転生したら欲しがり義妹だった件
「私が君のお父さんだよ。今日から一緒に暮らそう」
母が亡くなり。
さあ、孤児院にでも連れて行くかと大家さんが周りの大人と相談をしていたら、シルクハットを被ったおっさんが来た。
誰よ?
何でも、母は伯爵家のメイドで、この男の手が付き。私を妊娠、婿養子だったので、資金援助も出来ずに、放逐。
本妻が亡くなって、私を引き取ろうとしたが、母が強く反対をしたらしい。
そして、母が亡くなったので、これを機会に引き取りに来た。
「リディ、すごい。お姫様だよ!」
「私たちのこと、忘れないでね」
とか周りを言ってくれるけど、『オホホホ』と笑う生活は嫌だな。
とか思っても12歳の私ではあらがう術はない。
「さあ、今日から家族だ。リーマン伯爵家の使用人達と、義姉になるクリスチーネだ。ご挨拶をしなさい」
「リディです。よろしく御願いします」
シーーーーーーン
まあ、そうなる。
私でもそうする。夫人が亡くなって一月で来たら、こうなるであろう。
お義姉様は、茶髪に薄い茶色の瞳で平凡だ。
私は金髪碧眼で、髪はフワフワ、これはこじれるやつか?
「ウワ!」
びっくりしたよ。可愛い。初めて、ドレスを着て、貴族様用のデカイ姿見を見たら、私のかわいさが引き立つ。
「家庭教師をつける。まあ、幼児用から始めようか」
父は考えてくれている。
しかし、「リンゴが三つに、葡萄が四つ、合計いくつでしょう?」
みたいな問題だ。
礼儀は未知の分野だ。これはしっかり基礎から学んだ。
「報恩感謝のカーテシー!」
日に一万回はいかないけど、一生懸命に練習したよ。
でも、ダンスは上手くいかない。
運動神経は良くないな。
生活の方は、例えばドレスを着る時は、メイドは手伝ってくれるが、
「ギャ、イタい。もう少し緩く・・」
「我慢なさいませ。これぐらいで根を挙げるのなら、ドブネズミがウロウロしている下町に戻れば如何ですか?」
「プ~クスクス」
「食事の作法は、やっぱりクリスチーネ様が綺麗ね」
「ええ、育ちが違いすぎます」
まあ、そうなるであろう。
しかし、ここは天国だ。一日二食、昼は軽食がつくなんて、天国だ。
このような天国な生活は2年続いた。順調なら、後一年で、貴族学園に入学だけど、辞退しよう。
お義姉様は一年上で、入学をされている。
「え、帳簿をつけろ?」
「さようでございます。旦那様は商用で家を空けています。クリスチーネ様は貴族学園にご入学しています。
今、この屋敷にいる一番上位者はリディ様でございます」
「一番お時間のあるお嬢様に適任でございます」
クスクス~
口角が上がっている。ニヤニヤしている。何故?
「もし、分からなければ、ここにサインをして頂ければ、後は処置しますが」
「どれ、どれ?」
あれ、これは簿記だ。
「ねえ。この現金小口どうしてこんなにあるの?お屋敷の規模から見たら、30人、使用人達の食費は、別に計上しているのに、何故?え、お駄賃って、領民に用事を頼むときに渡すものでしょう?何故、お給金を支払われている貴方たちにお駄賃が払われるの?」
「えっ?」
「それに、お義姉様の名前で、孤児院に寄付をするのはいいけど、何に使われたか資料ない?」
「それは・・あちらに任せています」
「おい、メイドの化粧品代、一人銀貨30枚って、あげすぎじゃない!これじゃサインできないわ!」
お、執事とメイドたちは、逃げた。やましいことがある証拠だ。
こういったときは、貴族院に報告、恩情は仇になる。
かくして、執事とメイド数人は、不正に関わったとして、解雇された。
無論、紹介状無しだ。
・・・・・
「リディ、君はすごいよ!クリスチーネは物価が分からない。計算通りにいってるかどうかしか見ない。しかし、君は中身が適正かどうかまで見るのだな!」
「はあ」
お義姉様、手は拳を握り。プルプル震えている。
これで、学んでくれたまえ。
「たまたま疑問に思っただけです~ビギナーズラックなの~~」
ワザと馬鹿な口調をして、警戒心を和らげよう。
父は上機嫌だ。
「専門の財産管理人を雇う。クリスチーネの母、クラウディアは、帳簿を他家の者に見せるのを嫌ったが、こんなことがあってはならない」
「ええ、第三者に点検してもらうのは大事なの~~」
「お父様!」
お義姉様は反発をした。
あ~あ、やらかしたのか?
