第二夜
こんな夢を見た。
駅前の通りを歩いていた。
人っ子一人おらず、車道には車一台走っていない。
記憶では飲食店が集まっている場所だ。
だがそれらしい看板も見当たらない。
まるで示し合わせて撤退してしまったような寂れぶりだ。
窓ガラス越しに中を覗くと、そこは浴場になっていた。
隅から隅までピンクのタイルが敷き詰められた浴場だった。
居心地を気にしなければ二十人ほどは入れそうな湯船に対し、洗い場は隅の方に一つしかない。
椅子もなく、代わりに床から人ひとりが腰掛けられそうな立方体が突き出ていた。
立方体は湯船の中、縁近くにも並んでいて、半身浴の為のものだというのは容易に想像がついた。
そういう中の様子がよく見えたのは、湯から湯気は全く立っておらず、またガラスがそこにないかのように透き通っていたからだ。
しばらく眺めていると、「お前も入らないか」と声を掛けられた。
見れば男が一人、湯船に浸かっているのが見えた。
暗がりになって顔はよく見えなかったが、中年のようだった。
またその時は疑問に思わなかったが、思えばただでさえガラス越しな上に、距離もそこそこ離れているのに声が聞こえるというのも妙な話だった。
とても温かそうにしていた。
僕も入りたいと思ったが、脱衣場らしい場所が見当たらない。
どうしたものかと逡巡しているうちに、浴場の中に踏み込んでいた。
背後でドアが閉まると、足元を温かいものが流れ抜けていくのを感じた。
湯船から溢れ出した湯が、床で緩やかな流れを作っていた。
すぐに浴場の中が湯で満たされていく。
気が付くと、腰まで湯が来ていた。