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第六夜

 こんな夢を見た。

 

 僕は板張りの廊下で窓を眺めていた。

 窓の向こうには一面の雪景色が広がっている。

 床には赤いカーペット。

 片側に客室のふすまが並んでいる。

 どうやらここは旅館のようだった。

 それも老舗の、高級旅館だ。

 

 窓がある方を前として右の方から人の気配がした。

 少し行ったところで曲がり角になっているので姿は見えない。

 とりあえず行ってみる。

 曲がり角から顔を出すと、誰かが中腰で作業をしていた。

 それは作務衣姿の女だった。

 旅館の従業員が着る和服だと言えば分かるだろうか。

 一目見て僕はその場から静かに逃げ出した。

 

 僕の頭のどこかが、彼女が吸血鬼だと告げていた。

 似たような気配はあちこちにあった。

 僕の勘はそのいずれもが吸血鬼だと、捕まれば血を吸い殺されると、主張していた。

 

 見つからないように身を隠しながら旅館を行く。

 時には観葉植物の陰で縮こまり、こちらに来ないことを祈った。

 時には誰もいない客室にこもり、ドアスコープから戸の前を素通りする老婆を見届けた。

 

 だが出口はどこにあるのか分からず、焦燥だけが募っていく。

 そして遂に、廊下で二人の吸血鬼に挟まれた。

 唯一の逃げ道はふすまだが、内側から鍵がかけられているのかびくともしない。

 進んでも退いても確実に見つかる。

 文字通りの進退窮まれりだ。

 

 覚悟を決めた矢先、突然空いたふすまから、中の部屋に引きずり込まれた。

 居たのは白ずくめの二人組だった。

 白粉(おしろい)を塗っているのか、顔も真っ白だ。

 性別はどちらも分からない。

 だが体格の差からして、親子のようだった。

 

 二人は僕に、ここから逃げ出す手助けをすると言った。

 部屋の前から吸血鬼が居なくなったタイミングを見計らい、再び廊下に出る。

 吸血鬼が居ると、子供の方が先行し花瓶を割ったりして音を立てて注意を惹いてくれる。

 子が目と鼻の先を通っているにも拘らず、吸血鬼は何の反応もしない。

 どういう理屈か、吸血鬼には親子の姿が見えていないらしい。

 

 最後はボヤに気を取られている隙を突き、窓を割って外に出た。

 親子は付いては来なかった。

 彼らはこの旅館の中でしか生きていけないのだという。

 その時の僕はそれ以上理由は聞かず、雪の中へ繰り出した。

 

 辛うじて除雪されている道を進む。

 やがて行く手にぽつりぽつりと家が見えてきた。

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