイさっぱい旅の垢を落とすと、村人の服に着替えた。



「おいおい、エイトとか言ったな? さっきはすまなかったな!」


「まったくだ! まさか異世界から来たなんて話、信じられるわけないだろ?」


 村の集会場では、盛大な宴が開かれていた。ついさっきまで「泥棒」として捕まりかけていたエイトは、誤解が解けた途端に村の英雄のような扱いを受けていた。この村に来る途中でエイトが倒していた魔獣が、以前から村人たちを悩ませていたらしい。


「さあ食え食え! これはうちの村自慢のローストミートだ!」


差し出された串焼き肉を頬張ると、ジューシーな肉汁が口の中に広がる。異世界の飯、なかなか悪くない。


村人たちは皆、俺を温かく迎え入れてくれた。疑いの目を向けられていたときとは、まるで別人のようだ。さらに、村長の厚意で着替えまで用意してもらったのだが……俺はふと、違和感を覚えた。


(この村って、年寄りばっかりじゃなかったか?)


初めて村に入ったとき、目についたのは老人たちばかりだった。若い男どころか、働き盛りの中年すら見かけない。そんな村で、なぜ俺にピッタリの服がすぐに用意できたんだ?


「この服……まるで俺のために用意されてたみたいですけど、これって誰のものだったんです?」


エイトが何気なく尋ねると、近くにいた村人が一瞬、ぎこちない表情を見せた。


「……ああ、それは、以前この村にいた若い冒険者のものさ」


「以前?」


「そうだ。ギルドがまだ機能してたころは、うちの村にも何人か若い冒険者が出入りしてたんだよ。だけど、ギルドマスターがいなくなって、ギルドも閉まっちまっただろ? そしたら、皆村を出て行っちまったのさ」


つまり、エイトの着ている服は、かつてこの村にいた冒険者の置き土産、ということか。ギルドマスターが失踪してしまったというのも初耳だ。しかし、村人たちの微妙な反応がどうにも引っかかる。


(……本当に「皆、村を出て行った」だけなのか?)


この違和感を胸に抱えつつも、今は深く突っ込むのをやめておいた。下手に問い詰めても、警戒されるだけだ。この村にはまだ何か隠された事情があるような気がしてならなかった。


宴もそろそろお開きというところに、エイトは口を開いた。


「……なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」


俺が改めて尋ねると、村人たちは途端に静かになった。そして、奥の席から、一人の中年男エリオットが立ち上がる。


「……ギルドのことなら、私に聞いてくれ」


 声の主は、エリオットだ。改めてみるとがっしりとした体格だった。年のころは四十代半ばといったところだろうか。初めて会った時より血色のよい顔色をしている。こめかみ当たりに薄っすら傷口が見えた。あの少年取調官に殴られた跡だろう。着ているのは、おろしたての上服。どこか疲れたような雰囲気をまといながらも、その眼光には鋭さが宿っていた。


「私はエリオット。ギルド支部で職員をやっていた」


「支部の職員……ってことは、あの閉まってたギルドの?」


「ああ。正確には『閉めざるを得なかった』ってところだがな」


エリオットはエイトの目の前に座り込み、酒の入った木のカップを手に取り、一口煽ると、静かに語り始めた。


「半月前、うちのギルドマスターが行方不明になった。それが原因だ」


「行方不明?」


「そうだ。最後に見かけたのは村の外れにある廃坑だ。『ちょっと調査してくる』って言って、それっきり帰ってこない」


エリオットの表情は険しかった。


「マスターが消えてから、ギルドは混乱した。依頼の管理は滞るし、冒険者たちは不安になって次々と他の町へ移った。結果、支部を維持できなくなって、ついに一時閉鎖だ」


村の老人たちは、これを機に廃業する冒険者たちも出てくるだろうから、そいつらに農作業をやらせようなどといい無責任に笑いあった。


なるほど、そういうことか……。


「廃坑って、どんな場所なんです?」


エイトが尋ねると、エリオットは渋い顔をして答えた。


「昔は鉱石を採掘してたが、十数年前に魔獣が巣くうようになって放棄された。今じゃ近づく奴なんていない。マスターが何を調べに行ったのかは分からないが……戻ってこないってことは、何かあったんだろう」


村人たちは、不安そうに囁き合っている。


「なんでクエストを出さなかったんですか?そんな状態になる前に、冒険者を募集すればよかったのでは?」


俺の言葉に、エリオットは一瞬呆れた顔をしたが、すぐに真剣な目で俺を見つめた。


「……私たちギルド職員はあくまで仲介しているだけ。クエストを依頼する人とクエストに参加する人が存在して初めて成立する。しないということは双方、もしくはどちらかがいなかったんだろう」


「……ふむ、もしギルドマスターを救出することができれば、どうなる?」


「……そりゃあ、ギルドの再開の可能性も出てくるかもしれない」


「だったら、俺が行きますよ」


「……本気?」


エリオットの目が鋭く光る。


「もちろん。ただし、廃坑がどれほど危険なのか分からない。だから、できるだけ準備を整えたい」


「……まあ協力できることがあれば言ってくれればいいが、はっきり言ってアナタ、賢明とは言えないと思うよ」


エリオットはこの男はどこまで本気なんだと計りかねていた。


「準備の手伝いはしてやる。だが、くれぐれも無茶はするなよ、エイト君」


「了解です、エリオットさん」


エイトはエリオットと手を取り合った。


だが、この村に残る違和感は、エイトの頭から消えなかった。

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