それ以来、お義姉様の私の風当たりは更に強くなった。
使用人は長いものに巻かれる。私に力があると見て、すり寄ってくる者。
また、お義姉様に忠誠を誓うもの。我が道を行く者の三つに分かれた。
財産管理人さんは私に相談をするようになった。
父に対しては微妙な感情だ。
長年、放置した後ろめたさもあるのだろう。
よくドレスを買ってくれる。
しかし、この男、ヒラヒラのピンクのドレスを買ってくる。
嫌だ。
そうだ。お義姉様の古いドレス私がもらおう。その分、お義姉様のドレスの予算をつける。これで、ドレスの循環が早くなって、地元のドレス商会はウハウハだ。
お義姉様のお古を着ることで、謀反を起こす気はないと示そう。
「お義姉様!ドレスちょーだい!ほしーの」
「フフフ、リディ、貴方は、私のお古が欲しいの?」
「そーなの。お古でいいの」
「クッ」
舌打ちをした?まあ、本意をくみ取ってもらえるだろうか?
もらうドレスは、日常用、儀式用の高価なドレスはもらわない。
これはおねだりの作法でもある。
やがて、宝石の価値が分かるようになってから、わざと古いデザインで、価値のない宝石をもらう。
間違っても家宝には手をつけないでおこう。
これもおねだりの仁義だ。
そして、貴族学園に入学の年齢になった。
辞退しよう。勤め先は、商会でも紹介してもらおう。
「え、辞退無理?お父様、御願いなの~~勉強やーなの」
「リディ、君は、ダンスと礼儀以外は、貴族学園卒業レベルだったよ。私の目が曇っていた」
え、日本で言えば、高校卒業程度じゃない?
「正式に伯爵令嬢としての教育を命じる!これは当主命令だ。養子縁組も正式にする」
パチパチ~~
まばらな拍手が起きた。
お義姉様とその取り巻きの使用人達は・・「ヒィ」、私をにらんでいる。
人の妬みは心を曇らせ。時にとんでもない行動を起こさせると、学んでしまった。
いきなり、ガーデンに呼ばれた。
お義姉様の友人達が何人かいるわね。
「リディ、君は、庶子の分際で、義姉のものを欲しがってばかりいると聞いた!」
これが、断罪か。おお、ドンとこいだ。追放されてナンボの欲しがり義妹だ。
「はい、そーです。お義姉様のものがほしーです。貴方はどこの誰ですか?」
「クリスチーネの婚約者のゲーリンだ!とぼけるな!」
「あたしは、リーマン伯爵家のリディ、じゃあ、ゲーリン、どーすればいいのよーほしえて~~~」
「まあ、何て教養のない」
「身分の違いを理解できないとは」
「クスクスクス」
「貴族の男子を呼び捨てするとは!礼儀がなっていない」
「だって、家門を名乗らないから、平民じゃな~い。リディ、初対面で、そんなこと言う人、きらーい」
「アクシミ伯爵家だ!」
「まあ、失礼しましたの~」
ここでカテーシをする。
ほら、ほら、早く追放と言いなさい。
さすれば、我、追放されて見せよう。
お小遣いは貯まっている。
家庭教師の推薦状ももらった。
平民学校の教師でもやろう。
しかし、中々、追放とは言わない。
何故?
追放、それは甘美な響き。
ナリキリ小説の主人公は、普段、自己主張はしないが、追放されてから、強烈な自己主張を始めるのだ。
それが、私だ!
