8 誤解
昼休み。クラスメイトは落ち着いてきたが、噂を聞きつけた他のクラスの女子がこっそりジュニアを見るため教室に来るなど、いつもより騒がしい。
真美と優花がいつものように机を向かい合わせにしてお弁当を食べようとしていると、ジュニアが机を持ってきて2人の横に机をくっつけた。
「それでは、真美さんと一緒に初めてのお弁当をいただきまーす!」
真美が何か言うより早く、ジュニアは机の中から弁当を取り出して食べ始めた。
「ジュニア君、真美にベッタリなのね」
優花がニヤニヤしながら真美に言った。真美が慌てて弁解する。
「ベッタリというか何というか……」
「やっぱり真美さんのお母さんのご飯は美味しいですね」
ジュニアがニコニコしながらお弁当を食べる。その後ろから、クラスの女子の興味と嫉妬の視線が真美に注がれる。
その視線に気づかないふりをして、真美はお弁当を食べ始めた。
「で、どういうことなの?」
優花が興味津々という顔で聞いてきた。真美は悩みながら話す。
「どう説明したらいいか……2日前に突然我が家にやってきたのよ。しかも、このままだと、しばらく一緒に住むことになるらしくて……」
「なにそれ、昨日の深夜アニメ?」
優花が笑った。アニメならまだ良かったのだが……
優花が弁当の唐揚げを食べながら真美に聞く。
「それで、真美はジュニア君と一緒に住みたくないの?」
「まあ、別にジュニア君と一緒にいるのは嫌じゃないけど、一生ずっと一緒というのはちょっと……」
「え、結婚前提なの?!」
真美の言葉を聞いて、優花が驚いて大きな声を上げた。クラスが一瞬シンと静まり返った。
「ちょ、ちょっと、違うわよ!」
真美が慌てて周りを見ながら訂正したが、ジュニアがご飯をモリモリ食べながら呟く。
「小生は真美さんと契りを結ぶことが出来てホント良かったです」
「ちょっと、ジュニア君! その言い方じゃ皆が誤解しちゃうでしょ!」
真美が大声で言った。契約の話を知らない周りの人は、色々と誤解しかねない。
「真美、いまの時代許婚が珍しいからといって、別に恥ずかしがらなくてもいいのよ」
優花が何度も頷きながら腕組みをして言った。明らかに誤解している。
「ゆ、優花、違うのよ!」
「分かった、分かった」
「絶対に分かってない!」
結局、優花その他のクラスメイトの誤解が解けたかどうか分からないまま、昼休みが終わってしまった。
† † †
午後、体育の時間。真美のクラスは体育館でバスケットボールをすることになった。
今日は、男子はチームを分けて試合、女子はドリブルやパスの練習だ。
女子の多くは、のんびり練習しながら、男子の試合を見ている。
注目の的となっているジュニアは、バスケットボールのルールをまったく知らなかったようで、ボールをパスされると、ドリブルせずにボールを持ったまま走り出すなど、男子の笑いを誘っていた。
ジュニアは楽しそうにプレイしている。まだ登校初日だが、持ち前のコミュ力を発揮して、クラスの男子に馴染んできたようだ。
そのジュニアの姿を見て、何だか真美も嬉しくなった。
男子のバスケットボールの試合をニコニコ見ていた真美に、優花が話しかけた。
「将来の旦那様の活躍が気になるの?」
「もう、そんな訳ないでしょ! そもそも将来の旦那様じゃないし」
将来の旦那様どころか、人間ですらなく悪魔なのよ、と言いたかったが、そこはグッと堪えた。
優花が小声で真美に言う。
「明日香もジュニア君のこと気になってるみたい。あと、真美のことも……」
真美がそっと明日香の方を見た。明日香はジュニアのプレイをじっと見ていた。明日香の取り巻きは、ジュニアの一挙一動にキャーキャー言っている。
そして、ジュニアの試合が終わったとき、明日香は何故か真美を一睨みすると、それから取り巻きと練習を始めた。
「何で私を睨むかなあ……」
真美はため息をつくと、優花とパス練習を始めた。