異世界転生したけど、食費が馬鹿にならない件
異世界に転生して数日、エイトは異世界の理に馴染めずにいた。
しかし彼には行くべき場所があった。
目的地まで残り、5300歩。
「エイトぉ、オラそろそろ魔石が食いだくなっだぁ」
「またか、お前はコスパの悪いやつだな」
今日はこれで4回目だ。
ゴンダァはマジックパワーを動力源にしていると本人から聞いた。
その維持には魔石が必要だった。ゴンダァが魔石をねだり出してから知ったことだが、魔石とは魔物の体内に宿る結晶であり、それを取り出すには当然ながら魔物を狩る必要がある。
前方の茂みが不自然に揺れた。エイトは反射的に身構える。
ガサッ!
次の瞬間、黒い影が飛び出した。
「出たな……!」
現れたのは《魔獣目無鼠》。監視塔に向かう際、初めて見た魔獣だ。鼠に似た姿をしているが、これも立派な魔獣だ。その体内には小さな魔石が宿っている。
エイトは警棒を手に取ると、意識を集中した。
「さぁ、飯の時間だ!」
目無鼠が低く唸ると同時に、エイトは警棒を振り下ろした。
戦いは一瞬だった。鼠はあっさりと倒れた。魔石を奪うことが目的のため、できるだけ体を傷つけずに仕留めなければならない。
「ふぅ……これで4回目か」
倒れた目無鼠は、灰のような粉になり、風に舞いちりじりになった。後には紫色の魔石がコロンと現れた。それを拾い上げ掌に載せる。
「ほら、お前の食事だ」
親指で魔石を弾いてやると、ゴンダァはパクッと犬のように空中で魔石をキャッチした。体内にマジックパワーを吸い込むように取り込んでいく。エイトは呆れたように笑った。
「お前のために、また狩りに出ないといけないのか……本当に手間のかかる相棒だよ」
そう言いながらも、どこか悪くない気がしていた。異世界に来て、たった一つだけ持てた確かな繋がり。それがこの石像のバディだった。
エイトは警棒を布で拭い、目的地へと向かおうとした。
「流石に飽きただぁ」
ゴンダァは不満そうな顔をしている。
「オラァもっと上等な味のする魔石が食いてぇだぁ」
エイトは耳を疑った。舌が肥えたのか、それとも採った魔石がたまたま不味かったのか知らないが、ゴンダァは魔石の味覚があるらしい。
「はぁ?お前魔石の味がわかるのか!?具体的にどんな味のする魔石ならいいんだよ?」
エイトは困った。植物系の魔獣なら甘いとか、海獣系なら酸味があるとか、そういうのがあるのか?
「そうだなぁ例えば、千年を超えて眠る古龍の心臓部から生成された魔石とか、神の遺跡に封じられた禁断の魔力が凝縮したものとか、そういうのがいいだぁ!」
「そんなの手に入れられるわけないだろ!」
ゴンダァはいたずらっぽく笑った。
「分かってるだぁ。今言ったのは常連のSランク冒険者の人から、日頃のお礼にってお土産として差し入れてもらっただけだぁ。おいそれと手に入るモンじゃぁねぇ。言ってみただけだぁ」
どうやらこの石像は石像のくせしてなかなかの美食家らしい。
「せめてぇ上級魔獣のコアから採れた魔石が食べてぇ」
キラリとゴンダァの目が光った。
エイトがゴンダァの見ている先へ目をやると、一角の生えた鼠が目無鼠を三頭引き連れて、草原を横切っていた。
「あれか、今までのより一回り大きいな」
「今のエイトなら、やれるはずだぁよ」