「お前は、クリスチーネ嬢をにらんだと報告がきている!」
「へえ、女神歴何年?何月何日?ですか?」
ラチがあかない。怒らしても追放の文字は出てこない。
これは、ちょっと体育館裏に来いみたいな警告だったのかもしれない。
お義姉様は、ゲーリンの後ろに隠れて、プルプル震えている。
これはアカンやつだ。
ピンクブロンドになるやつだ。
しかし、突然の乱入者で、幕を引いた。
「そこまでだ!」
「「「誰!」」」
「生徒会長!」
ヒィ、肖像画、近づいたらイケない人で見たことがある。
王子殿下の装い。
私はカーテシーをした。あの報恩感謝の光速のカーテシーだ。
「カゲから、報告があってな。14歳で使用人の不正を見抜いた。過去の記録を調べたら、熱病で二週間寝込んだとある。リディに転生者の疑いがある。転生者はほっといて様子を見るのが国是だ。しかし、このような事態になってはな」
・・・カゲって、
「因みに、リディ嬢、貴族学園辞退は無理だぞ!」
「仰せのままに」
「諸君らは知らなかったから、罪には問わないが、クリスチーネ嬢、君は一度、追放された方が、能力を発揮するかもしれないな」
「ヒィ、それは」
「待って下さい!」
私は無礼にも殿下の言葉を遮った。
「私、幸せなのです。ここでは、三食、食べられます!洋服も、寝るところも心配する必要がありません。
私は下から上へ這い上がったのです。ここは天国です。
しかし、お義姉様は、上から下に落ちたのです。お母様がお亡くなりになって、一月で、こんな父の浮気相手の子が家に来たのですから、
その辛さは、想像できないほどでしょう。
こんな口撃なんて、苦でありません。下町なら、口撃の前に、ナイフでグサッですから」
「グスン、グスン、リディの分際で、情けをかけないでよ。貴方なんか大っ嫌いよ!ウワ~~ン」
お義姉様は泣いた。
まあ、この後も、私への態度は変わらない。
嫌いだと思っていたけど、中味を知ったら、もっと嫌いになったというやつだ。
「ほお、その民の話、詳しく聞きたい。学園でな。テストで力を抜いたら、分かっているな?」
とグフタフ王子殿下から脅された。
これは、学園に行くしかないでしょう。
☆貴族学園
貴族学園に行ったら、ピンクの目立つあいつがいた。
木に登って、猫を助けている。裸足だ。
「誰か!猫ちゃんをキャッチするのだからねっ」
ニャン、ハラリと落ちてきた。
猫をキャッチした。
猫はすぐさま手から逃げて、10メートルくらい走って止まって、チラとこっちを見て、逃げた。
まあ、これが猫だ。
「有難うだからねっ、私はサリー、ダン男爵家のサリーよ。一年生なんだからね」
「リーマン伯爵家のリディなの~~。同じく一年なの~~」
「猫ちゃん抱えて降りられなかったら助かったのだからねっ!」
「ちょっと、そこの一年生、それ、狙いすぎじゃなくって?」
「お姉様、ごめんなの~~~」
「ちょっと、違うのだからね!」
縦ロールの釣り目のお姉様が取り巻き、いや、ご友人を連れてやってきた。
「あら、リーマン家と、ダン家の、どちらも庶子でしたわよね」
「下町なら、何たらかんたら」が始まったが、まあ、いい。鐘がなるまでの辛抱だ。
「リディ嬢、どうした?生徒会室に来ないから、呼びに来た。お、サリー嬢、君は次席で君も生徒会役員に指名しようか考えているぞ。どうだ?リディ嬢と一緒に生徒会にはいらないか?」
「ヒィ、殿下!」
「これは、違くて」
「申し訳ありません。お姉様方に学園の事をお聞きして、あまりに有意義なので時間を忘れてしまいましたわ」
「そうか・・まあ、いい。次は、時間を守ることだな」
あれ、ピンク頭がいない。逃げた。やつも目立ちたくない仲間か?
リディの学園生活は続く。
ピンクブロンドのサリーと一緒に、学園の平民派と貴族派の架け橋になるとは本人も思いもしなかった。
最後までお読み頂き有難うございました。