第一夜
こんな夢を見た。
とても広い建造物の中に立っていた。
僕から見て前面がガラス張りになっていて、その方に向けていわゆるロビーチェアがいくつも並んでいる。
明かりは点いておらず、外から差す真昼間の陽の光しかない。
ガラス張りの向こうには、何機も旅客機が停まっている。
そこが空港のロビーだと理解した途端、ここから出なければという出所の分からない衝動が湧き起こった。
衝動のまま、僕は走り出した。
靴の音が異様に響いた。
建物の中は静まり返り、人の気配は全くない。
やがて職員だけが使える廊下に入る。
足に迷いはなかった。
行く先に必ず出口があるという、確信があった。
曲がり角で、初めて人に出くわした。
職員らしい、制服姿の男だった。
出会い頭に、顔面に拳をめり込ませた。
見事に決まり、男は昏倒した。
そのまま近くのトイレに引きずり込む。
個室に入り、半円形の鍵をかける。
着ていた服を剥ぎ取りにかかる。
服にはIDらしい数字とアルファベットが書かれた、小さなプレートが縫い付けられていた。
思えばおかしな話だったが、その時は彼から服を奪うことが必要なことだと考えていた。
裂いたシャツで男を縛り上げ、制服に着替えている所で足音が聞こえた。
個室の中なので姿は見えないが、他にも人はいたのだ。
気配が去るのを待ってから、廊下に出た。
そこからもう人に出会うことはなく、悠々と小さな出入り口から駐車場に出た。
止められている無数の車の中から、4WDタイプの車に乗り込み、刺さったままのキーを捻る。
目覚めたエンジンが車体を揺さぶり、駆動力を行き渡らせる。
迷わずアクセルを踏み込んだ。
急発進した車をペダルとレバーとハンドルで難なく御し、空港の外へ向けて加速させていった。